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嫌な予感

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昼休みの後、午後の授業をサボって私は美術室にいた。

「あの、しいちゃん、本当にここにいてもいいの?」

しいちゃんは美術教諭で、歳がお姉ちゃんと同じで話しやすい。


「普通先生って、授業に戻りなさいとか言うんじゃないの?」

「え?そう言って欲しいの?」

私は全力で首を横に振る。

「思い詰めた顔して、学校出て行こうとしたから、思わず引き止めちゃったけど……何かあった?まぁ、何かあったからここにいるんだろうけど。無理にとは言わないけど、話ぐらいなら聞くよ?」


何かあったと言えば……あったけど…………

「………何をどう話していいか……全然……整理つかなくて……とにかく逃げたくて……。」

「じゃあ……絵でも描く?どうせ教室行かないんでしょ?はい、スケッチブック。美術部のだけど、特別に貸してあげる。好きなもの描いてみたら?集中すれば気分も紛れるよ?」

しいちゃんは棚にあったスケッチブックを渡してくれた。


「好きなもの……何でも?」

「何でも。どうぞ。」

私は少し考えて描き始める。描き始めると、昼休みあったことを思い出した。


今日の昼休みは非常階段前で晴君と食べていた。


「へぇ~じゃ、春壱剣道部やめて演劇部に入ったんだ。」

「そうなの~!春壱のおかげで役も掴めそうだし。」

春壱に気を付けろって言われたけど、お昼ご飯食べるくらいなら別に大丈夫だよね。

「え?……春壱のおかげって?」

「春壱の初恋が、役と似てるかもってなって、もっと詳しく話聞こうと思って。」

「なーんだ。春壱と付き合い始めたのかと思った。」

晴君はホッとしていた。

「違うよ~。春壱、羽多ちゃんが憧れだったんだって。あ……これ、晴君に言っていいのかな……?」

「元は僕のカミングアウトからだからね?ほとんど知ってるし。」

そっか。そうだよね。


「でね、憧れがだんだん恋に変わって、好きになった人がたまたま先生だったって事にすれば、何となくわかるような気がするんだ。」

「好きになった人がたまたま先生だった…………。」

晴君の顔が、少し暗くなったような気がした。

「そっか。先生に恋する役だったね……。」

「そう。叶わない相手に恋するって、やっぱり大変だね~。」

「…………。」


急に晴君は黙った。晴君、どうしたんだろう…………?

「大変?他人事だね。やっぱりひらりちゃんはわかってないよ。」

「え…………?」

「…………。」

晴君は、そう言ってまた黙り始めた。あの、明るい晴君が……人が変わったように……暗い顔をしてる。嫌な予感がした。訊いてはいけないとわかってた。でも、訊かなければ何も知り得ないともわかってた。

「ねぇ……晴君、もしかして……先生に恋した事ある?」

「…………あるよ。」

あまりにも晴君があっさり答えたから、さらに訊いてしまった。

「どう…………だった?」

「…………辛かった。」

その笑顔は………辛そうだった。


「その気持ちは……どう……なったの?今でも好き?」

「…………。」

もう、その答えは答えてもらえなかった。

「晴君……?」

すると、突然、晴君は私の髪を引っ張り上げた。


「いい加減にしなよ。どう答えて欲しいの?人の傷をえぐって楽しい?」

「痛いっ!!」

笑っているようで、目が全然笑ってない。晴君が怒るもの無理はない。それはわかってる。わかってるけど…………怖い……!!


「自分が役を掴めれば他人の傷をえぐってもいいの?他人を傷つけてまで役をつかみたいとは思わないって言ったよね?嘘つきだなぁ~。自分は傷つかずに、他人の傷を利用するなんて、最低だよ?」

「ご…………め…………」

晴君はやっと髪を離してくれた。そして、静かに話はじめた。


「ひらりちゃん……本当はね、僕の事惚れさせて、捨ててやろうと思ってたんだけど……上手くいかないもんだね。あの人とそっくりだ。…………やっぱり姉妹だね。」

「…………やっぱり姉妹?もしかして…………晴君の好きになった人って……」


嫌な予感がした……。

「そう。相田先生だよ。相田、きらり。」

当たってしまった。

「そう……なんだ…………。ごめん……なさい。」

「お姉さんの変わりに謝ってくれてるの?それとも無神経な言動に謝ってるの?」

「無神経……だった……。ごめんなさい。」

晴君は少し嗤った。

「無神経だね。無神経だし、ブスだし、最低だし、喋ると残念だし。きらりちゃんに全然似てなくてがっかりしたよ。」

「そう……だね。」

私は力無く何とか返事をした。

「あははは、認めるんだ。」

「…………。」


しばらく沈黙が続くと、チャイムが鳴る。

「あ、授業始まる。先に教室戻るね。」

晴君は私を残して教室へ戻って行った。


私はその場で呆然としていた。しばらくすると、手の震えに気がつく。止まれ……止まれ……!!震えが止まらなきゃ、教室に戻れない。教室に戻らなきゃ、晴君が…晴君は心配はしない。晴君のせいになる?晴君のせい?…………晴君じゃない。悪いのは、私だ……誰にも知られたくない。春壱にも知られたくない。気をつけろって言われてた。


こんなに最低な自分が……頭の中がぐちゃぐちゃ…………


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