展覧会
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不吉な浴衣で、展覧会当日を迎える事になった。
「あ、春壱浴衣……」
準備をしていたら、春壱も浴衣に着替えて来た。
「どうよ。惚れたか?」
「うん、まあ、道着の時も思ってたけど……春壱和服は似合うよね。」
「やめろ。冷静に言われるとなんか傷つく……悪かったな短足で……。」
どうしたんだろう。やっぱり……なんだか、お祭りの後から春壱とは微妙な距離を感じる。ふと、お祭り飾りの最終チェックをしていたら…………
「ギャー!!このパンツ飾ったの誰!?春壱!お前か!お祭りなのに~!!」
「俺じゃない!もうお祭り以外な物も飾りまくってるんだから別にいいだろ。」
「しかも柄まで忠実に……」
パンツのド真ん中でキラキラーウサギが光っていた。
「そんなに気になるならこう書いておけばいいだろ?」
春壱はマジックで2-A相田ひらりと書き加える。
「コラー!!春壱のバカー!!」
「あ、相田さんのパンツ……」
そこへ慎ちゃんが来て笑っていた。まさか、真犯人はこっち?
「慎ちゃん!違うから!全然違うから!!」
「ぶっ!はははははは!!」
私が必死にパンツを隠すと、慎ちゃんは爆笑した。
「そんなに笑う?」
「それより、夕立も無くて良かった。あー腹痛い。」
「雨が一番心配だったよね~」
「晴れて良かった。」
本当に、晴れて良かった。中庭は、もうすっかり夏の風物詩で飾られていた。一部無関係の物まで……。夏の終わりに、いい思い出ができるといいな。
「慎ちゃん、展覧会、やるって言ってくれて、ありがとうね。いい展覧会にしようね。」
「うん。今日はよろしく。」
慎ちゃんと握手をしていたら、部長からみんなに声がかかった。
「そろそろ暗くなって来るから準備巻きで~!みんな最終確認したら、各自食堂で夕食ね~!」
「はーい!」
ちょうど、練習終わりの剣道部がやってくるのが見えた。
「慎ちゃん、先に夕食に行ってて。」
斎藤部長が井上部長に話しかけている。
「井上、これ、何時からやるんだ?」
「夕食の後の7時半。剣道部も見に来てよ。」
「ああ、行く。」
その隣には晴君がいた。
「ひらりちゃん!展覧会、準備終わったの?」
「うん。だいたいね。晴君も見に来てくれる?」
「もちろんだよ。友達誘って行くよ。」
「あ、ちょっと待ってて。」
「何?」
私は晴君を待たせて、鞄から包みを持って来る。他の剣道部員は先に行ってしまっていた。
「これ、剣道復帰祝い。と、モデルのお礼。」
「モデルって何もしてないけど……?」
「晴君のおかげでいい絵が描けそうだよ。ありがとう。」
晴君は包みを受け取る。
「これ、手拭い?ありがとう。じゃ、これ大事に使わせてもらうね。」
普通に晴君は嬉しそうに受け取ってくれた。
「これからも応援してるね!じゃ、私準備に戻るね!」
そう言って晴君を残して、確認作業に戻った。
夕食後に点灯式をする。その時間に合わせて、相田先生が杉本についてきた。相田先生は、井上部長に丁寧に挨拶した後、俺の姿を見て言った。
「わぁ~!春壱君も浴衣だぁ~!いいね~!」
浴衣の袖を捲りあげて、軍手をつけて、これでいいのか?
「部長、片岡はわかりますけど、裏方も浴衣着る必要あるんですか?動きづらいんですけど……」
「こうゆうのはユニフォームと同じだから。みんな~!集まって!」
部長は円陣を組む為に、みんなを集めた。
「相田さん……」
「どうしたの?慎ちゃん、もしかして、緊張してる?」
「うん。」
片岡の顔が青ざめていた。大丈夫か?
