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鏡のステージ

9 鏡のステージ

「じゃあ、行くぞ!」

『ガチャッ』弁当を平らげた後、扉を開けて次のステージに向けて出発だ。


「あれっ?」

『ヒュー・・・・』踏み出した先には何の手ごたえというか床の感覚もなく、そのまま体が落下していく。


『シュタッ』『シュタッ』『タッ』『カチッ』何とかうまく足から着地して、カメラ用のライトをつける。


「あれ?また戻ってしまいましたね。」

 落ちた先は、最初に落とされた落とし穴の穴であった・・・、ジャッキで押し上げ開いたシャッターが途中で止まっている。


『ガクンッ・・・ギリギリギリギリ・・・ジャラジャラジャラ』すると突然、開いていたシャッターが上から落ちてきた。


「まずい!閉じ込められるぞ・・・。」

『ガッガァーンッ』と思ったが、シャッターは下まで降りても2ケ所が捻じ曲げられ変形しており、完全に閉まることはなかった。


「性懲りもなく、また俺たちを閉じ込めようとしやがったのか?」

 多少腹を立てながらも、こじ開けたシャッターを再度開くべく手を差し込もうとする。


「ちょっと待ってください!」

 反対側の壁を見ていた源五郎が叫ぶので、手を止め振り返る。


『ギッギッギッ・・・ガラガラガラガラガラ・・・』なんと反対側の壁がずり上がっていき、その先に通路が出現した・・、こっち側も開閉式だったという事か・・・。


「恐らく、こういった仕組みなのでしょうね・・・、パラボラアンテナ施設に入ろうとすると落とし穴に落とされて、そうして3つ頭犬や4つ頭犬がいるステージへ上がっていき、それらをクリアするとまたここへ戻ってきて、今度は反対側が開き最終ステージへ・・・。


 ところがなぜか僕たちが落とし穴に落ちても、最初のステージへと続くシャッターが開かなかったわけです。

 それが機械故障なのか意図的なものなのか・・・、ともかく僕たちは閉じ込められてしまい、それを自力で解消して最初のステージへ向かったという訳ですね。」


 源五郎が、はるか奥へと続く真っ暗な通路を眺めながら分析する。

 まあ、意図的に閉じ込めようとしたのだろうな・・・だができなかったのであきらめた・・・、このダンジョンの魔物たちはどれも強力で、ようやく倒せたくらいだというのに・・・、随分と慎重なようだ。


「よしっ・・・レイ・・・また炎の魔法を頼む。」


「おっけー・・・、煉獄(バーナウト)!」


『ボワッ・・・ズッコォー』

 雑魚魔物の相手は面倒なのでレイに魔法を唱えさせる・・・、炎はまっすぐに奥まで走っていくようだ・・・、これで通路の様子もうかがえる。


「じゃあ、行くぞ!」

 ヘッドカメラ用のライトをつけたまま、いつものように俺を先頭に、レイ、源五郎と続く。


 中継ボックスの入ったリュックは置いて行くわけにもいかないので持っていくことにした・・・、まあ最初と違い、脱出しなければならない緊急のルートではなく、普通のダンジョンへ向かうルートのようだからいいだろう。


「この扉の向こう側だな・・・、行くぞ・・・準備はいいか?」

 準備といっても、とりわけ何があるわけでもないのだが、通路の先の突き当りのドアの前で一度振り返る。


「はーい・・・」

「大丈夫です、行きましょう。」


『ガチャッ』ドアを開け中へと入っていくと・・・、向こうにも3人の人影が・・・しかも向こうもライトで照らしてきて・・・まぶしい・・・。『ガッチャンッ』


「あれっ・・・横にも・・・あたしがいるよ・・・。」


 すぐに身構えるとレイがぽつりとつぶやく・・・、確かに・・・向こう側にいるのは俺たち・・・、ライトでハレーションしてよく見えなかったが、手をかざして光を遮ってみると、俺たちが鏡に映っているようだ。

 前方だけではなく、左右の壁も鏡になっているようだ・・・。


「鏡の部屋か・・・。」

 入ってきた入り口を見るとすでに閉まっていたが、やはり鏡張りで、しかもドアノブは内側にはついていない・・・ううむ・・・どうすればいいのだ?


