可愛い妹
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「あれ?寝ちゃってた?二人は?」
目が冷めると、リビングには秋ちゃん1人がテレビを見ながら雑誌を読んでいた。
「コンビニ行ったよ~」
「そうなんだ。」
秋ちゃんはテレビを消して、私の方を向いた。
「ひらりちゃんって……あ、ひらりさんは……」
「ひらりちゃんでいいよ。あと、敬語もいいから。」
年下からのさん付けも、敬語も苦手だ。
「ひらりちゃんは、晴兄と兄貴どっちと付き合ってるの?」
「え?」
ダブル兄に混乱した。でも、どっちにしろ確実に答えは変わらず同じ。
「どっちとも付き合ってないよ?」
「えーそうなんだ。困ったな~兄貴が先に彼女連れて来たら、私も彼氏連れて来やすいと思ったのに……。」
「え!?秋ちゃん、彼氏いるの!?」
「いるよ~?」
「今中3だよね?」
じぇ……じぇ……じぇじぇじぇ?(古っ)ジェネレーションギャップですか?これが。友達の妹なのに……ど、動揺が……止まらない!
「あ、兄貴と晴兄には今の話オフレコで。」
どうしよう……とんでもない事を聞いちゃった気がする……!
「あ、秋ちゃん、シャワー借りてもいいかな?頭洗いたい。コンタクトも出したい。」
「じゃあ、何か着替え貸そうか?」
「本当に?助かります!」
秋ちゃんがTシャツと短パンを貸してくれて、シャワーの後着替えた。
「あ、秋ちゃん、シャンプーありがとうね。これ、めっちゃめっちゃサラサラになるね。匂いもいいし。」
「でしょ~?オススメだよ~」
秋ちゃんオススメ、専用シャンプーとトリートメントを借りた。
「ポンプも可愛いね。あれどこで買ったの?」
「映画館の近くの雑貨屋さん。」
「雑貨屋さん?知らないな~どこらへんなの?」
ここはド田舎で、車を持たない学生はみんな、街まで電車で一時間かけて買い物に行く。
「映画館の東側?だよ。ケーキ専門店の向かい側に新しくできたの」
「そっち側なんだ~この前は西側のカフェの方に行ったから気づかなかったんだ。」
この前は晴君とデートでカフェを楽しむ余裕は無かった。
「え!あの、カフェ行ったの?いいな~! 私まだ行った事ないんだ~。ひらりちゃん、今度一緒に行ってよ?」
秋ちゃんに誘われて嬉しかった。
「いいよ。じゃ、秋ちゃんは雑貨屋さん案内してね。」
「いいよ。あのカフェね~パンケーキ美味しいんだって~」
「そうなんだ~知らなかった~パンケーキ食べようね。ふふふ。」
秋ちゃんが可愛くて、私は思わず笑った。
「何?そんなに楽しみ?」
「妹ってこんな感じかなぁって。いいなぁ可愛いなぁ。」
「ひらりちゃん一人っ子?」
「ううん。お姉ちゃんが1人いるよ。でも、歳が離れてて、姉妹って言うより、お母さん?みたいなの。こんなふうに一緒に出かける約束とか、相談とかあんまりした事なくて。」
私はお姉ちゃんにとって、可愛い妹じゃなかったのかも……。手がかかって……わがままで……。
「そうなんだ~。うちはあの兄貴だからな~あのシャンプーの良さ全然わかってくれないんだよ~」
「あはは、春壱はどーでもいいって言いそう。」
「もっとヒドイよ。無視だよ無視。」
「あはは。そうなんだ。」
そこへ、二人がコンビニから帰って来た。
「あ、お帰り~」
「女子トーク。」
「何故に雨トーク。的な?言い方?」
「いいなぁ~僕も混ぜて。」
春壱は秋ちゃんと私の前にアイスを置いた。
「これ、私にも?女子サービス?」
「僕と春壱からのオムライスのお礼だよ~?」
「ありがと~!でも、溶けちゃう前に冷凍庫にしまって~」
「じゃ、一緒に入れて来るね~」
そう言って秋ちゃんは2つのアイスを冷凍庫へ入れにキッチンへ行った。
「え……すぐ食べないの?」
春壱は衝撃を受けていた。
「だから言ったのに~女子は夜はアイス食べないって。」
「春壱、ありがと。気持ちだけもらっとく。秋ちゃん、私の分も食べていいからね。」
「春壱~ゲームやろうよ~映画じゃ絶対寝るよ?」
「お前が寝さえすれば良し。俺も安心して寝られる。」
「くそ~絶対寝ないでいてやる~」
多数決で、映画を見る事になったけど……しばらくすると、みんなうとうとし始めた。私もすぐに限界が来て、ソファーで寝てしまう。
次に気がついた時には、全員リビングで寝ていた。テレビ画面は、DVDのセレクト画面のまま止まっていた。
「寒……」
私はかかっていたタオルケットをかけ直した。
「あれ?寝ちゃってた……」
「ん?どうした?」
私の声に、春壱が反応した。
「えっと、あの、少し寒くて……」
「ああ、エアコン温度あげる。」
そう言って春壱はエアコンのリモコンを探した。
「春壱、ありがとう。」
「え、別にこれくらい。」
春壱は目を擦りながら眠そうに言った。
「そうじゃなくて……泊めてくれてありがとう。今日1人の家に帰って、1人で過ごしてたら……余計落ち込んでた。」
「晴に……キレられたんだって?全然平気そうで気がつかなかった。」
晴君から何か聞いたのかな……?
