巨大蓮鳥
8 巨大蓮鳥
『ブロロロロロッ・・・キキッ』『ガチャッ』「ふうっ着いたな・・・。」
対岸が見えないほど大きな湖の湖畔についたのは、もう夕方になりかけていた。
「これがペレヘス湖で間違いがないだろう・・・、問題はここに自生する巨大蓮鳥・・という事だが・・・これだけ大きな湖だと探すのも容易じゃあないな。
今日はここでキャンプして、明日の朝から・・・という事にするか?」
まだ日は少しあるのだが、到底この湖を渡れる時間ではないだろう。
そうなると明日の朝からという事になりそうだ・・・。
念のためにクエスト票を見てみると・・ふうむ、巨大蓮鳥・・・ペレヘス湖の遊覧船乗り場付近にのみ自生する、巨大な蓮。
その葉をはばたかせて空中高く舞い上がるため、蓮鳥と称されている・・・となっているな・・・、実はただの蓮という事のようだ。
場所が限定されているようだから、そこが近ければ今からでもやってやれないことはなさそうだな・・・。」
冒険者の袋からクエスト票を取り出して、いつものようにクエスト現場で追加される情報を読み上げる。
「この先に桟橋が見えますし、建物もあるようですから、そこで聞いてみませんか?
船はないようですけど、あそこが遊覧船乗り場かもしれませんからね。」
源五郎が前方を犬の人形をかぶせたままの右手で指し示す・・・が、慌ててそれを袋にしまい込んだ。
「おおそうだな・・・・手入れもされているようだし、人がいるだろう。まずは行ってみよう。」
少し気持ちが落ち着いてきたレイを連れて、湖畔の建物に向かう。
車道からは雑木林の隙間から湖が見えるのだが、林の切れた間にきれいな玉砂利を敷き詰めてある一本道があり、そこは雑草なども生えておらず、それなりに整備されているようだ。
「ここが遊覧船乗り場ですね、クエストをこなした後は、ここから遊覧船で対岸へ渡った方がいいでしょう。
ペレヘス湖を迂回するルートは、湖畔の道はないため大回りになりそうです。」
いつものテレビスタッフが、地図を眺めながら今後のルートを説明してくれる・・・ううむ・・遊覧船がフェリー型であればいいのだが・・。
「こんにちはー・・、だれかいませんかー?」
白いコンクリート製の建物の前で、源五郎が大きな声で呼びかける。
入り口の扉には、いらっしゃいませの文字が大きく書かれてはいるが、鍵がかかっていて開かない。
「おかしいですねえ・・・、商業施設のようなんですが・・・開店休業でしょうか?」
源五郎がガラス戸越しに中の様子を伺おうとするが、レースのカーテンがかかっていて、外の明るさの割に中が暗いのか、見通しは効きそうもない。
『ガンガンガンガンッ』「誰かいないかーい・・・」
ちょっとお行儀が悪いが、入り口のガラス戸をたたいてさらに呼び掛けてみる。
(・・・・はーい・・・、・・・・。)
「すいませーん、ど・・・」
「ちょっと待て源五郎・・・、何か声が聞こえたぞ・・・。
もう一度・・・」
『ドンドンドンドンッ』「誰かいないかー」
もう一度ガラス戸をたたきながら声を張り上げる・・・。
(・・・はーい・・・だから・・・ないって・・・)
「ほら、また聞こえた・・・、どうやらガラス戸をたたくと効果があるようだぞ・・・。」
『ガチャガチャガチャッ』「すいませーん・・・」
今度はカギのかかった扉の取っ手を握って、押したり引いたりしてみる。
『ガチャッ』「だから、遊覧船は営業していないって言っているだろ?」
すると突然扉が開いて、胸の大きな女性が出てきて睨みつけられた。
ちょっと長めの髪を後ろに束ね、Tシャツにジーンズ姿の若い女性だが、その大きな胸のおかげかシャツの長さが足りず、へそが丸見えだ。
「ああ・・・俺たちは旅の者なんだが・・・、ここは遊覧船の発着場かい?」
「だからどうしたっていうんだ?
遊覧船はこっちには来ないよ・・・、何せこの辺りには大きな魔物がいるからね。」
昼寝の邪魔でもされたのが気に食わないのか、彼女は不機嫌そうに答える。
「ああ、それは構わない・・・俺たちはすぐに遊覧船に乗ろうとしてきたわけじゃあないからな。
その・・・この湖に巣くうという巨大蓮鳥っていう奴を退治しに来たんだが・・・、どんな魔物かわかるかい?」
とりあえずメガネのレンズ越しに鋭い眼光で睨みつけてくるお姉さんに、来訪の目的を告げる。
丸いレンズのメガネは、知的というよりもどちらかというとかわいらしい印象を持つが、美しく整ったその顔のいいアクセントになっている・・・ううむ・・メガネっ子もいいなあ・・・しかも巨乳・・・。
「ああ・・・ふうん・・・あんたたちがねえ・・・、あの魔物をねえ・・・。
まあ、どうでもいいけど・・・そこに伸びている桟橋を歩いて行けばいやでも出くわすよ。
何が気に入ったのか、その辺りに住み着いて離れないものだから、遊覧船の乗降ができなくなってしまったんだ。」
遊覧船発着場の巨乳美女は、魔物を退治しにやってきたという俺たちの頭の先からつま先まで、値踏みでもするかのように順に眺めていき、その後でため息交じりに告げる。
「発着場近辺に住み着いているというのは、本当だという事だね?
