ただ優しく手を繋げば
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世界を征服したいなんて言っておいて、世界を征服されそうになったら怖くなるなんて……卑怯者だ。失恋する勇気がないから、誰も好きにならないんだ。これ以上、失うのが怖いから……。告白する前に諦めた方が遥かにダメージが少ない。そう、諦めればいい。諦めればいいんだ。
「ひらりちゃん、ひらりちゃん。」
「え?あ、何?」
「さっきから何度も呼んでるのに、どうしたの?今日はずっとボーッとして。」
そうだった。今日は晴君と非常階段前でお昼を食べていた。
「いや、あの、今日から公演だから……不安というか、プレッシャーというか、緊張というか……」
「そっか。それじゃ仕方がないね。今日、見に行くね。」
「ありがとう。」
とてもじゃなく本当の事なんか言えなかった。
「でも、今回で最後にしてくれない?」
「え?」
今回で最後って……?
「演劇部なんかもうやめてよ。」
「どうして?」
「ひらりちゃんには似合わないよ。それに、僕との時間が無くなる。最近全然剣道部見に来てくれないし。」
そんな……勝手な事……
「それは、剣道部はなかなか行けないけど、演劇部は……私のかけがえのないつながり……」
「その、つながり……僕より大事?」
それは、多分、晴君は私と春壱とのつながりだと思ってる。
「そんなの選べない。」
「僕の事、好きだったらお願い聞いてよ。ねぇ?」
「そんな……そんなお願いしないでよ。晴君こそ、好きだったら、私の好きな物好きになってよ。私の気持ち……理解してよ。」
晴君は冷たい口調で言った。
「ひらりちゃんは、僕に愛して欲しいの?愛してくれるんじゃないの?お姉さんの代わりに。」
「じゃあ、それで、私は代わりになる?ならないよね?何のための私なの?晴君は愛してない。私も……お姉ちゃんも……」
そう、言った瞬間、晴君は持っていた飲みかけの缶を私に向かって投げつけた。
「冷たっ……」
缶は私の横をそれて、壁に当たって転がっていた。缶からは炭酸の泡が出て、そこらじゅうに飛び散っていた。
「それ……春壱にも言われた。そんなの愛じゃないって。二人して何なんだよ!」
私はハンカチで顔や制服を拭いた。
「だって、それじゃ……誰も愛してくれないよ?」
「っ!!」
晴君が立ち上がりそうになった瞬間、私は言った。
「殴りたきゃ殴りなよ!!そんな事したら、益々愛されない事ぐらいわかってるよね?どうしたの?そんなに彼女って存在に甘えたい?だったら私じゃなくてもいいよね?誰でもいいよね?じゃあ、言うこと聞いてくれるいい子と付き合いなよ。」
「…………。」
「ごめん。少し言い過ぎた。多分、お姉ちゃんだったらこう言うと思う。」
晴君は、珍しく下を向いて謝った。
「ごめん……。」
私は教室に戻ろうと立ち上がろうとすると、晴君はスカートの端を掴んだ。まるで、子供がお母さんから離れないように。
「大丈夫だよ。私、晴君から離れて行かないよ。離れてやらないよ~!友達だよ~!あっかんべー!」
「ぶっ!そんなにブサイクじゃ殴りたくなくなるなぁ~。」
少しだけ晴君は笑った。
「うわっ今ブサイクって言った!晴君意外と毒舌だよね?プライド高いし、もしかして、意識高い系?」
「ひらりちゃんはいつも、いちいちイラつかせるよね?」
「喧嘩売ってるからね。」
晴君はため息をついて言う。
「まんまと買わされたわけか。」
「だって、晴君の本心を聞き出すには挑発するしかないんだもん。どうしてムカつくクセに私から離れないの?キスだって……当てつけでしょ?それとも私と離れようとしてる?どっちにしろ……本当はもう、お姉ちゃんの事もどうでもいいんじゃない?」
「ムカつく……!本当にムカつく。やっぱり相田先生の妹だ。」
「ブラック晴君だと本音が聞けるけど、やっぱり怖い。怖いより……優しい晴君の方がいいな……無理か。あはは。ムカつくもんね。」
晴君は私の手をそっと握った。私は一瞬びくついてしまう。
「大丈夫。今度はなにもしない。」
そう言って、晴君はただ、ただ優しく手を繋いでいた。
「こうしたら、伝わる?」
「…………うん。」
なんだか…緊張した。心臓の音が晴君に伝わりそうで……何だか恥ずかしくなって下を向いた。
「あれ?あれあれ?あれれれれ?」
私の顔を、晴君は首を傾けて覗き込む。
「見んなよ!」
覗き込んでくる晴君の顔を手で押し退けた。
「じゃ、ちゅーしようか。」
「ふざけんな!何もしないって言ったじゃん。着替えて来る。」
私は、晴君の手をふりほどいて、
非常階段前から教室前のロッカーへ行った。
教室前の廊下で羽多ちゃんと春壱が二人で楽しそうに話をしていた。




