甘いパンケーキ
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待ち合わせのカフェへ行くと、相田さんと須藤の妹は先にパンケーキを食べていた。
「まだ食べてるのかよ。」
「まだ~。春壱も一口食べる?」
「いらねーよ。」
須藤は相田さんの差し出した一口を拒否していた。普通に美味しそうだ。
「美味しそう。」
「慎ちゃん甘いもの好きなの?」
「うん、割りと。」
正直、甘いものが好きとか、恥ずかしくて普段なら言えない。でも、疲れているときはたまに食べたくなる。
「はい、あーん。」
相田さんは僕の口にパンケーキを運ぶ。
「本当だ。美味しい。」
きっと疲れたんだ。慣れない事をしたから……。
「お兄ちゃんにはあげないよ?」
「あげないの?可愛い妹の一口あげないの?」
「いらない。まじでいらない。」
嫌がる須藤に相田さんは無理やり食べさせようとしていた。
「いらない?じゃあ、無理やり一口食わしてやる~。」
まるで悪魔の触手と尻尾が出ているような、ブラックな相田さんだ。
とうとう相田さんは須藤の口に突っ込んだ。
「美味しいでしょ?」
「うまっ。もう一口。」
一口食べた須藤は衝撃を受けていた。
「さっきいらないって言ったじゃん!あ、コラ食べ過ぎ!」
二人は少し騒がしくなってきた。
二人を落ち着かせないと……。何かいい手は……。
「あ、ひらり……ん、口にクリームついてる。」
「え…………?」
三人はこっちを見て固まった。僕は紙ナプキンを相田さんに渡した。相田さんはそのまま口を拭いて、そのまま訊いてきた。
「今、慎ちゃん私の事なんて呼んだ?もう一回。ワンモア。」
「相田さん、とりあえず口拭きなよ。」
ここはスルーしてごまかそう。
「戻ったぁ~!今度はちゃんと返事するから!もう一回。ワンモアチャンス!」
「またの機会に。」
「終了した~!」
相田さんはテーブルに伏して悔しがっていた。
「あははは。慎ちゃんとひらりちゃん面白い。」
須藤の妹が笑っていると、須藤はすっかりパンケーキを食べ終わっていた。
すると、相田さんが立ち上がって言った。
「あの、私向かいのお店行きたいんだけど、今行って来ていいかな?秋輝ちゃん食べてる間に行って来るから。春壱、一緒に行って選んでくれない?」
「何買うつもりだ?」
「ハルくんに復帰祝い。剣道の時つける頭の奴って何?」
白石にプレゼントを買うのか……。
「面下の事か?」
「そうそう!それ、それ欲しいの。一緒に来てよ。1人じゃ入りづらいし。」
「わかった。」
そう言って須藤も立ち上がった。
「ごめん。ちょっと行って来るね。慎ちゃん、秋ちゃんの事よろしく!」
「うん、わかった。」
相田さんと須藤は話ながらカフェを出て行った。
「晴君の勝利祝いになっちゃうかな~」
「勝つ前にお祝いかよ。」
「晴君、春壱と違って運動神経いいよ?」
「うるさいな知ってるよ!」
「あ、春壱も弱くはないから……」
「あからさまに気ぃ使われると余計傷つくわ!」
本当に仲がいいな……。
そう思って二人を見ていたら、
「あの二人……なんで付き合わないかなぁ……。」
須藤の妹がそう言い始めた。
「須藤妹もそう思うんだ。」
「慎……ちゃん……」
須藤の妹は、色々な事をはっきり言う割に、微妙に気を使う。そこは須藤と似ていると思う。ダントツで顔も似ているが……兄と似ていると言われて喜ぶ女子中学生がいるとは思えない。
「別にいいよ。そう呼んでも。」
「良かった!慎ちゃんもそう思う?」
「思うよ。相田さんは……須藤の事が好きだと思ってた……。」
それを聞いて、須藤の妹はため息をついた。
「今日ひらりちゃんとランチして、恋バナしようとしたら、ひらりちゃん全然できなくて、人として欠落してる~とか人生相談になったんだよ?」
「ふっ……。」
思わず笑ってしまった。相田さんが須藤妹に人生相談て……
「今笑った!」
「…………。」
須藤妹はこっちを指を指して言った。
「エミちゃんがお兄ちゃん全然喋らなくて怖いって言ってたけど……全然怖くないじゃん。その顔の方がいい。」
僕は、この前の、美術準備室の事を思い出した。須藤の妹は、椎名先生と同じ事を言うんだ……。
「慎ちゃん、意外と普通に話せるし。」
「やっぱり兄弟だ。今日須藤にも同じ様な事言われたよ。」
「うわ~それ一番やだ~お兄ちゃんに似てるって言われるの本当にヤダ~」
やっぱりそうだろうと思った。
「慎ちゃんだって、エミちゃんと似てるって言われたらどうなの?」
「うちはあんまり似てないから。」
「そう?口元とか顎のラインとか似てる。女装させたらエミちゃんになりそう。女装させくなってきた。よし、ひらりちゃんに相談しよ。」
女装!?
