アンズ村へ
13 アンズ村へ
『ガチャッ・・・ダダダダッ』一度引っ込んでからもう一度ビルから出てきた若者が駆け寄ってきた。
「パラボラアンテナ施設建築がとん挫しちまって・・、この湖の遊覧船も乗客がほとんどいなくなり、どう運航していこうか悩んでいたところだ・・・。
姉貴は当面運航中止して、桟橋に停泊させたまま宿泊施設に使うなんて言い出す始末でな・・・、だが考えても見なよ・・・、この湖を訪れる客もいないのに宿泊施設もないもんだ。
こりゃあ先行き暗いと考えていたんだが、あんたたちのおかげでパラボラアンテナ施設建築も再開しそうだな?
今姉貴に連絡したところだ・・・、確かに向こうでもなんだかざわついているようだって言っていた。
いやあ助かったよ・・・、で?あんたたちはどうするんだい?
遊覧船はもう湖南港に向けて出航するよ・・・、なにせアンテナ工事の建築作業者たちが明日にはやってくるだろうからな。」
若者はきらきらと瞳を輝かせながら弾んだ声の調子で、まくし立ててくる。
「ああ・・・俺たちも乗船させてもらおうと思って来たんだ・・・、湖南港から少し戻って、アンズ村まで行く予定だ。」
「了解!じゃあ、すぐに乗船してくれ・・・、今、フェリーゲートを開けさせるからね。
おーいっ・・・後ろを開けてくれ・・・車が乗り込むぞ!」
若者はフェリーに向かって手を振りながら、大声で叫び始めた。
『キキッキィー・・・ガッシャン』すると、遊覧船後部のフェリーゲートがゆっくりと開いた。
『ガチャ・・・バタン』その様子を確認して、すぐに中継車に乗り込む。
「じゃあ、出発します。」
『ブロロロロロッ』中継車は桟橋に向かい、そこから遊覧船の中へと入っていく。
『ギギギギッ・・・ガガンッ』そうして後部のゲートが閉じる。
『ぶぉー・・・』大きな汽笛の後、少し揺れを感じた・・・フェリーが出航したのだろう。
「じゃあ、みんなは客室でくつろいでいてくれ。
俺は今日明日分の検閲を終えてから向かう。」
テレビスタッフが、ビデオを今か今かと催促してくるので、とりあえずの放送分は検閲を済ませておくつもりだ。
どうせ明日の朝までは、のんびりの船旅なのだ・・・。
検閲を終え、客室に向かうとそのまま食堂へ移動。
食べた気のしない食事だが、それでも満腹感は味わえる・・冒険放送を食堂で流してくれたのはありがたかった。
その後甲板へ行って久しぶりに皆でウエイトトレーニングを行い、シャワーを浴びてから寝た。
今回はツバサとレイ、俺と源五郎の部屋割りだったので、すぐに就寝となった。
『ぼーっぼーっ』『ピンポンパンポーンッ』
<青空観光グループの遊覧フェリーにご乗船いただき、ありがとうございます。
当船はまもなく、湖南港へ到着いたします。
下船の準備をお願いいたします・・・、お忘れ物なきようご注意ください。>
汽笛の後にチャイムが鳴り、アナウンスが湖南への到着を告げる。
『ガッシャーンッ』『ギギギギギッ・・・ガッシャンッ』すぐに車庫に降りて中継車で待機していると、着岸の衝撃の後フェリーゲートが開いた。
『ブロロロロッ』中継車はゆっくりと桟橋を経由して、湖岸へと降りる。
と・・その先には大きな垂れ幕が・・・、そこには<大歓迎!冒険者御一行様>と書かれていた。
一体何が起こった?と思って見てみると・・・桟橋にはたくさんの人だかりが・・・。
まさか俺たちのお出迎えなのか・・・?と思っていたが。
『ザッザッザッザッ』大きな荷物をかかえた何十人もの人たちが、中継車の脇をすり抜け桟橋へと向かっていく。
なんだ・・・遊覧船の乗客だったか・・・、そういえば湖北の若者がパラボラアンテナ施設の建築作業者たちがやってくるって言っていたな・・・もう来たという事か?
