再会
10 再会
「ようし・・、3人同時に攻撃するぞ・・・せーのっ!おりゃあっ!」『ぱくっ』
「もごもご・・・神の裁き(ライデン)!神の裁き(ライデン)!神の裁き(ライデン)!」
『シュパシュパシュパパァーンッ』『バリバリバリバリガッゴォーンゴッガァーンッ』『シュシュシュシュシュシュシュシュシュ』3方の壁に向けて同時攻撃が発せられる。
『シュパシュパシュパパァーンッ』『バリバリバリバリガッゴォーンゴッガァーンッ』『シュシュシュシュシュシュシュシュシュズガガガガガガッ』と、すぐに俺の体に強い衝撃が返ってきた。
『ドッドドーンッガッゴォーンッ』『ドッゴォーンッバッゴォーンッ』その後は4方8方の壁にぶち当てられ、耳をつんざくような爆音の中、ぐるぐると洗濯機の中を回されているような感覚に陥り、やがて意識は暗闇の中に落ちていく・・・『ゴクンッ』。
うん?ふと気が付いて辺りを見回すと・・・、源五郎とレイが傍らで倒れている。
「レイッ・・・レイ・・大丈夫か?」
すぐに駆け寄り、揺り起こそうとする。
「うっ・・・うーん・・・ごくんっ。」
何とか息はあるようだ・・・。
「源五郎!・・・大丈夫か源五郎!」
さらに源五郎の体も抱き起して声をかける。
「あっ・・・ああ・・、どうですか?」
すぐに源五郎は意識を取り戻し、辺りをきょろきょろと見まわす。
「ああ・・・、だめだったようだな・・・。」
俺たちの姿が4方の壁に映っているという事は、部屋の壁はそのまま存在している・・・。
「だが・・・まったく効果がなかったとは言えないぞ・・・、3つの壁ともに鏡が曇っているようだ。
もしかすると、もう少し強力な攻撃であれば、何とかなるのかもしれないがね・・・それを試すにはちょっと危険な感じがするが・・・。」
ライトを当てると、先ほどまで傷ひとつなかったはずの鏡の壁が、白っぽく曇ってきているのは確かだ。
だが、もう一度攻撃することは今度こそ全滅の恐れがある・・・、なにせ俺の鎧も腹の部分はほとんどえぐられてしまって下着が見えているし、源五郎の射者の胸当ても半分引きちぎられて、レイのローブも切り裂かれて焼け焦げて、穴だらけの状態だ。
防具の守備力を期待するわけではないのだが、自分の会心の一撃を何発も食らったら、次も大丈夫とは考えにくい。
それこそ身代わりの指輪を全て使い果たして足りるかどうか・・・、という事になってしまうな。
「うえーん・・・、お洋服がボロボロだわ・・・。」
あまりに変わり果てた姿に、レイが泣き出してしまう。
「まあ何とか脱出できれば防具屋で修理に出せるから、今は我慢しなさい。
それよりも何とか手を考えないと、本当にまずいことになってしまうな。」
手を考えるといっても・・・曇った鏡の反射状態というか、攻撃を跳ね返す能力を、また弱い攻撃から確認していくくらいしか思い浮かばないのだが・・・。
『ガチャッ』すると突然入り口のドアが開いた・・・、やったあ・・・とりあえずここを出られるぞ・・・。
「あっ・・・お姉さん・・・!」
『ダッ』レイが中へと入ってきた影に駆け寄っていく・・・ええっ・・・お姉さんって???
「レイちゃん・・・、無事でよかった・・・。
皆さんも、無事でなによりです・・・。」
それは紛れもなくツバサだった・・・別れた時のワンピース姿と違い、格闘家の胴着を身に着けた見慣れたいつものツバサの姿だった。
『ゴーンッ』そうして入り口ドアが閉じられる音を聞く・・・しまったツバサの姿に気を取られて・・・。
結局4人で閉じ込められてしまったという訳だ。
「いいいいい一体・・・どどど・・・どうしたんだ?」
ツバサに状況を聞き出そうとするが、緊張のあまり言葉がうまく発せられない。
「はい・・・皆さんとお別れした後、町長さんの家で生活を始めたわけですけど・・・、町長さんや息子さんの態度が突然変わってしまいました・・・シメンズの冒険が好きとおっしゃっていたのに・・・うそだったのです。
更に皆さんの危機を知らせにテレビ局スタッフが駆けつけてくれたようですが、あたしには知らせずに追い返されてしまったのです。
それを知ってすぐに追いかけ・・・。」
ツバサが俺たちと別れてからこれまでのいきさつを説明してくれる。
ううむ・・・奴らは裏コマンドでこの世界にやってきた、中央の奴らが化けていたという訳か・・・。
確かに外観が俺たち地球人に似せたキャラと同じだったから、ちょっと変だなとは感じていたのだが、現実化したことにより自我を持った町人キャラであれば、ツバサと結婚をしようと考えても不自然ではないのだと考えようとしていた。
何よりツバサの言葉を聞き、それがツバサの幸せであれば一番いいのだと自分を納得させようとしていたため、裏事情を疑わずにいたのは失敗だった。
「そうしてパラボラアンテナ施設前の落とし穴を探っていたら都合よく落とされて・・・、落ちたら横穴があったのでそこを進んで来たら、皆さんがいらっしゃったのです・・。」
ツバサが目をウルウルさせながら、いきさつを説明し終えた。
「そうか・・・あの後湖の魔物たちを退治して洞窟の魔物も退治して、パラボラアンテナ施設の門扉の蔦の魔物には全滅させられかけたが何とかクリアできた。
