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願い星と叶え星

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七夕の放課後、俺は玄関で待ち伏せして、なんとかあいつを捕まえて、演劇部の練習教室まで連れて行った。


「嘘…………もしかして……」

ひらりは教室の中にドームがある事に気がつくと、入り口のドアに駆け寄った。

「入れよ。」

そう言ってドアを開けると、

「あの、話って……これ?」

「話は中で。さっさと中入れば?」

中へ入り、シートを閉じると、真っ暗になった。


「先輩達は?」

「部室の笹に短冊飾ってる。」

携帯の光で手元を照らし、投影機のスイッチを入れる。星座を結ぶ線はなく、満天の星空というより、まるで宇宙だった。

「うわぁ~綺麗~!!」

暗くて顔はよく見えなかった。でも、喜ぶ顔は想像できた。

「良かった……。手間かけてドーム作った甲斐があった。」

そう言って投影機の隣に座った。

「これ、春壱が作ったの?」

投影機の向こう側から声が聞こえた。

「先輩達がこうゆうの作りたいって言うから手伝っただけ。」

目がだんだん暗闇に慣れて、少しひらりの姿が見えるようになった。


「凄いよ!凄い!凄い!昼間に星が見たかったんだ~。1つ、願いが叶ったよ。」

ここまで喜んでもらえると、作った甲斐があるな。作ってやりたくなる先輩達の気持ちもわかる。

「先輩達、お前のために、これ、3倍の大きさで作ろうとしてたぞ?」

「3倍!?」

先輩達はきっと、ひらりの事はまだ同じ部活の後輩だと思ってる。戻って欲しいと思ってるんだ。


「お前さ、本当に演劇部やめたのか?」

「うん……。」

二人で黙ると、ドームの中は恐ろしく静かだった。

「演劇部には……戻らないのか?」

「…………うん……。」

ひらりの返事には迷いがあった。だったら挑発してやろう。

「世界を征服するとか偉そうな事言って、逃げるのか?」

ひらりの影が少し動いた。

「……だって…………怖い。」

「何が怖いんだよ?失敗か?失敗が何だよ。羞恥心もプライドも無いクセして、失うものなんか何もないだろ。」

失敗ってなんだ?

「演出の理想に答えられなかったら、確実に失敗だよ!きっと……みんなガッカリする。大好きな人達をガッカリさせたくない。」

「途中でやめたら、それこそがっかりだろ?途中でやめるぐらいなら失敗すればいい。そんなに重く考えるなよ。途中の頑張りはみんな認めてくれてるんだろ?」

そんな完璧、誰も求めてない。


「途中の頑張りなんて…………認められるわけない!!私が世界を見せたい人達には、途中の頑張りなんて見せない!!たった一度の本番しか見せないんだよ?その時その瞬間、目に入った物だけが、世界の全てなんだよ。半端な物見せて、見なければ良かったなんて思われたくない……。」

どうやら俺は軽く考えていた。たかが部活。その考えは、こいつの中には存在しなかった。

「じゃあ……半端にしなければいいだろ?」


冷静になれ。冷静に冷静に。また、余計な事を言わないように。

「このままじゃ半端になるからやめたんだよ!」

「半端でもいい。……と思う。これは、俺個人の意見だけど……お前が、お前らが悩んだり苦しんだりして、全力で作りあげた世界なら、お前がお前の世界を変えるほどのものなら、それが半端でも見てみたい。」

ひらりは少し笑った。

「春壱、ドS?てか、ハードル高っ~!」

「悔しかったら、俺のハードル越えてみろ。俺の世界を征服してみろよ。」


ひらり何かを思い出して、また黙る。そして、気まずそうに口を開く。

「でも……だって……春壱は私の演技、見たくないんじゃないの?」

「あれは……売り言葉に買い言葉っていうか………。あの、あの時は………八つ当たりして悪かった。」

やっと、謝れた。やっと謝るチャンスが与えられた。

「お前じゃないよ。私はお前って名前じゃない……これから、ちゃんと名前で呼んでくれたら許してもいいけど?」

そういえば、名前を呼んだ事があったかどうか記憶にない。何だか、少し緊張した。

「ごめん……ひらり。」

「春壱がまた1つ、短冊のお願い叶えてくれた。ありがとう。」

叶えた?壁の事か……?壁は…………もう無くなったのか?


