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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest31:葛葉を討伐せよ その8


※


 スケルトン・ナイトの剣と鎧が塵に変わり、骨と魔石が残った。

 フランクは無言でそれらを睨んでいた。

 呼吸は荒く、顔色は悪い。

 どうやら、先程の攻撃はかなり消耗するようだ。

 フランクは長く、静かに息を吐いた。

 空手の息吹のようなものだろうか。

 スキルの一つという可能性もあるが。


「……すぐに移動するぞ! 負傷者は治療を急げ!」


 フランクは叫ぶと、ポーチから取り出した瓶を呷った。

 少しだけ頬に赤みが差す。

 滋養薬(スタミナ・ポーション)だろうか。

 あるいは別の薬か。


「……そう言えば」


 滋養薬を飲んだことがなかった。

 今度、試しに飲んでみるべきか。

 得体の知れない薬を飲むのは気が引けるが、いざという時のために備えなければ。

 そんなことを考えながら視線を巡らせる。

 ロインや盾を持つ冒険者は水薬(ポーション)を頭から浴びていた。

 水薬が淡い光を放ちながら蒸発し、ロイン達の傷が癒えていく。

 荷物持ちの冒険者はぶつぶつと何かを言っている。

 逃げる算段でもしているのだろうか。

 はぐれたと言い訳すれば何とでもなりそうだが――。


「嫌な感じね」

「……」

「何とか言いなさいよ」

「そんなに空気を読めるってアピールしなくてもいいんだぞ」

「アピールじゃないから!」


 そう言って、ユウカはマコトを指差した。

 いつもに比べて声の大きさは控え目だ。


「お前は本当に江がし――」

「物真似じゃないわよ」


 ユウカはマコトの言葉を遮って言った。


「いつもいつも同じようなことを言って、これだからアラフォーは。偶にはもっと違うことを言いなさいよ」

「お前はハートマン軍曹か」

「ハートマン軍曹?」

「知らねぇの? ベトナム戦争をモチーフにした映画で――」

「映画の話は禁止!」


 ユウカはまたしてもマコトの言葉を遮った。


「……」

「なんで、黙り込むのよ?」

「映画の話をするなって言ったからだよ」

「話題なんて映画以外にもあるでしょ」


 ユウカは呆れたと言わんばかりの口調で言った。


「たとえば?」

「たとえば、えっと……ドラマとか?」


 ユウカは首を傾げて言った。

 拗ねたような、自信がないような口調だ。


「ドラマなんて見ねーよ」

「なんで、見ないのよ?」

「家に帰る頃にはドラマなんてやってねーよ」

「ホントにブラックね、マコトが勤めてた会社って」

「まあ、早く帰れたとしても見なかったと思うけどよ」

「なんでよ?」

「元々、興味がねぇ」

「興味がないって。会社で話題になったりしないの?」

「俺がいた部署はコールセンターを兼ねてたからな。そんな暇ねーよ」

「なるほどねぇ、こうやってTV離れは進んでいったのね」


 うんうん、とユウカは頷いた。

 元々、興味がないと言ったのだが――。


「音楽とかは?」

「そっちも興味ねぇ。つか、芸能人とか、流行の音楽とか殆ど知らねーし」


 ユウカは『うわ~』と言いたげな表情を浮かべた。


「文句があるなら言えよ」

「アラフォーのおたくを見るとマジでドン引きするわね」

「直球すぎるだろ」

「マコトが言ったんじゃない」

「むむ、マコ――あぅ!」


 ユウカに突き飛ばされてフジカは声を上げた。


「まだ暴力を振るわれることは何もしてないし」

「予防よ、予防」

「何の?」


 フジカが不思議そうに首を傾げる。


