二人の間
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ひらりちゃんと晴喜のやり取りを見て、ここに転入してきて間もない頃を思い出した。私は剣道場に剣道部の見学に来た。
「すみません。見学させてもらってもいいですか?」
「斎藤部長~!見学だって~」
「何だ?また美術部か?」
部長さんはなんだかめんどくさそうに私の前に現れた。
「あの、美術部ではないです。転入生です。」
「転入生?」
そこへちょうど晴喜が来て、私に気がついてくれた。
「羽多……。」
「晴喜……?剣道やめたんじゃなかったの?」
私は少し驚いた。だって、私が引っ越す時にあんなに続けて欲しいって言ったのに、高校に入ったらあっさり辞めてた。
「最近また始めた。」
「なんだ白石の知り合いか。じゃ、後頼むな。」
そう言って部長さんは支度に戻って行った。
「私があんなに続けてって言ってもやらなかったのに……急にどうしたの?」
「僕の剣道がカッコいいって言ってくれる子がいたから。羽が生えてるみたいなんだって。」
それはまた新しい彼女なの……?
「誰?」
「羽多には内緒~。ここには女子剣道部はないよ?やりたいなら前に行ってた道場に行きなよ。じゃ、着替えてくる。」
そう言って晴喜は更衣室へ入って行ってしまった。
私はひらりちゃんの方に気をとられていると、晴は三年生と先生に頭を下げていた。
「先輩、すみませんでした!もう一度、もう一本お願いします!!先生、お願いします!!」
「どうする斎藤?」
「受けて立ちます!今度は本気でやれよ?!」
「はい!!」
二人はまたコートの両側に立って、向かい合う。
「では、改めて、赤、斎藤!」
「はい!」
三年生は前へ出る。
「白、白石!」
「はい!」
晴喜も前に出る。
「お互いに、礼!」
「お願いします。」
二人は帯刀、蹲踞、構える。
「始め!!」
先生の合図の後、二人は激しく打ち合う。
「赤、小手あり!」
「おお~さすが斎藤部長」
三年生に先に一本取られた……!
「二本目、始め!!」
二人は少し睨み合うと、面と胴、お互い同時に打つ。
「白、面あり!」
今度は晴喜の方が少し早かった。
「おお~!白石、斎藤部長から一本取った!」
「白石早え~!」
「斎藤部長もギリギリだったなぁ~」
部員達が口々に感想や応援の言葉を言い合う。
「すげーな!二人とも。」
「あの白石の面の早さに警戒して斎藤部長もなかなか手出せなくなってるな~」
今度はさっきと逆で、晴喜が面を打ち、三年生が胴を打った。
「白、胴あり!勝者、白、白石!!お互いに、礼!!」
「ありがとうございました!」
剣道場に拍手か起こっていた。
晴喜はひらりちゃんの前に来て、深く礼をしていた。ひらりちゃんは拳を出して、晴喜の小手とグータッチする。
それを見て、私は春壱に聞いてみた。
「ねぇ、春壱、ひらりちゃんと晴喜って……どうゆう関係?」
「どうゆうって……晴の奴は付き合ってるつもり。ひらりは友達のつもり?って感じだな。」
「え?それ、付き合ってるの?付き合ってないの?どっちなの?」
それは…………晴喜が一方的にひらりちゃんが好きって事じゃ……。
「わからん。」
「わからんって……気にならないの?」
「別に?あいつが笑ってるならどっちでもいい。」
あいつが笑ってるなら?
「ねぇ春壱……聞いていい?あいつって……どっちの事?」
「どっちって…………」
春壱が答えられないまま、試合が終わる。
「試合終了!勝者、赤、3年生!!お互いに礼!全員整列!!」
3年生からそれぞれ挨拶があって、全員で礼をした後、みんな片付けを始めた。晴喜は防具をつけたまま、ひらりちゃんのもとへ行ってた……。
「わ~!僕の勝利の女神~!うわっひらりちゃん!その顔!赤くなってる!痣になるかな?」
「え?ホントに?なるほど、痛いと思ったら……」
ひらりちゃんは右頬の下が赤くなってた。
「ごめんね。僕があんな試合したから……。」
「本当だよ!これだけ観に来てて、まさか試合であんな格好悪い所見せられると思わなかったよ!」
これだけ見に来てって事は、ひらりちゃんは沢山晴喜を見に来てたんだ……。
「でも、その後は斎藤部長には勝ったよ。格好いい?」
あの晴喜があんなに真剣に試合をしてた……。
「斎藤部長に勝った事はどうこう言わないけど……」
「けど……?」
「面が決まった時は、格好良かった!」
「よし!」
晴喜はガッツポーズをしていた。
それでも、私は信じたかった。自分が幼なじみという特別な存在である事を。晴喜との10年を。
「晴喜!お疲れ様!」
「ありがとう。春壱も来てくれてたんだ。どうだよ?ブランク埋めてやったぞ?」
「おー、だいぶ強くなったな。」
「うん、前より上手くなったね~。昔はあんなにへっぽこだったのにね~!」
晴喜は私を無視して、ひらりちゃんの手を取る。
「ひらりちゃんのおかげだよ。」
「何もしてないけど?」
ひらりちゃんはその手をすぐに振りほどく。
「練習いつも見に来てくれてたから。」
「サボりに来てるだけだろ」
「美術部の活動ですぅ~」
なんだろう…………
「勝利のご褒美に、チューしてよひらりちゃん!」
「調子乗んなよ?チューならユキとした方がマシ。」
「犬としてどーすんだよ。」
どうしてかな…………?
「じゃ、ハグは?」
「春壱、ハグだって。」
「何で俺?俺を身代わりにするな。」
三人を見ていると、すごくムカムカする…………。
「ん~春壱でもいいや。」
そう言って晴喜は春壱に抱きつく。
「春壱、愛されてんな~。」
「やめろ。そんな目で見るな。」
「あははは!」
私は、その場にいられなくなって、先に剣道場を出て来た。どうして……?その場所は、私の場所だったのに……。晴喜と春壱の間は……いつだって私だった。




