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ちょっと寄り道

12 ちょっと寄り道

「それにしても・・・強かったな・・・、あの魔物・・・。

 最高経験値の俺たち同様・・・いや、俺たちよりも恐らく強さは上だっただろう。

 ツバサの奥義がさく裂したから倒せたようなもので、そうでなけりゃあ全滅していたかもしれなかったぞ・・・。


 そういえば・・・強さを確認できていなかったな・・・ちょっとクエスト票を見てみるか。」

 遥か上まで続く階段をのぼりながら、先ほどの戦いを振り返る・・・当然、皆にはヘッドカメラのスイッチもマイクのスイッチも切らせてある。


 袋の中をまさぐってクエスト票を取り出すが、やはりクエストレベルがAUという記載のままで変わっていない。


「ううむ・・・まったく謎の魔物だったという訳だな・・・このプラチナクエスト票は、ダンジョンに近づけばそのダンジョンの魔物の強さなどの詳細が表示されるようになっていたわけだが、その表示がないという事は、中央が強さレベルを隠しそうとしていたのか・・・?


 いや・・・別に強さレベルが俺たちに伝わったところで、俺たちがダンジョン攻略をあきらめる筈はないと知っているはずだし、隠す必要性はないはずだ。


 そうなると・・・中央でもあの魔物の強さレベルを把握できていなかったのか・・・、管轄外の魔物という公算が強いな・・・、一体どうしたというのだ?」

 なんだか本当に訳がわからなくなってきた・・・、魔物が独立して暴れだしたとでもいうのだろうか?


「そうですね・・・しかも司令塔である中央を小ばかにしているような言い方をしていましたね。


 やはり魔物の中に中央からの指令が行き届かない部分があるのでしょうかね・・・、そいつらがパラボラアンテナ施設を占拠して工事の進行を邪魔している・・・、仕方がないのでクエストにして僕たちに対処させようとしているといった構造ですね・・・リーダーの予見通りのようです。


 言ってしまえば、僕たちが魔物たちを退治できれば良し、できなくて僕たちが全滅してしまっても尚よしといったところでしょうかね?


 もしかすると先日リーダーと僕が事情に気づいているような口ぶりで、わざと大きな声で中継車の中で話していたから、もう周知の事実として隠し立てをやめたのかもしれませんね。」

 後方の源五郎が、随分と興奮した様子でまくし立てる。


「そうだな・・・若しくは意図とは違って・・・、本来は出てこないはずの魔物が、言うことを聞かずに勝手に出てきてしまったか・・・という事になるな・・・。」

 あまり考えたくはないのだが、そうなると今後の展開も十分に注意しなければならなくなるな・・・。


「町長に化けていた農夫のひとが言っていましたが、あたしを除いたシメンズメンバーであれば、魔王が復活する寸前までは冒険をさせておくつもりだったようです。

 冒険者が冒険を続けてさえいれば、この世界は安泰と考えているようでした。


 それなので・・・、あそこにあんなに強い魔物を本気で投入してくる意思はなかったと考えます。

 恐らく中央の言うことを聞かずに、勝手に出てきたとする推測が正しいのではないでしょうか・・・。」

 ツバサが速足で階段を上ってきて説明する・・・ううむ・・・やはりか・・・。


「だとすると・・・これからの戦いは、かなり厳しいものになるぞ・・・、最高レベルでやってきてます・・・なんて言っていられないほどにな・・・。


 魔物は魔物だから冒険の世界の存続などとは考えやしないだろう・・・、というより、魔物が冒険者を滅ぼそうと考えることは、ゲームの性格から言っても正常なことだから、それも認められる可能性だってある。