しばらく二人は、無言で星を見た。作り物の空はあまりにも綺麗な世界が広がっていて、まるで別世界へ行ったようだった。

「星、綺麗。」

「なんで、昼間に星が見たいんだ?」

「天気関係なく織姫と彦星が会えるから?」

「はぁ……?」

俺達はまだ幼稚で、到底織姫と彦星にはなりえない。


「ねぇ、叶え星さん。」

「叶え星?」

俺の事?

「もし、もう1つだけお願い叶えてくれるなら……」

あいつは、ひらりは、真っ直ぐこっちを見てこう言った。

「私と一緒に、世界を征服してください。」

すぐには答えられなかった。


「俺と関われば、傷つくかもしれない。それでも、俺と関わりたいか?」

ひらりは質問の意味が理解できないようだった。

「春壱……病気なの?すぐ死ぬの?」

「え?どこも悪くないけど。」

「じゃ、じゃあ、誰かに追われてる?実はマフィアとか?それとも高レート麻雀で借金?やっぱり秘密スパイ?わかった!秘密結社だ!宗教だ!」

多分、思い付く限りの最悪の予想したんだろう。

「はいはい、落ち着け。全部不正解。残念ながら何のスキルもないただの高校生です。」

いやいや、何の話だよ。これ、プラネタリウムで話す内容じゃないだろ。


「じゃあ、俺に触れると火傷するぜ?的な要素が全然見つからないんだけど……」

「そんな事言ってねーから。」

それは……確かにそうゆう意味に聞こえるかもしれない……。

「俺は……晴の幼なじみだから。」

「幼なじみだから?晴君と?ボーイズラブ?羽多ちゃんはカモフラージュ?大丈夫。私、二人の仲は秘密にする!」

「待て待て待て!」

女ってなんですぐそうゆう方向に行くんだ?


「俺は晴の幼なじみだから、晴が悪くても晴を選ぶ。お前の味方はしない。これだけは言っておく。嫌な思いをしたくなかったら晴には気を付けろ。」

「気を付けろって?何を?」

何を?具体的に……?好きになるな。なんて言えない……。言える訳がない。

「あのさ、晴君に気をつける事と、春壱が演劇部に入るのと何が関係あるの?」


確かに……晴が演劇部に入る?そんな訳ないだろう。じゃあ、別に演劇部を手伝う事がダメな理由はない。部活の時間以外関わらなければ、晴と離せる可能性はある。


ひらりは決心したように、座り直した。

「じゃ、take2ね。私と一緒に、世界を征服してください。」

そして、手を差し出す。

「………まぁ、考えておく。試合も終わったし、しばらく暇になるから…」

「ちがーう!違うよ!」

ひらりは急に大きな声を出した。

「いい?春壱。願い星さん、がってん承知の助!だよ!」

「訳のわからんノリを要求するな!」

ひらりはがってん承知の助の動きを何度も何度も見せてくる。

「私がやった通りにやってみて。ほら。こう!」

きっとこれも、こいつなりの壁の壊し方なのかもしれない。俺はなんとか、ぎこちなくやってみた。

「が、がってん?承知の……助。」

「やった~!春壱~!」

そう、言うとひらりは抱きついてきた。

「ちょっお前……」

また、壁をぶち破りに来たな?

「歓迎のハグだよ。演劇の世界へようこそ。春壱。」


これは愛とか恋とかじゃない。ただ、二人の間にはもう壁はない。俺達はきっと、そう確認したかったんだ。


ドームを出ると、先輩達が待ち構えていた。

「おかえり、ひらり。」

みんな口々に、ひらりに声を掛けた。


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