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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest31:葛葉を討伐せよ その9


※


「もう嫌だ!」


 負傷者の治療と死者の処理を終えると、一人の男が叫んだ。

 荷物持ちの冒険者だ。

 やることがなくなり、緊張の糸が切れたのだろう。

 無理もねぇか、とマコトは視線を巡らせた。

 フランクは重傷、シャンクは死亡、盾役の半数も死傷している。

 まともに動けるのはロインだけという有様だ。


「撤退だ! 撤退ッ!」

「お前はそれでも冒険者か!」


 男がさらに喚き、ロインが激昂したように叫んだ。

 流石に仲間が死んだ直後では受け流せないか。

 とはいえ、男の言い分にも理はある。

 ベテランが露払いをしてマコト達を葛葉の下に届けるという計画は破綻している。

 作戦を継続しても死者が増えるだけだ。

 今はこれからどうすべきかを考える段階だ。


「こんな仕事だと思ってたら引き受けなかった!」

「そうだ! そうだッ!」


 男の言葉に数人の冒険者が追従する。

 メアリとアンは気まずそうに顔を背けている。

 二人以外にも顔を背けている冒険者はいる。

 賛同していないが、意思を表明することができないといった所か。

 気持ちは分かる。

 マコトだってメアリとアンの立場ならそうする。

 感情的に喚き立てる人間は怖い。

 何を考えているか分からないし、何をされるか分からない。

 それに二人にはダンジョンを抜け出した後のことがある。

 先輩かどうかは分からないが、同業者に睨まれたくはないだろう。

 さて、どうするか。

 こういう時に社会人経験を活かせればいいのだが――。

 そもそも、どういう風に勧誘したのか分からないし、雇用条件も分からない。

 クレームを処理する時は詳細を知らなければならない。

 それを怠れば話が拗れる。

 そんなことを考えていると――。


「ったく、そんなに嫌なら帰ればいいじゃない」


 ユウカが鬱陶しそうに言った。

 直球すぎる一言に周囲は静まり返った。

 フランクは微苦笑を浮かべていたが――。


「お、俺達はお前達をサポートするために――」

「そんなこと、誰も頼んでないわよ」


 ユウカはぴしゃりと言った。


「好きで冒険者になって、好きでこの依頼を受けたんでしょうが」

「だから、こんな危ない仕事だとは――」

「街をあんなにしたアンデッドの住処よ? 危ないに決まってるじゃない」

「そ、それは……」


 男は口籠もった。


「それを今になって、もう嫌だとか、聞いてないとか、女々しいったらないわ」

「ふ、ふざけるな! 俺達はお前達のバックアップをしてやってるんだぞ!」


 男は顔を真っ赤にして怒鳴り、ユウカに詰め寄ろうとした。

 ユウカはすかさずマコトの陰に隠れた。


「……お前な」

「今こそ、社畜経験を活かす時よ」

「そう思うんだったらことを荒立てるなよ」


 マコトは溜息を吐いた。

 ここまでヒートアップさせておいて、と思わないでもない。


「な、何だ? やる気か?」

「そんなつもりはねーよ」


 男は安堵したような表情を浮かべ、口元を歪めた。

 小馬鹿にするような笑みだ。

 マコトが下手に出たと考えたのかも知れない。


「アンタが丁寧に頼むんなら荷物を運んでやってもいいんだぜ」

「そのつもりもねーよ」


 マコトはうんざりした気分で返した。