 中央の奴らが姑息な手を使って俺たちの冒険の邪魔をするのとは、全く異なる正当な行為と言えるわけだからな。


 なにか、対抗手段を練らなければならんな・・・。」

 ううむ・・・どうしよう・・・。


「魔戒四天王と言っていましたからね・・・そうするとあと3体はあのくらい強いやつがいるという事ですよね。

 いえ・・・あいつが先鋒隊で、もっともっと強いやつが出てくるという事も・・・。」

 源五郎が右手で顎を触りながら考え込む・・・。


「おいおい・・・それはいくらなんでも考えすぎのような・・・。」

 なんだか背筋が寒くなってきた。


「まあでも・・・ツバサさんも戻ってきたことだし・・・4人いれば何とかなりますよ・・・。」

 源五郎が鼻息荒く大声をあげ、笑顔を見せる。


「・・・・・・・・・・・・・」

 ところがツバサはその言葉を聞いて少しうつむき気味に目を伏せてしまった・・・、ううむ・・・やはり不安要素があるのだろうか・・・。



「うひゃあ、まぶしいなあ・・・。」

 延々と階段を上って出た先は、落とし穴で落とされたパラボラアンテナ施設建物の、すぐ横の草むらの中だった。


「あっ中継車が来ている!」

 レイがワゴン車を見つけ駆け寄っていく。

 スタッフたちが落とし穴脇で待っていてくれたようだ。


「やあ、申し訳ない・・・ヘッドカメラからの電波は早々と途切れてしまっていたようだね、ツバサに聞いたよ。

 中継ボックスを取り付ける前に落とし穴に落とされてしまったものだから・・・、でも・・・壊すといけないと思って、戦いのときはリュックは置いて戦っていたからね。」


 あまりにも邪魔なので使えない中継ボックスは置き去りでいいやと思って放置したのだったが、意外と何度も落とし穴に落ちて、しまいに落とし穴経由で最終ダンジョンに向かったものだから、無事に回収できてしまった。

 まさに怪我の功名なのだが、まあこれは言わないでおこう。


「ああ・・・そのようですね・・・、まあ仕方がないですよ・・・それよりも・・・。」


 テレビスタッフは俺の手から中継ボックスの入ったリュックを奪うようにして取り上げると、すぐに中継車の中にもっていき、なぜかリュックに直接ケーブルを突き刺した。

 うん?何をやっているのだ?充電とかすると、リュックがしゃべりだしたりするとでもいうのか?


「おおっ・・やったあー・・・」

 なぜか歓声が上がる。


「ラッキーですよ・・・、実はこのリュックの底にはビデオ装置が仕込まれているのですが・・・、中継車からの電波が受信できなくなると、自動的に録画が開始されるのです。

 うまいこと落とし穴に落とされてからの映像が残っているようですよ・・・。」


 中継車の再生モニターを俺にも見せてくれながら、テレビスタッフが歓喜の声をあげる。

 おおそうか・・・、そんな素晴らしい仕組みが・・・。


「では・・次の町に着くまでに、映像の検閲をお願いいたします。」

 テレビスタッフにモニター前の席を勧められ、いやでも検閲に入らなければいけなくなってしまった。


 まあ仕方がないな・・・あれからどれだけ時間が経過しているのか地下だったからわからないが、かなり大きなダンジョンだったし、脱出のための時間も含めると2日か3日は経過しているはずだ。


 特上松弁当の効果か、不思議と眠気も起らずレイの奴も眠らないで済んだのでよかったが、電波が届いていなかったのだから、放送する映像が尽きてしまったのだろう。


 その間は脱出のための作業か、若しくは延々と戦い続けていたわけだし、1フロアだけの映像でも2、3日は繋げるんじゃあないかな・・・。

 落とし穴でいろいろとつぶやいていたことは、今後の展開上まずいこともあり得るので、全て割愛してしまおう。


「あの・・・次の町は・・このままだとアレヘスでしょうが・・・、ちょっと戻ることになりますが、あたしの故郷へ寄っていただけませんか?」

 するとツバサが寄ってきて、少し戻ると言い出した。


「ああそうか・・・、ツバサの故郷はこの北部大陸にあるんだったね・・・、だったら寄ってみるのも手だね。」

 そりゃあツバサの故郷であれば、そこを素通りするという事もできないだろう・・・だが、向こうからこっちは見えないはずじゃあ・・。


「そこには何か大きなダンジョンがあるのかい?」


「いえ・・・今までにアンズ村がクエスト対象に選ばれたことはありませんし、恐らく今回もそうでしょう。


 宿も食堂もない小さな村ですから・・・、でも・・あたしの家があって両親もそこに暮らしています。

 あたしはそこで皆さんとお別れします。」

 ツバサが深刻な顔でうつむく。


「なっ・・・なんだって?どうして?戻ってきてくれたんじゃなかったのかい?」

 一体どうしたというのか?合体してしまったから、もうアンズ村で暮らすしかなくなってしまったとでもいうのか?


「あたしは・・・騙されたとはいえ、皆さんと一度はお別れした身ですから・・・、そんなあたしがのうのうと皆さんと一緒に冒険を続けることはできません。」

 ツバサは顔をしかめて、今にも泣きそうなのを堪えている様子だ。


「いやいやいや・・・あれは中央の奴らが、俺たちを弱体化させるために仕掛けた罠だったわけだ。


 奴らの態度が急変したこともあり、ツバサは騙されたことに気づいて、彼らを退治して俺たちを救いに来てくれたわけだろ?

