町長宅での生活
15 町長宅での生活
『ドンドンドンドンドンッ!』朝早くに、ドアが何度も激しくたたかれ目を覚ます。
「ツバサ!起きたかい?もうメイドたちはとっくに起きて朝食の支度に入っているよ。
ツバサはこの家を取り仕切る立場なんだから、早く行って皆を見てあげないと・・・。」
『シャッ』町長宅の朝は早い・・・カーテンを開けると、まだ2つ目の太陽が昇ってもいない時間にたたき起こされたようだ・・・、恐らくツバサが寝入ってから何時間も経っていないだろう。
『ガチャッ』「おはようございます・・・では急いで厨房に参ります。」
すぐに身支度を整えると、廊下に出て町長の息子に挨拶をして、階下へ向かおうとする。
「ああ、頼むよ・・・、それから部屋はもう一緒の部屋で寝た方がいいんじゃないんかい?
僕の奥さんになったというのに、客間で寝ていてはメイドたちも不審がるだろ?」
すでに起きて活動していたのか、町長の息子は寝間着ではなく部屋着に着替えていた。
「でも・・・まだ式も上げてはいませんし・・、やはりきちんとした手続きを踏んでからでないと・・。」
実際のところ、まだ出会って3日しか経っていないのだ・・・人を愛することに時間はいらないとはいえ、それでも結婚という事になると、それなりの手続きが必要と、ツバサは考えている。
「ああ、そうだね・・・結婚式は来週の日曜日に決めたよ・・・ちょっと急だけど、きちんとしておきたいからね。
来賓への案内状も、今日中に送るつもりだ。
忙しくなるが、お互いに頑張ろう。」
町長の息子は笑顔で答える・・・、そうか・・・結婚式の準備で忙しいのだろう・・・ツバサは未来の夫のさりげない心遣いに感謝した。
「そうですね・・・来週の日曜なら、恐らくシメンズメンバーたちはまだこの大陸にいるはずですし、招待できますね!」
ツバサが笑顔で答える・・・いくらあまり町長や町長の息子がよく思っていなくても、これまでツバサが苦楽を共にしてきた大切な仲間たちなのだ・・、いくらなんでも招待しないわけにはいかないだろう。
「ああ・・・・彼らを招待することは・・・別にいやではないのだが・・・、彼らだって冒険を先へ先へと進める必要があるわけだろ?
それを邪魔するわけにはいかない・・・。」
ところがシメンズのことも考慮してくれたと思っていたのだが、町長の息子はシメンズを招待することを賛成してはくれそうもない。
「でも・・・やはり招待しないという訳には・・・、この世界の中ではあたしにとって唯一の身内ともいえる存在ですので・・・。」
それでもツバサは何とか食い下がる。
「うーん・・・そうだね・・・、父さんが何というか・・・。
とりあえず招待状は送ってみるよ・・・、彼らだって忙しければ欠席を望むかもしれないしね。」
招待状を送ってくれることは承諾いただけた・・・招待状が届けば、彼らがそれを拒否することはあり得ないと、ツバサは確信しているので、少しほっとした。
「では・・・、厨房へまいります。」
ツバサは町長の息子と別れて、階下の大きな厨房へと向かった。
屋敷も大きいのだが厨房も大きい・・・恐らく100畳はあるだろう、食堂も広く豪華だったが、それに見合うだけの広さは十分にある・・・、町長と息子2人だけの家族のように考えているのだが、これだけの設備と人が必要なのか疑問に感じる。
その中をたくさんのコックやメイドたちが駆けまわっているようだ・・・、とりあえず目の前を横切ったメイドに声をかけてみる。
「おはようございます・・・あたしはツバサと申します。
この度、町長宅に嫁いできまして厨房を預かることになりました・・・、この厨房の責任者の方はいらっしゃいますか?」
「忙しい忙しい・・・ああっと・・、これはこれはどうも・・・奥様でいらっしゃいますか・・・。
それは助かりました・・私の方こそ、この厨房の責任者の方を教えてほしいくらいでして・・・。
この家にお仕えするようになってすでに半年が経過しておりますが、いまだに私が何をすればいいのか、その指示を出してくださる方に出会っておりません・・・、なので何をしていいのか・・・。
ですが・・・ここにいる方たちは、皆さん忙しそうに毎日動き回っておりますので・・・、仕方なく私も一緒になって、忙しそうに動き回っている毎日でして・・・。
ご期待に沿えず申し訳ありません・・・では・・・。」
そう言い残して若いメイドは、また忙しそうにその辺を歩き回り始めた。
「ふうっ・・・、あの・・あたしはツバサと申します・・・。」
その後、厨房にいる大半のメイドとコックにも声をかけてみたが、誰もが答える内容は同じだった。
誰も指示するものが居なく、それでも周りに合わせて忙しそうに動き回っているだけなのだと・・・、それでもお給金はきちんといただけているので、不満はないという返事ばかりだった。
食事時に出される料理はどうしているのか聞いたところ、料理は全てその時間になると食堂壁のゲートから出現してくれるので、ただそれを配膳しているだけという事だった。
つまり出来合いを只ならべているだけで、恐らく5,60人はいると思われる大人数を使用しているのである。
何たる無駄・・・と、ツバサはあきれてしまった。
と、同時に、このような事態だからこそ、ツバサにこの場を取り仕切ってもらいたいのだと、改めて自分の役割の重要性を認識した。
『カチャッ』何もさせることがないからと、これだけの人数を一気に縮小するわけにもいかず、とりあえずこの厨房の機能を果たそうと、料理するための食材を確認しようとしたのだが、冷蔵庫の中は空っぽだった。
まずは食材の調達から始めなければならない・・・、その後、調理経験のあるコックやメイドを選別して調理に当たらせる計画を立てる必要性がある。
食材の販売元など分からないことが多すぎるので、町長の息子と食事の時にでも相談しようと決めた。
「ああ・・・・コックやメイドたちの仕事に関してだね・・・。
いいんだよ・・・彼らは今のままで・・・、忙しそうに動き回っているだろ?それだけで十分なのさ。
別に調理しなくてもこうやって食事は毎日届くわけだし、何も気にすることはない。
大体そんなことを言ったら、部屋付きのメイドたちだって、とりわけ掃除とかしているわけでもなんでもないからね・・・、奴らは箒やはたきを手に持って、ただひたすら廊下や各部屋を歩き回っているだけだから。
別に埃が溜まるわけでも、ごみなどがその辺に散らかっていくわけでもないわけだし・・・、今のままで十分なのさ・・・、それがこの世界の日常さ・・・。」
ところが、ツバサが今後の対応を相談したときの町長の息子の答えは、想像していたものとはかけ離れていた。
恐らく百人は優に超えているであろう、この家の使用人は誰一人としてまともにその役割を果たそうとしていないのだ・・・、しかもその雇人である町長の息子がそれを認めてしまっているようだ。
「でも・・・、それでは・・・あたしが何をすればいいのか、分かりません・・・。」
メイドやコックたちを束ねるように指示されていたはずなのだが、それを相談すると今のままでいいと答える。
いったい彼はツバサに何を期待しているのか?
