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湖北の洞窟

10 湖北の洞窟

「ひやー・・・高いですねえ・・・、下の方にプールが見えますよ・・・。

 ナイトプールもやっているのかな?」

 源五郎が窓に近寄ってカーテンを開け、景色を眺めながら喜びの声をあげる。


「おおっ・・・そうか・・・、ぷっっプールもか・・・。」

 それなりの企業の社長である源五郎はともかく、俺はこんな豪華な部屋に泊まったことなんてないので、かなり緊張する・・・。


「まあ、ともかく食事にしましょう・・・、この部屋に入ったとたん朝にならないという事は、食事をしたりして過ごせるという事ですよね・・・、念のためにベッドルームに入るときは全てやり終えてからがいいでしょうがね。」

 源五郎が味気ない冒険生活を少しでも楽しむよう、注意点を確認する。


 下のフロアへと降りて行き、食堂で食事を頼んで目の前に来た途端に満腹になって食事は終わっていたが、それでもその後部屋に戻って俺たちの本日の冒険放送を見ることはできた。


 それからトレーニングで汗を流すことになったが、当たり前ではあるが俺たちの船のような訓練施設はないため、通常のウェイトトレーニングのみに終わった。

 その後シャワーを浴びてベッドルームへ・・・行こうと思ったら、レイの奴がおもむろに居間のテレビのスイッチを入れた。


「どうしたんだ・・・?寝るぞ・・。」


「うん・・・ちょっと・・・案内のお姉さんが、ビデオ放送も充実しているって言っていたから・・・。」

 そうしてレイはチャンネルを合わせて、アニメ放送のビデオを見始める。

 なんと・・、株レンジャーのアニメバージョンを放送していた・・・。


「まだかー・・・、もう寝た方が・・・」


「うん・・・・、もうちょっと・・。」

 まだホームシックから抜け出せていないのだろう・・・我慢してくれているのだろうが・・・、レイの奴は明け方近くまで、ただじっと無表情でテレビの画面を見つめていた。


「ふあーあ・・・、眠い・・・」

 明け方近くになってようやくレイが寝ると言ってくれたので、そのままベッドルームへ行きドアノブに手をかけたとたんに朝になっていた。


 寝た気にならないどころか、まったく寝ていないと言えるだろう・・・、だがまあ何とかなるだろう・・・中継車の移動中に寝ればいいしな。



『ぼーっぼーっ』『ピンポンパンポーンッ』


<青空観光グループの遊覧フェリーにご乗船いただき、誠にありがとうございます。

 当船はまもなく、湖北港へ到着いたします。

 下船の準備をお願いいたします・・・、お忘れ物なきようご注意ください。>


 汽笛の後にチャイムが鳴り、アナウンスが湖北への到着を告げる。

 寝ている間に着けるとは・・・、本当にありがたい。



「じゃあ、行きますか・・・。」

 源五郎とともに階下に降りていき、車庫へ行くとすでにスタッフたちは中継車で待っていてくれた。


『ドーンッ』『ギギギギギギッ・・・ガッシャーンッ』着岸したと思われる衝撃を受けた少しあと、後部のフェリーゲートが開き光が差し込んでくる。


「じゃあ、行こう・・・。

 今日の目的地は、ペレヘス湖北部の地下洞窟だ。」

 ドライバーに目的地を告げる・・・、それがどこなのか俺にはわからないのだが・・・。


『ブロロロロロッ』中継車がフェリーを出て桟橋をゆっくりと走っていく。


「あれ?道がありませんね・・・。」

 桟橋の先はコンクリートで固められた湖岸となっているようだが、その先は切り立った崖になっていて、先へと進む道はどこにも見えない。


「ううむ・・・、湖岸をぐるっと周るという事なのだろうか?」

 湖岸の堤防はぐるっと湖の淵に沿って出来ているようで、そこをずっと周っていくことは可能と言えそうだが・・・、戻ることになってしまうし、湖北まで船で来た意味がない・・・。


