表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/202

救出へ

1 救出へ

 理由はわからないがテレビスタッフが自分に会いに来ている・・・恐らくサグルさんたちの冒険に関しての用事だろう・・・、昨日までの2日間の冒険の様子を見ていても随分危なっかしい状況であった。


 確かに自分と一緒にクエストをこなしていた時でも、危ない場面はないことはなかった。

 しかし、どう贔屓目に見ても自分が抜けてからのクエストは、メンバーの命に係わる場面が多くなってきていたように感じる。


 そうして・・・いつも彼らの近くにいるはずのテレビスタッフたちがこの場に来ているという事は・・・、彼らの身に大きな危険が降りかかり、そうして助けを求めに来ているに違いはないのだ。


 だがしかし・・・当初シメンズの冒険の大ファンだといっていた町長もその息子も、手のひらを反すように彼らのことを無頼漢呼ばわりしているから、恐らく取り次いでくれるはずもない。

 無視して自分で出て行こうかとも考えたが留まった・・・すでに玄関には町長の息子が出てきて、なかなか納得せずに立ち去らないテレビスタッフを追い返しにかかっているからだ。


「だからツバサさんは、今は隣町へ結婚式の買い出しのために出かけております!

 買い物には時間がかかるので、本日中に帰宅するか明日になるかわかりません!

 それにツバサさんはもはや冒険者ではなく一般の市民なのです・・・どうか彼女を再び悪い道へと誘わないでやってください。」


 ついには町長自ら出てきて、テレビスタッフを追い返そうとし始めた。

 大声で叫んでいるので、2階のガラス窓越しでも会話の内容が聞こえてくる。


「分かりました・・・お留守なら仕方がありません・・・、では伝言をお願いいたします。」

『ブロロロロロッ』あきらめたのか、伝言を頼むと中継車はそのままUターンしていった。

 それを見てツバサは仕方なく、2階の窓を音をたてないようにそっと開けた。



「まいったね・・・ツバサさんはこの家にはいないの一点張りで・・・、だって町長宅だろ?

 町長の息子のお嫁さんになったわけだから・・・家にいるはずなのに・・・、どうしてあんなうそをついてまで、我々を追い返そうとしたのか・・・。」


 帰りの中継車の中で、いつものテレビスタッフがこぼすようにつぶやく・・・。


「理由はわかりませんが、あそこまで突っ張るという事は、ツバサさんは本当に留守なのでしょう・・・、玄関先であれだけ騒いでいたのだから、いれば出てきましたよ。」


「そうですよ・・・でもよかったですよ・・・あまり粘らなくて・・・、中央から何時までも町長宅にいないで、すぐに戻ってシメンズの冒険中継準備にかかれと、矢のような催促が来ていましたからね。」

 スタッフの部下たちは、早めに切り上げて引き揚げたことを喜んでいる様子だ・・・。


「うんっ?」

『キキィッ・・・』しばらく走っていると突然急ブレーキがかかり、中継車が停まる。

 どうしたのかと前方を見ると、そこにはワンピースドレスにエプロン姿の美少女が立っていた。


『ガチャッ』「ツバサさんじゃないですか・・・?

 一体どこへ出かけられていたのですか?」

 すぐにテレビスタッフは中継車のドアを開け、ツバサに声をかける。


「ごめんなさい・・・でも、すぐに追いかけてきたのですよ。」

 とりあえず、家人に居留守をつかわれたことは内緒にしておく。


「それよりも・・・どうされたのですか?

 昨日の放送最後の予告編で、パラボラアンテナ施設門扉に磔状態にされてしまったようですが、あそこから脱出できなくなっているのでしょうか?


 まさか、すでに全滅してしまっているとか?」

 まずはシメンズの冒険の現状確認をしておく・・・昨晩は日ごろ行わない予告編があったので、気になって気になって、客間の寝室に入るのがずいぶんと遅くなってしまったくらいだ。


「ああ・・・からみ蔦の件は・・・何とか無事脱出しまして、魔物も退治できたのですが・・・、その翌朝・・・つまり昨日の朝ですが・・・、パラボラアンテナ施設へ向かって行っている最中に、建物の玄関先で穴に落ちてしまいまして・・・。


 そこが開閉式の落とし穴のようになっていたようでして・・・電波も届かなくなってしまい、その後彼らがどうしているのか分からない状態なのです・・・。」

 テレビスタッフが昨日朝の状況を思い出し思い出し、モニターで確認したまま伝える。


「落とし穴・・・ですか?」


「はい・・落とし穴です・・・落ちた当初は電波も何とか届いていて・・・、遥か見上げるほどの高さから落ちてきたということは、彼らが見上げた時の映像から察しがつきました。