蓮鳥は強いのかい?どんな力というか攻撃をするかわかるかい?」
恐らく彼女は蓮鳥という魔物を目撃はしているだろうから、その強さなど特徴を聞くことが出来ればいいのだが。
「いや・・・、あたしらには魔物の強さなんてぇ物はわからんねぇ・・・。
なにせ魔物が出たってぇ聞くと・・・、すぐに家の中に引っ込んでしまうからね。
あんたたち冒険者は魔物と戦うのが大好きなんだろうけど、あたしら市民には魔物なんて恐怖の対象でしかないからね・・・、だから、その姿をはっきりと見たことなんてないよ。
ただ、遊覧船は何度も襲われかけて、都度向こう岸へと引き換えしているのさ。
おかげで、もう何ケ月も営業できていないよ・・・。」
巨乳美女は顔をしかめながら答える・・・、ううむ・・まあ一般人では魔物に関心を持てなくても仕方がないな。
まあ、いいものを見せていただけただけでも、ありがとうと・・・心の中でお礼を言っておこう。
「わかった・・・俺たちはこれから、その魔物と戦うつもりだ。
危険なので、いいというまではここから出てこないようにね・・、いいかな?」
とりあえず、やじ馬心から外に出られると危険なので、引っ込んでいていただくようお願いしておく。
「ああ・・・いいと言われたって、よほどのことがなけりゃあ出てこないから安心してくれ。じゃあな・・・。」
『ピシャンッ』そう言い残して、巨乳美女は扉を思いっきり閉めた・・・なんとも愛想のない・・・。
「じゃあ、これから蓮鳥の駆除に向かうぞ・・・先ほどのお姉さんからは碌な情報は得られなかったが、それでもこの桟橋を歩いて行けば出くわすことはわかったわけだ。
すぐ前だし、それほど時間はかからないだろうから、今日のうちに片づけてしまおう。
えーと、ここでもう一度クエスト票のチェックだ。
巨大蓮鳥・・・、大きなハスの葉を閉じたり開いたりしながら攻撃を仕掛けてくる。
茎は伸縮自在で、攻撃力は・・・湖上はAAで、地上ではZZ・・・合算でAZとなっている。
防御力はDDだから・・・まあ、攻撃が当たれば倒せるだろう。
だが・・・、湖上で戦うわけだから攻撃力がAAと俺たちと同等なので、十分に注意するように。」
湖畔でクエスト前の朝会を実施する・・・いや今の時間だから夕会か・・・。
「じゃあ行くぞ・・・、ほらほらレイ・・・シャンとしなさい。」
源五郎の人形たちに慰められて少しは機嫌をよくしていたレイだったが、ここにきてまたふてくされてうつむいたままだ。
クエストに現世のもやもやを持ち込んではいけない、ケガのもとだ・・・活を入れなければ。
「うーん・・・だってぇ・・・。」
しかしレイはうつむいたまま首を振るだけだ・・・、仕方がない、ここに置いて行くか?
「レイちゃん・・・、レイちゃんが楽しみにしていた冒険の世界だよ・・・、どうしてもここに来たいって言って、眠いのも我慢してようやく来たんだったよねえ・・・。
だったら一緒に冒険しなきゃ損だよ・・・ねっ、ほら、ちゃんと支度しなくちゃ。」
源五郎がレイと目を合わせて、笑顔で諭しながらローブの襟を直してやり、炎の杖を袋から出させて装備させる。
「うーん・・・、そうなんだけど・・・。」
それでもレイは首を傾げたままだ・・・。
「じゃあ仕方がない・・・レイはここにいろ・・・、そんな気持ちが乗らないままでクエストに挑むのは危険だからな。
源五郎・・・2人だけで行くぞ・・・魔物の形も数もわからんが、この近辺だけだというからには、そうもうようよいるとも思えんし、まあ何とかなるだろう。」
レイを桟橋前に残して源五郎と2人だけで桟橋を歩いていく・・・と、桟橋の両側にいくつもの蓮の葉が浮いているのが見える・・・、これが蓮鳥なのか・・・?
だとすると・・・相当な数がいるぞ・・・、ひーふーみ・・どころか・・・何十・・・か?