 頭を下げるべきか。

 答えは否だ。

 ユウカの言葉ではないが、男は納得して依頼を受けたのだ。

 それに、ここで要求を呑んだら舐められる。


「さっさと――」

「さっさと逃げ出したら? 止めないから」


 ユウカはマコトの言葉を遮り、嫌みったらしい口調で言った。

 しかも、マコトの陰に隠れて。


「こ、この……これでも、俺は顔が利くんだ」

「そうかい」

「後悔するぞ。訴えてやるからな」

「そりゃ、仕方がねーな」

「くそッ、覚えてろ!」


 男は吐き捨てるように言って歩き出した。

 通路まで行き、振り返った。


「死にたくねぇヤツは付いてこい!」


 男の呼びかけに荷物持ちの冒険者が顔を見合わせた。

 しばらくして男に追従した冒険者が歩き出した。

 人数は十人。

 意外に人望があったらしい。

 荷物を置いていけと言いたい所だが――。


「荷物を置いていきなさいよ! 泥棒ッ!」

「うるせぇッ!」


 ユウカが叫び、男は怒鳴り返した。

 そのまま仲間と共に通路の奥に消えた。


「ふん、根性なしが」

「……お前な」


 マコトは溜息を吐いた。

 もっとも、連中が出て行った件を責めるつもりはない。

 ああいう連中はいなくなってくれた方がありがたい。

 さらに言えば死んでも心が痛まない。

 そんな風に考えていると――。


「あ~あ、ユウカのせいで冒険者がいなくなっちゃったみたいな」

「ちょっと、あたしが悪いの?」

「ユウカ以外に考えられないし。どう責任を取るか聞きたいみたいな」


 フジカが嫌みったらしい口調で言った。

 スカートを捲られた仕返しのつもりだろうか。


「責任って何よ」

「責任は責任だし。誠意を見せて欲しいし」

「……ぐ」


 ユウカは呻いた。


「おかしいな」

「何がよ?」


 ユウカは拗ねたように唇を尖らせながらマコトに視線を向けた。

 目が潤んでいるように見えなくもない。

 多分、ゴミでも入ったのだろう。


「俺の――脳内ユウカが逆切れしてるのに、どうしてリアルがしおらしくしてるんだ?」

「肖像権!」

「頭の中は自由だろ?」

「自由じゃないわよ! 検閲! 検閲させなさい!」

「滅茶苦茶なことを言い出したし」

「独裁国家も真っ青だな」

「真っ赤の間違いでしょ」


 ユウカは小馬鹿にしたように言った。


「ああ、今もあたしがマコトの中で……おぞましいわ!」

「そこまで言うか」

「おぞましいわよ」

「分かった」


 マコトは目を閉じた。


「なんで、目を閉じてるのよ?」

「おいおい、ユウカ。そんなことを何処で覚えたんだ」

「す、ストップだし!」


 何故か、フジカの声が聞こえた。

 何事かと目を開けると、ユウカが杖を振り上げていた。


「危ねッ!」


 マコトが跳び退ると、杖が目の前を通り過ぎた。


「何をするんだよ?」

「マコトが破廉恥なことをしたのが悪いのよ!」


 ユウカは顔を真っ赤にして言った。

 ちょっと涙目だった。

 そんなに怒らなくてもと思うが、涙目になられると自分が悪いような気がしてくる。

 男は損だ、と思う。


「悪かったよ」

「もう二度としないで」

「しねーよ」

「もっと丁寧に!」

「もうしません」


 マコトが溜息を吐くと、誰かが腕を掴んだ。

 隣を見る。

 ローラが上目遣いでこちらを見ていた。


「何だよ?」

「マコト様、私の時と随分……」


 ローラは呻くように言った。


「随分?」

「……何でもありません」


 やはり呻くように言って、すごすごと退散した。