 ですが・・・すぐに天板・・・と言いますか、落とし穴を覆っていた扉が閉じてしまいまして、その後は電波も届かず、彼らがどうしているのか全く分かりません。


 我々は安全のために遊覧船乗り場まで戻るようリーダーのサグルさんから指示が出ていまして・・・、どうせだったら一晩中遊覧船に乗っていようと・・・、なにせ船なら広いからきちんとベッドで寝られますからね・・・。

 更に、洞窟で中継車はかなりダメージを受けたものですから、その修理がてら遊覧船に乗船していたわけです。


 我々もタダ券を頂いた次第でして・・・、そうして今朝ほどペレヘス湖の南岸に到着して北岸へまた遊覧船で戻ろうとしていた時に、彼らが罠に落ちたことを知った次第です。


 これは大変と考え、すぐに助けをお願いしようとツバサさんのもとを訪ねたわけです・・・出会った当初の放送を見る限り、町長も町長の息子さんもシメンズの冒険にご理解がある様子でしたからね。」


 テレビスタッフが頭をかきながら告げる・・、シメンズからの映像電波が届かなくなって、これは一大事と助けを求めに来たという事だ・・・、まさかむげに追い返されるとは考えてもいなかった様子だ。


「そうですか・・・私も昨晩の放送を見て気になっていたところだったのですが・・・、あの場面を切り抜けた後に、罠に落ちたわけですね・・・。

 分かりました・・・一緒に助けに向かいましょう。


 シメンズとして冒険の旅を続けることはもう叶いませんが、近くにいることですし、今なら彼らを救いに行くことは可能です。」

 すぐにツバサが答える。


 家を勝手に出てきてしまったが、後で事情を話せば町長の息子も納得してくれるだろう・・・なにせ大切な仲間であるシメンズメンバーの窮地なのだ・・、ツバサが行って助け出すことが出来れば、そのまま一緒に戻ってきて結婚式にだって出席してくれるだろうし、まさに一石2鳥なのだ。


「それは助かりますが・・・、その格好で行くのですか?」

 テレビスタッフが、いつもとは全く違うツバサの格好を眺めながらため息をつく。


 膝までの丈のスカートのワンピースに、割烹着式のエプロンを付けた、いかにも新妻といったいでたちなのだ。

 ツバサはもちろんもっと動きやすいジャージにしたかったのだが、格式高い町長家の新妻は普段からそれなりの格好をしていなければならないと、こんなよそ行きとしか思えない服を部屋着として着せられているのだ。


「ああ・・・それなら大丈夫です・・・冒険者の袋も持ってきましたし、途中防具屋に寄って修繕を終えた胴着も回収してきました。

 すみませんがすぐに出発してください・・・、中継車の中で着替えます。」

 ツバサはそういって冒険者の袋を見せると、中継車に乗り込んだ。


「ありがとうございます!」

『ブロロロロッ』笑顔でテレビスタッフは頭を下げると、ツバサと一緒に中継車に乗り込み発車させる。

 ツバサが着替え中は絶対に後ろを振り返らない、中継車のルームミラーも覗かないという約束が徹底された。



『キッキィッ』そうして、しばらく走ったところで、またもや突然急ブレーキがかかる・・・見ると前方には2人の人影が・・・。

 精悍な顔つきの若者と、太鼓腹の中年男の2人が中継車の前に立ちふさがっている。


「どっ・・どうして・・・。」

 ツバサには、どうして彼らがこの場所にいるのか、どうしても理解できないでいた。


 自分であれば、安全運転している中継車より少しは速く走れるので、何とか先回りすることはできた。

 だが、それは日ごろからの鍛錬により身に着けた、いわば超人的力の賜物なのだ。


 それなのに一体どうして、ただの一般町人であるはずの彼らがここに?よほどスピードが出る車でも持っているのだろうか?町長宅にはガレージなどなかったが・・・、そう思いながらツバサはシートから立ち上がる。


『ガチャッ』「どうしたのですか?あたしを探していましたか?」

 中継車の扉を開けると、なるべく平静を装って問いかける。


「だめだよぅツバサ・・・僕は君に言ったよね?シメンズのような無頼漢たちのことは早く忘れて、家に慣れてほしいって・・・、君は頷いてくれたはずだったのに、どうしたというんだい?


 テレビ局のスタッフたちが尋ねて来ただけで、君はもう心変わりしてしまったとでもいうのかい?

