春壱の決断
36
面をつけた世界は、呼吸1つで世界が変わる。相手の空気と自分の空気を推し量る、重い時間。その後は、瞬きをする速さの、飛ぶような羽の世界。もっともっと早く飛ぶための翼が欲しい。もっと早く、もっと強く。
自分の愚かさはよく知ってるつもりでいた。でも、今思えば他の方法もあったかもしれない。あれから数日、あいつはほとんど姿を見せない。これで良かったんだ……。これで、晴とも離れるはず。晴が何を考えているかわからない。でも、確実に言える。この先、これ以上関われば、晴はあいつを傷つける。
部活が終わり、着替えていると、
「須藤、そこ何かついてる。ゴミ?」
「どこ?」
「上着の腰の所。」
腰をはらうが、白い布みたいなゴミは取れない。
道着を脱いで、道着の腰の所を見ると、バニラが描かれた布が縫い付けてある。やられた!あいつだ!あいつ、こんなイタズラしやがって。
「何?誰かからのメッセージ?彼女?」
「違う。」
メッセージ…………?
「あ、もしかして、前に道場来てた演劇部お姫様?何?付き合ってんの?」
「付き合ってない。この先、付き合う事もない。」
「何で?あんなに可愛い子に熱烈にモーションかけられて、何が気に入らんの?」
「気に入らない訳じゃない。ただ…………。」
「あの時は凄かったよな~ドレスに裸足で、どうしても、この人に見に来て欲しいんです!って。勇気あるよな~」
あの頃の事を思い出した。
あんなに強く打たれて痛くないの?怖くないの?
ふと、あいつの言葉を思い出した。
バニラの事考えてれば怖くないから。春壱も怖い時はバニラ思い出して。バニラを思い出せば、怖いのも不安もなくなるよ。
「あはははははは!!そうゆう事か!」
こんなんで怖くなくなる訳ないだろ?
「え?そこ笑う所か?」
あー変な奴……。でも、そこがおもしろいって思ってる自分もいる。だからこそ、笑っていて欲しい。
ちょうど、防具の片付けを終える頃、演劇部の先輩達に呼び出しをくらった。廊下には部長が待ち構えていた。
「うちのひらりに何したの!?」
予想通りの反応だ……。
「デートの後からあの子変なの。突然やめるって言うし」
「え…………本当にやめたんですか?」
先輩達には、事情を説明した。おそらくあいつは、自分だけ恋愛感情を知らない事にショックで腐ったんじゃないかと……。
「幼なじみ……。春壱君好き人いたんだ。」
「だから、俺の事何だと思ってるんですか。」
そりゃそうだよ。好きでもない幼なじみを好きって事にしてやり過ごしてるヘタレだ。自分でもわかってる。
「ショックねぇ……ひらりがやめた分、人手が足りないんだけど、春壱君、しばらく穴埋めお願い。」
そう言われると、断りずらい……責任の一端は自分にもある。まぁ、あいつがやめたなら、別に構わないか。
「いつまでですか?剣道部と掛け持ちでいいなら……。」
「七夕イベントまで。大丈夫!剣道部の部活ない日にすこーし手伝ってくれるだけでいいの。ちょっと男手欲しい所だったから。斎藤~!」
演劇部の部長は剣道部の部長と話に行った。