 この前は調子に乗りすぎたかも知れない。


「やっぱり、釣った魚に餌をやらないタイプなのね」

「やっぱりって何だよ?」

「……フジカ」


 ユウカはマコトを無視して、フジカの肩に手を置いた。


「不幸になりなさい」

「なんで、そんなことを言うのか分からないし」

「ああ、見える、見えるわ。序列最下位になって泣きべそを掻くアンタの姿が」

「うぐぐ、そんなことにはならないし」


 フジカはユウカの手を払い除けた。

 直後、轟音が響いた。

 振り返ると、地面が大きく陥没していた。

 フェーネが駆け出し、結界で穴を囲んだ。


「下に続く坂道ッス」

「見りゃ分かるって」


 リブが呆れたように言い、フェーネはムッとしたような表情を浮かべた。


「どうするんスか?」

「俺の答えは決まってるが、ちょっと待っててくれ」


 マコトはフランクの下に向かった。

 フランクは毛布の上に胡座を組んで座っていた。

 視線を合わせるために片膝を突く。


「行くのか?」

「ああ、ここまで力を温存できたのはフランク達のお陰だ。本当に感謝してる」

「すまんな」


 そう言って、フランクは苦笑した。

 マコトが気を遣っていると考えたのだろう。

 気遣いがないと言えば嘘になる。

 それでも、敬意を払いたかったのだ。


「本当に感謝してるんだ」

「ああ、分かっている」


 マコトが目を見て言うと、フランクは表情を和らげた。


「食料はどうする?」

「そうだな……」


 マコトは視線を巡らせた。

 すると、荷物持ちの冒険者は顔を背けた。

 死地に踏み込む覚悟はないらしい。

 まあ、先程の冒険者に同調しなかっただけマシか。


「あ、あたし達が行きます!」

「……メアリ」


 メアリが歩み出ると、アンが袖を引っ張った。


「何よ?」

「……私達の実力では足手纏いになるだけです」

「分かってるわよ、そんなこと」


 メアリはムッとしたように言った。


「……では、何故?」

「これはチャンスよ」

「……今のメアリは危険の中に危険を見出せなくなっています」

「危険なことくらい分かってるわ。けど、あたし達みたいなのがのし上がるためには命を懸けるしかないじゃない。アンだって、そのつもりで村を出たんでしょ?」

「……」


 アンは押し黙った。


「……分かりました」

「流石、アン! 愛してる!」

「……誤解されるので、そういうことは言わないで下さい」


 アンはムッとしたように言った。

 まあ、いつもこんな感じかも知れないが。


「他に付いてくる人はいないのッ?」


 メアリは荷物持ちの冒険者を見回した。

 だが、歩み出る者はいない。

 当然か。フランク達――ベテランが第三階層で死傷しているのだ。

 第四階層はさらに敵が強くなる。

 怖じ気づいても仕方がない。


「これで決まりだな」

「そうだな」


 フランクがぽつりと呟き、マコトは頷いた。


「フランク達はどうするんだ?」

「ここでお前達がダンジョンを攻略するのを待つ」


 フランクはそこで言葉を句切った。


「それしかできん」

「そうだな」


 マコトは頷いた。

 今の状況を考えるとダンジョンを脱出するのは賢い選択とは言えない。

 ここで葛葉が討伐されるのを待った方が生還する可能性が高いだろう。

 結界を越えられる敵によって壊滅する可能性もある訳だが――。

 もちろん、フランクもその可能性を考えているだろう。

 その上で待つと言ったのだ。

 信頼が重いが、投げ出す訳にはいかない。

