羽多の決心
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それはまるで、恋のよう。初めは恥ずかしいような、くすぐったいような。そして、だんだん惹かれていく。引き込まれていく。胸が苦しくて、息ができない。どうして、こんなにも胸がいっぱいになるんだろう。
ひらりちゃんの台詞…………。
「先生、私じゃダメだって……。どうして、私じゃダメだったのかな?私が生徒だから?わかってる……わかってるよ。でも、どうしても諦めきれないよ。」
わかってる。でも、どうしても、諦められない…………。
同じだ。奈美の気持ち…………私と同じ……。
公演が終了して、会場を出るとひらりちゃんが会いに来てくれた。
「羽多ちゃん!来てくれたんだ!ありがとう!」
「ひらりちゃん……。」
「私もいるよ~!」
「わかってるよ~!莉奈も観に来てくれてありがとう!莉奈~!何で口ふさいで笑ってるの?めちゃくちゃ気になったんだけど~!」
「あははは!ひらり動揺作戦成功~!」
「ちょっと~!おかげでアドリブいれられなかったんだから!」
「あの……すごく、すごく良かったよ!ひらりちゃん!」
「お、隠れひらりファンが増えたね~」
「だから隠れなくていいって。」
「なんてゆうか……あの……私思わず泣いちゃって……。」
「羽多ちゃん……。」
ひらりちゃんは私を抱きしめた。
「ありがとう。羽多ちゃん。ありがとう。すっごく、嬉しい。」
「じゃ、また明日ね!」
「ありがとう!また明日ね!」
そう言って莉奈ちゃんは帰って行った。でも、私はまだ帰りたくなかった。まだここにいたかった。
「私、演劇部見学してってもいいかな?」
「部長~!羽多ちゃん見学したいって!」
「いいよ~是非!!ちょっと片付けとかあるから、相手できないけど、客席座って色々見てて。」
ひらりちゃんは客席に案内してくれた。
「ごめん、着替えて来るね。」
「うん。」
そう言って舞台の裏へ行ってしまった。
「羽多、帰らないのか?」
振り向くと、後ろで春壱が作業していた。
「うん。演劇部見学させてもらおうと思って。」
「そうか。」
しばらくみんなの作業をみていると、部長さんがみんなに声をかけた。
「裏方さん、明日の準備まで、作業終わったら客席集合して。役者は着替えたら台本持って舞台集合~!制作さん、アンケート用紙準備して。手が空いた人からアンケート読んで。」
少しずつ部員が集まって来てアンケート用紙を読んで、他の人に渡す。
「みんな、ある程度アンケート読んだら、話に耳を傾けて。反省会始めるよ~!2年生の転入生が見学に来てるけど、この際、裏側をトコトン見てもらいましょーか。」
「はーい!」
転入生って私の事だ……何だか恥ずかしい。
「す、すみません。お邪魔してます!」
みんな口々に返事をしてくれた。
「何か、ダメ出しと確認箇所ある人~!」
「はーい。ひらりのアドリブあると思って準備してたのに無かった!」
先輩がひらりちゃんに言うと、ひらりちゃんは謝ってた。
「ごめんなさい。お客さんに気を取られていて……逃しました。」
「あんた、集中しなさいよ!初歩中の初歩でしょ?」
「だって、莉奈がこーんな顔して笑ってるんだもん。
ひらりちゃんは顔真似をして見せた。おかしな顔!
「ぎはははは!その顔やめれ~!」
注意した先輩まで爆笑しちゃってる。
「莉奈が気になっちゃって。」
「アホか!お客さんの空気読むのも大事だけど、ちゃんと集中しなさいよ!あとは?」
部長さんが次に進ませる。
「はい!中盤、紗英の入りなんだけど、何だか半端じゃない?ちょっと間があった方が良くない?」
「そう?私はもっと間をつめた方がいいと思ったけど。紗英役はどう思う?」
「すみません。迷いがありました…何だか慌てて出ちゃって。」
一年生……?なのかな?