それから施設に入ろうとして一旦は落とし穴に閉じ込められたんだが・・・、自動車用のジャッキを持っていたから無理やりこじ開けることが出来たんだ。
その後3層のダンジョンをクリアして、恐らくパラボラアンテナ施設の上の階の魔物たちは全て駆除し終えたはずだ。」
ツバサにも俺たちが別れてからの行動をかいつまんで説明してくれた。
「ええ・・・皆さんの冒険の様子は毎日の放送を見て知っています。
でも・・・落とし穴に落とされてからは・・・映像が届かないというので、テレビスタッフが救援を要請に来てくださったのです。」
ツバサが補足説明に入る・・・ううむ・・・やはり落とし穴に落ちてからは電波が届いていなかったか・・・、中継ボックスも仕掛ける前だったからな・・・仕方がないか・・・。
「でも・・・あたしは必要なかったわけですね・・・、皆さんの危機と思って少しでもお役に立てるのならとやってきたわけですが・・・、皆さんだけでも十分冒険を継続できているのですよね・・・。」
ツバサは突然がっくりと肩を落としてうなだれた。
「いややいやいや・・・、全くそんなことはないから。
今だって、この鏡のダンジョンに閉じ込められて・・・、どうしようもなく困っていたところだ。
命を失いかけて復活の木の葉の世話にもなったことだしね・・・、その上・・・これまでのダンジョンでだって、身代わりの指輪をどれだけ消費したことか・・・。
ツバサと一緒に冒険していた時には指輪なんてしていなくても問題はなかったのに、別れてからはクエストのたびに指輪をいくつか失っていた。
決して俺たち3人だけで無事に冒険継続できていたという訳ではない。
死にかけながらも、何とかかろうじて3人でも先へ進んできているに過ぎない・・・、ただし、身代わりの指輪の数にも限りがあるわけだからね・・・、それも踏まえてこのダンジョン攻略をどうしようか、頭を抱えていたところだ。
今の俺たちの格好を見るだけでも、どれだけ大変だったかわかるだろう?」
これまでどれだけツバサがいてくれたら・・と思った事か・・・、それを今ここで言い連ねても、ツバサが困るだけだから言いはしないが、決して楽に進んできたわけではないことを強調しておく。
やはり俺たちにツバサは必要なのだ。
「そうですよ・・・ツバサさんと別れてから、僕は身代わりの指輪を2個と復活の木の葉を失いました。
本当に3人だけで冒険継続することに自信を無くしかけていましたよ・・・。」
「あたしもー・・・指輪を2個とはっぱを使っちゃったんだよー・・・。」
源五郎とレイも楽な冒険ではなかったことを強調する。
「そうですか・・・ちょっとだけ自信が沸いてきました・・・ここはどういったダンジョンですか?」
言われて俺たちの格好に気が付いたのか、3人の様子を見まわした後ツバサが気を取り直して笑顔を見せる。
「ああ・・・鏡のダンジョンで、物理攻撃も魔法攻撃もそっくりそのまま放った本人に帰ってきてしまう。
弱い攻撃は持ち論試したがだめで、最後に思い切り攻撃してみたんだが、やはり跳ね返されて死にかけた。
そこまでしても、鏡は少し曇っただけのようだ。」
このダンジョン攻略の難しさを説明する。
「そうですか・・・じゃあ、あたしも攻撃してみます。
まだ試していないのは、こっちの入ってきた方の壁ですね?」
ツバサが入り口の鏡に向かって身構える。
「ちょっと待て・・・さっきも言ったが、全力で攻撃してみて命を失いかけた。
3人ともが復活の木の葉の世話になったんだぞ・・・、せめて身代わりの指輪をしてくれ。」
ツバサから預かっていた5個の指輪を、まずは返す。
「あっ・・あたしも・・・、ツバサお姉さんのほうけんだよねー・・・これ。」
レイも飛翔の宝剣をツバサに手渡しする。
「ありがとうございます・・・・、あたしも・・・攻撃を跳ね返されて指輪を全部つぶしても困るので、復活の木の葉を出しておきますので、もし跳ね返された場合はお願いします。」
指輪と宝剣を冒険者の袋にしまい込んだツバサは、今度は俺に復活の木の葉を差し出した・・・、返り討ちにあったら飲ませろという事だろう。
「分かった・・・上手くいくかどうか・・・最早手詰まりだから、何でも試してみるしかない。
お願いする!」
そう言って頭を下げる。
「では、参ります・・・奥義・・・猪突開山波!」
『ガッゴォーンッ!・・・バラバラバラバラッ』ツバサはそういうと、両足を肩幅より広めに開き、少し腰を落としてから正面に向かって正拳突きをした・・・その瞬間、耳をつんざくようなすさまじいまでの衝撃音が伝わってきたかと思うと、壁全体が揺れ始め、やがて崩れだした。
「とうっ!」
『ドガッ・・・バッゴォーンッ』壁が崩壊するとともに落下してきた天井を、ツバサがキックして弾き飛ばす。
「やったぁー・・・。」
鏡の部屋が崩れ去ると、そこは空洞でその先に通路が続いているようだ・・・。
「すごい・・・流石ですねえ・・・やっぱりツバサさんだ・・・。」
「ツバサお姉さん・・・すごい・・。」
『パチパチパチ』レイも源五郎も拍手しながらツバサをほめたたえる。
確かにすごい・・・俺たちの力では鏡を少し曇らせるくらいしかできなかったというのに・・・、部屋ごと破壊してしまうとは・・・、しかし、これが本当のツバサの力なのか?