まあそうか・・・中央の奴らであれば、俺たちの放送を待たずとも、アンテナ施設の魔物たちが消滅したことは把握済みのはずだ。
すぐに工事を再開させようとするだろうな・・・。
『ガンガンガンガンッ・・・カチャッ』中継車のドアをたたく音がして開けてみると、そこには巨乳美女が立っていた。
「いやあ・・・まさかパラボラアンテナ施設の魔物たちまで退治してしまうとは・・・、とても想像もできませんでした。
ありがとうございます・・・あなたたちは青空観光グループの恩人です。
どうか、弊社施設にお立ち寄りください。」
中継車から降りると巨乳美女が、そのふくよかな胸の谷間を見せつけるかのように、深々と頭を下げる。
湖北の乗り場にいた若者が、昨日連絡していたのだろうな・・・確か姉と言っていた。
「俺たちは冒険者で、請け負ったクエストをこなしているだけだ。
だから、そんなに感謝してくれなくていい・・・当然のことをしているだけだから・・・。」
俺たちがこなしたクエストが人の役に立っているという事はうれしい限りだが、別に感謝されようとしてやっているわけではない、あくまでも目先のクエストをこなしているだけなのだ。
「いえ・・・そうは参りません・・・、おかげさまで遊覧船の客が戻ってきたのですからね・・・。
お礼の宴席を準備させていただいておりますので、どうか本日ご一泊ください。」
そう言って巨乳美女はさらに頭を下げる。
「いや・・・俺たちも先を急ぐ旅なもので・・・、お気持ちはうれしいが申し訳ない、辞退させていただくよ・・・。」
巨乳美女の折角のお誘いを断ることは大変悔しいのだが、これからツバサの故郷へも寄らなければならないし、そうそう寄り道をしているわけにはいかないのだ。
「えっそ・・そんな・・・、いいじゃないですか・・・別にお代を頂くわけでもありませんし、是非お立ち寄りください・・・。」
巨乳美女は俺の両手をしっかりと握りしめ、くねくねと体をしならせて怪しげな瞳で見つめてくる。
「お気持ちはうれしいのだが・・・もうこの辺りにクエストはないわけだし、そうなると先へ進んだ方がいいわけだ。
悪いが、このままいかせてくれ。」
ううむ・・・こんな美女のお誘いを断る俺が自分でも信じられない気持ちだが・・・、ツバサのこともあるし、そんなこと考えたくはないのだが、この誘いが中央の奴らの罠で、今度は俺を色仕掛けで引き留めようとしている可能性だってないことはないはずだ。(まあ、そんなお誘いであるならば・・・とも考えてしまう自分が怖い)
そうでなくても先を急ぐ旅だし、今は無理だ・・・さらに娘が見ているのだ・・・加えてツバサも・・・中継車の窓からのぞく視線を無理に意識して平常心を保ち、断腸の思いでお誘いをお断りする。
「・・・・分かりました・・・残念ですが今回はあきらめます・・・、ですが冒険の途中で休息したいときなど、いつでもご遠慮なくお立ち寄りください。
今回のお礼に、青空観光グループの永久宿泊券を贈呈させていただきます。
これはお連れ様たちもご一緒に利用可能です。
ただし・・・今のところは遊覧船と同じくこのペレヘス湖にしかありませんが・・・いずれは他の大陸まで進出予定ですので・・・期待してください。」
しばし考えた後、そう言って巨乳美女は笑顔を見せ、金色に輝くカードをくれた。
「あっああ・・ありがとう・・・、じゃあ施設を見つけたら利用させてもらうよ・・・。」
遊覧船のタダ券だけでもスタッフたちは2往復してツバサを迎えに行くのに利用しているから、十分役に立っているといえるんだ・・・これ以上もらってもかえって申し訳ない気持ちになってしまう。
まあ、この場を離れてしまえばただの使えないカードでしかなくなるわけだし、記念に受け取っておこう。
『ブロロロッ』後ろ髪を引かれる気持ちを何とか断ち切り、巨乳美女に別れを告げ中継車は平原を走っていく。
「ここです・・ここを左に曲がってください・・・東に向かいます。」
ツバサが道順を指示する・・・やがて、小さな村が見えてきた。
「ここがアンズ村です・・・、村の入り口で止めてください。」
『ブロロ・・・キキィッ』村の入り口にある、木でできた柵の手前でツバサは車を止めた。
「ここからはプライベートな時間ですので、申し訳ありませんが、テレビスタッフの方たちはご遠慮願います。
では、参りましょう。」
『ガチャッ』ツバサはそういってスタッフたちに頭を下げると、中継車のドアを開けておりていく。
「僕たちも行きましょう。」
「おっ・・おお・・・。じゃあ、申し訳ないが、ちょっとの間ここで待機していてくれ。」
源五郎に促され、テレビスタッフに声をかけながら中継車を降りていく。
もちろん、ヘッドカメラもインカムも外していく。
