二人の幼なじみ
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晴君は春壱を呼び止める。
「壱~!待ってよ壱!」
春壱は振り返ると、あからさまに嫌な顔をした。
「げっ!何でここに?」
「それ、こっちの台詞。」
晴君はその顔に、少しも気にする事なく話を進めた。
「お前ら映画は?」
「もう見てきたよ?春壱は?買い物?」
「部活の備品の買い出し。」
春壱は手に持っていた道具屋の袋を見せる。さっきのお店、剣道の道具のお店だったんだ……。
「俺はこれで。じゃ。」
そう言って駅の方へ歩いて行こうとする。
「壱、もう帰るの?」
「もう帰る。」
晴君は春壱について行く。何となく私もそれについて行く。
「じゃあみんなで帰ろうよ!」
晴君は春壱の前に周り込むと、満面の笑みで提案した。
春壱と私は一瞬言葉を失う。
「え?」
「は?何でだよ。お前ら二人で帰れよ。」
「何で?帰る方向はみんな同じ方向だよ?みんなで帰れば楽しいよ。ね?」
晴君は私の方を見て、微笑んで見せた。まるで、獲物を取って来た猫のようなドヤ顔。その時、思い出した。昔近所のなついてた猫がトカゲ持って来たなぁ……。お手柄どころか…………ありがた迷惑なのに。
私達は話ながら駅に入ると、一人の可愛い女の子とすれ違う。すると、二人は足を止めて振り返る。
「晴喜…………?」
「…………羽多。」
女の子は私達に走り寄って来る。
「春壱!!やっぱり!春壱だ!」
どうやらこの女の子は春壱達の知り合いみたい。
「羽多、こっちに帰って来たのか?」
「うんん。今日はお祖父ちゃんのお墓参りに来たの。この子は?」
女の子は私の方を見た。
「高校の友達。」
「そうなんだ。初めまして。春壱とハルの幼なじみ?って言うのかな?小河羽多です。中学までは二人と同じ学校に通ってたの。二人の友達は友達だよ。うたって呼び捨てで呼んでいいよ。」
うたちゃん…………?幼なじみ?同じ中学の友達なんだ……。
「いえ、呼び捨ては……あの、はじめまして。相田ひらりです。」
私はいつものクセで頭を深く下げる。
「ひらりちゃん?可愛い名前。」
「…………ありがとう。こんな可愛い子に誉められると嬉しいよ。」
初対面で素直に誉められると……なんだか恥ずかしい。
「さっきはむず痒いって言ってなかった?」
晴君が突っ込む。そりゃ女子は別だよ。
「三人で遊んで来たの?」
「俺は1人で買い物。」
「僕達は映画見て来たんだ~ね~ひらりちゃん。」
晴君は私の肩に手を回す。私はすぐにその手を外す。
「あ~!じゃあ、ひらりちゃんはハルの新しい彼女?」
私はと晴喜はほぼ同時に言う。
「違います!」
「そうだよ~?」
うたちゃんは私達二人の様子に困惑していた。
「え……?どっち?」
「羽多は学校の友達じゃないから秘密にしなくてもいいよね?」
「そうゆう事じゃないです。晴君には恋について意見を聞かせてもらってます!決してお付き合いしている訳ではありません!」
うたちゃんは少し引いてる様子だった。でも、勘違いされちゃいけない。
「そんなに……全力で否定しなくても…………。」
「でも、もし晴君を本当に好きな人が恋人ごっこの事聞いたら、その人の事を傷つけてしまうから。誰かを傷つけまで役をつかみたいとは思いません。」
私は鞄から台本を出して見せる。
「え?役?何の事?」
「こいつ演劇部で、恋する役の役作りに晴とデートしてるんだってよ。」
「へぇ~演劇部…………あははは!面白い事してるんだね~!」
うたちゃんは何とか理解してくれたようだ。
「晴君にはご迷惑をおかけしてます。」
「いいえ。僕も楽しいよ。」
私達は何故かお互いに頭を下げ合う。
「あはは!晴にもちょうどいいかもね。晴も初恋の気持ち勉強し直したら?」
「初恋なんて忘れたよ。」
「………。」
晴喜とうたちゃんの間に流れる微妙な空気に全員黙ってしまう。
二人は仲良くないのかな……?その空気を打ち破るように春壱が言った。
「羽多、たまにこっちに来た時は連絡しろよ?」
「うん。今回はあんまり時間なくて。また今度ゆっくり来るね。じゃ、また。」
うたちゃんはそう言って、大きく手をふって行ってしまった。
うたちゃんが行ってしまった後の、沈黙の気まずさに耐えきれなくて、私は当たり障りない事を言ってみた。
「うたちゃん可愛い子だったね~。」
「そう?僕達は幼稚園の頃から一緒だったからよくわからないけど、彼氏はよく変わってる見たいだよ。」
晴君の言い方は変わらず冷たい。
「そりゃモテるよね。私が男だったら付き合いたいもん。」
私は台本を鞄にしまっていると、春壱がつっかかって来た。
「何だそれ。恋とか愛とか勉強中のクセして。」
ムキになって、春壱にとんでもない質問をした。
「じゃ、春壱は恋した事あるの?」
「は?はぁ?何でだよ!」
「ははん?はぐらかす所を見ると、お前さんも同族だね~?」
どうせ、春壱だってそうゆうのないくせに!
「バ~カ!お前と一緒にすなよ!初恋ぐらいあります~!」
え?そこで晴君が一言。
「フラれたけどね。」
フラれた?誰に?
「晴君知ってるの?誰?誰にフラレた?」
嫌な予感がした。
「あ、れ。」
晴君はうたちゃんが去った方向を指差した。
「え、嘘…………うたちゃん?」
「晴!お前何バラしてんだよ!おい!お前本当に最低だな!」
春壱の反応からすると、本当なんだ……。
「さすがにうたちゃんは高嶺の花じゃない?春壱って意外と面食いなんだね……。」
「うるせー!」
晴君は春壱の反応を楽しむようにさらに言う。
「しかも、まだ好きなんだよね~」
まだ…………好き…………?
「え…………そう、なんだ。そりゃそうだよね。羽多ちゃん可愛いし…………美人の幼なじみなんて、オイシイシチュエーションなかなかないもんね。」
「そうゆう事じゃねーよ!」
「そっか。春壱にも好きな人いるんだ。いいな……。」
いいな…………。うたちゃんは春壱との間に壁なんてない。壁もなければ、相談事を嫌がられもしないし、関係ないなんて言われる事もない。何とも言えない感情が自分の中で溢れるのがわかる。悔しいのかな?悲しいのかな?どう言い表していいのかわからない。
私は電車の中で、ずっと窓を見つめた。喋る余裕すらなく、ただただ、外を見つめていた。どうして春壱にこだわるんだろう。きっと、こっちを見てもらえないからなだけ。
うん、きっとそうだ。そう、自分に言い聞かせた。




