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演劇部1日目

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ここ数日の間に、演劇部の部長に説得されまくって、とうとう演劇部に入る事になってしまった。その致を伝えに行くと、斎藤部長は驚かなかった。

「聞いてる。演劇部に捕まったんだってな。まぁ、兼部でも構わないから、あいつらが嫌になったらいつでも戻って来いよ。」

さすが井上部長と付き合ってるだけあって連携が取れてる。取れ過ぎてるだろ!?


「まぁ、大変だと思うけど、演劇部へ行っても頑張れよ。」

「部長……ありがとうございます。斎藤部長……」

俺はふと、思い出した。

「ん?何だ?」

「ドMなんですか?」

「はぁ?!お前喧嘩売ってんのか?」

そりゃ怒るか……俺は慌てて弁解した。

「いえ、違います。斎藤部長、井上部長と付き合ってるんですよね?」


その事を聞くと、斎藤部長は血相を変えて近づいて来て胸ぐらを掴んできた。

「ちょっと待て。その話どこから聞いた?」

「井上部長からです。」

斎藤部長は掴んだ胸ぐらを離す。

「す、すまん。須藤。……この事他に知ってる奴は?」

「剣道部にはいないと思いますけど……」

「絶対、絶対誰にも言うなよ?あの電波女と付き合ってるなんてみんなに知られたら……特に劇部の連中、あいつらは本当にタチが悪いからな?」

劇部の部長とひらりがやってきた。


「誰が電波女だって?」

井上部長に聞かれていた。

「……あー須藤、ま、頑張れ!」

斎藤部長は気まずそうに帰ろうとしていた。

「それで誤魔化してるつもり?」

「じゃ、先に帰るわ!」

「春壱君、行こうか!色々説明するね。」

井上部長に案内されて演劇部に向かおうとすると、斎藤部長が道場のドアの影からドナドナを歌っていた。

「ドナドナド~ナ~ド~ナ~」

「え?俺売られてる?」

「許せ。須藤……。」

完全に家畜扱いだ。それとも生け贄か!?


「斎藤~!あんたは黙ってて!余計な事言ったらお仕置きだからね?」

「誤解されるよーな事言うな!」

そう言って斎藤部長は帰って行った。俺とひらりは顔を見合わせた。きっと、ひらりも同じ事を思ったと思う……。斎藤部長、やっぱりマゾだ……。

「二人とも、行くよー?」

「あ、はーい!春壱、行こう!」


部長は先に道場を出ると、廊下で立ち止まってこっちを向いた。

「あ、自己紹介がまだだったよね?私は演劇部部長、井上実季です。」

「須藤春壱です。よろしくお願いします。」

俺の挨拶が終わるとまた歩き出す。今度は歩きながら話をする。

「春壱君は役者志望?裏方志望?」

「裏方でお願いします。」

「え、春壱出ないの?」

隣で残念そうな顔をしてるやつがいた。出る訳ないだろ。出たら見る事ができない。

「出ない。」


「だと思ったよ~じゃ、春壱君には最終的には演出に向けて、裏方全般やってもらうね。いずれ表も一度やってもらうけど。まずは制作に入ってもらうね。」

井上部長はハキハキと足の速度と同じで、早口で説明した。

「制作?」

「スケジュール管理、練習場所の確保、当日の受付とか、まぁ、裏方雑務全般。あ、ちなみに人数が少ないから、大道具と衣装小道具は役者もやるから。今日は来てないけど、音響と照明の3年後で紹介するね。まぁ、何はともあれ、演劇部へようこそ。」

そう言って井上部長は練習教室を開けた。


「今日から新しく部員が増えました。一緒にプラネタリウム作ったから、みんな知ってるよね?春壱君です。」

「須藤春壱です。よろしくお願いします。」

俺が頭を下げると、口々に声をかけられる。

「やっぱり入ってくれたんだ~!よろしく~!」

一緒にプラネタリウム作った先輩。

「先輩、よろしくお願いします!」

珍しく男の1年生。


「2年生大歓迎だよ~!」

これで全員?見回してみると、2年がみつからない。

「え…2年は?俺とひらりだけ?ですか?」

「そうなの~去年の新歓公演の演目選択ミスっちゃって。」

演目選択ミスって……俺が1年の時、何やってたっけ?

「何やったんですか?」

「戦争もの。」

それは無理だ……。戦争ものの舞台見て入りたい奴いるか?

「ひらりはそれ見て入ったのか?」

「うんん。私、入学してしばらく休んでたから、先輩達の公演は見てないんだ。」

「不幸中の沢井ってやつだよね~」

「は?それを言うなら不幸中の幸い。」

そう先輩達は笑っていた。

「だから今年は新入生ウケするやつにしたの!そうしたら一年生がこんなに!貴重な男子も釣れたし。」

もしかして……俺は釣られた事になってるのか?

「ひらりをお姫様にしたのは正解だったね~。」


先輩達が口々に話を始めると、部長はひらりに話かけていた。

「ひらり、プロフィールシートは書けた?」

「プロフィールシート?」

「役の履歴書みたいなものだよ。役をつかむために、誕生日とか好きなものとか、台本の台詞をヒントに予想して人物像を作りあげて行くの。」

ああ、ひらりの資料集に挟まっていたのはこれか………。 ひらりは部長に紙を渡す。部長は渡された紙を読む。


「え~と………ひらり、女版春壱って何?」

「おい!ひらり!!」

誰にも言わないとは言ったが、書いても同じだろうが。

「ご、ごめん春壱!部長、これ以上深くは説明できないんですけど、なんとなく、役は掴めそうなんです。」

ひらりは部長に、なんとかこれ以上聞かないで欲しいとお願いする。

「本当に?じゃあ、深くは突っ込まないけど……」

「すみません……。」


「いいよ。ひらりが逃げないで役に向き合うようになったから。偉いぞ。」

部長はひらりの頭を撫でる。

「部長~!飴が甘いです。めちゃ甘です!」

ひらりは部長に抱きつく。こうやって演劇部で甘やかされてんだな…………

「飴のつもりないんだけど……?いつの間にかドSキャラに………。それじゃ、そろそろ基礎練習始めようか?もちろん、春壱君も。」

「え!?裏方もですか?」

「当然!演劇部は文化系部活だと思ってた?」

「ひらりから少し聞きました。」

確か役者はアスリートだとか言ってたな。


「そう!演劇部は文化系にして文化系にあらず!発声練習、ダンス、日舞、パントマイムに殺陣、芝居に必要な物なら何でもやるからね?裏方も練習に付き合うのがうちの伝統。まずはランニグ行くよー!」


こうして、演劇部1日目はあっという間に過ぎて行った。


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