一緒に変わって来られたら
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いつの間にか羽多は外へ出ていた。それに気がついた俺は羽多を追いかけた。ひらりと晴はまだ部長二人と談笑している。
俺と羽多は、静かで誰もいない演劇部の練習教室に入った。
「どうした?羽多?」
「わかってる……。転入する前からわかってた。私の居場所なんか、ここにはもうないって……こんな事なら1年の時から、おばあちゃん家から通えば良かった……晴喜と春壱から離れなければ良かった……。」
羽多は窓際に立って、窓の外の空を見あげながら言った。空は秋晴れで、気持ちとは裏腹に、気持ちのいい空だった。
「何も変わってない。1年離れたぐらいで何か変わるかよ。」
何も変わらない。いい意味でも、悪い意味でも。
「でも……晴喜の好きな人は変わった……。何で?何でひらりちゃんなの?」
羽多はひらりの事が気に入っていた。それは、晴がひらりを好きだとは思っていなかったから。今日、ひらりと晴を見て、羽多は気づいたんだ。誰にも執着しない晴が、ひらりに執着してる事に。
俺は、この事を今羽多に言っていいのか迷った。でも、いずれわかる事だろうと思い、言った。
「それは…………ひらりが、相田先生の妹だからだよ。」
「え……嘘………。苗字が同じだとは思ってたけど……それ、本当なの!?」
「本当だよ。晴がひらりにこだわるのは、ひらりが相田先生の代わりだから。ひらりもそれを承知でいる。だから……部外者は黙ってるしかないだろ?」
晴が誰と付き合おうと関係ない。
「部外者なの……?私達、もう、晴喜の部外者?」
「そうじゃない。そうゆうことじゃないんだ……。」
言いたい事が、ちゃんと伝わらない。知らなかった。こんなにも俺は、説明が下手くそだっんだ。一年で何も変わらないなんて事は、無いのかもしれない。羽多がいた頃、中学の時とは確実に何かが変わっていた。何がどうとは説明できない。羽多と一緒に、変わって来られたらよかったのに……。
井上先輩から話があると言われて、晴君と先輩と私、三人で演劇部の練習教室へ行くと、春壱と羽多ちゃんがいた。中の様子を見て、先輩が言った。
「取り込み中だから他へ行こうか?」
「…………。」
三人は教室を通り過ぎ、階段の方へ行く。
私は何故か、練習教室の方を見たまま、しばらくそこから離れられなかった。
「ひらりちゃん、行こう。」
「じゃあ、二人共、こっちで話そうか。」
先輩は先に階段の踊場で止まる。
「何ですか?」
晴君がそう言うと、先輩が振り返って話始めた。
「それはね、看板と電気系統の話。たまたま見たって子見つけたんだよね。その子が言うには、緑の体操着姿の女子を見たって。」
緑色は先輩達の学年の色だった。
「あの日、体育の授業中に外した女子がいるか、全クラスに聞いて回ったの。そしたら、いとも簡単に犯人みつかった。そいつに問いただしたら、頼まれたって。」
「部長……」
それって……まさか……
晴君の顔を見ると、青ざめた顔をして、少し迷って言った。
「あ~やっぱりバレちゃったか。すみません。ちょっとイタズラするつもりだったんですけど、あそこまでやるとは思ってなくて。」
「で、1つ疑問なんだけど、さっき、賭けがどうのって話してたよね?ひらり。」
「はい……。」
私が引退試合の前にこぼしてしまった話だ。
「賭けの内容は?」
「晴君が斎藤部長に勝ったら、私は演劇部をやめる……です。」
「勝つ気はなかったよね?どうゆう事?」
そうだった。晴君は勝つ気が無かった。結局、引退公演は潰れなかった。試合の時、晴君は私が辞めた事を知らない様子だった。どうゆう事?私は混乱した。
「それは……」
「まあ、こっちが恋をしなさいって言ったのがきっかけだし、看板と電気の件は過ぎた事だから、もうこれ以上どうこうは言わない。けど、ひらりはこれからがあるでしょ?よく考えて。じゃ、私はこれで。斎藤の所戻る!お疲れ~!」
「お疲れ様でした……。」
先輩を見送った後、私は晴君に訊きたい事や言いたい事が溢れた。
「晴君、どうして……?どうして勝つ気無くしたの?私に演劇部をやめさせたかったんじゃないの?」
「違うよ。僕はただ……」
「学園祭や大会の話が始まる前に、辞めた方が、迷惑がかからないかなって思って早めに辞めたんだけど……?」
「違うよ。話を聞いてよ。本当は僕も迷ってる。辞めて欲しいのは本気。だけど……」
あの晴君が…………迷ってる?
「だけど……? 」
「僕の思ってた、つながりとは……少し違ってたから。」
「つながり?」
「ひらりちゃんは春壱といたいから演劇部にいるのかな?って……」
春壱といたい…………?私は胸の奥がズキッとした。
「違うよ?確かに春壱を誘ったの私だけど、春壱に興味と能力があったから、スカウトしたの。」
そう、春壱は元々映画や舞台が好きだった。
「私が興味を持ったのは、お母さんが舞台を好きだったから。私のお母さん、そのために私達を置いて、東京へ行ったの。お母さんが出てる作品もあって、それを見たら、私もやってみたくなっただけ。」
そう、やってみただけ。静かで暗いあの部屋で、何本も映像を見つけた時から、ただの興味だった。
「そうだったんだ……。」
「でも、もういいの。今まで凄く凄く楽しかったし、お姉ちゃんにも……少し理解できるって言ってもらえた。もう思い残す事もない。もう十分だよ。」
「ひらりちゃん……。」
私はそう割り切ったら、羽多ちゃんを思い出した。
「あ、そうだ。私行って来る!私羽多ちゃんに謝らなきゃ!」
「どうして羽多に?」
「私が演劇部に入って欲しいって言って、羽多ちゃんが入ってくれたのに、私は辞めたから……申し訳なくて……。」
「羽多が演劇部に入ったの?あの羽多が?」
「あの羽多って……羽多ちゃんの事何だと思ってたの?」
晴君の中での羽多ちゃんってどんなだろう……?
「羽多は昔から人見知りで……そうゆう事に興味なかったし。」
「それなら尚更だよ。」
興味無かった子が、せっかく興味を持ってくれたのに……これじゃ気分ぶち壊しだ。
「まぁ、大丈夫。羽多は僕にだけ厳しいから怒ったりしないよ。」
「やっぱり羽多ちゃんはいい子だね。晴君、厳しいのは愛されてる証拠だよ?行こう!晴君も一緒にお叱り受けに行こうよ。」
私は1人で練習教室に行く勇気がなくて、晴君を無理やり誘った。
「僕そんなマゾじゃないよ~!」
「え?剣道やってるからそうかと思ってた。」
「すごい偏見だね。謝ろうか?全世界の剣道選手全員に謝ろうか?」
「あははは!」
全世界の剣道選手ごめんなさい。こうでもしないと、春壱と羽多ちゃんのいる所に行く怖い気持ちをごまかせそうにない気がした。