 ああ、いや、やることはいつもと変わらない。

 全力を尽くすだけだ。

 マコトは立ち上がった。


「ユウカ、フェーネ、リブ、ローラ、フジカ、行くぞ。隊列はいつも通りだ」

「はいはい、分かってるわよ」

「いよいよ、おいら達の出番ッスね」

「よっしゃ! あたいもレベルを上げるぜ!」

「私もさらなるレベルアップを目指します!」

「最初の計画が頓挫しちゃったし」


 フェーネ、リブ、ローラはやる気満々のようだが、ユウカとフジカは今一つだ。

 ユウカは平常運転と言えなくもないので、今一つなのはフジカだけか。


「ちょっと、もっとやる気を出しなさいよ」

「これでも、やる気MAXだし」


 はぁ、とフジカは溜息を吐いた。


「やる気MAXどころかEMPTYじゃない」

「計画が頓挫したし」

「だったら、こう考えなさい」

「どう考えるみたいな?」

「それを今から言おうとしてたんでしょ。少しは黙ってなさいよ」

「……」

「返事くらいしなさいよ。スカートを捲るわよ」


 フジカが黙り込み、ユウカはムッとしたように言った。

 それにしてもスカートを捲るとは子どもっぽい。

 いや、二人とも女子高生なので――かなりキツいセクハラか。


「黙れと言ったり、返事をしろと言ったり、訳が分からないし」

「そこは臨機応変に対処するべきでしょ。ったく、出たての芸人じゃないんだから」

「出たての芸人?」

「やれやれ、これだからお嬢様は。どうせ――」

「あまりテレビは見ないけど、●ィスカバリーチャンネルや●ストリーチャンネル、●ニマルプラネットを見ている訳ではないみたいな」

「――ッ!」


 ユウカは息を呑んだ。


「ユウカが『どうせ』から有料放送、さらに逆ギレ芸に繋げようとしているのはまるっとお見通しみたいな」

「は? はぁ? そ、そんなこと考えてもないわよ」


 フジカの言葉にユウカは上擦った声で応じた。


「お前の思考を読まれてるぞ」

「読まれてないわよ」

「思考は読んでないけど、行動パターンは読めてきたかもみたいな」

「だから、読まれてないわよ」


 ユウカはムッとしたように言った。


「それで、出たての芸人って何みたいな?」

「チッ、あとで覚えておきなさいよ」

「……出たての芸人」


 フジカがぼそりと呟く。


「はいはい、トーク番組で出たての芸人ってのは自分が、自分がって前に出るでしょ?」

「でしょ? と言われても困るし」

「出るのよ、出たての芸人は」

「出たてだけに?」

「上手いことを言ったつもりはないわよ」

「いや、上手くないし」

「マジで覚えておきなさい」

「要するにユウカが言いたいのは出たての芸人は自分が、自分がって前に出るせいで流れを分断しちまう……空気が読めねぇってことだな」

「なんで、マコトがオチを言うのよ」

「いつまで経ってもオチに辿り着けなさそうだからだよ」

「くッ、覚えておきなさい」


 ユウカは吐き捨て、第四階層に続く坂道に向かって歩き出した。


「……そういえば」

「まだ、何かあるの?」


 フジカがぽつりと呟き、ユウカは振り返った。


「こう考えなさいの続きを聞いてないし」

「はいはいはい、計画が頓挫したお陰でアンタを守るために犠牲になる人がいなくなったって言おうとしたのよ」


 ん? とフジカは可愛らしく首を傾げた。


「安全地帯から昇天(ターン・アンデッド)を使うだけの簡単な仕事じゃなくなったってことよ。不安そうな素振りを見せたら自分のことばかりって言ってやるつもりだったのに残念で仕方がないわ」

