ライガー蝙蝠
11 ライガー蝙蝠
「リーダーのヘッドカメラ用のライトが消えたようですよ・・・、前方を照らす明かりがなくなったところを見ると、中継車のライトも消えましたかね・・・。」
後ろを振り返ると、源五郎がこっちを見ながら教えてくれる。
まだ源五郎やレイのヘッドライトは灯っているようだ。
『キィーンッ』『パリンッ』『キーンッ』『パリンッ』と思ったらすぐに、源五郎とレイのヘッドライトも消え、辺りは真の暗闇に変わる・・・。
『キィーンッ』「がぅっ!」『ダッ・・・ズバッ・・・』「きゃあっ!」
すると突然中継車の右側で悲鳴が・・・レイだっ・・・。
「どうした、レイ・・・、大丈夫か・・・?」
手探りで中継車を回り込むと・・、レイが倒れているようだ。
「うっうん・・・何かに引っかかれそうになった・・・、慌てて避けたけど・・・ちょっとやられた・・。
でも、これくらいは大丈夫だよ・・・、治療!」
すぐにレイは初級の回復呪文を唱え起き上がる。
「ううむ・・・どうやら魔物の攻撃のようだな・・・、さっきから耳鳴りがしているように思ったのだが、恐らく超音波なのだろう。
ライガー蝙蝠という名の通り、蝙蝠のように超音波を出して暗闇でも自由に動ける魔物ではないのかな。
そのためライトの光を嫌って消した・・・、どうやら超音波は攻撃にも使えるという事のようだ。
俺たちも心眼の訓練はしているから目をつぶってでも相手を感じることはできる・・・、だからレイも何とか直撃を避けられたのだろうが、それでも超音波で相手をはっきりと認識できる相手では分が悪いな・・・。
ようし・・松明を使おう・・・、恐らくライガー蝙蝠たちはこの先に集結しているはずだ・・・。
俺たちが奴らの巣の中に入っていくのを待ち受けているといったところだろう・・・、まずは俺たちの力試しとばかりに明かりを消してから攻撃を仕掛けてみたのだろうが、後ろへ回り込まれたのはレイを襲った一匹だけだ。
まだ取り囲まれたわけじゃあない・・・、囲まれて一斉攻撃を食らう前に明かりを何とかしたほうがいい。
松明の炎であれば、超音波ではなかなか消せないだろうからな・・・。」
すぐに冒険者の袋を探って、松明を数本とりだす。
閉じ込められた時の対策のために、大量に道具屋で購入したものだ。
ランタンとカメラ用のライトがあれば要らないとも思われたのだが、用心のためにあるものは全て複数組準備するようにしているのが幸いした。
すぐに松明に火をともす・・・使おうとすると自動的に火がともるので便利だ。
『カチャッ・・・カチャッ・・・カチャッ・・・カチャッ』中継車の全面と側面に火のついた松明を括り付けていく。
「じゃあ僕も・・・。火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!」
『シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ・・・』源五郎が炎の魔法を唱えながら矢を放つと、着火した矢が壁に刺さり前方が明るくなっていく。
「ぐるぅぁー・・・」
前方には数匹のライオンのようなトラのような、背中に羽の生えた獣たちが炎の明かりに照らされて、うなりながらこっちを睨みつけている。
『キィーンッ』『ピキッ・・・ピッキィーンッ』すると一段と耳鳴りが強くなって、何かが割れる音が・・・。
「大変です、中継車のフロントガラスやサイドガラスにひびが入り始めました。
テレビスタッフが中でうめいています。」
前に出ていた源五郎が、中継車の方に振り返りながら叫ぶ。
「うぐっ!」
確かに強烈な超音波攻撃だ・・・立っているのもつらい・・・、だが・・・このまま何もしなければ、やられてしまう・・・。
『シャキィーンッ』すぐに剣を抜き、何とか歩幅を広げて踏ん張る。
「俺が突っ込むから、援護してくれ!」
『タタタッ・・タタ・・タタッ』そう言いながらライガー蝙蝠たちの群れの中へ、ふらつきながらも突っ込んでいく。
「火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!」
『シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ・・・』後方から炎をまとった矢が俺を追い抜いて前方へと飛んでいく・・。
魔物たちは簡単に避けてしまうが、魔物たちの周りが炎に照らされていく・・・さらに動いているときは超音波攻撃できないのか耳鳴りが和らぐ。
「おりゃあっ!」
『シュッパァーンッ・・・パッパァーンッ』手前にいるライガー蝙蝠を袈裟懸けにたたき斬り、返す刀で飛び跳ねようとしたもう一匹を斬り捨てる。
「がぅあーっ!」
『タタッ・・・』『ぺっかー』「きゅんっ」『シュパッ』2匹目を斬り捨て俺の体が右方向へと傾いた瞬間、左前方の魔物が跳躍して一気に間を詰めて襲い掛かってきたのだが、光の魔法がさく裂し、そのまま落下したところを止めに突き刺す・・・レイ・・・さんきゅー・・・。
『シュッボワッタッ、シュッボワッタッ、シュッボワッタッ』『ぺっかー・・・ぺっかー・・・』
「ぐるぁー!」
『タッ』『シュッパァーンッ』炎をまとった矢や光の魔法が飛び交う中、魔物たちが襲い掛かってくるが、それほど苦労もなく斬り捨てることが出来た。
やはり明るいところでは、ZAレベルの攻撃力しかないのだ・・・。
「いやっ・・ダーリンっ!光攻撃!光攻撃!」
『ぺっかーぺっかー』「きゅんっ!」
前方の魔物の群れをほぼ片付け終わったころ、後ろの方でまたもやレイの叫び声が・・・何だどうした?