「いえ・・・あたしの力だけではないですよ・・・、多分皆さんの繰り返し攻撃で、ある程度壁にダメージが入っていたはずです。
だから鏡が曇ってきていたのだと思います・・、そこにたまたまあたしが攻撃を仕掛けたからダンジョンを破壊することが出来ただけであって、決してあたしの力がすごいわけではありません。」
ツバサは謙遜気味に首を大きく振って否定する。
「今の攻撃・・・普通の正拳突きのようにも見えたけど、奥義って言っていたよね?
奥義っていうのは何だい?」
先ほどのツバサの攻撃を、確認してみる。
「ああ・・・あれは・・・、家の流派の・・・というか・・格闘技に関しての開祖は・・あたしでして・・・。
その・・・秘伝の奥義をいくつか開発してあるのです。
今のあたしの体はゲームの世界の分身なのですが、先ほども少し説明したように、この星に住んでいるあたし本人も合体している状態です。
ですから、あたし本人の意思も入り込んでいますし、奥義も使えるという訳です・・・。」
ツバサが、少し舌をだしながら恥ずかしそうに打ち明ける。
「がったい・・・だって・・・?この星では何でもありとは思っていたけど・・流石にすごいね・・・。
でも、願いがかなうには条件があるって言っていなかったか?
確か当事者全員が同時に願わなければならないという・・・、だったらその願いがかなうには、ツバサが住んでいる次元の住民全員が同時に願ってくれる必要性があったはずだが、世界中で願ってくれたのかい?」
ずっと前から向こうの次元の住民たちが示し合わせて、機会をうかがっていたという事なのだろうか?
まあ、日々の冒険放送を向こう側の次元でも見ているわけだから、展開を見ていてそういった願いをかけることもあり得ないことではないわけだな・・・。
「いえ・・・あたしの本体がいる次元で、今この時点でゲームの世界の分身と本体が合体できるのは、あたししかいません。
なぜなら分身をゲームの世界に送り込んでいるのは、あたしだけですから。
ですから合体を願えるのはあたしだけでして・・・、当事者もあたし本体だけという事になります。」
ツバサから願いがかなう条件はクリアしていることを説明される・・ああそうか・・だからこそ願いがかなったというわけか。
「そうか・・・なるほど・・・、すると・・・今のツバサは本当に格闘技世界最強のツバサなんだね?
ゲームキャラのレベルがどうのというのとは関係なしに・・・。」
ちょっと頭が混乱してきたが、何とか整理しようとする。
「そうだと思います・・・そのおかげで、あたしを騙していた町長の息子さんも・・・強敵でしたが倒すことが出来ました・・・。」
ツバサが今度は神妙な顔で答える。
そうか・・・さっき町長の息子と戦った場面に関してはほとんど状況説明がなかったが、そういったわけか・・・。
ゲームキャラである俺たちは、戦う対象は魔物だからそれ以外の村人や恐らく野生の動物に関しても、クエストがらみでなければ、本来の力は発揮されない。
だからこそ中央の奴らは農民とか町人とかのキャラでやってきているわけで、トシミさんの沈没船のクエストで出会った農夫に対しても、致命打を与えることが出来ずに逃げられてしまった。
それはツバサに対しても同様で・・・格闘家世界最強であってもあくまでも対象は魔物に限られていた。
ところが今のツバサは誰に対しても格闘家世界最強という事になる・・・これは素晴らしいことだ・・・。
最終場面に到達して中央の奴らと決戦になったとしても、果たして勝てるかどうか不安だったのだが、ツバサの攻撃力があれば勝てそうな気がしてきた。
そういうことだと・・・ツバサの攻撃力が合体により中央が把握しているレベルよりも強力だったから、ダンジョンを破壊することが出来たのか・・・、あるいは・・・チームメンバー全員そろわないとダンジョンも無敵・・・といったことが設定されていたのか・・・、どちらかという事になりそうだな・・・。
ツバサと別れた後も、ギルドにツバサが抜けたことを申告していないでいたのだからな。