「はいっ・・・分かりました・・・、我々はここで待機しています。」
スタッフは、気を悪くすることもなく待機してくれるようだ。
「こっちです。」
ツバサが木でできたアーチ状の門をくぐって、そのまま村の中へと入っていく。
「はあ・・・のどかというか・・・、日本にもありそうな普通の田園風景ですよね・・・。」
源五郎が村の様子を見まわしながらつぶやく。
門から入った道の両側には田んぼや畑が続いていて、その奥の方にかやぶき屋根の平屋建ての住居が点在している。
田んぼの稲は穂が膨らみ始めたころのようで、畑にはキャベツや白菜に青首大根も植わっているようだ。
農家のひとなのか、畑には数人の人たちが作業しているところだ。
「この先を左に折れてまっすぐ行ったところに、家の道場があります。」
ツバサは少し振り返ると、また前を見て歩き出した。
「へんなの・・・、あたしたちがやってきたのに・・、だあれもこっちを見ないんだよ・・・。」
農作業をしている村人は、すぐ道の傍らにやって来ても、俺たちのことを一切気にせずに、奥にいる別の村人に声をかけているのを見て、レイが首をかしげている。
「ああ・・・、恐らくこの星の本当の住民たちだろう・・・。
彼らは別次元・・・えーと・・・俺たちのいるゲームの世界とは違う世界にいて、俺たちには向こうが見えるけど、向こうからは俺たちが見えないんだ。
だから俺たちがここを歩いていることも、彼らは知らないはずだ。」
そうだ・・・レイの奴はこの世界に来た当初のレクチャーを受けていないからな・・・、と言っても次元の違いなど理解できるだろうか・・・。
「ふーん・・・。」
そう呟きながら首をかしげて近くの農夫のところへ寄っていく・・・ううむ・・理解できていない顔だ・・・。
「えーとね・・・そうだ・・・立体のテレビみたいなものと考えればいいかな・・・。
今ここに見える人たちは、僕たちには見えているけど、実はここにはいないんだ。
ほらっ・・・こうやって触ろうとしても、手が通り抜けてしまうでしょ?
ただ見えるだけ・・・、この北部大陸と中央諸島では、この星の住民の生活が見られるという訳さ。
ただし家の中には入れないけどね・・・、外に出ている人たちを眺めるだけ・・・。」
すぐに源五郎が畑に駆けていき、植えてあるキャベツや白菜に手で触ろうとしてもすり抜けてしまうのを見せながら説明してくれる。
「へえー・・おもしろいね・・・。」
レイも笑顔で駆け寄り、自分でも大根やナスに触ろうとしてみる。
「ツバサが行ってしまうから、早く行こう。」
はぐれてしまうほど広い村ではなさそうだが、ツバサに失礼なのでレイと源五郎をせかせる。
「はーい・・・。」
すぐにレイも源五郎も小走りで駆け寄ってきた。
そうしてツバサが言った通り、辻の家のところを曲がっていくと・・・
「あれ?ツバサお姉さんが二人・・・。」
レイがまたもや不思議そうに首をかしげる。
そう・・・辻を曲がったところからツバサが分裂し、片方はその場に立ち止まり、もう片方はそのまままっすぐ歩いていくと、正面にある大きな家の中へと入っていった。
村の周囲の家々とは異なる3階建てのビルのような建物だ・・・、ツバサが家は道場と言っていたから、道場を兼ねているのかもしれないな。
「つっ・・ツバサ・・・大丈夫か?意識はあるか?」
すぐに、立ち止まっている方のツバサに声をかける。
「ああ、はい・・・大丈夫ですよ・・・、どうかしましたか?」
ところがツバサは平然と答えてくる・・・幽体離脱とかではなかったようだ・・・。
「だってぇ・・・、ツバサお姉さんが2人になって・・・。」
レイが代わりに心配の理由を説明してくれる。
「ああ、あれですか・・・あれはあたしの本体です。
合体していたあたしの本体が分離して、両親を呼びに行ったところです。
恐らくこれからも冒険を続けてもいいかどうか、承諾を頂いているところでしょう。
まあ無理であれば、本体と合体しないゲームキャラのあたしだけでも・・・という説得もしているはずです。
もう少ししたら出てくると思いますが・・・向こうからこちら側は見えないので、勘弁してやってください。」
ツバサがまじめな顔で答える。
そうか、本体が分離してねぇ・・・言葉だけとらえると、なんだかちょっと怖いな・・・。
両親の説得が無理でも分身の方は一緒に旅をしてくれそうなのは、少し安心した。
『ガチャッ』しばらくすると正面の玄関から大柄な男性と、華奢な体つきの女性と一緒にツバサが現れた。
更に3人とは少し遅れて、老若男女数十人がぞろぞろと出てきたようだ・・・、あれは道場の門下生か?
3人ともに玄関を出てからきょろきょろと辺りを見回し、それでもある程度見当を付けたのか、そのまま前に数歩歩いてきて立ち止まった。