『ザッパァーンッ』『ザッパァーンッ』『ザッバァーンッ』行く手の桟橋の右手から左手から次々に水柱が上がり、見上げると巨大な蓮の葉がこちらに正対している。
湖から延びた長い茎でその大きな葉を支えているようで、その姿は巨大なひまわりのようにも見える。
直径は2〜3mくらいの大きさの蓮の葉なのだが、よく見ると蓮の葉の外周に小さな羽がいくつも付いているようで、これにより浮いているのだろうが、蓮鳥の名の由来と言える。
『シュッシュッシュッシュッシュッシュッ・・・・』すぐに源五郎が、その蓮の葉めがけて矢を射かける・・・が、薄い葉を貫通してしまい、小さな穴が開くだけでダメージは少なそうだ。
『カチカチッ』『カチカチッ』『カチッ』何の音かと辺りを見回すと、巨大蓮の葉部分が真ん中から半分に折れて、外周の盛り上がった部分がぶつかり合い、まるでカスタネットのように音を鳴らしている・・・、ううむ・・・巨大な口のようにも見える・・・あんなのに噛まれたら、無事ではすまんな・・・。
『ブンッ』『シュキィーンッキンッ』いきなりその大きな口のような蓮の葉が、襲い掛かってきた。
鋼鉄の剣で受け止めるが、葉の周囲の部分は相当に硬いのか、はじくと甲高い金属音がした。
斬ろうとすると葉の周囲の硬い部分で受けられてしまうし、突きでは薄い葉を突き抜けるだけで、ダメージはほとんどなさそうだ。
『ブンッ』『シュキィーンッ』『ブンッ』『シャッキィーンッ』『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』俺が敵の攻撃を受けとめながら源五郎が矢を射かけるのだが、やはり矢は素通し状態で、あまり大きな効果はなさそうだ。
参ったな・・・、ツバサがいれば宙に舞い上がって、上から攻撃を仕掛けられるのにな・・・。
いや・・・レイがいれば魔法攻撃を仕掛けられるというのに・・・、一体いつまで駄々をこねているというのだ・・・?
レイの奴はどうしているのかと思って湖畔の方にちらりと目をやると、俺たちが苦戦しているのを目にしてなのか、ゆっくりと桟橋へ足を向け始めた。
そうして、ぶつぶつつぶやきながらうつむいたまま桟橋を歩いてくる・・・、ばかっ、ちゃんと前を見て歩かないと・・、ここはもうダンジョンの中なんだぞっ。
「レイッ、危ないっ!」
『ザッバァーンッ』『シャッキィーン、ザバッ・・・』レイの左側の湖面に水柱が上がったので、何とか相手をしていた巨大蓮の葉を思いきり弾き返し、すぐにレイのもとへと駆け出す。
『ダダダッ・・・ダッ・・ズザザザザッ・・・』そうしてラグビーのタックルばりに、レイの腰に向けてダイビングして押し倒し、桟橋上を滑り込む。
『ガギッ・・・』大きな音とともに腰のあたりに猛烈な痛みと熱さを感じる・・・、噛まれたのか?
「はぁはぁ・・・だっ・・・大丈夫か、レイ?」
俺の体の下敷きになっているレイの体を引き出して無事を確認する・・・、よかった・・・彼女の体には傷ひとつない。
「ぱっ・・・パパ・・・、きゃあっ・・・パパ・・・?
パパになんてことするのよ・・・、煉獄!」
『ゴワッ』『ギャォースッ』すぐに背後に高温の熱気を感じると同時に、腰を圧迫していたものがなくなった。
「パパ・・・大丈夫・・・?
えーと・・・全回復!」
そうしてレイの魔法ですぐに体中の痛みが消えた・・・ふう・・・、何とか一撃だけで済んだからよかった。
『ザッパァーンッ』『ザッパァーンッ』『ザッパァーンッ』何とか立ち上がると、桟橋の左右からいくつもの水柱が上がり、蓮鳥がその大きな蓮の葉を宙に浮かせ威嚇してくる。
「許さないんだから・・・煉獄!煉獄!煉獄!」
『ボワッ』『ゴワッ』『ボワッ』巨大な火球が蓮鳥の大きな葉に襲い掛かると、葉は勢いよく燃え上がり始める。
「おおいいぞレイ・・・、奴らは植物だから火に弱いようだ。」
『シュッ』『シュッ』『シュッ』そうして炎に包まれた蓮鳥たちはたまらず水中に没していく。
『ザッパァーンッ』『ザッパァーンッ』『ザッパァーンッ』「煉獄!煉獄!煉獄!」
『ボワッ』『ボワッ』『ボワッ』『シュッ』『シュッ』『シュッ』蓮鳥がその巨大な鎌首を持ち上げるたびにレイの魔法がさく裂し、次々と丸焼けになり水中に没していく。
「いいぞ・・・レイ・・・、この調子だ。」
レイを激励する・・・やるときはやるんだ・・・流石わが娘・・・。
『ザッパァーンッ』「ば・・・あれっ・・・?」
レイの魔法が止まる・・・、見上げると蓮の葉の緑はなく、葉脈だけが残って素通しの空が見える・・・、炎の魔法攻撃で丸焼けになったやつが鎮火して再び襲い掛かってきたわけだ。
ううむ・・魔法攻撃だけでは止めとならないか・・・。