 2畳ほどの部屋の中は前後左右どころか、天井も床も全て鏡張りになっているようだが、歩くと床がクッションのようにふわふわと弾力がある。


「なんだかな・・・、また閉じ込められてしまったという訳か・・・。」

 そう言いながら、入ってきた方と反対側の壁を押してみる。


『ググッ・・・』うん?壁も何か手ごたえが・・・。

『ドンドンッ』右手でこぶしを作って強く壁を叩いてみると、こぶしを勢いよくはじき返された。


「なんだ・・この壁・・・、まるで生きているみたいに反発してくるな・・・。」

 触った感じガラスでも金属でもない壁は、押し込むと押し込んだなりに反発してくるようだ。


『コンコンッ』「本当ですね・・・木づちで叩いても、その勢いのままはじかれてしまいます。」

 木づち片手の源五郎が、困った顔をする。


「とりあえず・・・落とし穴に落ちたの時のように、各壁を叩いて金属音がするところを探してみるか。」

『コンコンッ』『コンコンッ』『コンコンッ』『コンコンッ』とりあえず、各壁を適当に木づちで叩き始めたのだが、同じ力で弾かれてしまい、金属音の確認どころではないようだ。


「うーむ・・・どこかに隙間を見つけて、そこにジャッキの先端を突っ込んで・・・という事も、打音検査が出来なければ難しいな・・・。


 ようし・・・、イチかバチかやって見るか。」

 おもむろに袋から鉄のハンマーを取り出す。


「柄が折れて頭がその辺に飛んでいくとまずいから、十分に気を付けてくれ・・・。

 しかし・・・復活の木の葉があったから、超強力な魔物がいて命のやり取りを予想していたんだが、当てが外れたな・・・、まさか脱出ゲームとはな・・。」


 ずいぶんと予想と異なる仕組みに、ちょっと困惑するが、このままで閉じ込められているわけにもいかない・・・、もしかするとここを抜けると強い魔物が待ち受けているのかもしれないしな・・・。


「せーのっ!」


『ブンッ・・・ゴンッ』思い切り鉄の大ハンマーを振り上げ壁めがけて水平に振り抜く・・・当たったと思った瞬間、『ブンッ・・・ゴンッ』『ドガッ』『バンッ』『ボゴッ』腹部に強烈な衝撃を感じ、後方へと吹き飛ばされる・・・と、今度は背後から強い衝撃でそのまま反発され前方の壁へ・・・そこでもまた同じ強さで弾かれる・・・。


「リーダーっ!大丈夫ですか?」

『バスッ』ピンボールマシンの玉のように前後に何度も弾かれ続けたのち、源五郎がようやく受け止めてくれた。


「うげぇっ・・・おお助かったよ・・・、ありがとう・・・。」

 何度も弾かれ続け、頭もシャッフルされ目が回ったようになって気持ちが悪い・・。


「パパ・・・大丈夫?えーと・・・、全回復(ゼンカイ)!」

 レイが回復魔法を唱えてくれて、ようやく体中の痛みが引いていく。


「どうやら、受けた攻撃をそのまま跳ね返す、まさに鏡のステージのようだな・・・。

 鉄の大ハンマーでよかったよ・・・、鋼鉄の剣で思いきり斬りつけていたら・・・下手をすると自爆していたな。」


 壁を打ち破るには最も適しているが、殺傷能力は鋼鉄の剣に劣るハンマーであったからこそ何とか無事でいられたのだろうが、剣で切りかかっていたら、身代わりの指輪か復活の木の葉のお世話になっていたことだろう。


「そうですね・・・物理攻撃はそのままはじき返されるのかも知りませんね・・・、でも・・・飛び道具だったらどうでしょう・・・、矢を放ってすぐに移動してしまえば、万一矢をはじき返されたとしても、こちらはダメージを受けないで済みます。


 何度も繰り返せば、向こうの壁を破れるかもしれません。

 ちょっと試してみますから、流れ弾に注意してください。」


 源五郎がそういいながら弓を構える・・・、さほど広くない部屋だが・・・まあ、はじかれた矢をよけるくらいは可能だろう。


『シュッ・・タッ』『シュッ・・シュパッピキンッ』矢を放ってすぐに源五郎は右に体を移す・・・が、それを予想していたかのように、移動した先の源五郎に弾かれた矢は正確に命中・・・したのだが天空の射者の盾が開いて、何とかガードしてくれたようだ。


「ううむ・・避けようが何をしようが、仕掛けた攻撃はその本人にはじき返されるようだな・・、しかも源五郎が放った矢は壁に吸い込まれるようにして消滅したように見えた後に、向きを変えて源五郎に向かっていった。

 壁の方のダメージはほとんどないんじゃないかな?


 これじゃあ危険覚悟で繰り返し攻撃してみるといったこともできそうもないな・・・。」

 ううむ・・・まさに鏡のダンジョン・・・こんなのがあるのなら、魔物なんか必要なくないか?


「矢とか剣とかだからはじき返されるんじゃあないの?

 魔法だったら・・・。」


「レイッ・・・絶対にダメだ!

 こんな狭い中で魔法をはじき返されでもしたら、全滅もあり得るぞ。」

 すぐにレイを押しとどめる。


「はーいっ・・・。」

 一度はじき返された経験のあるレイは、しつこく主張しようとはしなかった。


「鏡だから・・・、はじき返せるんじゃあないですかね?