「慎ちゃん浴衣似合ってるね。あ、しいちゃんの浴衣姿見た~?」
「うん。」
「綺麗だったよね~!」
片岡とお喋りばかりしているひらりに部長が言った。
「ひらり、喋ってないでそろそろ円陣組むよ?」
「あ、はい!」
「片岡君、美術部の子達も呼んで。」
美術部の部員も含めて、全員で大きな円陣を組む。井上部長はいつにも増して大きな声で始めた。
「じゃあ、いい?行くよ?夏合宿の夕食後の自由時間!我々展覧会をやる者と、観客の……世界を征服せよ!!」
「征服せよ!!」
「征服せよ!!」
「yes!mam!」
円陣を組終わると、握手をし合う。
「……何……これ?」
「開演前の、うちの部の儀式みたいなもん。うちの部、円陣の掛け声おかしいんだよ。誰かさんのせいで。」
俺はひらりの方を見た。今日は大丈夫だ。いつ見ても笑ってる。
「春壱君、ビデオカメラのスイッチお願いね!電気全部消したらスタートね!」
「はーい!」
部長のライトの合図で、学校の明かりが全て消される。
「うわっ暗~!」
見ていた人達がざわめく。しばらくすると、スポットライトが片岡に当たる。マイクがキーと鳴る。
「おい、そろそろ始まるみたいだぞ?」
片岡が頭を下げる。始まりの挨拶が始まる。
「皆さん……今晩は。美術部の片岡です。美術部の合宿実施に当たり、演劇部のご協力の元、試験的に展覧会を開く事になりました。短い時間ですが、是非お付き合いください。それでは、夏のアートをお楽しみください。」
片岡が一礼すると、スタートの合図だった。俺はペンライトで指示を送った。
「音響、スタート。照明、音にあわせて、少しづつ点灯。」
お囃子と雑踏の音が流れる。音が大きくなると、少しずつ提灯が灯る。太鼓の音がしてくる。太鼓のトドーン!と、大きな音と同時に、全部の明かりが点灯する。
「テーマは夏祭りです。各自が夏祭りをイメージするものを飾りつけました。」
「パンツぶら下がってるぞ~!」
誰かが野次を飛ばしていた。いい反応だ。野次でもなんでも、反応があるっていいな。
照明が少しづつ落ちると、音楽が流れ始める。そして、ひらり達の、演劇部のパフォーマンスが始まる。浴衣で、扇子と風船を使って、花火のように、また、花のように見せて、フォーメーションを組む。そして軽い振り付けのダンスをする。大したダンスじゃないし、太鼓も本物じゃない。照明だって、大した器具もない。でも、音と照明とパフォーマンスが揃えば、こんなに面白い世界が作れるんだ……。やっぱり、舞台の世界は面白い。
ラストは花火の音に合わせて、風船を割る。中から紙がひらひらと飛び散る。片岡が終わりの挨拶をすると、観客は拍手する。
隣にいた相田先生が言った。
「何……これ……凄い……展覧会って言ってたからもっとてっきり静かなのかと……。」
その隣で杉本が言った。
「凄いよねぇ~うちの演劇部、結構クオリティ高いパフォーマンスやってのけちゃうんだよねぇ~。これが、ひらりちゃんが虜になった世界だよ。ひらりちゃんだけじゃない。多分、お母さんも。」
「え……?は?これ……?」
「まあ、これとは少し違うけど、似たような物だよ。」
相田先生はひらりの方を見て言った。
「ずっと……そんなもののためって思ってた。嫌いだから……ちゃんと見た事なかった。ひらりの顔……いい顔してる。」
そこへひらりがやって来る。
「お姉ちゃん!見た?」
「うん。見た。」
「世界、征服された?」
「は?」
一瞬困った相田先生に、杉本が言った。
「多分、魅了された?って意味で聞いてるんだよ。」
「魅了された?……されたよ!もう、完全に征服されたよ!ひらり可愛い!!」
ひらりに相田先生は大きく手を広げてハグした。
「お姉ちゃん、姉バカ出てる。みんな見てるよ。恥ずかしいよ~!」
ひらりは嬉しそうに困っていた。
「春壱、どうだった?」
ひらりの、公演終了後の、お決まりの台詞だ。
「ああ、世界、征服されたよ。」
「やった~!!」
何をそんなに喜んでるんだよ。当たり前だ。俺だって、作りあげた一員なんだから知ってる。その世界の、素晴らしさを。
世界の終わりに涙するなんて、そんな贅沢そうできるもんじゃない。




