ペレンの街
1 ペレンの街
「さあ、安いよ安いよ・・・、テレビでも放送された散々荘の豪華和定食がたったの110Gだ。
旬の食材をふんだんに使った、和の天才料理人道草太郎が作ったレシピ通りの逸品だ。
数量限定300名様のみ・・・残りわずかだよ・・・売り切れごめん・・・お早めにご来店くださいねー。」
「いやいや、和の料理と言えば天才平塚八兵衛が握る寿司に決まっている。
今なら一皿2貫が乗ってたったの10G・・、こんなお得なことは年に何度もないよ・・・さあ、入ってくれ。」
「こっちは何といってもカレー・・・本場の・・・」
食事時らしく、町の食堂街では、あちらこちらから呼び込みの声がかかってくる。
ヨーレン川を越えてやってきたペレンの街は、たいそうな賑わいだった。
それにしても、これまで尋ねた街よりも、ちょっと物価が高いような気がする・・・。
「すごいね・・・人の数も多いけど、呼び込みの数も・・・1軒ごとに呼び込みをしているようだから、この狭い路地に人だかりができてしまっているようだ。」
町の中心街は商業施設のようだが、怠け目ザルのダンジョンで破壊された俺の鋼鉄の鎧を修理に出そうと防具屋を探しているのだが、防具屋どころか武器屋も道具屋もさらにギルドも見つけられない。
そうして今晩泊る宿も見つけられずに困っているところだ。
「すいませーん、どなたかこの町の武器屋や防具屋がある場所をご存知の方いらっしゃいますか?
若しくはギルドの場所でもいいですから、お教え願えない・・・」『ドンッ』
「おいおい、あんちゃん・・・こんな人通りの多いところで立ち止まって、きょろきょろされていちゃ困るよ。
ここは右側通行だから、あんちゃんはこっち方向へ進んでもらわなくちゃ・・・、通行の邪魔をしないでくれ。」
源五郎が、通りを歩いている人たちに武器屋や防具屋の場所を聞こうとして大声を張り上げるが、忙しげに歩く通行人に後ろから追突され、挙句文句を言われてしまう。
「こんな人ごみの中では立ち止まることもできないし、店の看板をいちいち確かめることもできません。
場所を聞こうにも・・、みんな忙しそうで・・・。」
源五郎が、後ろから来る通行人に道を譲りながら頭を掻く。
「年末のアメ横並みの混雑だな・・・これじゃあ手分けして探そうにも、再度落ち合うことが出来るかどうか心配なくらいだ。
なにせ始めてきた街だから集合場所も決められないしな・・・、この街に入ったところに置いてきた中継車にだってどうやって帰ればいいか、もうわからなくなっているぞ。
せめて俺たちだけは、はぐれないように固まって居るしかない。」
街中に入って人の流れに流されるまま右往左往したおかげで方向感覚がマヒしてしまい、どっちの方向から来たのかすらわからなくなってしまったようだ。
「こんな中じゃあ、丁寧に道を聞いたって無駄だろうな・・・。
おおい・・・!俺たちは冒険者だ!この町のギルドを探しているんだが、誰か場所を知らないか?」
はぐれてしまわないように、レイの手をしっかりと握りながら声を張り上げて呼びかける。
「じゃまじゃま・・・、道の真ん中で立ち止まらないでくれ・・・。
俺たちは遠くヨースルからパラボラアンテナ工事のために呼び集められた村人たちで、建築現場は強力な魔物たちが巣くっているために工事が中断されて町へ帰るところだったんだが、川を渡れずにここで立ち往生さ。
この町のものじゃないから、ギルドだの武器屋だの言われたって知らないさ。
この町の住民に聞くんだな!」
双方から人が流れてくる真ん中で大きな声で呼びかけたら、体の大きな農夫風の男に思い切り睨みつけられてしまった。
この町の住民って言ったって・・・、どの人がそうなんだか全くわからないぞ・・・。
「ペレンの町はあんず村と違って大きな街ですから人も多いのですが・・・、この状態は異常です。
冒険の世界のペレンの町も以前来たことがありますが、その時も活気はありましたがこれほど人は多くありませんでした。
先ほどの人が言っていたように、ヨーレン川が渡れなくなってしまったがために、北部大陸西部からパラボラアンテナ工事に出かけていた人たちが帰ることが出来ずに、この町に留まっているのでしょう。」
ツバサが、あまりの人の多さに目を白黒させながら、きょろきょろと落ち着きなくあたりを見回しながら説明する。
「ああそうか・・・、だったら・・・おおい・・・ヨーレン川に巣くっていた雷魚ライライは退治されたぞー!
だからヨーレン川の渡しは復活したぞー!俺たちは渡し船を通ってここまで来たんだ!
