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脱出作戦

3 脱出作戦

「何を考えているのか知らんが・・・逃げ回るのも、もう終わりだ・・・お前はもう完全に俺たちの間合いの中だ・・・。」

 いつの間に距離を詰めたのか、前方にはとび職が・・・後方には農夫がそれぞれ1間ほどの間合いで構えていた。


「もう、あなたたちの好きにはさせません・・・。とうっ!」

『タタッ・・・タッ』合体したツバサは、大きく前方へと跳躍した。


「おおっと・・・僕と高さを競おうとしても無駄さ・・・、たあっ!」

『ダダッ・・ダッ』とび職は自信満々で、ツバサよりもさらに高く跳躍する。


「奥義・・・真空の壁!とうっ!」

『シュパンッ・・タッ』ツバサは手刀で空を切ると、そこに踏み台があるかのように宙を蹴り、さらに高くへと舞い上がる。


「奥義・・・鷲撃泰覇斬!」

『ピュッ・・・ズゴッ・・・ズンッ』とび職よりもはるか高みから、あたかも大鷲が獲物に向かって急降下するかのように両腕を広げて滑空し狙いを定めると、両掌を頭の上で重ね合わせ、ドリルのように錐もみ状態で回転しながら伸びきったとび職の腹めがけて急降下し、そのまま地面に腰を頂点に折れ曲がるようにV字に突き刺した。


「ぐぉっ・・・。」

『シュタッ』逆立ちした格好のツバサが両手の力で飛び上がって1回転し着地すると、とび職はうめき声を少し上げただけで消滅した。


「ばっ・・・ばかな・・・何でハヤブサが・・・、最高経験値でやってきたというのに・・・。

 ちぃっ・・・、今日のところはここまでにしておいてやる!」


『フシュッ』またもや情けない捨て台詞を残して、農夫の体は中空へと掻き消えた。

 瞬間移動したのだろう・・・・。


『パチパチパチッ』「いやあ、流石ツバサさん・・・、変な町人も倒せましたね。

 それにしても・・、さっきのは何ですか?2人のツバサさんが重なったように見えましたが・・・。」

 テレビスタッフが拍手をしながら近寄ってこようとする。


「詳しくは説明できませんが・・・、急ぎましょう・・・シメンズの皆さんのことが心配です。」

『タタタタタタッ・・・カチャッ』ツバサはスタッフを遮りながら、すぐに道まで戻って中継車に乗り込んだ。


「はっ・・・そうですね・・・。

 はいっ・・・はい、そうですか・・・、了解しました、すぐに出発します。

 おいっ・・・行くぞっ!


 どうやら緊急生中継は大成功のようだ・・・、凄い視聴率を出したようだぞ・・・。

 すぐにツバサさんとともに、シメンズを救出に行くよう指示が出た・・・ここからは今晩の放送に切り替える。」


『ガチャッ・・・ブロロロロッ』本社からの通信が入ったのだろう、インカムを通して通信をしていたテレビスタッフは、すぐにカメラマンを呼び寄せ一緒に中継車に乗り込み、発車させた。


(行ってきます・・・)中継車の窓から後を見るツバサの視線の先には、ポータブルテレビを手に持つ両親の姿があった・・、恐らく放送を見ながら場所を特定していたのだろう。

 合体したツバサの先行きを祈るように、両手を合わせて拝んでいるようだ・・・。



『コンコンコンコンッ』「おーい・・・どうだ?どこか抜けられそうな場所はありそうか?」

 ヘッドカメラ用のライトで照らしながら壁を木づちで叩き打音を確認するのだが、めぼしい場所は見つかりそうもない・・・上方の源五郎と下方のレイに声をかける。


 落とされた先は10畳ほどの広さがある、地下数十mくらいの地点だろう。

 源五郎がロープを付けた矢を、俺たちが落ちてきた落とし穴の天板に射かけ、それを3人で思いきり引っ張ったのだが、天板はびくともしなかった。


 しかたがないので他の脱出ルートを探ることになり、源五郎と俺はロープを伝って昇り、上方の壁の様子を確認しているのだ。


「ウーン・・・天板すぐ下から十mほど確認しましたが・・・、どうにもそれらしきところはありませんね。」

 上から源五郎の声が返ってくる。


「そうか・・・こっちも中間地点から十mほど確認してみたが、四方コンクリートの壁のようだ。

 レイの方はどうなんだ?」


 俺の担当部位も芳しいところは見つかっていない・・・そりゃあそうだろう・・、こんな深い落とし穴の中間部分に抜け穴など作るはずもない。


「うーん・・・どこもコンコンだったりカンカンだったり・・あるいはゴンゴンだったり・・・、高い音がするところはどこにもないよ。」

 下からレイの返事が・・・うん?カンカン・・・ゴンゴン・・・?


