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町長宅

2 町長宅

「毎度ありー・・・、すぐに装備なさいますか?」

 分厚い鉄の鎧を、防具屋の主人の手を借りて装備する。


「大きな穴が開いた鋼鉄の鎧は時間がかかるが何とか修復できそうだし、鋼鉄の剣も研ぎに出すことが出来た・・・。

 とりあえず一安心だが・・・、ツバサは拳法着を修復に出さないのかい?」


 食事後に人通りが極端に減ったペレンの街中を、ようやく自由に見て回ることができ、武器屋を見つけてさらに防具屋も見つけることが出来た。

 穴が大きいため修繕に時間がかかるというので、仕方なく鉄の鎧を購入して装備した・・・防御力が上がるどころか下がってしまうので手痛い出費だが致し方ない。


 何のことはない、一つ向こうの辻に武器防具屋に道具屋など冒険者御用達の店が並んでいたようだが、人ごみの流れは食堂街の中をループしていたために、そこから出られないでいただけだった様だ。


 あの群衆の大半はヨースルから来たパラボラアンテナ施設建築に駆り出された人たちだったようだから、冒険者用の施設には用がなかったわけだ・・・だから、そちら方向には人の流れができていなかったし、かなり無理をしなければそこから抜けることも難しかったようだ。


「あたしの胴着は・・・、あたしが毎晩修繕していますから、大丈夫ですよ・・・。」

 ツバサは笑顔で答える・・・、確かにツバサの拳法着をよく見ると・・ところどころに当て布がしてあって、目の不揃いな縫い目が見える。


「お客さーん・・・、胴着を自分で縫っているのかい?

 それはだめだよ・・・、せっかく上級格闘家の胴着なのに防御力が半減だよー・・・、ちゃんと防具屋で修繕しないと・・・。」


 すると防具屋の主人が眉をひそめて苦言を発する。

 そうだろう・・・ただの丈夫な布製に見える拳法着だが、防御力や魔法への耐性もそれなりにあるはずなのだ。


「えー・・・そうなんですか・・・?だから以前の拳法着は戦闘途中でボロボロに剥ぎ取られてしまったのですかねー・・・、でも、お金がないので仕方がなかったのですよー・・・。」

 ツバサはちょっと驚いた様子を見せながら、すぐに悲しそうな表情に変わる。


「まあまあ・・・以前はどうあれ、今は十分にGもあるはずだから、ちゃんと修繕してもらった方がいいよ。

 さっ・・・、今ここで・・・。」


 ツバサのつぎはぎだらけの拳法着の修繕を強く進める・・・拳法着の下は下着だけだろうから期待・・・しているわけではない・・・、あくまでも純粋にツバサの体を心配してのことだ。


「分かりました・・・、レイちゃんと一緒にコスチューム屋さんで購入した着替えがあるので着替えてきます。」

『パタパタパタ・・・バタン』そう言い残してツバサは更衣室へと駆け込んでいった。


「あたしのローブも出した方がいいかなー・・・?」

 レイが自分の魔導士のローブの裾をつまみ上げながら、状態を確認し始めた。


 確かによく見ると、所々に小さいが焼け焦げ跡があったり穴が開いたりしているようだ。

 今までの激戦の様子がうかがえるな・・・。


「そうだね・・・、これを機にレイも源五郎も自分の防具を修繕に出してみるのもいいかもしれないね。」


「ぼッ・・・僕もですか・・・?分かりました。」

 源五郎は観念した様子で射者の胸当てを外して防具屋の主人に手渡した。


 俺の鎧はしょっちゅう傷ついて毎回のように修繕に出しているが、そういえば他のメンバーの防具は修繕に出しているところを見たことがないな・・・、まあ接近戦の俺とツバサはともかくレイたちは離れて戦う戦法だから、攻撃を受ける割合は格段に少ないはずではある。


 それでも魔物たちは超強力になってきているし、このところは密閉空間での戦いが増えてきているため、彼らの防御力という事も気にした方がいいだろう。


『ガチャッ』「じゃあ、これをお願いします。」

 更衣室からツバサが出てきて、防具屋の主人に上級格闘家の胴着の修復を依頼する。

 女子高校生風の紺のブレザーに紺のスカートに着替えてきた様子だ、かわいい・・・コスチューム屋ナイス!


