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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest31:葛葉を討伐せよ その10


※


 スケルトン・ナイトが剣を振り下ろす。

 マコトは意識を内に向けながら刃を睨む。

 集中しているせいだろうか。

 時間の流れが緩やかに感じられる。

 さらに刃が迫り――。


「ちょ――ッ!」


 ユウカが声を上げ、マコトは刃を躱した。

 前髪が何本か持って行かれる。


「ああ、これは駄目だ」


 マコトは溜息を吐きながら拳を繰り出した。

 無造作に繰り出した拳がスケルトン・ナイトの横っ面を捉える。

 頭蓋骨が首の骨を軸に一回転し、地面に落ちて耳障りな音を立てた。

 剣と鎧が塵と化し、あとに残ったのは骨と魔石だけだ。


「な、な、な……」


 声のした方を見ると、ユウカがこちらを見ていた。

 顔色がよくない。

 何かあったのだろうか。


「な、なな、何をやってるのよ!?」

「いや、修業を――」

「ぎりぎりまで刃を引き付けるとか馬鹿じゃないの!」


 ユウカはマコトの言葉を遮って言った。

 さっきまで青白かったのに真っ赤になっている。


「修業をしてたんだよ」

「は? 何の修業よ! 忍耐力は社畜生活で鍛えられてるでしょ!?」

「忍耐力じゃなくて気の存在に気付こうとしてたんだ」


 フランクは座禅を組むか、実戦を通すかすれば気の存在に気付けると言った。

 座禅はメランコリックな気分になるので駄目だった。

 そこで実戦を通して気の存在に気付こうと思ったのだ。


「危機的状況下で気付けると思ったんだけどな」

「マコト、骸王の迷宮で何度死にそうな目に遭ったか覚えてる?」


 ユウカは呻くような声で言った。


「覚えてねーよ」

「十回は死にかけてるわよ、十回は!」


 ユウカは声を荒らげた。


「いや、もっと死にかけてるだろ」

「そんなに死にそうな目に遭ったのに気付けなかったんだから、あんなことしたって無駄に決まってるでしょ!」

「レベルも上がったし、何か、こう、目覚めるかも知れねぇだろ」

「無理! 絶対に無理!」


 即答だった。


「そもそも座禅が辛いから実戦って妥協している段階で修業になってないわ」

「うん、まあ、言われてみればそんな気がするな」


 葛葉と再戦する前に手札を増やして起きたかったのだが、現実はそう甘くないようだ。


「ってことは……」

「ちょっと」


 フェーネ達に視線を向けようとした所、ユウカに肩を叩かれた。


「何だよ?」


 ふふん、とユウカは鼻を鳴らした。


「ほら、言っちゃいなさいよ」

「……頼りにしてるよ」

「ま! そこまで言われたら手伝わない訳にいかないわね!」


 マコトが溜息交じりに言うと、ユウカは嬉しそうに言った。

 死ぬかも知れない戦いに身を投じるのにこんな簡単に決めていいのだろうか。

 いや、その一言に命を懸ける理由があるのだろう。

 面倒臭いが、頼りになる相棒だ。

 マコトはフェーネ達に視線を向けた。

 カチャカチャという音を鳴らしながら三体のスケルトン・ナイトが迫っていた。

 リブがポールハンマーを手に飛び出す。