だから、みんな帰れるぞーっ!」
さっきよりもさらに声を張り上げて叫んでみる。
「なんだって・・・、ヨーレン川が・・・???」
「ヨーレン川のライライが・・・?」
「一体誰がそんなすごいことを・・・?」
「本当なのか?あの魔物たちを退治だって・・・?」
『まあいいさ・・・、いってみよう!』
『そうだそうだ・・、こんなところにいつまでも留まってはいられない・・・』
『サーッ・・・・・』ごみごみと周り中を埋め尽くしていた人垣が、一瞬でいなくなった。
「ありゃりゃ・・・、豪華和定食・・たったの50Gにします・・・、どうかうちの店にお越しください・・・。」
「いやいや・・・、今から特別セールで一皿たったの5G・・・、こんなチャンスは2度とないぞ・・・・」
「うちの本場のインドカレーは・・・。」
路地を埋め尽くしていた人混みがはけたとたんに、各食堂は一斉に値下げを始めた・・・ほぼ半額。
まあこのくらいが恐らく今までのレベルなんだろうが・・・、ちょっと前までヨースルに帰り損ねた町人たちで溢れかえっていたために、ずいぶんとバブリーな物価になっていたようだ。
「さあこれで・・・、落ち着いて店を探せるな・・・、まずは防具屋だな・・・。」
人通りがほぼ途絶えた路地を見回し、とりあえずの方向を決めようとする。
「防具屋さんより・・・ご飯にしようよ・・・、おなかすいたー・・・。」
適当に当たりをつけて路地を進もうとすると、レイが握った手を引っ張って呼び止める。
「ああ・・・飯は後だ・・・、まずは防具屋を探して次に武器屋・・・、さらにギルドの場所を確認して宿屋の位置も把握する・・・、ついでに道具屋もだな・・・、そうして初めて落ち着いて食事を・・・。」
まずはこの街の施設の位置関係を把握して、先の行動計画を練ることが出来るようになってから食事が望ましい。
食べながらでも回る順序を検討できるし、どこへ行って何をするか決めておけば、用事をスムーズにこなすことが出来るわけだ。
「えー・・・だって・・お腹が空いて・・・もう立っていられないよー・・・。」
そう言いながらレイはそのまま道端にしゃがみ込んでしまった。
「レイ!こんな往来でみっともない・・・、立ちなさい!」
皆に迷惑をかけることはできないので、すぐに手を引いてレイを立たせようとする。
「まあまあ・・・、確かにこの町へ入ってから結構時間が経っていますから、おなかもすきますよ。
まずは腹ごしらえしてからが、いいんじゃあないですか?」
すると源五郎が、食事に行くことを提案する。
そうは言うが、俺たちはゲームキャラだから、食べなくたって死ぬことはない・・・たとえ1ケ月や2ケ月間食わなくたって、元気がなくなって動きが緩慢になるくらいで、それでも生き続ける・・・はずだ。
しかも最高レベルの経験値で体力も人一倍どころか、一般の人の何万倍もあるはずだ。
たかが一食抜いたくらいで、どうこうなることはない・・・、見知らぬ街へ来たのだから、まずは重要拠点の確認が先決ではないのか?
「そうですよ・・・、そういえばあたしもお腹がすきましたから・・、まずは食事がいいです。」
さらにはツバサまで・・・、娘を気遣ってくれるのはありがたいのだが・・・。
「えへへへへ・・・じゃあ決まりだね・・・、お寿司屋さんか・・・和食やさんか・・・、どこがいいかな・・・。」
2人の味方ができてレイが気を取り直し立ち上がる・・・、仕方がないな・・・。
「じゃあ寿司にしよう・・・、一皿5Gに下がったことだし・・・レイも寿司は大好きだろ?」
こうなったら仕方がない、なるべく時間がかからない回転ずしを提案する。
「うーん・・・いいけど・・・、どんなのが出てくるのかな?」
「そ・・・そりゃあ・・・、マグロとかサーモンとか・・・じゃあないのか?」
「いやあでも・・・、この星の海は魔物が多いですし、マグロやサーモンがいますかねえ?」
源五郎がそういいながらツバサに振り返る・・・。
「マグロ・・・・サーモン・・・ですか・・・?
寿司というのはあんず村では食べたことがありません・・・、あんず村には食堂はありませんでしたから。
実体化して皆さんと冒険をしたときにはどうだったか・・・恐らくメニューにはあったのかもしれませんが・・・。」
ツバサはそういって思い切り首を振る・・・ううむ・・・、ちょっと怖いな・・・じゃあ和食に・・・いや・・・でも和食も同じなのか?・・・今回の冒険では食堂は中華が多かったが、和食も出てきたような気が・・・。
「へいっ・・・いらっしゃい・・・。」
「4人です・・入れますか?」
「そりゃもう・・・無理にでも席をお開けしますよ・・・、ただいまからサービスタイムで、一皿たったの4G・・・、今食べないと絶対後悔しますよ・・・ささっ・・・どうぞどうぞ・・・。」
ところがレイの奴はそのまま寿司屋の中へと入って行ってしまった・・・、引き続き源五郎とツバサまでもが・・・、ええい仕方がない・・・。
「へいいらっしゃい・・・、カウンターへどうぞ。」
仕方なく寿司屋に入ってレイたちと一緒にカウンターへ・・・、あれあれ・・・?回転していないぞ・・・、回っているはずのすし皿がない・・・、カウンターの向こう側には4人のすし職人が俺たちと向かい合わせに立っている・・・これでは普通のすし屋じゃないのか?