「アンタが『え~、マコトさんってばドラマや音楽に興味がないのみたいな』とか言って上級国民の娯楽について語り出すのを予防したのよ」

「うぐぐ、微妙に上手いのがイラッとするし」

「門前坊主、習わぬ経を読むってヤツね」


 フジカが呻くように言うと、ユウカは得意げに鼻を鳴らした。

 なかなか芸達者だ。


「よし! 進むぞッ!」


 フランクの声が響き、討伐隊は動き始めた。


※


 討伐隊は列をなし、行ったり来たりを繰り返しながらダンジョンを進む。

 数時間が経過し、ユウカがマコトに近づいてきた。

 何かあったのかと思ったが、ユウカは無言だ。

 しばらく進み、ユウカがマコトの二の腕を叩いた。


「……ねぇ」

「何だよ?」

「遅くない?」


 マコトが問いかけると、ユウカは訝しげに眉根を寄せながら言った。

 やはり、声の大きさはいつもに比べて小さい。

 確かに討伐隊のスピードは格段に落ちている。

 フランクが警戒しながら進んでいることもあるが、理由はそれだけではない。

 全体のスピードが落ちている。

 正確に言えば荷物持ちの冒険者のスピードが、だ。

 怯えているのだ。

 まあ、仕方がない。

 荷物持ちは駆け出しばかりだ。

 プロ意識や仲間意識があれば違ったのかもと思うが、ここいらが限界だろう。

 問題は――。


「……ちょっと」

「そうだな」

「聞こえてるんじゃない」


 ユウカは拗ねたように唇を尖らせた。


「……遅いな」

「だから、そう言ったでしょ」


 ユウカはムッとしたような表情を浮かべた。

 いや、まあ、実際にムッとしているのだろう。


「あまり迂闊なことを言うなよ?」

「分かっ――」

「ユウカには言うだけ――ッ!」


 フジカは息を呑んだ。

 ユウカが杖でフジカのスカートを捲ったのだ。

 フジカは慌てふためいた様子でスカートを押さえた。

 恥ずかしいのだろう。

 耳まで真っ赤だ。


「い、いきなり何をッ?」

「アンタがくだらないことを言おうとしたから先手を打ったのよ」

「だからってやっていいことと悪いことがあるし!」


 う~、とフジカは唸った。


「……マコトさんに見られたし」

「だから、やったのよ。どう? フジカお嬢様のおパンツを見た感想は?」

「見てねーよ」


 ユウカが小馬鹿にするように言い、マコトはうんざりした気分で返した。


「よかったし」

「嘘に決まってるでしょ」

「嘘じゃねーよ」


 やはりうんざりした気分で返す。

 もちろん、嘘だ。

 お嬢様らしくなかったというのが正直な感想だ。

 まあ、これはこれでありなのではないかとも思った。

 どちらも正直な感想だ。

 その時、荷物持ちの冒険者がこちらを見た。

 いや、睨んだ。

 マコトと目が合うとすぐに前を向いたが、肯定的な感情ではない。

 これが限界かという気持ちが強まる。


「痛(いて)ッ!」


 首筋がチクッとし、視界が開けた。

 広い空間に出たのだ。

 空間の中央には敵――スケルトン・ナイトが佇んでいる。

 目の前の光景に既視感を覚える。

 第二階層と同じ。

 スケルトン・ナイトを倒せば第四階層に続く坂道が現れるのだろうか。

 いや、都合よく考えすぎか。

 フランク達は疲弊している。

 倒せるかどうかも分からない。


「……迂回できねーかな」

「無理ッス」


 マコトが小さく呟くと、フェーネが囁くような声音で応じた。


「なんで?」

「他に道がないからッス」

「マジかよ」

「マジッス」


 フェーネはマコトに見えるように地図を持ち上げた。

 確かに、他は行き止まりだ。


「ってことは……」

「あそこだけッス」