「れっ・・・レイッ・・・その・・・カンカンだったりゴンゴンだったりする場所は、同じ壁なのかい?」

 すぐに確認する。


「うんそうだよ・・・同じ壁・・・他の壁はぜーんぶコンコンって音だけだけど・・、こっちの壁だけはカンカンって、下の方だけはするんだけど・・・、すぐ上からはもうゴンゴンって音しかしないの、残念だね・・・。」


 ありゃりゃ・・・そうか・・レイには打音確認の詳細は説明していなかったな・・・、ただ単に金属音のような甲高い音がする場所がないかどうか、木づちを使って確認するよう言っていただけだった。


「源五郎っ!」

「はいっ」

『シュルシュルシュルシュル・・・・・タッ』すぐに源五郎と一緒にロープを伝って急降下する。


「ゴンゴンって音がするのは、どこの壁なんだい?」


「うん?ここだよ・・・でも、ゴンゴンじゃダメなんでしょ?もっと高い音がしないとだめでしょ?」

『ゴンゴンゴンッ』レイは、側方の壁中央を木づちで叩いて見せる。


「おっ・・・おお・・・、ごめんな・・・ちょっと説明が悪かったようだ・・・。

 こっちの壁は、他の壁と比べると音がちょっと違うだろ?

 つまり他の壁とは材質が違うということなんだ・・・、そういった壁を探していたわけだな・・・。


 まあ俺たちを閉じ込めるんだから薄い木の板なんて使う事はないだろうと考え、金属板でふさいでいるんじゃないかと想定していたんだがね・・・、ちょっとでも他と違えばそこを調べてみた方がいいわけだ。

 ちょっとどいてくれ。」


「う・・・うん・・・。」

 レイに傍らに移動してもらい、異音がする壁にライトを当てて確認する。


『コンコンカンカンゴンゴンカンカンゴンゴン・・・』木づちを使って壁の面位置を変えて順に叩いて行ってみる。


「ふうむ・・・周囲はコンクリートの壁のようだな・・・、そのうちの幅1mくらいで高さが2mくらいの部分だけ異音がする。

 異音がする部分の周辺だけ甲高い金属音で、中央部に行くほど鈍い音になるという事は、周辺部でこの部分を支えていて、中央部分の向こう側は空洞の可能性が高い・・・、つまりは脱出口だ。


 問題は、どうやってこの脱出口を開けるかだな・・・、俺たちは高い経験値で来ているし身体能力も優れている。

 しかし俺たちは冒険ゲームのキャラだから、あくまでもその使い道はターゲットである魔物を倒すため限定とされているようだ。


 レベルの低い魔物たちの攻撃など、かすり傷にもならないのに、こんなふうに高いところから落ちてきた時にうまく着地できなければ、それなりに痛い思いをするというのは、高い防御力の大半は、恐らく戦闘時にのみ生かされるものと想定される。


 ダンジョンの移動の際に高速で走ることは出来るのだが、この壁に思いきり体当たりしても、恐らく壁をぶち破ることはできないだろう・・・俺たちが落とされた、遥か上の天板をいくら引っ張っても開けることが出来なかったのと同様だろう。


 怪我をするのがおちだ・・・、日常生活的には、さほど超人ではないといえるのかもしれんな。」

 他と違う場所を見つけることはできた・・・、後はいかにしてここから脱出するかだが・・・。


「ふうむ・・・、金属製のシャッターじゃないですかね。

 シャッター枠の近くでは金属音がしますが、真ん中へ行くにしたがって音が鈍くなります。


 鋼鉄の矢じりを使えば・・・恐らくこのくらいの壁なら突き通すことは可能と考えますが・・・、人が一人通れるだけの大きさを切り取るように矢を射かけるには・・・、今の僕の矢袋の在庫では・・・ちょっと難しいですね。」


 源五郎が鋼鉄の矢が入っている矢袋を開いて見せる・・・、結構いろいろな場面で活躍しているからな・・・、毎回の戦闘で3本ずつしか発生しないのだから、上手く節約してため込んでいるのだろうが、それでも数十本もなさそうだ。


「シャッターか・・・シャッターなら開閉できるはずだから・・・、持ち上げられるんじゃないか?

 と言っても・・・、持ち手がどこにもないな・・・。」

 壁を見る限り、どこにも手を差し込むような場所は見られない。


「多分・・・向こう側からだけ開けられるのでしょう・・・、恐らくロックもかかっていると思いますよ。

 そうなると・・・、僕たちの力だけじゃあ開けるのは難しいですかね・・・。

 なにせ、そんな怪力・・・設定していないですからね。」


『ゴンゴンゴンゴン・・カンカンカン』源五郎が何度も木づちで打音確認する。


「ふうむ・・・完全な落とし穴じゃあゲームとして成り立たないから、一応脱出口は作っているわけだな。

 何とかして壁を打ち壊すような手が・・・。」


『ガツンガツンガツンッ』鋼鉄の剣の先でつついてみる・・・が、傷もつかないし穴など開きそうにない・・、思い切り突けばどうなるかわからんが・・・、そうすると鋼鉄の剣が使い物にならなくなる恐れがある。


『ゴーンッゴーンッ』鉄の大ハンマーで叩いてみてもだめ・・・、『ガツンッガツンッゴギッ・・・』雷魚の時に使った、クジラ漁用の銛で思いきり突いてみたが、銛の先が欠けた。


 こうなるとバーナーで焼き切るしかないが・・・、溶接や高圧ガスの管理者免許を持っていない俺は準備していない・・・、コスチューム屋に装備があったかどうか確認もしていないのだ・・・。


「あーっ・・・そういえば・・・ジャッキはどうでしょう?

