帰らない
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昼休みから、あいつが……ひらりが消えた。非常階段前や保健室、部室も探した。下駄箱に靴はあった。午後の授業はサボっても、部活はサボらないだろうと思って放課後まで放置していたら、結局部活が終わっても連絡がつかなかった。
「ひらり、どうしたんだろうね?今さら部活休むって連絡あったけど……」
今さら連絡して来やがった。あいつは、どこで何やってたんだ?
「春壱君、部室にこれ持って行って部室の鍵閉めお願いできる?」
「了解です。お疲れ様でした。」
先輩から部室の鍵を受け取ると、CDデッキを持って、部室へ行った。部室の鍵を開けようとするが、部室の鍵は開いていた。部長、閉め忘れたのか……?
入り口の椅子に座り、携帯を出し、ひらりにかける。
「何ででないんだよ!あいつ一体何やってんだよ……!」
俺は台本を出し、読んでいると、いつの間にか寝てしまった。
気がつくと、辺りは真っ暗になっていた。
「ヤバイ!寝てた!うわ……暗っ!」
携帯を出して時間を見ると、10時……もうバスはない。今から歩いて終電ギリギリか……。
あ……ひらりから着信がある。俺は文句の一つでも言ってやろうと思ってかけ直した。
電話をかけると、ひらりはすぐに電話に出た。
「もしもし?」
「ひらり?お前何で誰にも何も言わずに先に帰ったんだよ!?」
「…………誰にも……会いたくなかったから。」
何だ?この違和感……声が二重に聞こえる。まるで、近くにいるような……俺は、部室の端から漏れる光に気がついた。
「お前、今どこにいる?」
「…………。」
部室の奥のパネルをどかすと、携帯の光に照らされて、そこにはひらりがいた。
「春壱?何でここに…………?」
「それはこっちの台詞だ!何でここにいるんだよ!」
昼間に確認した時は、パネルの裏までは確認はしなかった。
「部室が開いてたから……。」
「そうゆう事じゃなくて……。」
「部室の隅にいたら……落ち着いたから……」
いや、だからそうゆう事じゃなくて……。
「落ち着いたからじゃねーよ!何時だと思ってるんだ?もう10時だぞ?そっち方面、終電何時だ?」
「10時13分。」
終電はもう、確実に間に合わない……。
「親に電話して迎えに来てもらえ。俺は終電間に合うから帰る。」
「うん……お疲れ。」
「最後、戸締まりよろしく。」
「わかった……。」
ひらりに部室の鍵を渡して部室から出た。部室を出た後、何かひらりのあの態度が気になった。俺は引き返して、部室に戻る事にした。部室のドアを開けると、ひらりはまた隅で丸くなっていた。
「お前に戸締まりさせるのは心配だ。今すぐ出ろ。」
「え?今すぐ?」
「ほら早く!俺が終電に遅れるだろ!」
ひらりは慌てて窓を閉め、携帯を持つ。
「わ、わかったから!待って!」
ひらりを急かして、部室の鍵をかけさせた。そして、俺はひらりに手を差し出す。
「携帯。携帯貸せ。」
「嫌!」
「貸せ!!」
嫌がるひらりの携帯を無理やり取ろうとすると…………
「あー!」
ひらりは首元からブラウスの中に携帯を入れて、腕を組んでガードした。
「だって、勝手に電話かけるつもりでしょ?」
「当たり前だ。親ちゃんと迎えに来てもらって帰れ。」
「親……今日、出張でいないもん。」
両親とも?そんな訳ないだろ。
「じゃあ、姉さんは?この前みたいに姉さんに来てもらえばいいだろ?」
「今日はお姉ちゃんに会いたくないの!いいの。私の事はほっといて早く帰ってよ!!」
じゃあ、どうするつもりなんだ?そう思っていたら、ひらりは先に行こうとする。
「ちょっと待て!どこに行くつもりだよ。」
腕を掴んで引き止めようとするが、振りほどかれる。
「うるさいな!ついて来ないで!」
「ついて来るなって……おい!ひらり!」
しばらくひらりについて行くと、どうやら駅に向かって歩いているようだった。