すぐに駆け寄っていくと源五郎が倒れていた・・・、大丈夫か?
「やられちゃいましたね・・・、後ろから不意を突かれました・・・。
身代わりの指輪が一個割れちゃいました・・・。」
源五郎が、左手を掲げながらうなだれる。
「よかったぁー・・・ダーリンだったら指輪を何個使ったっていいんだよ・・・。」
レイが嬉しそうに源五郎に抱き着く・・・おいおい・・父親の目の前だぞ・・・。
「まあ・・・致命傷を負った時の身代わりのための指輪なんだから、気にしなくてもいい・・・ということだ。
しかし油断していた・・・、申し訳ない。
さっきレイを襲って後ろへ回り込んだことは気づいていたんだが・・・強烈な超音波攻撃を食らって、どうしても前方の群れを倒す事ばかりに頭が行っていた・・・。
こんな時に・・・あっいや・・何でもない・・・。」
危ない危ない・・・、こんな時ツバサがいてくれたら・・・何てこぼそうものなら、またレイの奴が泣きじゃくってなだめるのが大変だ。
だがなあ・・・やっぱり俺たちは4人いて初めてシメンズなんだ・・・、つくづくそう思うな・・・。
「宝箱がありますね・・・。」
身代わりの指輪のおかげで大事には至らなかった源五郎が立ち上がり、先ほど魔物の群れがいたあたりに宝箱を見つけた。
『ガチャ』「宝剣が入っていましたよ。」
宝箱の中身は、宝剣だった・・・。
「じゃあ、それは源五郎が持っていてくれ・・・どんな効能があるのかわからないが、持っていて損になるような効能ではないはずだ。」
「分かりました。」
源五郎が宝剣を袋の中にしまい込む。
「じゃあ、このままゆっくりと中継車を先導して進むとするか・・・、魔物は恐らく退治してしまっただろうが、車のライトが割られてしまったので、暗い中を高速で走るのは危険だ。
松明の明かりを頼りに、俺たちが先導してゆっくりと進もう。
気になるのは戦闘シーンの映像だな・・・カメラのレンズは小さいし厚みがあるから、簡単には割れないとは思うのだがな・・・。」
あとで先ほどの戦闘シーンを検閲してみるまでは、ちょっと不安だな・・・撮り直しの効かない戦闘だからな。
『ザッザッザッザッ・・・』『ブロロロロロッ』洞窟に入った時同様、俺が中継車を先導して、源五郎とレイがそれぞれ中継車の左右に分かれて進んでいく。
そうして何事もなく10分ほどで先が明るくなってきた。
「出口のようですね・・・、もう大丈夫でしょう。」
『ガチャッ・・・バタンッ』『ブロロロロッ』松明の明かりが不要となり回収すると、中継車に乗り込んで走り出す。
中継車の中は、座席の所々にガラスの破片が飛び散っていて、うっかり座ってしまうと危険な状態だった。
ヘッドカメラ用のライトは予備に交換してもらいカメラの無事も確認できたが、中継車のフロントガラスは左側半分が細かくひびが入って白くなってしまっているし、側面の窓は2枚が粉々になって割れていた。
「じゃあ、片付けるか・・・。」
道具屋で購入しておいた小さな竹ぼうきと塵取りを使って、座席に飛び散った細かなガラスを集めて麻袋にまとめていく。
「こういう時は、これが便利です・・・。」
『ブォー』源五郎が、バッテリーのハンディ掃除機を購入していたようだ、瞬く間にきれいに片付いた。
『ブロロロロッ』洞窟を出ると、街路樹が整備された舗装道路を車は順調に走っていく。
「おお・・この辺りは道がきちんと整備されているんだな・・、まあ、巨大アンテナ施設を建設しているくらいだから、周辺のインフラ整備も計画していたんだろう。
ところが、そこへ行くためのペレヘス湖の南北のフェリー乗り場が魔物たちに占拠されてしまい、使用不可となったわけだ。
しまいに工事もできなくなっていったんだろうけど・・・、だがなあ・・・前から気にはなっているんだが・・・、パラボラアンテナ施設建設は中央からの指示で、周辺の町や村の人々や、果ては平原の魔物たちまで駆り出されているわけだろ?