「ああ・・・、これは自分で手直ししたりしているからずいぶんと痛んでいるね・・・、時間がかかるよ・・・。

 こっちの拳法着の方は・・・、何とか明日までに仕上げておくよ。」

 ツバサは以前購入した拳法着も一緒に修繕に出した様子だ。


『ガチャッ』「あたしも、お願いします。」

 続いて更衣室に入って着替えてきたレイも、魔導士のローブを手渡す。

 こちらはセーラー服姿だ・・、わが娘ながらかわいいな・・・。


「武器の修繕や補充も済んだし、この町にも現状より強力な武器防具はないようだから、俺の鎧は仕方がないとしても余計な購入は控えたい。

 だが、予備として一つくらいは替えを持っていた方がいいともいえるので、それぞれ検討してみてくれ。」


 そう言ってレイと源五郎を促す・・・俺もそうだが、武器も防具も宝箱を期待して、ほとんど購入していない。

 その為、その武器や防具が故障すると何も装備できないことになってしまうわけだ・・・、やはり最低限度の装備は揃えておいた方がよいと言えるだろう。


「あたしは・・・この服はコスチューム屋さんで買ったものだから大丈夫だよー・・・、初級の防御力はあるって言っていたからねー・・・。」


 レイは自慢げにセーラー服の襟をつまんでひけらかす・・・、まあ彼女の場合はツバサと違い離れて戦うから、さほど大きな防御力がなくても大きな問題はないだろうから、専用の防具でなくてもいいか・・・かわいいしな。


「僕は・・・鎖帷子を購入することにします・・・、少し重そうですが防御力は上がるので・・・。」

 源五郎は忍者用の鎖帷子にした様子だ・・・、まあそれも選択肢か・・・?


「じゃあギルドは明日の朝に向かうとして・・・、今日のところはほかに立ち寄れそうなところを探りながら宿屋に向かうか・・・。」


 情報源の人を探して回っておく必要性はある・・・、今までの町や村では、ほとんどそういった人たちに出会うことはなかったが、流石にこの町なら人が多そうだから何らかの情報を得ることはできそうな気がする。


 だがまあ・・・情報を聞き出すにしてもタイミングがあるはずだから、明日クエストを引き受けてから回った方がいいだろう・・・、今日のところは各家の人の出入りなどをさりげなく見ておく程度だ。


「あそこの家からは何か話声が聞こえてきますね。」

「こっちの家は明かりがついているよー・・・。」

「あっ・・・、あそこの家で手招きしている人がいますよ・・・。」

 皆で手分けして周囲の家の様子を確認し、辺りをつけておこうとしていると、ツバサが一軒の大きな家を指さす。


「ほんとだー・・・左手を高く上げて手を振って、右手でおいでおいでをしているね・・・。」

 すぐにレイも反応する。


「そっそのようだな・・・、随分と積極的な様子だ・・・、俺たちを冒険者と知って呼んでいるのか・・・あるいは誰かと間違えているのか・・・まあいいさ、呼んでくれているんだから行ってみよう。」

 折角のお呼びたてを断る理由もないので、全員でその家の方へと歩いていく。


「どうも・・・今晩は・・・、あなたたちは冒険者の・・・シメンズの方たちですよね?

 毎晩放送を見ています・・・実は僕も父も、あなたたちの大ファンなんです・・会えて光栄です。


 あの・・・本日の宿泊先はもうお決まりでしょうか?

 よかったら・・・、我が家にお泊りいただけないでしょうか?


 自慢するわけではないのですが・・・、我が家は結構な広さがありますから、客室なども数部屋ございます。

 お一人ずつお泊り頂くことが可能ですよ。」


 スポーツ刈りの精悍な風貌の若者は、俺たちの大ファンだと言い、更に宿を提供してくれると言い出した。

 こんな歓待があってもいのだろうか・・・?せいぜいこの町のどこそこには人が寄らない辻があって、その奥には・・・なあんて隠しアイテムの出現場所か、占い師さんとかの情報でもくれるのかと思っていた。


「いかにも・・・俺たちは冒険者のシメンズのメンバーだ・・・、俺はサグルでこっちが源五郎でツバサにレイ・・・で?君は?」

 とりあえず自己紹介はしておく・・・泊るかどうかはさておいて、最低限度の礼儀として・・・。


「ああっと・・大変ご無礼を・・・、申し遅れました・・・僕は町長の息子です。」

 角ばった顎と大きな目が印象的な青年は、姿勢を正して自己紹介する。


「ほう・・・町長の息子さん・・・、すると、このペレンの町の町長さんの息子さんという事かな?」


「よくわかりましたね・・・?父はペレンの町長をしています。」


「いや・・分かるも何も・・・、それで君の名は?」


「だから・・・町長の息子・・・、ああそうですか、名前だけではわかりにくいですね。

 ペレン町長の息子・・・、というのが僕の姓名です。」


 若者は笑顔で答える・・・、なんとまあ・・・安易というか・・何のひねりもない・・そのまんまだ・・・。

『プっ・・・』これには思わずレイも源五郎も吹きだした・・・。


「ああそうか・・・これは大変失礼した・・・、ちょっと予想していなかったもので・・・すまない。

 そうしてここが町長宅・・・どうりで大きなお屋敷なわけだ・・・。


 でも・・・いいのかい?町長さん宅に俺たちみたいな冒険者がお邪魔しても・・・?」

 冒険者なんて言うのは言ってみれば無頼漢だ・・・、町長のお屋敷に招かれるような偉人ではないはずだ。


「そんなこと、ありませんよ・・・、この町の住民たちの中にはあなたたちのファンがたくさんいます。

 先ほども申し上げた通り、僕の父も僕以上にあなたたちのファンです。


 今父は外出していますので、このままあなたたちを帰してしまっては、僕が父に叱られてしまいます。

 どうか・・・、父が戻るまでだけでもお泊りいただけないでしょうか?」

 町長の息子は両手を顔の前で合わせて拝むようにしてくる。


「まあ・・・まだ宿を決めるも何も宿屋すら見つかっていない状態だから、本日分だけでも泊めていただけるのは大変にありがたい・・・、迷惑でないのなら、お願いいたします。

