浴衣の袖
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トイレへ向かう途中、校舎に入ると、ちょうど中庭に出ようとする慎ちゃんに会った。
「相田さん?」
「慎ちゃん………。」
慎ちゃんは私が泣いている事に気がつくと、腕を掴んで、とっさに真っ暗な近くの空き教室へ一緒に入った。
「慎ちゃん………ありがと。」
慎ちゃんは浴衣のあちこちを探していた。しばらくしてあきらめてこう言った。
「タオル落としてきた。」
「あはは。私も置いてきちゃった。」
涙を拭くものがない。何だかそれに笑えた。
「じゃあ………。」
慎ちゃんは、自分の浴衣の裾で私の顔を拭こうとする。
「慎ちゃんの浴衣汚れちゃう」
「洗えばいい。汚れ目立たない色だし。」
確かに、慎ちゃんの深い紺の浴衣は汚れが目立たなそう。いや、そうゆう問題じゃないよね?
「暗いから見えなくてよかった。」
「うん。見えてないから。」
「良かった~。私、泣き顔ブスだって言われたから、助かる…」
「ブスでは………ないと思う。でも………」
でもって言うなよ!でもって!
「はは………。やっぱり。」
「相田さんの泣き顔は、何故か胸が締め付けられる。」
「…………え………?」
「だから、泣かないで欲しい。笑っていて欲しい。」
やっぱり、慎ちゃんは優しい………。
「ごめ………それ………無理ぃ。優しく………されると、余計………泣けてくる………。慎ちゃんのバカぁ………!」
「…………ごめん。」
「袖汚してやる!」
しばらく、慎ちゃんの袖を借りた。
部長が俺の所へひらりを探しに来た。
「春壱!ひらりは?終わった後全然姿が見えないんだけど?」
「なんか、体調悪いみたいで………。」
体調が悪いというより………また何かあったんだ。原因は多分、また晴だ………。
「慎ちゃんも見つからないんだよねぇ………。美術室で打ち上げやるって言ってたのに。」
片岡も…………?
「俺、探してきます。」
俺は探した。片岡といるなら心配ないが、晴といるなら……そう思って探した。
非常階段前、美術室、保健室まで行ったが、そもそも開いていない。女子トイレにまで声をかけるが、ひらりはいなかった。ふと、トイレから中庭へ戻ろうとすると、暗い教室に人影が見えた。それは………ひらりと片岡が抱き合っているように見え、とっさに身を低くして隠れた。
俺は、片岡に買い出しの時に言われた事を思い出した。
『須藤がないなら、相田さんの事、好きになってもいいかな………?』
ダメな訳ない。でも………晴は………俺が何でそんな心配しなきゃいけないんだ?俺には関係ない。関係………ない………。
「ありがと慎ちゃん。また泣いちゃってごめん。もう、うんざりだよね。私もうんざりするよ………。」
そう言ってひらりは教室の電気をつけた。
「もう、大丈夫?」
「うん。すっきりした。部長がきっと探してる。慎ちゃんがいないと打ち上げ始まらないしね。」
片岡はひらりの顔を見た瞬間笑いだした。
「ぷ……くくく………あはははは!!」
「え?どうしたの?」
「ごめん。顔、パンダ。」
化粧が落ちて、目の周りが黒くなっている。
「え~!!ど、どうしよう!」
「あはははは!!」
「ちょっと!慎ちゃん笑いすぎ!!」
ひらりの笑い声を聞いたら、少しほっとした。
俺は教室のドアを勢いよく開けた。
「おい!お前ら!こんな所でサボりやがって………ぶー!!あははははははは!なんて顔してんだよ!化け物!!」
「ちょっと!春壱も笑いすぎ!」
本当は………笑えなかった。全然、面白くない………。
「その顔で肝試しもできそうだな!」
「それもいいね。」
片岡も賛同した。
「それ、私が幽霊?やだよ~!絶対やだよ~!呪ってやる~みんな呪ってやる~!」
ひらりはテレビから出てくる幽霊のような動きをする。
「わかった!わかったから!お前、部室で着替えて来いよ。俺は先に美術室行ってる。」
「この顔で?無理~!」
どんな顔でも関係ないだろ。さっさと行け。そう思っていたら、片岡が言った。
「背中、貸す。後ろに隠れて部室まで行けばいい。」
ひらりは片岡の背中にくっついた。片岡が一緒なら心配ないか………。もういい。もう、これ以上は俺はここにはいられない。
「二人とも早くしろよ!」
そう言って、後ろを見ずに走ってその場から離れた。