「ああ・・・だからツバサも彼らと一緒になって、毎日毎日忙しそうに厨房や部屋部屋を歩き回っているといい。
そうしていれば、来客の際でもそれらしく見えるだろ?
そんな生活を一緒に送って行こう。」
町長の息子が笑顔で答える・・・、なんともはや・・・とんでもない提案だ・・・。
そんなくだらないことをさせるために、ツバサのトレーニングをやめさせようとしていたのか・・・だんだんとツバサも腹が立ってきた・・・。
「あたしは・・・人それぞれに役割を持っていて、それぞれが自分の役割を果たすことによって、この世界が成り立っていくのだと思っています。
ですので・・・コックさんやメイドさんたちに、きちんとした役割分担を与えて、本来の仕事についていただくのがいいのだと考えます。
もし彼らが働くだけの仕事がこの家にないのであれば、彼らを解放してあげるべきだと考えますし、何だったらこの家で調理した食材を、近隣の人たちにふるまってもいいわけです。
今は中断してしまってヨースルなど遠くからやってきていた人たちは一旦帰ってしまいましたが、シメンズの方たちが必ずパラボラアンテナ施設の魔物たちを退治してくれますから、その時には人々が戻ってきて、またこの町も人で埋まってしまうのだと思います。
その時にそのような人たちに、食事や宿泊先の世話をしてあげられればいいのではないでしょうか?
アンテナ工事もはかどるでしょうし、何よりこの町の評判が上がりますよ。」
ツバサはあくまでも、この家の使用人たちをきちんとした業務につかせるつもりのようだ。
「あっああ・・まあ・・・、そういった考えも悪くはないねえ・・・ねえ父さん?」
「あっああ・・・そのような方策も考えられんこともないな・・・、パラボラアンテナ施設の工事が再開したら、考えてみんこともないぞ・・・。」
「ありがとうございます・・・ではその遠くない未来のために、コックさんやメイドさんたち個別に面談して適性を判断していきたいと考えます。」
取り敢えずツバサの提案をなんとなく受け入れてくれたのはありがたい・・・、明日から忙しくなるぞ・・・とツバサは気を引き締めた。
その日も夜遅くにツバサは、サグルたちシメンズメンバーの冒険放送の録画を一人だけで鑑賞した。
その光景は非常に危なっかしいものだった・・・今度は源五郎が背後からの不意打ちを食らって倒れてしまう・・・、身代わりの指輪があったからよかったものの、なければ彼は消滅していたはずだ。
さらに翌日放送分という事で、パラボラアンテナ施設門扉のからみ蔦の冒険予告が最後に流される。
一瞬の油断の隙をつかれて門扉に磔状態になってしまったシメンズメンバーたち・・・、さあ、彼らに明日はあるのか・・・というテロップが、不安をあおる・・・。
こんな気持ちになるのなら、彼らと離れるのではなかった・・・と後悔しきりだった・・・。
それでも彼らなら、どんな状況でも立ち向かって解決できるのだと、彼らを信じることにより気持ちを奮い立たせた。
そうして翌朝から、コックたちとメイドたちの適正診断を始めて行った。
『ドンドンドンドンッ』そうして夕方になったころ、町長宅のドアが激しくノックされる。
「はーい・・・。」
「奥様は、出て行かなくても大丈夫です・・・、私たちが対応いたします。」
玄関へ向かおうとするツバサをメイドが引き留め、代わりに別のメイドが玄関へと足早に向かった。
「いえ・・・今はそのような事は・・・、残念ですね・・・お引き取り下さい・・・。」
どうやらメイドは来た客をそのまま追い返している様子だ・・一体どうしたのか?
すぐにツバサは2階へ上がって玄関の上の部屋の窓から見下ろすと、そこにはパラボラアンテナが取り付けられたワゴン車が停車していた・・・、テレビスタッフたちだ・・・いったい何が起こったというのだ?
続く
ツバサはシメンズメンバーと別れて町長の息子と新生活が始まりました。そこへやってきたテレビスタッフたち・・・彼らの目的は?そうして深い落とし穴に落とされたシメンズたち一行の運命は?




