二人の間の壁
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七夕イベントを目前に、剣道の練習試合があった。
「須藤ついてないな~あんなデカイ相手……」
整列をして、対戦相手を目の前にすると、かなりの身長差がある。何がバニラだ。よっぽど強力な催眠術にかかってない限り、こんなにデカイ相手…………怖くない訳ないだろ?試合の順番を待っていると、ふと、観客にひらりの姿が見えた気がした。まさか……
順番が来て、試合が始まった。
ひらりの顔が浮かんで、頭から消えない。何でお前がそんな顔してるんだよ。相手は怪獣じゃないんだ。人間なんだ。お前がそんな顔するな。怖くない。全然怖くない。俺が怖くないんだから、お前が怖がるな!!
試合は、案の定敗北で終わった。俺は防具をつけたまま、あいつを探しに剣道場を出た。玄関まで行くと、あいつはちょうど靴を履いていた。あいつは俺に気がつくと、鞄を抱えて帰ろうとする。
「ちょっと待て!!待てって。」
「何……?」
ひき止めたものの、何をどう話していいかわからなかった。
「試合、お疲れ様。」
「あの……あれ、あの……バニラ!」
何言ってんだ俺は……。
「バニラ?」
「あれ、本当だな。本当に怖くなかった。」
「……本当?でも、本当は痛くて怖いのは変わらなかったでしょ?」
お礼を言う前に釘を刺された気がした。
「それは……そうだけど……」
ひらりの顔が少し緩んだ。
「痛くて怖いのに何で剣道部に入ったの?」
「きっかけは覚えてない。小1の頃からやってたから。晴も中学まではやってたぞ?」
関係ない事ばから口から出てくる。言うべき事はそうじゃない。
「え?晴君も?イメージないなぁ……」
「羽多もやってた。」
「羽多ちゃんも?」
どんどん話が違う方へ行ってしまう。
「今はやめたみたいだけど、中学の羽多は、本当に名前の通り、羽が生えてるみたいに軽くて速くて……」
「名前の通り?」
「あいつ、名前の漢字、歌じゃなくて、羽が多いって書いて羽多って書くんだ。」
「そうなんだ……。」
そう言って一瞬、ひらりは靴に目を落とした。
「いつか羽多みたいに、あんなふうになりたいって思ってた。」
そうだ。試合に負けてやっと気づいた。俺はいつの間にか、羽多を目指してはいなかった。
「そっか……。遠距離片思いって大変だね。」
「片思いって言うのか?ただの憧れだと思うが……」
だから、恋愛がどうのとか他人に言えた義理じゃない。この前言い過ぎたせいで、今日は言葉が出て来ない。
「憧れから、好きになったんだね。憧れから……遠い……片思い……。」
「だから、恋愛経験なんてないに等しい。お前と同族だよ。」
「…………。」
何故かあいつは黙り込んだ。
「え?聞いてる?人の話。」
「同じかも。」
何かを思い付いたように、声が明るくなった。
「いやだから、同じだって。」
「違うよ。春壱と奈々子。」
「奈々子?役の名前?」
確か、ひらりが降りた、先生を好きになる役……?
「最初は憧れで、だんだん好きになって、遠い存在だって気づく。告白するけど、叶わない。でも、諦められない。」
何の話?演劇部に戻った?
「いや、俺はもう諦めるとか以前の問題で………だから………」
「ありがとう!春壱!何だか少しわかった気がする!」
「え?マジ?じゃあ、もう別にどっちでもいいか。」
良かった。またやる気になったなら…………
「あ……でも、もういいんだった。もう、やめたんだった。つい、クセで………」
やる気になってない…………?
「……あのさ、」
「あ、この前はごめんね。羽多ちゃんの事は誰にも言わないから。もう相談する事もないと思うから安心して。」
ちょっと待て。俺が言いたいのは…………
「いや、だからあの……」
「じゃ、お疲れ様。」
壁が…………俺とあいつの間には壁はあった。今度は、意図的にあいつが作った壁だ。多分、自業自得。これは、今まで俺があいつにぶつけてきた壁だ。