 フェーネは正面――スケルトン・ナイトの背後にある通路を見ながら言った。


「ロイン、シャンク!」

「分かっている!」

「分かりました!」


 フランクの叫びにロインが苛立ったように返事をし、シャンクは仲間と共に前に出た。


「……ユウカ」

「はいはい、ステータスね」


 ユウカはスケルトン・ナイトを見つめ、目を細めた。


「見えるか?」

「見えるけど、あちこちが文字化けしてるわ」

「ってことはただのスケルトン・ナイトじゃねーな」

「た、ただのスケルトン・ナイトじゃねーな」


 ユウカが低い声で呟いた。


「もしかして、俺の真似か?」

「さて、どうかしら?」


 マコトはチラリとユウカを見た。


「……視線を感じたわ」

「そりゃ、見てたからな」

「マコト、まさか……」


 ユウカは呻くように言った。


「パンツを下ろしてやろうとか考えてねーからな」

「訴えるわよ!」


 ユウカが叫んだ直後、甲高い音が響いた。

 前を見ると、盾を持った冒険者が吹き飛ばされる所だった。

 弧を描くように倒れている。

 包囲しようとして吹き飛ばされたのだろう。

 通路で出会った個体に比べてかなり強い。

 やはり、ただのスケルトン・ナイトではなかったようだ。

 援護すべきだろうか、と足を踏み出す。

 すると、ポールハンマーが行く手を塞いだ。


「……リブ」

「悪ぃけど、フランクに任せてくれねーか」

「死ぬかも知れないぞ?」

「その時はその時だって」


 頼むよ、とリブは小声で付け加えた。


「頼まれたら仕方がねーな」

「うほッ、話せるぅ!」

「うほッって……」

「バイソンホーン族特有の雄叫びッス。その内、胸を叩き出すッスよ」

「叩くかよ!」


 リブが声を荒らげた。

 ウホウホ言いながら胸を叩く。

 ゴリラのようだが、この世界に棲息しているのだろうか。

 いや、もしかしたら似たような生物がいるのかも知れない。

 ロジャース商会に行った時に図鑑がないか確認してみよう。

 スケルトン・ナイトは視線を巡らせるような素振りを見せ、足を踏み出した。


「岩弾(ストーン・ブリット)ッ!」


 ロインが魔法を放つ。

 岩弾が直撃し、フランクとシャンクが襲い掛かる。


「おぉぉぉぉッ!」

「聖雷よッ!」


 二人の攻撃を受け、スケルトン・ナイトがよろめく。

 隙ができるのを待っていたのだろう。

 盗賊と思しき冒険者が走る。

 通路に結界を張り、新たな敵が現れるのを防ぐつもりなのだろう。

 その試みは成功するかのように思えたが――。

 突然、男が倒れた。

 それっきり動かない。

 死んだのだろうか。


「ユウカ!」

「死んでるわ」

「何があったんだ?」

「知らないわよ。ずっと見てる訳じゃないんだから」


 ユウカはムッとしたように言った。


「まあ、そうだな」

「多分、ゴーストの仕業ね」


 ユウカの言葉に荷物持ちの冒険者が反応する。

 ゴーストという言葉があちこちから上がる。


「分かるのか?」

「分からないわよ。でも、あんな真似ができるのはゴーストだけでしょ」

「確かに」


 壁を擦り抜けられるゴーストなら可能だ。


「……フジカ」

「おい、マコト」


 リブがこちらに視線を向ける。


「邪魔はしないって約束してくれただろ?」

「邪魔するつもりはねーよ」


 リブがフランクを慮っているのは分かるが――。


「この状況を放置できねーだろ」

「そりゃ、そうだけどさ」


 リブは拗ねたように唇を尖らせた。


「俺だってフランクのプライドを大切にしてぇけど、そのために人が死んでいいとまでは考えられねーよ。それにフランクなら自分のプライドより全体の利益を優先するんじゃねーか?」