 ほれ・・・レイたちも一緒に・・・。」


『お願いいたします。』

 ありがたい申し出を断る理由などない・・・、全員で頭を下げご厚意に甘えることにする。


 俺たちのファンという事だから、上手くいけば冒険に関する情報も得られる可能性が大だ・・・、しかも町長ともなると・・・、それなりに事情通が予想されるのだ・・・。

 彼らも実体化した影響で自我に芽生えたというのであれば、詳細な裏情報にも期待ができる。


「ありがとうございます・・、ささっ・・どうぞどうぞ・・・。」

 町長の息子に先導されて、大きなお屋敷の中へと入っていく。


「ふわあー大っきい・・・。」

 レイがはるかに高い天井からつりさげられたシャンデリアを見上げながらため息をつく。

 1,2階が吹き抜けになっている玄関口からして、すでに超豪華な造りだ。


「こちらが応接間になっておりまして・・・、この先が食堂となります・・・。

 皆さんお食事は・・・?」


「ああ・・・、すでに済ませてきたから大丈夫だ。

 それよりも、この町のことを聞かせてくれないか?


 町の周囲にはダンジョンがいくつかあるのかい?そこには強い魔物がいるのかい?また、そのダンジョン攻略の難易度が分かるかい?」

 まずは情報を聞き出すことが先決だ・・・、夜は長いのだから、一気に聞き出してしまおう。


「そうですね・・・僕はそういった事には疎いもので・・・、父ならいろいろと知っているでしょうから、父にお聞きください。

 シメンズメンバーのためなら、喜んで協力してくれると思います。」

 俺たちを応接間に案内してくれながら、町長の息子は笑顔で答える・・・、そうか・・・町長待ちか・・・。


「それでその・・・、町長さんはいつ帰ってくるんだい?

 今晩遅くかな?」


「いえそれが・・・、分からないのです・・・。」


『分からない・・・?』

 彼の返事にはシメンズメンバー全員が反応した・・・、分からないって・・・、君の父親の帰宅時間のことだよ!


「はあ・・・、昨日から突然外出したままで・・・、行先も告げずに外出したものですから・・・、どこで何をしているやら・・・、帰宅予定も何も誰にも話さずに行ってしまったもので、分からないのです・・・。」

 先ほどまでの満面の笑みは消え、突然深刻な顔になって答える・・・、ううむ・・一体どういうことだ?


「とりあえず、お部屋をご用意いたしましたから、本日はお休みください。

 父は明日の朝には帰宅しているとは思いますので・・・各部屋にテレビもついていますから、皆さんの冒険放送もご覧になれますよ・・・。」


 すぐに気を取り直したのか、町長の息子は俺たちを2階の客間に案内してくれた。

 確かにベッドのわきにテレビが備わっていたのでテレビをつける・・、そういえばそろそろ本日分の放送予定時間だ・・・、だが・・・本日分の放送すべき冒険はしていないぞ・・・。


 ヨーレン川での戦闘は結構長時間にわたったが、ここに来るまで1泊したから昨日で放送してしまったからな。

 長期間クエストをさぼっていたおかげで、当日の冒険が当日に放送されることになってしまったくらいだからな。


 そう思いながらテレビをつけたら、昨日平原で野宿したときに行った、トレーニング風景が流されていた。

 その後、今日ついたペレンの街中の様子が少し追加されている・・、テレビ局スタッフの心中を察してしまうな・・・、なにせ、このところ検閲するなんて言い出すと、厳しい目で睨みつけられてしまうほどだからな・・・。


 よほど放送のネタに困っていると見える・・・以前の冒険の時には、次の町へと向かう道中にも魔物たちが大量にいたからな・・・、早いところダンジョンに向かわなければ・・・情報収集していることを咎められないうちに。


「あっ、パパも来たんだー・・・。」


 冒険放送が終わった後にお屋敷の広い庭に出て軽くトレーニングでもしようとしたら、すでにレイもツバサも源五郎も出ていた・・・、示し合わせたわけではないのだが、考えることは一緒だ。

 とりあえず明日の放送分にでも役立つようにと考え、ヘッドカメラを装着してきたのは幸いした。


「では、柔軟から始めます。」

 ツバサの指導の下、トレーニングが始まった。


『ガッシャン』「うわあっ・・・!助けてくれー・・・!!!」

 すると突然お屋敷の中から大きな音と人の叫び声が・・・、すわ、一大事か?


「行ってみましょう。」

 すぐに駆け出し、お屋敷の中へと入っていく。



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