「地震撃・改!」


 ポールハンマーを地面に叩き付ける。

 亀裂が走り、スケルトン・ナイトの足下に伸びる。

 スケルトン・ナイトは無警戒に距離を詰め、硬直した。

 さらに追い打ちを掛けるように漆黒の炎が噴き出す。

 スケルトン・ナイトの鎧が黒ずむ。


「剣気解放(オーラ・ブレード)!」


 地震撃・改の効果が切れるタイミングでローラが飛び込んで剣を一閃させる。

 すでにダメージを負っていたスケルトン・ナイトの首が落ちる。

 だが、敵はまだ二体残っている。

 二体のスケルトン・ナイトがローラに迫る。

 そこへ――。


「昇天(ターン・アンデッド)みたいな!」


 フジカの魔法が炸裂する。

 昇天の光によって二体のスケルトン・ナイトが動きを止める。


「おらぁぁぁッ!」


 その隙を突き、リブが漆黒の炎に包まれたポールハンマーを振り下ろした。

 まともに攻撃を受け、スケルトン・ナイトは押し潰された。

 残りは一体だ。


「ハァァァァッ!」


 ローラが吠える。すると、スケルトン・ナイトはローラに向かって駆け出した。

 地面を蹴り、剣を振り下ろす。

 ローラは盾を使い、剣を受け流す。

 スケルトン・ナイトの上体が泳ぐ。

 もちろん、この隙を見逃すローラではない。

 無防備な首筋に剣を振り下ろす。

 鈍い音が響く。

 ローラの剣はスケルトン・ナイトの首に食い込んだものの両断には至らなかった。

 見れば刃を覆う剣気(オーラ)が弱まっていた。


「剣気(オーラ)ブ――きゃッ!」


 ローラは可愛らしい悲鳴を上げた。

 スケルトン・ナイトが体当たりを仕掛けたのだ。

 だが、流石は暗こ――騎士というべきか盾で攻撃を防いでいる。

 スケルトン・ナイトがローラに向かって足を踏み出し――。


「狙撃&狐火ッス!」


 フェーネが放った鏃が首の骨に突き刺さり、激しく燃え上がる。

 スケルトン・ナイトは構わずに足を踏み出した。

 次の瞬間、頭蓋骨が落ちて派手な音を立てた。


「これで敵はやっつけたわね。二人とも大丈夫?」

「は、はい、お陰様です」

「……無傷です」


 ユウカが声を掛けると、メアリとアンはホッとした様子で応じた。

 そんなユウカ達をフジカが肩越しに見ていた。


「何もしてないのに仕事をやり終えた感を醸し出してるし」

「喧嘩売ってるの? アンタ達の背後を守ってたでしょうが」

「実際に戦ってたのはマコトさんだし」


 フジカは錫杖を抱き締め、ユウカに向き直った。

 錫杖を抱き締めているのはスカート捲りを警戒してだろうか。


「つか、ユウカのせいでこんなことになってるんだから少しは反省すべきみたいな」

「……はッ」


 ユウカは黙り込み、鼻で笑った。


「そ、そ、その態度は何みたいな?」

「あたしのせいでこんなことになった? 違うわよ。あいつらは勝手に出て行ったの。どうせ、文句ばかりで何の役にも立たない連中よ。いえ、役に立たないどころか害悪ね。もし、あたしのせいで出て行ったって言うんなら、むしろ誉めて欲しいわ。あたしが、有害な連中を追い出してあげたんだから」


 ふふん、とユウカは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「うぉぉぉ、ユウカがもう耐性を身に付けたし」