「そう、だな」


 リブは呻くように言った。


「……フジカ」

「昇天(ターン・アンデッド)みたいな!」


 フジカが魔法を使う。

 光がダンジョンの壁を照らすが――。


「何も起きないわよ?」

「魔法はちゃんと発動したし」


 ユウカが指摘すると、フジカは錫杖を振った。

 しゃん、しゃんと音が響く。


「信心が足りないんじゃない?」

「そ、そんなことは……」


 フジカは口籠もった。

 彼女は御使い(ペリオリス)を信仰している訳ではない。

 不安に感じても不思議ではない。


「……昇天の効果範囲にいないのかも知れねぇな」

「どうするのよ?」

「フジカ、俺の指示がなくても昇天をぶっ放せるように準備しておいてくれ」

「分かったし」


 フジカは錫杖を握り締めた。

 マコトはフランク達に視線を戻した。

 話している間に何があったのか、フランクとシャンクはスケルトン・ナイトから距離を取り、荒々しい呼吸を繰り返していた。


「捕縛陣(バインド)!」


 ロインが魔法を放つ。

 地面から伸びた光の帯がスケルトン・ナイトに絡み付く。


「うぉぉぉぉッ!」

「待てッ!」


 フランクが叫ぶが、シャンクはハンマーを振りかざして突進した。


「聖雷よ!」


 シャンクが叫び、ハンマーが白い雷に包まれる。

 白い雷は前回、前々回よりも激しい。

 これで勝負を決めるつもりか。

 スケルトン・ナイトがシャンクを睨んだ。

 いや、睨んだように見えた。

 次の瞬間、光の帯が千切れ飛んだ。

 スケルトン・ナイトが剣を一閃させる。

 シャンクが仰け反り、ごぽりと内臓が溢れ出る。

 トドメを刺そうとしてか、スケルトン・ナイトが剣を振り上げる。

 その時、フランクが動いた。

 一気に距離を詰め、拳を繰り出す。

 通路でスケルトン・ナイトを葬ったあの技だ。

 拳と鎧のぶつかり合う音が響いた。

 次の瞬間、スケルトン・ナイトの鎧が破裂した。

 スケルトン・ナイトがよろよろと後退る。

 そこに――。


「岩弾!」


 ロインの魔法が炸裂し、スケルトン・ナイトは吹っ飛んだ。

 まるでタンブルウィード――西部劇に出てくる草の塊のようだ。

 だが、スケルトン・ナイトはまだ動いていた。

 痙攣するかのように震えながら起き上がろうとする。


「畳み掛けるぞ!」

「おう!」


 フランクが駆け出し、ロインがレイピアを構える。

 首筋がチクッと痛み――。


「ほぉぉぉぉぉぉッ!」

「ほぁぁぁぁぁぁッ!」

「ほ、ほぉぉぉぉッ!」


 地面からゴーストが飛び出した。

 数は三十体を優に超える。

 もしかしたら、五十体以上いるかも知れない。

 だが、ゴーストはフランク達に襲い掛かろうとしなかった。

 まるで魚の群れのようにスケルトン・ナイトの周囲を飛び回っている。

 スケルトン・ナイトがゆっくりと立ち上がる。

 悪い予感しかしない。

 スケルトン・ナイトは仰け反り、口を開いた。


「――ッ!」


 空気が震え、耳に痛みが走る。

 一体のゴーストが爆ぜる。

 それが合図だったかのように次々とゴーストが爆ぜる。

 鎧が再生していき、スケルトン・ナイトの眼窩に光が灯る。

 赤い、炎を思わせる光だ。


「ぐ、ぐぅぅッ!」


 苦しげな呻き声が響く。

 それはシャンクのものだった。

 シャンクが立ち上がり、ハンマーを構える。

 傷は塞がっているが、ダメージが残っているらしく膝が震えている。


「待て!」

「うぉぉぉぉぉッ!」


 フランクが止めるが、シャンクは雄叫びを上げて突っ込んだ。


「聖雷よッ!」


 シャンクの持つハンマーが白い雷に包まれる。

 目を開けていられないほど強烈な光が放たれる。

 渾身の一撃。

 そのはずだが、燃え尽きる寸前の蝋燭のようだと思ってしまった。

 シャンクは地面を蹴り、スケルトン・ナイトに襲い掛かった。

 ごとり、と上半身が地面に落ちる。

 スケルトン・ナイトが剣を一閃させたのだ。

 眼窩に灯った光が強い光を放ち、進化が始まった。

 剣と鎧が音を立てながら変化する。

 大きく、精緻な細工の施された形状に、だ。


【スケルトン・ナイトがスケルトン・ジェネラルに進化しました】


 久しぶりに御使いの声が響く。


「何だ? 今の声は?」

「スケルトン・ジェネラル?」

「まさか、御使いの声?」

「どういうことだ?」