「紗英の気持ち的にはどうだった?」
「もう少し、落ち着いて出たいです……。」
「じゃ、間を開けて出てみよう。舞台にいる人達は、紗英を半端に出すんじゃないよ?」
「はーい!」
みんなは返事する。
でも、ひらりちゃんは手を上げて言った。
「確認だけで大丈夫でしょうか?一回練習してみた方が良くないですか?開けるか詰めるか、どっちもやってみて決めた方がいいと思うんですけど……」
「今から……うん、そうだね。じゃ、ある程度反省終わったらやろう。
少し部長さんは時計をみた。でも、すぐにやろうと言う。
「あとは裏方の方は何かある?」
「その紗英の入りの所、どっちか決まったら練習したい。照明きっかけだから、できればタイミング合わせたい。」
「わかった!」
反省会はなかなか終わらない。私は、近くにいた春壱に話かける。
「春壱、結構反省会、しっかりやるんだね。」
「納得いくまでとことんやるのがうちの部の伝統らしい。」
「春壱、何かある?」
「いえ。特にはないです。」
春壱は注意されたのかと思って、すぐに答えた。でも、意外にも先輩はこう言った。
「春壱、この先演出をやるなら、千秋楽まで何か意見を出すんだよ?今回は春壱の舞台じゃないけど、自分の舞台だったら、千秋楽が最善の舞台になるように、最善を尽くす事をやめちゃいけない。」
最善を尽くす…………。
「1、2年生、よく覚えておいて。お芝居は生物だから、上を目指す事を止めたら死ぬ。すぐ腐る。腐った物をお客さんに出したらどうなる?」
「死ぬ?」
「バカ!芝居見て死ぬ奴がいる?気持ち悪くなるんだよ。」
先輩が胸をさすって見せる。
「そう、気持ち悪いものは見たくないよね?常に上を目指すんだよ?」
「はい。」
「明日は千秋楽です。明日は悔いの残らないように。他にはない?ないなら反省会終わり。さっき出た所の確認がある人は残って、関係ない人は撤収~!」
みんなそれぞれ動き出す。
「あ!部長!」
「何、ひらり?」
「あの、ビデオ見たいんですけど……。」
ひらりちゃんだけは台本を持ったまま、部長に手を挙げていた。
「あ、そうだ!ビデオで確認したい人は明日朝視聴覚室で!制作さん、許可って取ってある?」
「明日はどの時間も取れなかったの~!」
「あーそっか。じゃ、空き教室で!テレビ繋げられるよね?後で連絡流します!」
舞台はもう、問題の場所の準備ができていた。
「部長!きっかけください」
「はいはい。じゃ、シーン8のラスト部分。ひらりのセリフからね!よーい、スタート!」
部長さんの合図で演技が始まる。
「私、まだここにいていいのかな?」
「別に大丈夫だろ。」
私はまだ、1人残って客席で見ていた。
「春壱も片付け、帰る準備始めて。」
「あ、はい。」
どんどん演技が進む。
正直、今まで私が見てきた劇とはちがう。お遊戯会とは全然違う。全く別物みたい。本気の演技って……こんなにパワフルで、こんなに臨場感があるなんて…………知らなかった。
「はい!ここまで!どう?どうだった?」
「はい!逆に間を詰めた、間がない方もやってみたいです!」
「じゃ、逆もやってみよう!よーい、スタート!」
また演技がスタートする。さっきと全く同じ所だ。同じ台詞同じ動き。
「はい!ここまで。どう?どうだった?見てた誰か!意見ください!」
「うーん。間がある方は、出るのを忘れたみたいに見える気がする……。」
「確かに!これ以上開けられると舞台上の演技は苦しくなるかも。」
またひらりちゃんは手を挙げていた。
「はい!半端に間があるより、食い気味の方が臨場感出ると思います!」
「じゃ、そうしよう!紗英!食い気味で出よう。できる?出る前にちゃんと気持ち作っておくんだよ?」
「はい!」
そう一年生に言うと、部長さんは人差し指を上げて言った。
「もう一度!もう一度だけさっきの所、通してやってみて、撤収しよう!照明さんいいのかな?」
「こっちは大丈夫」
「よーい、スタート!」
演技のおさらいをして、片付けをして、やっと帰宅する。
なんだかんだで結局最後までいちゃった。もうバスもない。春壱と歩いて帰る事にした。
「うーん。疲れた~。」
「早く帰って寝ろ。」
「お疲れ~。」
校門を出ようとすると、ひらりちゃんが通りかかった。
「ひらりちゃんお疲れ様。」
「あれ?羽多ちゃんまだ残ってたの?」
「反省会見学させてもらってたの。」
そう言うと、ひらりちゃんは驚く。
「途中で帰ったのかと思った!ごめん全然気がつかなかった!」
「こいつ集中するとすぐ周り見えなくなるからな~」
「春壱とひらりちゃんって仲いいんだね。」
何だか……二人を見てると羨ましい。
私と晴喜も、昔はこんなじゃなかったのに……。私は思い出した。
「いいな~私も演劇部に入ろうかな~」
「是非!!是非!!」
ふと、私が呟くと、ひらりちゃんは私の手を握って押して来た。
「近い!近い!近い!離れろ!!お前部長に似て来たな。」
「だって、2年は私と春壱しかいないんだもん。同学年は貴重だよ~」
春壱は私からひらりちゃんを離すと、こう言った。
「それより羽多、剣道は?」
「女子剣道部ないし、ブランクあるから道場も行きづらいし……他の事やろうかなって思ってたの。」
そう……もう、やらない。
「そうか。なら、羽多に入ってもらえたら心強いな。」
「そう?ひらりちゃんみたいに頼りになる気はしないけど……」
「あいつが頼りにならないから……今回は上手くいったからいいものの、前回は酷いもんだったよ。」
春壱は片手で頭を抱えて言った。
「だから、3日かけて取り返したでしょ?」
「初回からあのクオリティ出せよ!今度は風邪引くなよ!?まず、電車で寝るな!」
「あはは!春壱、お母さんみたい。」
あの春壱がこんな事言うなんて、面白い!!
「あいつと一緒だと誰でもこうなるぞ?!羽多、覚悟しとけ」
「はぁ?羽多ちゃんは優しいから春壱みたいな小姑にはなりません~!でも、羽多ちゃんが仲間に入ってくれたら嬉しいな♪私、一本前の電車に乗りたいから急ぐね。」
「え?でも、あと30分以上あるよ?」
「ひらりは逆方面なんだ。」
そうなんだ。
「走れば間に合うから行くね!今日はありがとう!また明日ね!春壱、上手くやれよ!じゃあね!」
そう言ってひらりちゃんはは走り出す。
「また明日ね~!」
私はひらりちゃんを見送った。
「上手くやるって何?」
「さ、さあ?入部交渉とか?」
「やだ~まだ春壱から口説かれるの?いいよ、じゃあ入るよ。」
そうして私は、演劇部に入部を決めた。