 だったら戻ってきてくれないと、奴らの術中にはまったことになる。


 それに俺たちには本当にツバサが必要なんだ・・・、それはクエストの時に人数が多い方が有利だとか、世界最強だから頼りになるとか、そういった事だけでは決してない。

 ツバサは俺たちの大切な仲間であり、信頼できるパートナーなんだ。


 だから、こんなことで君を失いたくはない・・・、頼むからこれからも一緒に旅を続けてくれ。」

 ツバサを失いたくないのは個人的感情も含めてなのだが、ここでそんな私的なことを言ってはいられない・・・皆の総意という事で、ツバサに向かって深く頭を下げる。


「そうですよ・・・ツバサさんは10年前の冒険の時から、僕たちシメンズの大切な仲間だったはずです。

 ちょっと横やりは入ってしまいましたが、僕たちの信頼関係は、あんなことでは揺らぎませんよ・・・ですから、戻ってきてください。」

 源五郎も一緒に頭を下げる。


「ツバサお姉さんがいないとねー・・・、外で寝るときにテントの中で一人きりはさみしいんだよ・・・。

 ツバサお姉さんのフカフカな温かさがないとねー・・・、安心して寝られないの・・・。


 だから、これからも一緒に冒険してください・・・。」

 レイもまた頭を下げる。


「ありがとうございます・・・皆さんの気持ち・・・本当に心に沁みます・・・。

 ですが・・・両親からは、皆さんの冒険の足を引っ張ってばかりだから、これ以上邪魔しない方がいいと叱られております。


 ですので、今後も一緒に旅を続けるには両親の許可を頂く必要性があります。」

 ツバサは涙を拭きながら、そう答える。


「分かった・・・、じゃあアンズ村へ行ってみよう。

 俺たちも一緒に、君の両親を説得するよ。少し戻るってどれくらいだい?」


「はい・・・もう一度遊覧船に乗って湖を渡って、そこからペレンの町へ向かうルートの中間地点を東へ向かう事になります。

 ですが・・・説得はあたし一人だけで行います・・・、皆さんの姿も声も両親には伝わりませんからね・・・。」


 ツバサは少し笑顔を見せた・・・、そうだった・・・こちらから向こうの姿は見えるが、向こうには声も姿もまったく伝わらないのだ。


「分かった・・・遊覧船は乗り放題だし問題はないな・・・、それに船の方が中継車に乗りながら検閲するよりは楽だね・・・そうしよう。」

 すぐにテレビスタッフに行き先変更を告げると、なぜかテレビスタッフも、もう一度遊覧船に乗れることを喜んでいた。


『ブロロロロロッ』中継車は街路樹が整備された舗装道路を走り抜け、やがて山裾の洞窟へと入っていく。

 長い長い洞窟を抜けた先は・・・あれっ?行き止まりだ・・・。


「あっと・・・ちょっと待っていてください。」

『ガチャッ』すぐにスタッフの一人が中継車を降りて駆けていき、洞窟の傍らに降りているロープ引いた。


『ガチャ・・・バタンッ』「これで待っていればバリケードを外してもらえますよ。」

 スタッフが俺たちの方を振り返り説明してくれる・・・、確かに・・・そんなこと言っていたな・・・。


『ガックーンッドーンッ・・・ガガガガッ』暫くして洞窟内を反響しまくるけたたましいほどの爆音が鳴り響いたあと、何とか目の前の道が開けた。

『ブロロロロッ』中継車が開いたスペースを通って洞窟を出ていくと・・・その先は湖のほとりのフェリーポートだった。


「ようっ・・・途中引き返してきて応援まで加わったみたいだが、だめだったんだろ?

 だがまあいいじゃないか・・・、俺の見た限りでは一人も欠けることもなく逃げ帰ってこられたんだ。


 運がよかったと思って、無茶はせずにおとなしく故郷へ帰りな・・・。」

 瓦礫のバリケードを外してくれたのだろう、大きなブルトーザーの上から褐色の肌の若者が声をかけてきた。


「ああ・・・まだ俺たちの冒険放送がされていないからわからないだろうが・・・、この洞窟内の魔物はもとより、パラボラアンテナ施設に巣くう魔物も全部駆除した。

 受信装置とやらも回収して、クエストは完遂した・・・。」


 今後の放送予定もあるので、あまり言いたくはないのだが・・・、まあ、教えておいてやった方がいいだろう。


「ほ・・・本当かい?

 あのパラボラアンテナ施設の魔物たちを・・・全部・・・かい?」

 若者は驚いたように、ただでも大きな目をさらに広げて迫ってくる。


「はい・・・これが施設最深部にあった受信装置のようですよ・・・。」

 源五郎が冒険者の袋からクエストアイテムを取り出して見せてやる。


「おお・・・本当に魔物たちを全部退治したようだな・・こうしちゃあいられない・・・。」

『ダッ・・ダダダッ・・・ガチャッ・・ピシャン』若者はすぐにブルトーザーから降りると駆け出し、湖のほとりにある3階建てのビルに入っていった。


「なんだか忙しいやつだな・・、俺たちはフェリーに乗りたいんだがな・・・。」

 フェリーは桟橋に停泊しているようだが、勝手に乗船するわけにもいかないだろう。



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