人質
78
展覧会が終わって、お姉ちゃんに感想を聞いて、姉バカに困っていたら、春壱は先輩に呼ばれて、先に片付けへ行ってしまった。
あ……晴君!
私も片付けに行こうとすると、こっちに来ようとする晴君をみつけた。私は、晴君にかけ寄って、晴君からお姉ちゃんが目に入らない方を向かせて話した。
「晴君!見てくれた?世界、征服された?」
「世界征服?」
そっか……わかんないよね。
「えっと、魅了されましたか?」
「良かったって事?」
「そう。」
晴君は少し考えて言った。
「うん、演劇部のパフォーマンス良かったよ。相田先生も来てたんだね。」
やっぱり……気づいてたんだ……。
「うん。見に来てくれたの。」
晴喜は私の隣から、お姉ちゃんの前に行って、深々と頭を下げた。
「この前は送っていただいてありがとうございました。」
「どういたしまして。」
お姉ちゃんがそう言うと、杉本先生も言った。
「君が晴喜君か~」
「白石晴喜です。杉本先生、同じ学校にいても、3年の担任だと接点ないですよね~」
「そうだね。」
晴君、きっと杉本先生の事も知ってたんだ……。
「あの、白石君、あのね……」
「別に、謝らなくていいです。相田先生は悪くないですよ。僕が子供だっただけで。」
私は見ていられなくなって、晴君の隣に行った。
「晴君!飾りつけ見に行った?近くで見ると面白いんだよ?あっち、一緒に見に行こう!」
「うん。行こう。あ、僕、ひらりちゃんとお付き合いさせてもらいます。いいですよね?」
お姉ちゃんと杉本先生は呆気にとられていた。
「は?」
「ちょっと晴君!また冗談?」
「今度は冗談じゃないよ。いいですよね?じゃ、ひらりちゃん借りますね。」
晴君はそう言うと、私の手を引いてお姉ちゃん達から少し離れた。
「え……ちょ……」
晴喜は少し先を歩くと、少し立ち止まって、そして、お姉ちゃんと杉本先生の目の前で、突然、私の唇に……キスをした。
「…………。」
「本気ってわかってくれた?」
「…………。」
声が出なかった。
「びっくりしちゃった?でも、これでお姉さんも安心するでしょ?」
…………は?お姉ちゃんも安心?
「お姉ちゃんを……安心させるため?」
「そ。僕と付き合ったらお姉さん安心でしょ?」
「…………うん。」
それは……違うよね?今のは確実に、お姉ちゃんに見せつける為だよね?妹は僕の手の中だって、示したかったんだよね?これじゃまるで…………人質だよ。
「じゃ、行こうか。」
晴君は動けずにいた私の手を取って、お姉ちゃんの前から移動した。
また…………。また、気持ちが頭に追い付かなかった。お姉ちゃんには変に思われたくない。でも……でも……晴君とのキスは…………嫌だ。……でも、嫌だなんて言えない。今すぐ口拭きたい……我慢だ……我慢しろ私!ここは耐えないと……。
私が晴喜に手を引かれ、飾りを見ていると、そこへ春壱が探しに来た。
「あ!いたいた!こんな所にいた!!」
私はとっさに晴君の手を離した。
「春壱~!」
よかった……助かった……。
「片付けサボってこんな所にいたのかよ!」
「ごめん、今行く。晴君、私片付け行くね。」
私は晴君に駆け寄って、晴君を背にした瞬間、私は汗を拭くふりをして、浴衣の袖で口を拭いた。何度も何度も。
春壱と照明のコードを巻いていると、春壱に言われた。
「提灯以外の照明と音響の機具は今日中にしまうんだから、どっか行くなよ。」
「…………。」
「どうした?顔色悪いぞ?」
コードを持ったまま、何をどう答えたらいいのか頭が全然まわらなかった。
「…………。」
「おい、具合悪いのか?」
「…………え?あ、ごめん、今なんて?」
どう答えようと考えていたら、話を聞く余裕もなくなった。
「疲れが出たのか?あ、また熱か……?」
春壱は1度作業をやめて、軍手を取って、私のおでこに手を当てて熱を計る。
「熱はないな……。」
また、軍手をはめて作業に戻ると、ふと、手を止めて私に訊いた。
「…………何かあったのか?」
「…………。」
ダメだ。もう泣かないって決めたのに……
「…………え?」
「ごめん、目にゴミが入ったみたい。トイレ行って見てくる。」
私は持っていたコードを足元に置いて、トイレへ向かった。私はそう言って春壱の元から逃げた。そうするしか、方法がみつからなかった。