 車のタイヤ交換に使うジャッキなら、あれなら油圧を使って重いものを持ち上げられますよ・・・。」


 じっと考え込んでいた源五郎が声をあげる・・・、なるほど・・・中継車がまた故障したときのために、帆船の車庫にあるメンテ用のジャッキを分けてもらっていたのを思い出したようだ。

 中継車で使う乗用車用は無理だったが、使う予定のないトラック用のものを、俺と源五郎が1台ずつ分けてもらったのだ。


「ようし・・・早速やってみよう・・・。」

『カチャカチャカチャ・・・ゴンゴンゴンッ・・・ズズッ・・・』ジャッキを一番下まで下げ、シャッターと思われる壁の床面にセットして、ジャッキの先端を壁に突っ込もうとする。

 何度かトライしてようやく押し込むことが出来た。


『カチャカチャカチャ・・・』そうしてジャッキをあげるべく持ち手を必死に上下させる。

『・・・・・・ギギギ・・・ミシミシミシッ』しばらくすると、壁が悲鳴を上げだした。


 ジャッキの爪を押し込んでいる部分だけが、鈍い音とともに盛り上がってきたように感じる。

『ビリ・・ビリ・・ビリ・・ビリッ』そうして爪の部分だけが、5センチほど持ち上げられた。


「うーん・・・・、シャッターなのかな・・・?

 ジャッキを差し込んだ部分だけが変形しているように思えるのだが・・、少し位置をずらしてみるか・・・。」


「はい、そうですね・・・一ケ所だけだとシャッターが変形してしまい、余計に開けられなくなる可能性もありますからね。」


 源五郎がジャッキを差し込んでいる部分も、俺のところと同じように、開いているというより、爪の部分だけが盛り上がって変形しているだけのように見られる。


『カチャカチャカチャ・・・ゴンゴンゴン・・・ズズズッ』ジャッキを下げて、10センチくらい横に移動させてからまたもや壁の下側に押し込んでいく。

『カチャカチャカチャ・・・・ギギギ・・・ミシミシッ』そうしてジャッキの持ち手を、必死で上下させると、少しずつ持ち上がっていく・・・。


「うーん・・・なんか、これであけられるとは思えないけどなあ・・・、あたしが魔法でこの壁を壊してみようか?

 ら・・・」

 地道な作業を見ていることに焦れたのか、突然レイが立ち上がって魔法を唱えようとする。


「だめだレイ!魔法は危険だ。」

『もがもがもが・・・』すぐに振り返ってレイの口を押さえ込む。


 ただでさえ狭い場所で3人が接近しているし、更に魔物でもない標的にうまく魔法がヒットするとは到底考えられない。

 その流れ弾で俺たちが全滅してしまう確率の方がよほど高い・・・。


「悪いがレイはおとなしく見ていてくれ・・・、いずれこの場を脱出できれば、レイの魔法を使う場面は存分にあるだろうから、それまでは我慢してくれ・・・いいね?」


「はーい・・・わかりましたぁ・・。」

 レイは少し不満そうでいたが、これまでにもレイの魔法で何度か危ない目に合っていることがあるためか、無理に主張しようとはしないようだ。


『ビリ・・・ビリ・・・ビリッ』やはりここでも爪の部分だけが盛り上がって変形していくようだ・・・。


「うーん・・・困りましたね・・・金属の板壁でしょうかね・・・?これじゃあ脱出ルートとは評せませんよね。

 ジャッキの爪を差し込める場所も限られているようですし・・・、位置をずらすことも難しそうですよね。」


 源五郎が腕を組んで考えこむ・・・そうなのだ・・・、床と壁の隙間にジャッキの爪の先端を押し込むのだが、場所によってどれだけ突っついても入っていかない場所があるため、爪を差し込める場所も限定されるのだ。


「もう少しあげてみますか?」

 源五郎が提案する・・・、ジャッキは5センチほどあげて止めているが、もう少しなら上げ代はありそうだ。


「そうだな・・いっぱいまで上げてみるか・・・。」

『カチャカチャカチャ・・・ビリ・・ビリ・・・ビリ・・・』ジャッキの持ち手を上下させ、さらに上げていく・・が、ただ単に盛り上がった変形が大きくなって壁の下の部分だけがゆがんでいくようだ。


「うーん、これだけしか上がらないよな・・・所詮は車のジャッキだ・・・、パンク修理で車を持ち上げる時に使うものだから、人が通れるほどには上がらない。」

 どのみち爪幅だけしか上がってはいかないのだが、それでも十センチちょっとくらいしか上がっていないように見える・・・、これでは何もできそうもない。



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