「あれっ・・・あそこに洞窟のような大きな穴がありますね。」

 テレビスタッフの一人が、崖の左端の方を指さす。

 確かに、その部分だけ崖がぽっかりと口を開けているように見える。


「行ってみよう。」

『ブロロロロッ』まさか交通ルートもないのに、遊覧船の発着場はないだろう。

 どこかに通れる道があるはずだ・・・。


『ブロロロロロッ・・キキッ』「あれっ・・・行き止まりですね。」

 しかし洞窟までやってきてみると、そこには黄色と黒の縞模様のテープが張られた鉄骨で組まれた柵と、危険と書かれた大きな看板が行く手をふさいでいた。


「ううむ・・・どうしようか・・。」

 眠いのも手伝ってか・・・あまり頭が働かない・・・。


「そこに建物があるから、聞いてみましょう。」

『ガチャッ』『タタタタッ』源五郎が中継車を降りて、湖畔の3階建てのビルへと駆けていく。


『ガンガンガンガンッ』「すいませーんっ、どなたかいらっしゃいませんかーっ?」

 源五郎が入り口ドアをたたきながら大声で呼びかける。

『ガチャッ』するとすぐに、褐色の肌の健康そうな若者が顔を出した。


「おお・・・あんたたちは久しぶりのお客さんだな・・・、だが申し訳ないね・・・せっかく湖北港へ来たというのに、この先の道へは出られないんだ。

 すまないが、引き返してもらうしかないな・・・。」


 若者は、頭を下げながらショッキングなことを告げる。

 何だって・・・?それじゃあまた半日かけて、戻らなければならないじゃあないか・・・。


「あのーっ、すぐそこに洞窟があるようですが・・・落盤か何かされたのですか?

 復旧のめどはたっていますか?」

 すぐに源五郎が、先ほど見た洞窟の損傷状況を確認しようとする。


「落盤だってぇー・・・?そんな簡単な事じゃあないさ・・・、そこの洞窟には強い魔物が住み着いてしまって、誰も近づけなくなっちまったんだ。

 だから立ち入り禁止にしているのさ・・・、とりあえず中に入っていきさえしなければ、外の一般人を襲うことはなさそうだ。


 だがなあ・・・こんな状態が数ケ月間も続いているんだ・・・、こっちは商売あがったりだよ。」

 若者が悔しそうに顔をしかめながら話す。


 なるほど・・・湖南側の発着場を魔物たちに占拠されただけではなく、湖北側の唯一の交通ルートである洞窟も魔物たちに占拠されていたという訳ね。

 だから出航してしまった遊覧船は行くことも戻ることもできずに、ただひたすら湖を周回していたという訳だ。


「だったら話は早い・・・、俺たちはその洞窟に巣くうライガー蝙蝠とかいう魔物を駆除しに来たんだ。

 通行止めを解除して、俺たちを通してくれるかい?」


 どうやらこれらのクエストは、パラボラアンテナ施設のクエストへと続く、一連のクエストと言えそうだ。

 そういえば源五郎が、パラボラアンテナ施設関連としてまとめてあったって言っていたな。

 全部引き受けてきて良かった・・・。


「あーん?お前さんたちが魔物を退治するだって・・・?ふーん・・・。

 有名になりたいんだか、あるいはたくさんの礼金目当てか知らないが、お前さんたちだって限りある命なんだ、悪いことは言わない・・・、やめた方がいい。」


『ピシャンッ』俺たちの姿を頭のてっぺんからつま先まで品定めでもするかのように眺めた後、そう言い残して若者はすぐにドアを閉めて引っ込んでしまった。

 冷やかし半分の観光客が、魔物見たさに洞窟へ入りたがっているのだと勘違いされてしまったか?


 俺は鋼鉄の鎧を着ているし、レイは魔導士のローブ、源五郎は射者の姿で大きな弓まで持っているのだ、冒険者だろうと一目でわかるだろうし、どうして信じてはもらえないのか・・・、長い年月クエスト目的の冒険者などいなかったのが影響しているのか?


『ドンドンドンドンッ』「俺たちは、南側の遊覧船発着場に巣くっていた魔物たちも退治して来たんだ、だから遊覧船は着岸できた。

 ついでにこっちの魔物も片付けるから、洞窟を開けて俺たちを通してくれ!」

 ここで引き返す訳にもいかないので、ドアをたたいて大声で中に向かって叫ぶ。


「何を寝ぼけたことを・・・どうせ、魔物たちが寝静まった隙をついて遊覧船を発着させただけなんだろ?