「ふん、いつまでもあたしをやり込められると思ったら大間違いよ」

「うぐぐ、また冬の時代が始まるみたいな」

「いつ春があったのよ」

「――ッ!」


 フジカがハッとこちらを見る。


「むふ、さっきマコトさんと話してたのは――」

「葛葉と戦う時は付け焼き刃の修行じゃなくて、あたしを頼りなさいって話してたのよ」

「むふふ、ラブみたいな」

「これだから恋愛脳は。あたしはマコトの相棒って話よ」

「うぐぐ、『お姉ちゃんをとらないで』的な反応――」

「相棒だもの。話くらいするわ」

「ぐッ!」


 ユウカが柳に風とばかりに受け流すと、フジカは呻いた。

 わずかな時間で耐性を身に付けたようだ。


「先に進むッスよ」

「ほら、隊列を組みなさい」


 フェーネが溜息交じりに言うと、ユウカがマコトとフジカに視線を向けた。

 やれやれ、とマコトは溜息を吐いた。


※


 マコト達は行ったり来たりを繰り返し、広い空間に出た。

 と言っても坂道が隠されていた空間に比べるとかなり手狭だ。

 空間の中央でフェーネが口を開いた。


「兄貴、ここで休憩にしないッスか?」

「……よし、ここで休憩にしよう」


 マコトは少し間を置いて答えた。

 第三階層から戦いづめだったのだ。

 敵も強くなったし、この辺りで休憩を取るべきだろう。


「おいらは結界を張るッス。皆はそれまで警戒してて欲しいッス」


 フェーネが駆け出し、マコト達――マコト、リブ、ローラはユウカ、フジカ、メアリ、アンの四人を庇うように円陣を組んだ。

 しばらくして――。


「結界を張り終えたッス!」

「……ふぅ」


 フェーネの声が響き、マコトは息を吐いた。


「あたし達が食事の準備をするので皆さんは休んでいて下さい」

「……料理は得意です」


 そう言って、メアリとアンはリュックを下ろした。

 今更ながら大きなリュックだ。

 元の世界でこれほど大きなリュックを持っているのは登山が趣味の人間くらいだろう。

 食糧の他、調理器具も入っているので仕方がない。


「毛布を敷いたッスよ」


 いつの間にか隅に移動していたフェーネが叫んだ。

 言葉通り、人数分の毛布を敷いている。

 マコト達は無言で移動し、毛布の上に座った。

 水筒の水を飲み、息を吐く。


「プハーッ!」


 ユウカは息を吐き、手の甲で口元を拭った。


「……ユウカ」

「水くらい好きに飲ませて欲しいもんだわ」


 フジカが責めるような視線を向け、ユウカはうんざりしたように言った。


「そういえばさっきの戦いなんだけどよ」

「何だ?」


 マコトが切り出すと、リブがこちらを見た。


「今後はあの戦い方で行くのか?」

「あたいが足止めする、あれか。割と上手く連携できたよな」

「少し戸惑いました」

「合わせてくれてありがとな」


 ローラが溜息交じりに言うと、リブは歯を剥き出して笑った。


「マコトから見て、どうよ?」

「上手くいってるんじゃねーか」


 リブが技――スキルで足止めし、ローラが攻撃する。


「やっぱ、そうか」

「不満でもあるのか?」

「自分が前線を支えられないのを認めるのはな~」


 リブは太股を支えに頬杖を突き、大きな溜息を吐いた。


「十分、支えられてると思うみたいな」

「そういうことを言っちゃうのがアンタの浅はかさよね」

「自分には分かってるって言いたげな口調だし」

「あたしには分かってるのよ」


 拗ねたように唇を尖らせるフジカをユウカは鼻で笑った。


「前回、前々回の戦いでリブは真っ先に動いてたけど、軸はローラだったでしょ?」

「……そう言われてみればそうかも」


 フジカは天井を見上げ、小さく頷いた。


「よく見てるな」

「ふふん、伊達にマコトの相棒をやってないわ」


 リブが感心したように言うと、ユウカは得意げに鼻を鳴らした。


「う~ん、ユウカはどう思う?」

「そうね。現状ではリブがサブで、ローラがメインの方がいいと思うわ」

「そっか」


 ユウカの言葉にリブは盛大に息を吐いた。


「ってことはローラに負担が掛かるが、大丈夫か?」

「はい、そこはご安心下さい」


 マコトが尋ねると、ローラは誇らしげに胸を張った。


「本当に?」

「何がでしょう?」

「ほら、剣気解放のことよ。スケルトン・ナイトの首を斬り損ねてたでしょ?」

「あ、あれは……」


 ユウカが指摘すると、ローラは口籠もった。


「持続時間が短いのか、消耗が激しいのか分からないけど、一人で何役もこなすのは無理があるんじゃない?」

「ユウカはよく見てるし」

「そりゃ、よく見てるわよ」

「ウィークポイントを探られているかと思うと不安だし」

