深夜のオムライス
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何だか気まずい。駅から二人で、春壱の家へ向かって歩いていると。途中、犬を連れて歩く晴君と鉢合わせてしまった。
「あれ?春壱今帰り?」
晴君だ……。私はとっさに春壱の後ろに隠れた。
「あぁ。部室で寝て起きたらこんな時間になった。」
「普通に見えてるよ?ひらりちゃん。」
「晴君……こんばんは。」
私は春壱の後ろから覗いて挨拶した。お昼の事があって、上手く話せない。
「こんばんは。何?春壱ん家泊まるの?両親が留守の間に女の子連れ込むなんて春壱やらし~」
「晴君、変な勘違いしないでね?電車なくて帰れなくなっちゃったから……」
晴君は少しも考える事なく返した。
「お家の人に迎えに来てもらえばいいのに。」
「…………。」
「それが……できなくて……」
家族が出張中と訳を話した。
「じゃあ、どこでもいいならひらりちゃん、うちに泊まれば?うちは一人っ子だから誰もいないよ。」
「それは止めろ。駅にいるより危険だ。山で野宿した方がよっぽど安全だ。」
春壱は私の肩に手を置き、強く揺さぶって過度に説得してきた。
「自分だってひらりちゃん連れて来たくせに酷いよ~」
「じゃあ……迷惑じゃなければ、ハル君のお家に泊めて。」
「え…………?」
二人は同時にこっちを向いた。
「春壱のお家には妹さんがいるでしょ?突然お邪魔したら迷惑だし……いいかな?」
「おいでおいで。こいつはユキ。ユキ~お客さんだよ~。」
晴君が紹介してくれたのは、白くてふわふわな犬だった。
「ユキちゃん、よろしくね。」
「じゃ、行こうか。」
「ちょっと待て!それはダメだ。俺も晴の家に泊まる。」
春壱は晴君の前に周り込んで、私を止めた。
「秋ちゃんどうするの?1人だよ?」
「じゃ、晴が家に来い。」
「いいね!みんなでパジャマパーティーだね!ユキはお留守番かな~?支度してくるね!」
「さっさと中はいるぞ。妹寝てると思うから静かに。」
二人は静かに家に入る。春壱に続いて玄関に入ると、暗闇にささやいてみた。
「お邪魔しま~す。」
春壱はあちこちに電気をつけると、暗闇からすっきりとしたリビングが現れた。
「へぇ~ここが春壱のお家か~」
「散らかってるけど、まあ………ごゆっくり?」
私は荷物を置くと、とりあえず、ソファーに座った。
私は手を洗いたくて、春壱を探そうとすると、キッチンで何やらガタガタ音がする。気になって見に行ってみると、春壱はあちこちで何かを探していた。キッチンの真ん中には、大きなダークブラウンのダイニングテーブルがある。
「何してるの?」
「腹減った。何か作る。」
春壱は人参を片手に、スマホとにらめっこしている。すると、テーブルから玉ねぎが転がり落ちた。
「春壱、料理できるの?」
「……やった事はない。」
しばらく様子を見ていると、どんどん心配になっていった……。
「何か買って来ようか?近くにコンビニあったし。」
確か駅前にコンビニあったと思う。
「役者はアスリートなんだろ?栄養のあるもの食べさせないと……。」
「それは物の例えで……。」
って聞いてない!実は春壱天然か!?それとも新手の嫌がらせ?一体どんなチャレンジ料理が出て来るの!?ダメだ……見ていられない!我慢の限界で、とうとう言ってしまった……。
「代わりに作ろうか?」
「え?はぁ?」
お前こそ、絶対できないだろ?と、春壱の顔が言っていた。
「その驚き方は失礼だよね?」
「他にどんな驚き方があるんだよ?」
それは……確かにそうだけど……。
「あの……簡単な物しかできないけど……私が作ってもいい?」
「いいけど……本当に作れんの?」
春壱はまだ疑いを持ちつつ、人参を私に手渡した。私は受け取った一旦人参をテーブルに置き、手を洗った。
「春壱、まな板と包丁どこ?あとフライパンも。」
「確か………そことそっち。」
教えてもらった場所からまな板と包丁をテーブルに出す。
「冷蔵庫見てもいい?」
「いいけど?」
私はこっそり、春壱ママ勝手に見てごめんなさい!と心の中で言いながら、冷蔵庫を見る。
「ご飯ってある?冷凍でもいいんだけど。」
「さぁ?炊飯器そっち。」
炊飯器を見ると、炊いたままご飯は手付かずだった。
冷蔵庫から卵とウインナーとピーマンを出して人参を洗っていると、急に話しかけられた。
「親、いつも仕事でいないのか?」
「どうして?」
「手際いいから。」
手際もよくなると思う。料理は試行錯誤して色々やってみた。
「ここ2年くらいかな?料理の研究してたの。再現したい味があって」
「再現したい味?」