 冒険者達がざわめく。

 どうやら、進化は駆け出し冒険者が騒ぐ程度に珍しい現象のようだ。

 スケルトン・ジェネラルが歯を打ち鳴らし、フランクに襲い掛かる。

 フランクが不動の構えを取る。

 ロインが呪文を詠唱する時間を稼ごうとしているのか。

 スケルトン・ジェネラルが剣を振り下ろした。

 剣がフランクの肩に触れるか触れないかの所で止まる。

 ただし、一瞬だけだ。

 次の瞬間、刃はフランクの肩に食い込んでいた。


「ぐぅッ!」


 短い呻き声を発し、フランクが膝を屈した。

 絶体絶命のピンチだ。

 その時、ロインの呪文が完成した。


「火焔砲(フレイム・カノン)!」


 ロインが魔法を放つ。

 いや、それは放つという生易しいものではない。

 濁流が堰を切って押し寄せるように炎の奔流がスケルトン・ジェネラルを襲った。

 フランクは辛うじて逃れたようだが、肌が白くなっている。

 恐らく、熱で重度の熱傷を負ったのだろう。


「やったか!」

「馬鹿!」


 ロインが拳を握り締め、ユウカが叫んだ。

 次の瞬間、炎の中からスケルトン・ジェネラルが現れた。

 そのままロインに向かって走る。


「させぬわッ!」

「リーダーを殺させるかッ!」

「魔法を!」


 ロインを庇うように盾を持った冒険者達が立ち塞がる。

 血がしぶいた。

 スケルトン・ジェネラルは無造作に剣を一閃させただけだ。

 たったそれだけで盾ごと冒険者を斬り裂いたのだ。


「結構、強かったんだな」

「だから、言ったじゃない」

「行くぞ」

「待ってくれ」


 マコトが足を踏み出すと、リブがポールハンマーで行く手を塞いだ。


「悪いが、今度は無理だ」

「そんなのあたいも分かってるよ」


 リブは拗ねたように唇を尖らせた。


「次はあたいらが相手をするって言いたかったんだって」

「あたいら?」

「あたい、フェーネ、ローラ、フジカに決まってるじゃん」

「決まってるのみたいな!」


 リブの言葉にフジカが悲鳴じみた声を上げた。


「決まってんだよ」

「やるなら一気に勝負を決めるべきではないでしょうか?」

「それは分かるんだけどよ。ここはあたいらが戦うべきだと思うんだよ」


 リブは難しそうに眉根を寄せた。


「その心は?」

「この先、あたいらがどれだけ役に立つのか分かんねぇと困るだろ」

「それもそうですね」


 ローラは神妙な面持ちで頷いた。


「行くぞ!」

「了解ッス!」

「いつでもどうぞ!」

「わ、分かったし!」

「駆け出し共! 道を空けろッ!」


 リブ達が駆け出すと、荷物持ちの冒険者は道を空けた。

 スケルトン・ジェネラルは――ロインに歩み寄り、剣を振り上げる。

 ロインは視線を巡らせる。

 だが、盾持ちの冒険者は倒れている。

 剣が振り下ろされる瞬間――。


「ハァァァァァッ!」


 ローラが声を張り上げた。

 スケルトン・ジェネラルは剣を下ろし、ローラを見つめた。

 先程の声は騎士系のジョブだ。

 効果は敵の注意を引き付ける。

 スケルトン・ジェネラルはカチカチと歯を打ち鳴らしてローラに向かって跳んだ。

 ロインの頭上を軽々と越える大ジャンプだ。


「衝撃反て(リフレク)――ッ!」


 ローラは盾を構えるが、技の発動が間に合わない。


「昇天みたいな!」

「おらぁぁぁッ!」


 フジカの魔法がスケルトン・ジェネラルの動きを一瞬だけ止め、その隙にリブがポールハンマーを振るった。

 スケルトン・ジェネラルは地面に叩き付けられたが、すぐに立ち上がった。

 ダメージを負ったようには見えない。


「おらぁぁッ!」


 リブが再びポールハンマーを振り下ろす。

 甲高い音が響く。

 スケルトン・ジェネラルが剣で受け止めたのだ。


「この野郎ッ!」


 リブは手に力を込め、よろめいた。

 スケルトン・ジェネラルに押し返されたのだ。


「ちぃッ!」


 リブは舌打ちしながら蹴りを入れるが、押し返されて終わった。

 スケルトン・ジェネラルがバランスを崩したリブに襲い掛かる。


「昇天みたいな!」

「盾撃(シールド・バッシュ)!」


 フジカの魔法で硬直した隙を突き、ローラが盾ごと体当たりする。

 硬直していたからか、スケルトン・ジェネラルは吹き飛んだ。

 そこへ――。


「狙撃狙撃狙撃、ついでに狐火ッス!」


 何処からともなく飛来した鏃がスケルトン・ジェネラルの鎧に当たる。