しかも・・・回転ずし特有の写真付きのメニューもない・・・ううむ・・・これは値段が高そうな・・・、いや一皿4Gと言っていたのか・・・、だが、これでは何を注文すればいいものか・・・。
「えっーとね・・・、まずはサーモンとトロサーモンとツナマヨといくら!」
俺が迷っているのも苦にもせず、レイはお品書きも何もないのに勝手に注文を始める。
「ヘイっ・・・少々お待ち願います。」
そう言った後、レイの目の前の職人さんはそのままカウンターの左袖に流れて行った。
「じゃあ僕は、マグロの赤身と鉄火巻きに漬けマグロにびん長マグロ。」
「ヘイっお待ち・・・」
そう言い残して、やはり源五郎の前にいた職人は、そのままカウンター左袖に立ったまま流れて行く。
しかし源五郎の奴マグロ尽くしじゃないか・・・小学生じゃあるまい・・・いや、最近の子供はサーモン好みか?ううむ・・・とりあえず普通の回転ずし並みの注文はできそうだ・・・。
「じゃあ俺は・・・、しめ鯖とイカとマグロの赤身と玉子・・・。」
職人の腕を見るには玉子・・・ともいうからな・・・。
「えーと・・・、なにがおいしいのでしょうか?」
するとツバサが不安そうな面持ちで俺の顔をのぞき込む・・・、ううむそうだろうな・・・俺たちが注文しているものが何なのか、ツバサは知らないのだろう・・、しかもお品書きもないのに勝手に自分の好みのネタを注文しているからな・・・。
「まあそうだな・・・、生ものは大丈夫かい?
だったらマグロの赤身やイカなど癖があまり強くないから、初めてだといいかもしれない、サーモンなんかは女性が好むようだけどね・・・。
生ものがダメだと、玉子やタコにアナゴに蒸しエビ辺りかな・・・あぶりトロサーモンなんて言うのもあると思うけど・・・。」
とりあえず、ツバサの嗜好が分からないので、まずは一般的に好まれるものを勧めてみる。
「じゃあ・・・、マグロとイカとサーモンとタコに蒸しエビをお願いします。」
「ヘイっ・・・少々お待ちを・・・。」
そう言いながら俺とツバサの目の前の職人も左袖に消えて行った。
「へい、お待ち!」
すると今度はカウンター右袖から寿司職人が流れてきて、寿司が乗った皿をレイの目の前に並べる。
ふうむ・・・どうやら寿司職人が流れて寿司を運んでくる回転ずしのようだ。
恐らく、床がベルトコンベアーのようになっているのだろう、一歩後ろへ下がるとコンベアーに乗れるわけだ。
お客一人に職人一人・・・意外とバブリーな回転寿司だ。
「じゃ・・・頂きまーす・・・。」
レイが嬉しそうにすし皿に手を伸ばす。
「へい、お待ち!」
「へい、お待ち!」
そうこうしているうちに、俺とツバサの目の前にもすし皿をかかえた職人が流れてきて、注文のすしを並べる。
ようやく飯にありつける・・・と思ってマグロの赤身が乗ったすし皿に手を伸ばした途端に、寿司が消えた・・・、何だ?
今度はしめ鯖の皿に手を伸ばす・・・と、やはりその瞬間に寿司ネタが消滅する・・・、同時にわずかに腹が満たされていく・・・、ううむ・・・回転ずしでも食事の味わいはなく、ただ単に食べたという結果だけが残るようだ・・・はぁー・・・味気ない・・・。
「じゃあ今度はねえ・・・、ウニとタラバガニと生ホタテに甘えび。」
「ヘイっ・・・少々お待ちを・・・」
それでもレイは嬉しそうに注文を続ける。
今度はずいぶんと高級ネタを注文した様子だ。
「じゃあ僕は・・・、本マグロと中トロに大トロあぶり焦がし醤油とネギトロ軍艦巻きをお願いします。」
源五郎も・・・、やはり今度もマグロ尽くしのようだ・・・。
しかし、これでは寿司を食べたという実感がわかないし、言ってしまえばどこの食堂へ行っても変わらないわけだ・・・寿司でも中華でも和食でもカレーでも・・・と思って傍らのツバサに目を移す。
「へえ・・・、きれいですねえ・・・。」
そう言いながらツバサは嬉しそうにすし皿に手を伸ばす・・・。
「じゃあ、今度は・・・レイちゃんと同じにウニとタラバガニ・・・ですかね?」
そうして笑顔で次の注文を・・・、そうか・・・バーチャルという事を認識して、それなりに楽しもうという事か・・・、おままごとのような・・・いってしまえばゲームの世界で食堂で食事をするのと同じだからな・・・。
気分だけでも味わいましょう・・・。