 いい加減なことを言っていると、帰りの船にも乗せてやらんぞ!」

 だが、さっきの若者は信じてくれそうもない。


「本当だ!だからこれから青空観光の乗り物はすべてタダにしてくれるという、タダ券までもらって来たんだ、ほらっ・・・」

 ほらっといったところで、ドア越しじゃあ見えるはずもないのだが、袋からタダ券を取り出してかざして見せる。


『カチャッ』「どれどれ・・、本当だ・・・。

 タダ券なんて、あのがめつい姉貴が出すとはねえ・・・、ふうん・・・どうやら発着場の魔物たちを退治してくれたというのは、本当のことのようだね。


 いいだろう・・・、洞窟のゲートを開けてあげよう。

 ただし・・・、ゲートを開放して魔物たちがこちら側に出てきては困るので、すぐにまた閉じるよ。

 だから中でお前さんたちがどうなろうとこっちは知ったこっちゃない、助けになんか行かないが、いいかい?」


 ドアを開けて顔だけ出した若者が、俺が手に持つタダ券を認めるとすぐに表に出てきた。

『ガラガラガラガラガラガラッ・・・ゴゴゴゴゴッ・・・』俺が頷くと、若者はブルトーザーを動かして、洞窟入り口をふさいでいたバリケードを外していく。


「ようし・・これでどうやら通れるだろう・・・だが、お前さんたちが通ったらすぐにふさいでしまうからな。

 途中で引き返したくなっても、簡単には戻れないぞ。


 とりあえず少し行ったところにロープが下がっているから、怖くなって戻りたくなったら引っ張ってみるといい。

 俺のいる部屋にSOSのランプが灯るから、俺がいれば様子を見に来て、魔物たちが近くに居そうもなければここを開けてやる。


 だが、お前さんたちが魔物を引き連れて逃げてきた場合は、申し訳ないが見殺しだ・・・その覚悟で行ってくれ・・・いいね?」


 若者は一応脱出の手順を教えてくれる・・・まあ、魔物に追われなければ逃げようとはしないんだろうから、見殺しが有力だけどね・・・。


「分かったよ・・・、ありがとう。

 俺たちの冒険内容は毎晩放送されるから、この洞窟の魔物退治に関しても、今晩か明日には放送されるだろう。

 うまくいったら、バリケードは外しておいた方がいい・・・そうしないと商売あがったりだろ?」

 とりあえずバリケードを外してくれた礼を言って、冒険放送のことも宣伝しておく。


「あっああ・・・、そうか・・・お前さんたちが冒険放送の冒険者たちか・・・、まさか実在の人物だとは・・。

 CGか何かだとばかり、ずっと思っていたよ・・・、そうかそうか・・・お前さんたちがねえ・・・。


 まあ、お前さんたちがうまいこと魔物たちを退治してくれれば、バリケードは早々に撤去するさ。

 その時は帰りの便も使ってくれ・・・じゃあな・・・期待しているぞ。」

 そう言って若者は笑顔で送ってくれた。


「じゃあ、行くぞ・・・バリケードをすぐに閉めてしまうんじゃあ中継車も一緒に入るしかなさそうだ。

 俺たちは歩きで俺が先頭を歩くから、レイと源五郎はそれぞれ中継車の左右について警戒してくれ。


 特に後ろにも気を付けてくれ、いいね!」

 洞窟前で中継車を手招きで呼び寄せながら、源五郎とレイに注意事項を伝達する。


「それから・・・ライガー蝙蝠というのは、ライオンのような上半身とトラのようにしなやかな下半身を持った獣と蝙蝠の合成魔物となっている。

 夜行性で暗闇を好むとなっているから、洞窟内は奴らの独壇場と言えるだろう。


 攻撃力は昼間・・・明るいところではYAで、夜・・・暗闇ではAAで合算のレベルがAYとなっている。

 昼間の攻撃は比較的簡単に避けられるから低いだけで、威力がないわけではないので注意となっている。

 守備力はCCなので防御の面では劣りそうだが、またもや攻撃力が高い魔物だ。


 致命傷を負ってしまう可能性もあるので、十分に注意してくれ。」

 ついでに外の光のあるうちに朝会も済ませてしまう・・・、ダンジョンに入って魔物の姿が見えてからでは遅いのだ・・・。


「はい、分かりました・・・。」

「うん・・わかったぁ・・・」

 源五郎はいいとして、レイは本当に元気がない・・・、まだツバサと別れたことを引きずっているのか・・・。


「じゃあ、出発しよう。」

『ブロロロロロッ』俺を先頭に、中継車がすぐ後ろをゆっくりと付いてくる。


『ガラガラガラガラガラ・・・ゴゴゴゴゴッ』やがて、はるか後方でバリケードを復活させているのか、甲高い金属音が反響し始めた。

 これでもう・・・戻れなくなってしまったわけだ・・・まあいいだろう、前進あるのみ。


『キィーンッキィーンッ』しばらく進んでいくと魔物に出くわすことはなかったが、気圧の関係なのか耳鳴りがしてきた・・・。


『パッキィンッ』『ガッシャンッ』『パリンッ』どうじに、何かが割れる音が連続して、辺りが暗闇に・・・。

「なんだなんだ、一体どうした?」



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