 鏃はわずかに鎧をへこませただけで地面に落ちる。

 狐火は――胸の辺りでちょろちょろと燃えていたが、鎧の表面が黒ずんだだけだ。


「強すぎねーか?」

「あたし達が相手をしたのは量産型だったんでしょ」


 マコトの問いかけにユウカは眉根を寄せながら答えた。

 なるほど、と思ってしまった。

 確かに量産型は弱そうなイメージがある。


「勝てりゃいいんだが……」

「そうね」


 ユウカが頷いたその時、甲高い音が響いた。

 それも連続して。

 見ると、リブが攻撃を仕掛けていた。


「おらおらおらッ!」


 リブがポールハンマーを振り回す。

 その姿はまるで竜巻のようだ。

 だが、それほどの攻撃に曝されながらスケルトン・ジェネラルは平然としている。

 よろめくことさえない。


「おらぁぁぁッ!」


 リブがポールハンマーを振り下ろし、スケルトン・ジェネラルが剣で受ける。

 いや、受けて押し返す。

 リブがよろめき、スケルトン・ジェネラルが剣を振り上げる。


「昇天!」

「させません!」


 フジカの魔法がスケルトン・ジェネラルの動きを封じ、その隙にローラが割って入る。

 そのまま仕掛けても問題ないと判断したのか。

 スケルトン・ジェネラルが剣を振り下ろした。

 次の瞬間、黒い衝撃波によってスケルトン・ジェネラルは吹き飛ばされていた。

 ローラの衝撃反転(リフレクション)だ。

 単に割って入っただけだと思っていたのだが、技名叫ばなくても発動できるらしい。

 スケルトン・ジェネラルは足から着地する。

 やはり、ダメージを受けているようには見えない。

 すぐさま反撃に転じることだろう。

 そこに――。


「昇天!」

「狙撃狙撃狙撃ッス!」


 フジカがスケルトン・ジェネラルの動きを封じ、フェーネが連続して礫を放つ。

 金属のぶつかり合う音が響く。

 バラバラと礫が落下する。

 やはり、鎧をわずかにへこませただけだ。

 そのへこみもすぐに元に戻る。

 スケルトン・ジェネラルは足を踏み出し、動きを止めた。

 礫から伸びた光の帯が脚に絡み付いていた。


「今ッスよ!」

「よっしゃッ!」


 リブがポールハンマーを振り上げる。

 スケルトン・ジェネラルは剣で受けようとしたが――。


「昇天!」


 フジカの魔法によって動きを封じられた。


「地震撃・改ッ!」


 ポールハンマーがスケルトン・ジェネラルの肩に突き刺さる。

 甲高い音が響き、鎧に亀裂が走る。

 亀裂からは漆黒の炎が漏れている。

 漆黒の炎が消え、鎧が砕け散った。

 拳大の魔石が露わになる。

 その時、スケルトン・ジェネラルが歯を打ち鳴らした。

 口の中に光が灯る。

 精神攻撃――衝撃波はスケルトン・ロードが使っていたが――。


「避けろ!」

「ハァァァァァッ!」


 マコトが叫んだ直後、ローラが裂帛の気合を発した。

 スケルトン・ジェネラルが狙いを変える。


「――ッ!」

「衝撃反転ッ!」


 スケルトン・ジェネラルが衝撃波を放つが、ローラは盾で跳ね返した。

 だが、衝撃波は途切れない。

 じり、じりとローラは後退し、わずかに膝を屈めた。


「盾撃!」


 ローラが加速する。

 衝撃波を斬り裂きながら距離を詰め、剣を突き出した。

 肋骨の間を擦り抜け、切っ先が魔石に触れる。

 だが、見えない手に絡め取られたように動きを止める。


「剣気解放(オーラ・ブレード)ッ!」


 漆黒の光が刀身を覆い、切っ先が魔石に突き刺さる。


「このぉぉぉぉッ!」


 ローラが叫ぶと、漆黒の光が膨れ上がった。

 ピシッという音が響き、魔石が砕けた。

 眼窩に灯っていた光が消え、スケルトン・ジェネラルはその場に崩れ落ちた。

 ローラは深々と息を吐き――。


「は? レベル34?」


 天井を見上げ、そんなことを呟いた。

 どうやらレベルが上がったようだ。

 レベル24だったことを考えると上がりすぎのような気もするが――。

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。

 マコトは視線を巡らせた。

 フランク達――ベテラン勢は重傷を負い、駆け出しは恐怖に囚われている。

 予想通りの展開になりそうだ、とマコトは息を吐いた。

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