「そ、それは……」
いけない!相田さんとか演劇部は、絶対に面白がるやつだ……。
「止めて欲しいですか?」
「相田さん……というより演劇部の実行力をなめたらいけないよ。」
須藤の妹は僕の様子に少し引いていた。
「え……トラウマですか?」
「え……トラウマですよ?」
「…………じゃ、ラインのID交換してください。情報交換しましょう!私に協力してください。」
「協力?」
それは、相田さんと須藤の間を取り持つための協力に聞こえた。
結局、僕は須藤の妹と連絡先を交換した。そんな事をしていると、紙袋を持った相田さんと須藤が帰って来た。
「お待たせ~遅くなってごめんね~!」
「黙って別の店に行くなよ。」
須藤妹は口を拭いて言った。
「全然待ってないよ。ね?慎ちゃん!」
「片岡、慎ちゃんはやめろってちゃんと言えよ。こいつすぐ調子乗るぞ?」
調子に乗ったくらいが可愛いと思えるのは他人の妹だからだろう。
「慎ちゃんはいいって言ったもん。」
「片岡甘やかすなよ~」
「須藤の可愛い妹だからつい……」
僕がそう言うと、相田さんは笑った。
「あははは!慎ちゃんもそう思う?やっぱりそう思うよね~」
相田さんも、須藤の妹が可愛いんだ。
それから、四人はカフェを出て、駅のホームで電車を待っていた。
相田さんは紙袋から、小さな包み紙を出す。
「秋輝ちゃん、これ、今日付き合ってくれたお礼。」
「何これ。開けていい?」
「いいよ。開けて。お姉ちゃんのお土産のついでだけど……。気に入ってもらえるといいけど。」
須藤の妹が中身を出すと、小さなオレンジ色のマニキュアが出てきた。
「これ、迷ってた方の色……ひらりちゃんありがとう!」
「俺と片岡には?」
「え?ないよ?あ、慎ちゃんにはまた後日改めて。」
須藤は片手を出して要求していた。
「俺には?」
「ないよ。今度お姉ちゃん家にご飯食べに連れて行ってあげる。」
「やだよ!もう二度と行くか!」
お姉さんの家でご飯……?
「お姉さんと仲直りしたの?」
「うん。そうなの。お姉ちゃん、杉本先生とお父さんに挨拶に来るって。」
僕が少し疑問に思った事を須藤の妹が聞いた。
「何?お姉さん駆け落ちなの?」
「駆け落ち?なのかな?でも、お姉ちゃんとの時間、取り戻せた気がして……良かった。」
相田さんは嬉しそうに笑っていた。それを見て僕は安心した。
「良かった。少し心配してた。」
「ご心配おかけしました。慎ちゃんありがとうね。春壱も、どうもお世話になりました。」
「まったく、本当に大変だった……3時に起こされるわ、寝相で殺されそうになるわ……」
寝相で殺されそう……?