「うぐ、ユウカは鬼だし」

「こんなに可愛い鬼がいてたまるもんですか」


 ふん、とユウカは鼻を鳴らした。

 自分で可愛いと言ってしまうあたりユウカだ。

 マコトは小さく溜息を吐き、メアリとアンの方を見た。


「まあ、こんな感じだが、二人ともよろしくな」

「は、はい!」

「……こちらこそ、よろしくお願いします」


 メアリは元気よく、アンはぼそぼそと言った。


※


 マコト達は隊列――先頭はリブとローラ、二列目はフェーネとフジカ、三列目はメアリとアン、四列目にユウカ、最後尾がマコト――を組んで坂を下る。


「長い坂ね」


 しばらくしてユウカがぼやくように言った。


「第三階層に下りた時より長いッスね」

「い、嫌な予感がするし」

「そんな分かり切ったことを言うんじゃないわよ」


 ユウカがうんざりしたように言う。


「へへ、腕が鳴るぜ」

「相変わらず、脳筋ッスね」

「当たり前だろ。あたいは強くなるために戦ってるんだぜ」

「さっきのに勝てるんスか」


 今度はフェーネがうんざりしたように言った。


「次も何とかなるんじゃねぇの?」

「恐るべき楽観論ッス」


 リブの言葉にフェーネは深々と溜息を吐いた。


「けど、ローラさんがいれば何とかなるような気がするし」

「確かに強くなったわね」

「いえ、まだまだです」


 と言いつつもローラは満更でもなさそうだ。


「流石、暗黒騎士ね」

「そう、ですね」


 ユウカが地雷を踏み、ローラはがっくりと肩を落とした。


「そう落ち込むなって」

「……ですが」


 リブが肩を叩いて元気づけるが、ローラはしょんぼりしている。

 まだ聖騎士に未練があるらしい。

 そろそろ諦めて前向きになって欲しい。


「色々とできるようになって超便利じゃん」

「まあ、そうなのですが……」


 は~、とローラは深い溜息を吐く。


「一人で三役こなせるようになったッスからね。危機感を覚えるッス」

「あたいは攻撃一辺倒だからな」


 は~、とフェーネとリブが溜息を吐く。

 二人とも思う所があるようだ。


「メアリ、アン、大丈夫か?」

「は、はい! 大丈夫です!」

「……歩いているだけですので」


 マコトが声を掛けると、メアリは上擦った声で、アンはぼそぼそと応えた。

 ユウカがスピードを落とし、マコトの隣に移動する。


「隊列を崩すなよ」

「なに、いい人をアピールしてるのよ」

「してねーよ。チームのリーダーとして新規メンバーに気を遣ってんだよ」

「否定しなくてもあたしには分かってるわよ。いい人って思われたいのよね?」

「違ーよ」

「ムキになって否定しなくていいのよ。分かってるから」

「むしろ、お前がムキになってるだろ」

「あたしはムキになってないわよ」


 ユウカはムッとしたように言った。


「二人とも新入りが呆れてるッスよ」

「そうか……」


 マコト、とユウカが手の甲で二の腕を叩く。


「何だよ?」

「セルフマネージメントのやり過ぎは逆効果よ。クール系キャラを目指したいのは分かるんだけど……」

「何を言ってるんだ、お前は?」

「姐さんは兄貴を取られるのが嫌なんスよ」

「違うわよ!」


 フェーネがぼそぼそと呟くと、ユウカは顔を真っ赤にして言った。

 メアリとアンが顔を見合わせた。

 メアリは楽しそうだが、アンは――微妙な感じだ。


「フェーネ! 何を言ってるのよ!」

「弟がいるから分かるんス。姐さんのは『お姉ちゃんをとらないで』的反応ッス」

「違うからッ!」

「おいらには分かるッス」


 むふ、とフェーネは鼻から息を吐いた。

 うぐぐ、とユウカは呻き、元の位置に戻った。

 マコト達は無言で坂を下る。

 しばらくして――。


「第四階層が見えてきました」

「いよいよだな」


 ローラが呟き、リブが嬉しそうに言った。

 前を見ると、坂道の終わり――第四階層の入口が見えた。

 フェーネがぴくぴくと耳を動かし、マコトは首筋に触れた。

 痛みは感じない。

 近くに敵はいないようだが――。


「フェーネ、どうだ?」

「敵はいないみたいッスね。兄貴はどうッスか?」