「またあたしを置き去りにしたら死ぬからね。もちろん、死ぬのはアンタだけど」

「もうしないし」

「だといいけど」


 ユウカは疑いの眼でフジカを見た。

 やはり、二人の間に友情が成立することはなさそうだ。

 それは仕方がないにしてもチームで行動している時くらいは協力して欲しいものだ。


「地震撃・改から剣気解放って流れに拘らないで、盾撃(シールド・バッシュ)に繋げてもいいんじゃない?」

「盾撃にですか?」


 ローラは意外そうな顔でユウカを見つめた。


「そうよ。敵と距離があればフェーネも援護しやすいでしょ。何なら地震撃・改を使ってもいい訳だし」

「ユウカがまるで頭脳派みたいだし」

「あたしは頭脳派よ」


 ユウカはムッとしたように言った。


「しょ、書生ゴロ」

「アンタはいつの時代の人間よ」

「い、インテリヤクザ」

「アンタとは決着を付けなきゃいけないと思ってたのよ。こんなに早く脳みそをぶち撒ける準備をしてくれるとは思わなかったけど」

「殺し合いは止めてくれ」

「こいつが――」


 マコトが制止すると、ユウカはキッとこちらを睨んだ。

 だが、すぐに表情を和らげる。


「まあ、いいわ」

「ようやく寛容の精神を取り戻したみたいな」

「葛葉をぶちのめすまでその命を預けておくわ」

「うぐ、執行猶予期間だったし」

「あとはフジカと戦う時の戦術も練っておきたいわね」

「葛葉の間違いだし」

「そうだったわね。うっかりしてたわ」

「わざとだし」

「うっかりしてたのよ」

「絶対にわざとだし」

「分かってるんなら聞くんじゃないわよ」

「うぐぐッ!」


 ユウカがうんざりしたように言い、フジカは呻いた。


「戦術と言ってもフジカを庇いながら戦うしかないんじゃねーか?」

「そうなんだけどね」


 マコトの言葉にユウカは小さく溜息を吐いた。


「折角だから、もう一捻りするべきじゃない?」

「……建設的な意見だな」


 いつもと違って、という言葉をすんでの所で呑み込む。


「明日は雨かもみたいな」

「血の雨なら今すぐに降らせてあげるわよ」

「それはノーサンキューだし」

「だったら黙ってなさい」

「……はい」


 フジカはしょんぼりとした様子で頷いた。


「一捻りって何だよ?」

「リブとローラに援護してもらうのよ」

「ちょっと待った」


 異を唱えたのはリブだ。


「あたいも、ローラも援護なんてできねーぞ」

「アンタね」


 ユウカは溜息を吐き、こめかみを押さえた。


「マジックアイテムで電撃を放てたでしょ」

「三回だけだぜ」

「それだけ撃てれば十分よ。葛葉には何発撃てるか分からないんだから」

「あ~、警戒させるってことか」


 リブは合点がいったとばかりに頷いた。


「私はどうすれば?」

「攻撃を跳ね返してくれればいいわ」

「攻撃を? ああ、そういうことですか」


 ローラはすぐにユウカが言わんとしていることを理解したようだ。


「どういうことみたいな?」

「少しは自分で考えなさいよ」


 まあ、いいわ、とユウカは溜息交じりに呟く。


「ローラにあたしか、マコトの攻撃を跳ね返させるのよ」

「なかなか難しそうだし」

「一回当てられたら御の字って感じね」

「たった一回?」

「それでも、当てられたら警戒するでしょ」

「……そうかもみたいな」


 フジカは少しだけ間を置いて答えた。


「要はプレッシャーを掛けて葛葉の集中力を削ぐってことだな」

「その通りよ」


 マコトの言葉にユウカは満足そうに頷いた。


「だから、フェーネも葛葉と戦う時は赤字覚悟で援護して、赤字覚悟で」

「念を押さなくてもそのつもりッス。何せ、弟の命が懸かってるんスから。でも、それで何とかなるんスかね?」

「アンデッドだろうが、七悪だろうが、元々は人間なんだから何とかなるだろ」


 フェーネが不安そうに言い、マコトは正直な感想を口にした。

 確かに葛葉は強かったが、次元が違う強さではなかったように思う。

 負けてしまったので説得力に欠けるかも知れないが――。


「……やるしかないッスね」


 フェーネは力強く頷いた。


※


 食事を終えてうとうとしていると、音が聞こえた。

 シュ、シュと何かを擦っているような音だ。

 すぐに止むと思ったが、一向に止まない

 仕方がなく目を開けると、フェーネが砥石で短剣を研いでいた。

 寝床から離れた所で短剣を研ぐ姿はかなり怖い。


「兄貴、起こしちゃったッスか?」

「ああ、フェーネこそ何をやってるんだ?」

「短剣を研いでるッス」

「まあ、見れば分かるけどよ」


 マコトは欠伸を噛み殺しながら体を起こした。