 僕を置いて、また冒険の旅に出てしまうというのかい?」

 町長の息子は猫なで声のような甘ったるい声色で、逆にツバサに問いかけてきた。


「あたしは・・・心変わりなどしていません・・、ですが・・・仲間たちのピンチなのです・・・。

 彼らはあたしの力を必要としているのです・・・あたしがすぐに行ってシメンズを救い出さなければ・・・、その後すぐに戻ってくるつもりでした・・・どうせ結婚式はすぐそこですから、彼らを迎えに行くついでと考えてください。」


 ツバサは何とかこの場は穏便に済ませるつもりでいた・・・、感情的になられると困るので、あくまでも冷静に受け答えする。


「だめだ・・・ツバサには魔物たちとの戦闘なんて似合わない・・・、君は家の庭に咲き誇る花の世話をしているのが一番ふさわしいんだ。

 怪我でもしたらどうするんだ・・・?そんなことで僕を悲しませないでくれ・・・。」

 しかし町長の息子は、勝手に作り上げたツバサ像を主張し、頑なに首を振る。


「ごめんなさい・・・あたしの身を案じてくださることはありがたいのですが・・・、あたしなら大丈夫です。

 それなりに鍛えていますし、どんな場面でも対処できるよう訓練もしています。

 ですから、あたしを信じてください・・・必ず戻ってきます。」

 ツバサはそういって頭を下げる。


「だめだといったらだめだ!君はシメンズメンバーの危機と行っているが、今シメンズメンバーがどのような状況にいるのかわかっているのかい?

 そうして彼らが助けに来てくれと、君に要請してきているとでもいうのかい?」

 それでも町長の息子は頑として聞き入れない・・・更にシメンズが助けを求めているのか問いただそうとする。


「そ・・それは・・でも・・・彼らが今朝、ダンジョン前の落とし穴に落とされて通信を絶ったのは事実です。

 テレビスタッフさんに教えていただきました。


 とても深い穴のようでして・・・以降彼らからの通信は途絶えています・・・、ですので彼らは閉じ込められたまま、窮地にあえいでいるはずなのです。

 あたしが助けに行かなければ・・・。」


 確かにサグルたちに助けを直接要請されているわけではないのだが、それでも通信が途絶えたことを危惧してテレビスタッフが自分に助けを求めに来たのは事実なのだ。

 その要請に従って自分はシメンズを助けに向かおうとしているのだ。


「そんな理由じゃあ行かせられないなあ・・・シメンズメンバーが自分たちの戦いを見せたくなくて、カメラのスイッチを切っているだけかもしれないじゃあないか・・・、今までにもあったよね?


 中央諸島の時の湖の中の沈没船のクエストは音声だけだったからね・・・、更に東部大陸北部のパラボラアンテナ施設のクエストに関しても、地下ダンジョンから地上へ出る場面では途中で映像が途切れていたはずだ・・・、あんなことは日常茶飯事ではないのかい?


 君は気にしすぎなんだよ・・・というよりも、早くも僕との退屈な生活に飽きて、刺激的な冒険生活に戻ろうというつもりなのかな?」

 しかし町長の息子は、状況証拠だけでは納得しない・・・どうしてもツバサを行かせるつもりはない様子だ。


「申し訳ありませんが・・・ここでこのまま議論を続けていても無駄です・・・、あたしの気持ちはあなたがどうおっしゃろうとも変わりません。

 あたしはシメンズを助けに向かいますし、そうしてその後彼らとともに戻ってまいります。


 このことで、あなたがあたしのことを見限るのであれば、それはそれで仕方がないことだと思いますし、あたしは甘んじてそのことを受け入れるつもりです。


 ですが・・・あたしがあなたとお別れしたくて彼らのもとへと向かう理由を探しているとは、考えていただきたくはないのです。

 どうか、お願いいたします。」


 ツバサはそういって再度深く頭を下げる。

 これで町長の息子との縁談が破棄されても仕方がないことだと、自分では納得していた。


「それはいかんなあ・・・我々の目的はツバサをシメンズメンバーから引き離すことだからな・・・、だから君をここから先へと進ませるわけにはいかないのだよ。」


『ドロンッ』それまで押し黙っていた太鼓腹の町長がようやく口を開くと、すぐにその姿が煙に包まれ、以前出会ったことのある姿に変わっていた。


「あっあなたは・・・。」

 ツバサは絶句する・・・その姿は紛れもなく中央諸島のトシミ達がいた沈没船の湖で、ボート小屋にいた管理人というか農夫姿の男その物であった・・・。


 農夫は手に持つクワを構えてツバサに詰め寄ってきたので、ツバサは仕方なく道のすぐわきの草原へと逃げ込んだ。



「どうします?」


「おお・・・これはいい・・・、どうせ今の時間帯は地球からの電波が受信できない時間だから、昨晩のビデオ放送をどこの局でも流しているはずだ。

 冒険放送の番外編として独占中継するとしよう・・・生放送だ・・・。」


「ええっ・・・でも・・・ツバサさんにはまだヘッドカメラも装着していませんよ。」


「馬鹿野郎!俺たちはテレビスタッフなんだよ・・・、自らカメラを担いで撮影するんだ!

 いつもはそうしていただろ?シメンズの冒険放送だけは、俺たちを危険な場面に行かせられないと、メンバーがヘッドカメラを装着してくれているだけじゃないか!


 すぐに本部に連絡を取るから、カメラスタッフは、すぐに撮影に入ってくれ。」


『はいっ!』

 いつものテレビスタッフが、突然の戦闘シーンにがぜん張り切り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