「こっちも感じねぇ。けど、油断せずに進もうぜ」


 マコト達は第四階層の入口で立ち止まった。

 リブとローラが壁の陰から様子を窺う。


「こっちはいねぇ」

「こちらもいません」

「よかったし」


 リブとローラの言葉にフジカが胸を撫で下ろした。

 第四階層に足を踏み入れる。

 道が二手に分かれている。


「どっちに進む?」

「……右だな」


 マコトは少し考え込んでからリブに答えた。

 深く考えてのことではない。

 ここで考え込むよりどちらかに進んだ方がいいと思ったのだ。

 行き止まりでも引き返せば済む。


「おっしゃ、右だな」


 マコト達は隊列を組んだまま右に進む。

 視線を巡らせる。

 通路の幅や天井の高さは第三階層と変わらないようだ。

 問題は敵の強さだ。

 流石にスケルトン・ジェネラルがわらわら出てきたら仲間を守り切れる自信はない。

 そんなことを考えていると、ユウカがまた歩調を落とした。


「何かあるのか?」

「スケルトン・ジェネラルが押し寄せてきたら氷爆(アイシクル・バースト)をぶっ放すから。盾役よろしく」


 ユウカがぼそぼそと呟く。

 どうやら、マコトと同じことを考えていたらしい。


「分かった」

「やけに素直ね」

「そりゃ、実のある提案だからな」

「何よ、それ。いつもあたしが実のない提案をしてるみたいじゃない」

「実がないどころか、提案ですらねーよ」

「失れ――ッ!」


 ユウカは息を呑んだ。

 何事かと前を見ると、フェーネがこちらを見ていた。

 ニヤリと笑う。ユウカはすごすごと元の位置に戻った。

 流石に『お姉ちゃんをとらないで』的反応と言われるのは堪えるらしい。

 いずれ、耐性を身に付けるはずなので、それまでに別の方法を考えなければなるまい。

 そんなことを考えていると、首筋がチクッと痛んだ。


「敵だ!」

「何体ですか?」

「前方から二体! 鎧着用ッス!」


 リブとローラが身構え、フェーネがスリング・ショットを取り出す。


「あ、あたし達は?」

「……役に立てないので壁際に寄っていましょう」

「そ、そうね」


 メアリとアンが壁際に退避する。

 その時、前方で何かが光った。

 目を凝らすと、二体のスケルトン・ナイトが見えた。

 スケルトンの上位種だけあってかなり速い。


「あたいが行くぜッ!」


 リブが飛び出し、ポールハンマーを振り上げる。


「地震撃・改ッ!」


 ポールハンマーが地面を打つ。

 亀裂がスケルトン・ナイトの足下に伸び、漆黒の炎が噴き出した。

 スケルトン・ナイトの動きが止まり、板金鎧が黒ずむ。

 崩壊には至らないが――。


「剣気解放(オーラ・ブレード)!」


 ローラが飛び出し、剣を一閃させた。

 首が落ち、スケルトン・ナイトがその場に頽れた。

 だが、一体残っている。

 地震檄・改の効果がなくなり、スケルトン・ナイトがローラに迫る。

 ローラは剣を振り切った体勢で動きを止めている。


「昇天(ターン・アンデッド)みたいな!」


 フジカが魔法を使う。

 昇天の効果によってスケルトン・ナイトが動きを止めた。

 そこに――。


「おらぁぁぁぁッ!」


 リブが裂帛の気合と共に漆黒の炎に包まれたポールハンマーを振り下ろす。

 甲高い音が響く。

 スケルトン・ナイトが剣でポールハンマーを受け止めたのだ。

 ただし、一瞬だけだ。

 ポールハンマーは剣をへし折り、スケルトン・ナイトを押し潰した。

 板金鎧が塵と化す。

 ふぅぅぅ、とリブは溜息を吐き、骨の中から魔石を拾い上げた。


「フェーネ、受け取れ」

「投げないで欲しいッス!」


 リブが魔石を投げ、フェーネがキャッチする。

 ぶつくさ言いながらポーチに魔石を収める。

 多分、これだから脳筋はみたいなことを言っているのだろう。

 ともあれ、これで第四階層でも戦えることが分かった。


「よし、先に進むぞ」


 マコト達は隊列を組み直し、ダンジョンの探索を再開した。

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