そう、私は……どうしても食べたい味があった。
「再現できたのは、オムライスだけだった。だから……作るの、オムライスでもいい?」
「何でもいい。腹減った。」
玉ねぎと人参とピーマンとウインナーを刻み、フライパンで炒める。
「普通オムライスにピーマンって入れるか?」
「ピーマンはね、小さい頃苦手だったの。お姉ちゃんが工夫してくれて、小さく刻んでケチャップライスに入れてくれたら、食べれるようになったんだ。」
「姉さん…………」
春壱がそう、いいかけた時、誰かが2階から降りて来た。春壱によく似た、女の子だ。
「お兄ちゃん、こんな時間に料理してるの?」
「秋……お前起きてたのか?」
春壱の妹と目が合うと、お互いに一瞬固まってしまった。
「火、かけっぱなし。フライパン焦げる。」
春壱の声に我に帰って、火を止めた。
「この人誰?」
私はヘラを持ったまま、自己紹介した。
「あ、あの、初めまして。須藤君の同級生の相田ひらりです。こんな時間にごめんなさい。お邪魔してます。」
「何作ってるの?」
「オムライスだけど……食べる?」
緊張と焦りで、とっさに訊いてしまった……。
「食べる!」
「え?」
思いがけず、妹が普通に返して来たので、完全に春壱とハモった。
すると、どこからともなく、
「じゃあ、僕も!」
という声が聞こえると同時に晴君がキッチンに入って来た。
「晴!お前、いつの間に!」
いつの間にか晴君も来ていた。
「晴兄来てたんだ。」
「秋ちゃんは夕飯食べてなかったの?」
晴君は秋ちゃんを心配してきいていた。
「カップラーメンだったからお腹空いたの~。」
「僕もお腹空いたよ~」
いつの間にかみんなテーブルに座って出来上がりを待っていた。
「ちょっと多めに作ってるからサイズ小さめだけど、4個作れるかも。」
ご飯の分量を少し多くして、ケチャップライスを味付けし直した。
卵を割って、溶いていると、いつの間にか、小さい頃を思い出した。ダイニングテーブルには、両親と、お姉ちゃん。温かく、賑やかな食卓……。本当は、お姉ちゃんに会いたかった。あの笑顔で、出迎えてもらいたかった。話を聞いてもらいたかった……。
「ひらりちゃん、何か手伝おうか?」
晴君の言葉に、一気に現実に引き戻された。そう、今は、思い出に逃げてる場合じゃない。
「うんん。大丈夫。二人と一緒に座ってて。」
さっとケチャップライスを卵にくるんでお皿に乗せる。私は秋ちゃんの前にできたてのオムライスを置いた。
「何で秋から?」
「レディーファースト?だから?」
そう言って次のオムライスの卵をフライパンに入れた。秋ちゃんはケチャップで可愛くハートを描いて食べ始める。
「いっただきまーす!」
味は……どうなんだろう。次のオムライスをお皿に乗せながら、少しドキドキした。
「これ、ヤバうまだよ。上NOだよ。」
「上野って?」
「それ、同じ事俺も訊いた。」
私は自然と晴君の前にオムライスを置いて訊いていた。秋ちゃんはオムライスに夢中で、その答えは春壱に任された。
「底無しの反対で天井無し。で、上NO。最高って事。」
「良かった~!」
「って何で晴が先!?」
何も考えず置いていた。晴君も美味しいと言って食べていた。
「多分……近かったから?」
そう苦笑いして、次のオムライスを作り始めた。そして、できたてのオムライスを春壱の前に置く。
私は次の卵を溶いていると、春壱はまだ食べない。
「どうしたの?冷めるよ?」
「多分、一緒に食べようと思って待ってるんだよ。」
秋ちゃんが言った。
「うるさい。猫舌なだけだ。」
「春壱食べないの?じゃ、僕が代わりに……」
「バカ!触るな!あっち行け。」
あははは!楽しそう。
自分の分のオムライスをテーブルに置くと、春壱のオムライスには、大きくバカとケチャップで書かれていた。
「秋ちゃんケチャップ職人だね~」
「じゃあ、私のもケチャップ職人お願いします!」
「何がいいかな~!」
秋ちゃんはオムライスに変人と書いた。
「変人……。」
三人の頭の中は?で混乱した。
「え?あ!漢字間違えた!!」
秋ちゃんがそう言うと、三人は大爆笑した。
「びっくりした~秋ちゃんエスパーかと思ったよ~」
「変人認めてんのかよ。」
「いただきます!」
春壱が食べ始めようとすると、私は待ったをかけた。
「やっぱり変人よりバカがいい。」
そう言ってお皿を交換した。
「猫舌さんに嫌がらせだよ~」
「何だよそれ……。」
私は先に食べ始めた。うん、この味だ。いつもより、美味しい。
「……美味い。」
良かった……。誰かと食べるご飯って……こんなに美味しかったんだ。暖かいご飯をほおばると、何とも言えないホームシックが急に薄れた。