「平気じゃないよ。怖かった。しばらく震えが止まらなかった。でも、晴君の気持ち、少し見えて、ちゃんと理解したくなった。」
「で、理解できたのか?」
「まだ……でも、今日ね、あ、もう昨日か。昨日、しいちゃんに誘われて美術室で絵、描いてたんだけど、」
それを聞くと、春壱は少しイラついた様子だった。
「授業も部活もサボって美術室にいやがったのか。」
「あ、美術部の幽霊部員になったんだ~」
私はしいちゃんに引き止められ、絵を描く事になった事を話した。
「どうせまたバニラでも描いてるんだろ?」
「あははバレた?あれ?何の話だっけ?」
私は元の話を思い出して続けた。
「あ。そうそう、落書きしながら、しいちゃんに聞いてみたの。男子生徒に告白されたらどうする?って。で……それで…………」
「迷惑だって?」
私が迷っていた言葉を春壱はさらりと言った。
「…………え?」
「当たり前だろ?迷惑以外何でもない。」
予想外だった……いとも簡単に、その答えに辿り着くなんて……。
「春壱はショックじゃないの?迷惑って言われたら……」
好きと言って、迷惑だなんて……
「考えてみればわかる事だろ。予想通りだよ。」
確かに、そう都合よくはいかない。全ての人が自分と同じ答えとは限らない。
「…………わかってても……ショックだよ。その言葉を聞いたら、胸が苦しくなった。辛くなった……。」
「何でお前が傷つくんだよ。役に近づきたいのはわかるけど、お前が傷つく事はないだろ?役が変わる度にそんな事してたら精神的に持たないぞ?」
「違うよ!役は関係ない。」
春壱には伝わってない。これは、役の話じゃない。
「晴君、私の事殴らなかった。ムカついてキレたら殴るはずでしょ? 髪の毛引っ張って、すぐ離してくれた。晴君の傷ついた顔見たら、私に助けてって言ってるように思えたの……だから、助けたい。」
私、晴君を助けたい。
「助けるって……どうやって?」
「わかんない。わかんないけど……しいちゃんがね、教師として生徒に正しい道を選ばせるのも教師の仕事って言ってた。なんとなく、なんとなくね、お姉ちゃんは……わざと晴君を遠ざけたのかな?って。それが、お姉ちゃんの優しさなのかな?って思ったの。」
きっと、お姉ちゃんは迷惑だなんて思ってない。だからって、軽く流してなんかもない。
「なんでそう思う?晴と相田先生の事何も知らないのに。」
「逆だよ……。知らなかったから。」
「は?」
私は、ソファーの上で体育座りに座り直した。
「お姉ちゃん、大事な事はいつも私に何も話してくれないの。どうでもいい事はスピーカーみたいにどんどん話すのに……。生徒に告白された~なんて話、一度も聞いてない。」
そう、大事な事は何も、一言も……。それで、私を守れると思ってる。
「一度も聞いた事がないし、結婚した杉本先生だって……」
「杉本が晴と似てるからか?」
「外見とかじゃないの。」
お姉ちゃんが結婚したのは、杉本を好きというより、都合が良かったからに思えた。家を出る理由、晴君をあきらめさせる理由、今思えば、利にかなっていた。
「わかるけど。でも、それを今さら晴が聞いて、どうにもならないだろ?だったら知らない方がマシだ。」
「わかってるよ。だから……昨日はお姉ちゃんに会いたくなかった……。本当は晴君にも会いたくなかったけど……元気そうな顔見れて……良かった。」
私は晴君にタオルケットをかけなおした。
「晴君は、お姉ちゃんと似てる。近づきたいのに、優しさと笑顔の鎧で固めて、誰にも中を見せない。そして、だれも触れられない。晴君がキレた時、初めて少し、中が見えた……。」
秋ちゃんにもタオルケットをかけると、秋ちゃんは寝返りを打って脚でタオルケットを蹴っていた。
「お前……ダメな男に引っかかって、暴力とか受けて、捨てられるタイプだな。」
「はぁ?それどうゆう意味?」
「それは、僕がダメな男って事だよ。」
突然の晴君の言葉に、冷やっとした。二人は驚いて、しばらく言葉を失った。
「…………晴君!起きてたの?」
「お前……いつから起きてたんだ?」
「本当はひらりちゃんのちゅーで起きたかったんだけどなぁ~。僕、帰るよ。じゃ、二人でごゆっくり。」
そう言うと、晴君は帰ろうとする。私は早口で挨拶した。
「え、ちょっと待って。私もそろそろ始発出るから、帰る。春壱、泊めてくれてありがとう。秋輝ちゃんにもよろしく言っておいて。」
私は慌てて鞄を持って、晴君を追いかけた。
「晴君待って!待ってよ!」
晴君は家の門の前で振り返った。
「僕は何も聞いてないよ。何も聞いてないから。じゃあね。また月曜に学校で。バイバイ。」
晴君……晴君は、私を置いて…………自分の家に入って行った。