「だから、それは何度も謝ったじゃん!」
「…………。」
須藤の妹と僕はそれを聞いて黙ってしまった。なんだ……慣れない事、全然しなくても良かったんだ。
「お兄ちゃん、ひらりちゃんと一緒に寝たの?」
「寝たよ~?」
その様子の、相田さんの寝たの意味はすぐにわかった。
「バカ!勘違いさせるような事言うな!」
「別に何もないんだからいいじゃん。」
本当に何もなさそう。別に疑ってもない。
「雑魚寝だ。雑魚寝。」
「一枚の布団で二人で寝たら雑魚寝って言わないんじゃなかったの?」
「お前っ……本当に最低だな。」
その話を黙って聞いていた須藤の妹の様子が急に変わった。
「最低だよ……。二人とも最低!」
「あ、秋輝ちゃん、ごめんね。お兄ちゃんのこんな話聞きたくないよね。本当に……ごめん。」
慌てて相田さんは取り繕うと必死になった。
「ひらりちゃんは特別だと思ってたのに……」
「え……?」
「私、一本後の電車乗る。」
そう言って須藤の妹はホームからいなくなってしまった。
須藤が追おうとするが、ここは自分が行った方がいいだろうと思って、須藤を止めて須藤の妹の後を追った。
改札の前まで行くと、須藤の妹の姿があった。
「須藤の妹!一本後は一時間以上待つ。帰りが遅くなる。」
そう声をかけると…………
「わかってまーす。」
「え…………?」
その顔は、さっきまでの顔とは違った。
「二人きりにするためにわざとだよ。わざと。名演技でしょ?慎ちゃんは空気読めるからこうしてくれると思ったんだよね。」
さすが須藤の妹……なかなかの策士だ。演劇部にも入った方がいい。
「あの二人はバカだよ!バカ!」
「まぁまぁ、急いては事を仕損じる。」
僕は腹を立てる須藤の妹をなだめた。
「だって聞いたでしょ?一晩一緒にいても何とも思ってないんだよ?」
「二人はまだお互いに子供なんだ。大人になれば嫌でも気づく。それまで見守るしかない。」
「でも、お互いの気持ちに気づく前に、ひらりちゃんを他の誰かにとられたら?」
腹を立てるのは心配してるからだ。妹は妹なりに、兄を心配してるのかもしれない。
「それは……縁がなかったとしか……」
「ヤダ!私はひらりちゃんがいい。羽多じゃ嫌。」
「無茶言うなぁ……。須藤妹……。」
やっぱり須藤の妹だ。そこはハッキリ言う。
「妹もヤダ。秋!秋って呼んでよ慎ちゃん!」
「…………考えとく。」
須藤の妹を名前で呼ぶのは……まだ、僕にとっては、ハードルが高い。
しばらくすると、慎ちゃんから連絡が来て、結局同じ電車の別車両に乗ったという連絡が来た。
「どうしよう……秋ちゃん……。」
「別にいいだろ。同じ電車に乗ったんだから。」
「そうゆう事じゃないよ。せっかく仲良くなれたのに……本当に反省。」
悪ノリし過ぎて、不快な思いさせちゃったんだ……。今度ちゃんと謝ろう。
「秋が何で怒ったのかすらわからないんじゃ、どうしようもないだろ。」
「春壱、ちょっと行って聞いて来てよ。」
「何でだよ。お前が行けよ。」
春壱と押しつけ合いをしていると、そこに、秋ちゃんから連絡が来た。
「あ、秋ちゃんから連絡来てる。今日のメンバーで火祭り行くなら許すって。」
「はぁ?やだよあんなクソ混む祭り。家でDVD見てる方がマシ。」
「春壱行かないの?じゃ、私秋ちゃんと行ってもらおう。」
超今年は、一緒に行く人がいない。
「お前、行くの?あそこ川だぞ?」
「去年は先輩と行ったんだけどね、今年は彼氏いるから誘いづらいって言うか……」
「あー井上部長と斎藤部長。」
今年はきっと、あの二人で行くと思う。そう思っていたら、春壱が意外な事を言い出した。
「お前が行きたいなら……行ってもいいけど……?」
「本当!?じゃ、秋ちゃんに返信っと……」
しばらくすると、秋ちゃんは慎ちゃんとこっちの車両に来た。ケロッと機嫌を直して。
これは……もしかして……秋ちゃんの陰謀なのかな?
とも思えて、少し疑っちゃった。