それなのにどうして魔物たちがその重要な施設を占拠して、工事の邪魔をするんだい?
ストーリー構成として、俺たちが次々とアンテナ施設にはびこる魔物たちを駆逐していって、そうして最終的に地球の放送を24時間受信できるようになりましたー・・・っていう事が成功パターンなのかもしれないのだが・・・、だが、それでどうなるっていうんだ?
単にテレビ放送がたくさん見られるようになるだけだから、すぐに見られるようになった方がいいわけだろ?
ゲームの世界としてクエストを冒険者に与え続けなければならないとしても、別に虎の子のパラボラアンテナ施設を使う必要性はないわけだ・・、もっと適当な洞窟や湖や里山などがいっぱいあるわけだからね。
なのになぜパラボラアンテナ施設なのか・・・、俺たちがこの地へやってきて、受けるクエストの中で余りにもパラボラアンテナ施設に関するクエストが、多すぎると思わないか?
そりゃあ1日中テレビ電波を受信するために、この星の各所にアンテナを立てようとしているとは聞いた。
それにしたって、至る所の建築現場でトラブルが発生しているのはどうしてだ?
そう思うと、ただ単に中央の奴らが次元の向こう側のこの星の住民たちの人気取りのために、地球の放送を受信しようとしているのだが、ところがそれを魔物たちに邪魔されて・・・という構造じゃあないのかとも勘繰ってしまうんだが・・・、それだとどうして魔物たちが中央の奴らの言うことを聞かないのか・・・そこがまた不思議なんだよなあ。
たとえ逆らったところで中央の奴らは魔物たちよりはるかに強い、最大経験値でやってきているわけだからなあ・・・、逆らう魔物たちは駆除するなり懲らしめるなり出来るはずだ・・・、なのになぜ?」
どうにも日ごろから頭を悩ませている疑問点を、とりあえず列挙して口に出してみる。
この冒険の世界がおかしくなっているというのは紛れもない事実なんだが、そのおかしくなり方が、これまた理解しがたい様相を呈しているのだ・・・、一体どうなっているのか・・・?
それぞれが自分勝手に好きなことをやっているとしか思えないような、ちぐはぐな状況を想定させる。
いつもなら身内だけで小声で話すのだが、どうにも答えに辿り着きそうもないので、わざと中継車の中で声を大きめにして話してみる・・・。
テレビスタッフの中に中央の奴らの内通者がいれば、この会話は必ず報告されるはずだ。
俺たちが中央の奴らの不可解な行動を不審に思っていると知れたら、何か行動を起こすかもしれないと考えているわけだ。
「ウーン・・・確かにそうですよね・・・、中央の奴らは、いわばこのゲームの世界の最高権力者と言えますからね・・・、何せゲームの進行上の指示を出せる立場に居るわけですから。
それなのに・・・なぜか、言う事を聞かないキャラがそこかしこにいるような感じですよね・・・、それがいったいどうしてなのかという事ですよね?」
源五郎も俺の考えに気づいたのか、わざと声を大きめにして考え込むふりをする。
「まあ、冒険を進めていけば、おいおいわかってくるとは思っているんだがね。」
とりあえず話をまとめるふりをしながら、聞き耳を立てている奴がだれか、そっと横目でスタッフの様子を確かめる。
まあ、簡単に素性が分かるような間抜けな奴ではなさそうだがな・・・。
『ブロロロロッ・・・キキィッ』そうして昼近くになって、ようやく高い塀に囲まれた施設が見えてきた。
恐らくあれがパラボラアンテナ施設だろう・・・中継車を降りて鉄製の格子状の門扉の隙間から伺うと、はるか遠くに半月状のアンテナの一部がうかがえる。
まだ工事は途中のようで、アンテナ部分の周囲には足場が組まれているが、周りに人影はなく、工事が中断しているのだろうと感じられる。
「あそこがアンテナ施設のようだ・・・まだ結構距離があるな・・・、コンクリート製のビルも傍らに建っているし、大きなダンジョンが待ち構えていると思った方がいいだろう。」