「なんで、短剣を研いでるんだ?」

「落ち着かなかったんス」

「そういうこともあるか」


 中学、高校時代だが、テスト勉強をしようとして掃除を始めてしまったことがあった。

 今にして思えばストレスから逃れようとしていたのかも知れない。

 走っていた猫がいきなり毛繕いを始めるようなものだ。

 そう考えると、フェーネの行動も突飛とは言い切れまい。

 フェーネは淡々と短剣を研いでいる。

 一定のリズムで同じ動作を繰り返す。

 見ている内に眠気を覚えた。

 単調な刺激が眠気を誘うのかも知れない。


「……兄貴」

「何だ?」

「予感とかしないッスか?」

「そういうのはねーな」


 同じ七悪なのだから居場所を察知できても不思議ではないが、残念ながら葛葉が何処にいるとか、何をしているのかとか全く察知できない。


「そうッスか」

「悪ぃな」

「謝られたらこっちが困るッス」


 フェーネは困ったように眉根を寄せた。

 彼女の不安を和らげられたらと思うのだが、そういう言葉は思い浮かばない。

 その代わり――。


「……レドが羨ましいな」


 マコトがぽつりと呟くと、フェーネは短剣を研ぐ手を止めた。


「何が羨ましいんスか?」

「フェーネみたいな姉ちゃんがいて羨ましいって意味だよ」

「そう、ッスか?」


 フェーネは困ったような表情を浮かべた。


「おいらは何の役にも立ててないッスよ。借金の返済も、冒険者の仕事も、今回だって、兄貴や皆に頼りっぱなしッス」

「結果がどうでもいいってことはねぇけど、弟のために努力したってのも大事だろ」

「そんなもんスかね」

「そんなもんだよ。俺の兄貴は逃げ出したからな」

「――ッ!」


 マコトが苦笑しながら言うと、フェーネは息を呑んだ。

 否定的な意見を聞きたくないから話していなかったのに口が滑ってしまった。


「そういえば兄貴の話って聞いたことがなかったッスね」

「そうか?」

「そうッス」


 フェーネは神妙な面持ちでこちらを見ている。

 誤魔化すのは無理そうだ。


「面白くもねぇ話だよ。親が借金を作って、兄貴は逃げ出して……」

「ひどい兄貴もいたもんスね」


 フェーネは顔を顰めた。


「ところで、借金はどうしたんスか?」

「俺と両親で返したよ。十年掛かったな」

「十年?」


 フェーネは訝しげな表情を浮かべた。


「ああ、兄貴は若返ったって言ってたッスね」

「信じてなかったのかよ」

「話半分ッス」

「ひでぇな」


 マコトは苦笑した。


「ってことはご両親は健在なんスね?」

「二度と会うつもりはねぇけどな」

「どうしてッスか?」

「兄貴が戻って来てよ。俺の両親は――」

「もちろん、兄貴を追い出したんスよね?」

「残念、兄貴の子どもにデレデレだよ」

「なんスか、それ」


 フェーネはムッとしたように言った。


「そんなこんなで家を出て、今は異世界って感じだな」

「兄貴は、可哀想な人なんスね」

「そうだな」


 マコトが頷くと、フェーネは驚いたような表情を浮かべた。


「どうかしたのか?」

「同情するなって怒られるかと思ったんス」

「否定的なことを言われるよりずっといいよ」

「そうッスか」


 フェーネはホッと息を吐いた。


「もしかして、おいらや姐さんに協力してくれるのってそれが原因スか?」

「そういう気持ちもなくはねーな」

「どっちッスか?」


 フェーネは可愛らしく首を傾げた。


「仲間じゃなかったら協力はしなかった」

「仲間だからッスか」

「流石に無償奉仕はできねーよ」

「確かにそうッスね」


 でも、とフェーネは続ける。

 何故かマコトから顔を背ける。

 首筋が赤いのは気のせいではないだろう。


「お、おいらは……やっぱり、おいらのためとか――」

「砂」

「姐さん!」


 ユウカがぼそりと呟き、フェーネは目を見開いた。

 むくりとユウカが体を起こす。


「……姐さん」

「悪かったわよ。邪魔して」


 フェーネが責めるような目で見ると、ユウカは素直に謝った。


「どうしたんだ?」

「マコトに渡しておくものがあったのよ」


 ユウカはポーチから小さな箱を取り出し、マコトに向けて放った。


「おっと!」

「ナイスキャッチ」


 マコトが箱をキャッチすると、ユウカは再び横になった。


「じゃ、あたしは寝るから」

「せめて、説明しろよ」

「説明書は中に入ってるわ」


 マコトが箱を開けると、中には丁寧に折り畳まれた紙と指輪が入っていた。

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