 壁塗り用のペンキを持っていますから、塗ってみましょうか・・・、ただの壁になってしまえば、案外平気なんて言う事も・・・。」


 源五郎がそういいながら、塗料缶と刷毛を冒険者の袋から取り出す。

 これもペンキ職人用のアイテムで、コスチューム屋でそろえたものだ。

 だがしかし・・・、こんなもの脱出用に使おうとしてそろえたのか?


『ズリッ』『ズリッ』「ぷっ・・・ダーリンの顔・・・、ペンキ塗られちゃったよー・・・。」

 源五郎が白ペンキで壁を塗りこもうとした瞬間、源五郎の顔が真っ白に塗られてしまった・・・・。

 どうやら、行為そのものを返されてしまうようだ・・・。



「ううむ・・参ったな・・・。」

 特上松弁当を食べながらぼやく・・・あれから何時間くらい経過したのだろうか、弁当は常に4つずつ宝箱に入っていたので、都度一人が余分に受け取り1食分余計に頂いたという訳だ。


 源五郎がペンキで失敗した後も、俺が銅剣で鏡に傷をつけようとして腕を負傷したり、レイが初級の炎の魔法を発して手を火傷し、同じく初級の凍結魔法で足が凍傷にかかったり・・・、都度回復魔法で治療したのだが、鏡には傷がつくどころか曇ることすらなかった。


 それこそボンベを持ってきて、バーナーであぶらなければいけないのかとも考えるが・・・、恐らく大やけどするだけだろう。


「このままでは本当に閉じ込められてしまいます・・・、イチかバチか勝負に出ましょう。

 さっきから弱い攻撃で何度も試していますが、すべて跳ね返されてしまいます。


 逆に思い切り攻撃してみたらどうでしょうか・・・、会心の攻撃を連発すれば、流石にこの壁も受けきれずに崩壊するのではないかと考えます。」

 いい加減焦れてきたのか、源五郎が最終決戦を提案してくれる。


「まあ確かに、その考えはありだと思うよ・・・、何せ俺たちは最高経験値・・・この世界で達成するはずのない経験値をもってやってきているわけだから、その攻撃に耐えうる設備などないのかもしれない。


 だが・・・、もしそれでも跳ね返されてしまったらどうする?

 一応数値上は存在するわけだから、そこまでの強度を見込んで作られていたとしても不思議ではないはずだ。

 俺たちの会心の一撃をそれぞれ跳ね返されてしまったとしたら・・・、恐らくお陀仏だぞ・・・ここで全滅だ。


 まあ、そうなれば地球にいる俺たち本人に、この星の住民たちから、また緊急メッセージが届くことになるのだろうが、せっかくここまで進んできたというのに、また最初からやり直しとなるわけだ。


 できればそのような事態は避けたいな・・・、何せ中央の奴らは俺たちが最高経験値でやってくるという事をすでに認識しているわけだから、今度は最初から本気で邪魔してくるはずだぞ。


 そうなると・・この冒険世界に不慣れな俺たちは、下手をするとツバサと再会することも叶わずに全滅してしまうこともあり得るわけだ。


 かといって俺たち本体が何組にも増援して・・・などといったことは期待しない方がいい。

 なにせ非合法手段でやってきているのだから、次回だって最少人数に限られるだろうし、それがいつ実現するかも分からないわけだ。」


 常に最悪の事態は想定したうえで、実施の検討を行う必要性がある。

 なにせ援軍だってよく考えれば期待薄かもしれないわけだからな・・・そんなに簡単にできるのであれば、既にやってきていたっていいはずなのだ。


「でも・・・ここでじっとしていたとしても何も解決はしませんよ・・・、時間経過で事態が好転するなんてことこそ、ありえないわけですからね。」


 源五郎は現実を見据えたうえで覚悟を決めている様子だ・・・確かに、待てば海路の日和あり・・・なんていうのは、この先に何か好転材料がある場合の話だ。

 待っていたって誰も助けに来てくれるはずもない・・・、ツバサに期待してはいけない・・・のだ。


 また、彼女が来てくれたとしても、この事態を解決する術を持っているとは限らない。

 かえって彼女を巻き込んで閉じ込められてしまうだけだ・・・、だったら俺たちだけで解決した方がいいに決まっている。


「よし、分かった・・・それぞれ壁面に向かって、思い切り渾身の攻撃を仕掛けてみよう。

 それでだめな時は仕方がない。


 俺の場合は複数攻撃を仕掛けるから、身代わりの指輪だと何個一気に失うかわからないので、指輪は外しておく・・・、代わりに復活の木の葉を口に含んで攻撃を仕掛けてみよう。


 運が良ければ攻撃を跳ね返されたとしても、復活できるかもしれないからな・・。」

 宝箱に復活の木の葉が入っていたことを思い出して、それが有効であることを信じてみる。


「ああ・・・、その手がありましたね・・・。」

 源五郎も指輪を外し復活の木の葉を口にくわえると、それを見ていたレイも真似をした。



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