「なぁ、電話しろよ。姉さんに会いたくないって……どうしたんだよ?」
「…………。」
ひらりは黙ってどんどん先に歩いて行った。
「何があった?何かあったんだろ?なあ!」
俺の質問は無視したまま、ひらりは歩き続けた。あんなに仲が良かったのに……喧嘩?喧嘩なんかするのか?そう考えていると、ひらりは一度だけ振り返って言った。
「春壱、無駄口叩いてると終電間に合わなくなるよ?」
そりゃそうだけど……。
ひらりは黙って歩く。黙ってどんどん先に行こうとする。駅に着くと、電車が来るまで時間に余裕があった。
「疲れたぁ~!」
そう言ってひらりは駅のベンチに倒れ込むように座った。
俺は、ひらりに、手に持っていた渡しそびれていた鞄を渡した。鞄をひらりの目の前に差し出すと、ひらりは驚きながら、ゆっくり受け取る。
「私の鞄……何で春壱が持ってるの?」
「教室に置きっぱなしだった。鞄置いて帰るつもりだったのかよ。」
そう言って、ひらりの隣に座った。
「だって……鞄に気がついた時にはもう学校しまってたから。」
「財布も定期も持ってないのに駅に来てどうするつもりだったんだよ」
「別に……。帰るつもりはなかったし……。」
帰るつもりない……?やっぱりな………。そんな予感はしていた。
「今はあるか?帰るな?ちゃんと帰るよな?」
「…………。」
頑として帰るとは言わない。放って帰る事も出来ない。家に連れて帰るか……?両親にどう説明する?母さん大騒ぎだろうな……あーもう、めんどくさい!
終電がホームに入ってくるのが見えた。もう迷っている暇はない。ここでいくら待っても朝まで逆方向の電車は来ない。
「じゃ、行くぞ。」
覚悟は決まった。
「は?どこに?」
俺はひらりを連れて、改札を通る。俺が先に電車に乗ると、ひらりは乗ろうかどうか迷っていた。迷っていると、ドアが閉まるベルが鳴る。見かねて、ひらりの腕を掴んで強く引き、電車に乗せた。
電車に乗ると、ひらりはドアの前でそのまま立ち尽くしていた。
「の、乗っちゃった。逆方向に乗っちゃった……。どうしよう……。」
俺が座ると、しばらくして、ひらりも隣に座った。
俺は携帯で家の様子を妹にきく為に、メッセージを送った。送られて来たメッセージに愕然とした。
『今日から日曜まで、晴兄の両親と旅行だって言ってたよね?』
「家……今日、両親いない……」
「旅行?」
「晴の両親と旅行。」
こんな時に親いないって……どんなタイミングだよ……。
「帰るのが嫌なら……泊まれば?あ、変な誤解するなよ?」
「してないよ。不思議と全然してない。」
「あーそうかよ。」
それはそれでどうかと思うぞ?何だか……ムカつくほど警戒されていない。
「ありがとう春壱。」
でも、お礼を言ったひらりの顔が、少し明るくなった気がした。
「あ、その代わり、妹にバレるなよ?あいつ口軽いから。」
「妹いるんだ。いくつ?」
「中3」
「中3かぁ……2つ年下なんだ。いいなぁ」
ひらりは話ながら、ブラウスの中に入っていた携帯を鞄の中に入れていた。
「いいなって……姉さんいるだろ?姉さんに、今日はどうして会いたくないんだ?」
ひらりは少し考えてからこう言った。
「あ……あの……あんまり迷惑かけちゃいけないかなって思って………。もうこんな時間だし。」
「姉さんなのに、何気使ってんだよ。こんな時助けてもらうのが家族だろ?」
「そう……だけど……」
ひらりは下を向いた。
「まぁいいわ……。言いたくなきゃそれでもいい。お前、俺が先に帰ったらどうするつもりだったんだよ。」
「駅で始発を待って帰るか」
危な……!!
「お前、何考えてんだ……?バカなの?」
「バカだよ……。」
ひらりはそう言って、真っ暗な窓に顔を向けた。
「次、降りる駅。」
少し緊張した。ひらりは初めて降りる駅に緊張すると言いながら、二人は、真っ暗な中にぽつりとある、小さな駅に降りた。




