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再出発

15 再出発

 これだけ大きな川だ・・・深さも結構あるだろうし、表面を凍らせるくらいでは動きを封じ込めるという事は無理かもしれないが、物は試しとばかりに唱えさせてみた・・・とりあえず川面は一面に白く氷が張り、雷の発生もなくなったようだ。


『・・・・ビビビビビビッ・・ドーンッ、ビビビビビッ・・ドーンッ』『ビビビビビビビッ・・ドーンッ』しばらくすると突然氷にひびが入り始め、いくつもの筋ができたかと思うと、その先からまたもや稲光が発生し始めた。


「どうやら何匹もいるわけではないようですね・・、氷のひび割れは螺旋状につながって、何ケ所かで稲光が上がっています・・・、恐らく数匹が高速で泳ぎ回って雷を発生させているのでしょう。」


 源五郎の言う通り、氷のひび割れは一筆書きのようにつながったまま、その角ごとに稲光を発生させている。

 高速で泳ぎ回って雷を発生させているのか、あるいは高速で泳ぐことにより雷が発生してしまうのか・・・、何にしてもその雷の攻撃力が特AAというのだから厄介だ。


『ビビビビビッ・・ドーンッ、ビビビビッ・・ドーンッ』氷にひびが入るたびに細かく割れていき、川面を覆いつくしていた氷も浮島のように点在し始める。


『バリバリバリバリッ・・・』「危ないっ!飛びのいて!」『ドーンッ』ツバサの声に反応して大きく飛びのくと、俺たちがいたあたりに強烈な雷撃が落ちる・・・堤防の上の草と地面が十数メートルにわたり真っ黒に焼け焦げ、しかも堤防の盛り上げた土砂がえぐれている・・・かなりの威力の雷撃のようだ・・・流石特AA。


 ううむ・・・凍らせてもあまり効果はなさそうだな・・・、さてどうするか・・・雷撃を食らわないか、緊張しながら川面を見つめる。


「レイちゃん・・、悪いけどもう一度さっきみたいに川を凍らせてみてくれるかい?」

 すると今度は源五郎からリクエストが入る・・・、なにもまた同じことを繰り返さなくったって・・・、凍らせたところでほんの何分かだぞ雷の発生を止められたのは・・・さらにその後きつい反撃を食らうぞ・・・。


「うん、いいよ・・・、絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!」

 それでもレイは素直に源五郎のリクエストに応えてやる・・・。


『ピッキィーンっ』またもや一面真っ白な靄に包まれたかと思うと、川幅いっぱいが氷におおわれる。

 先ほどと違い流氷のように氷の塊が浮いていたために、川面は平たんではなくごつごつと凹凸して凍り付いているようだ・・・。


『・・・ビビビビビッ・・ドーンッ、ビビビビビッ・・ドーンッ』『ビビビビビッ・・ドーンッ』数分の静寂の後、氷にひびが入りはしめ、ひび割れが曲がるたびに稲光が発生し始める。


『ビビビッ』『シュッ・・シュパンッ』すると、そのひび割れの先めがけて源五郎が矢を放つ・・・と、そこでひび割れが止まった・・、倒したのか?


「氷が厚いので鋼鉄の矢に切り替えましたが、手ごたえあり・・ですね・・・恐らく命中したと思います。

 動きが素早くて、稲光を追ってもその姿をとらえきれませんでしたが、氷の裂ける方向を追って行けば動きがつかめます。


 いくら早くても、仕留められますよ・・・。」

 源五郎がしてやったりとばかりに胸を張る・・・、そうか・・・氷が割れるとおりに魔物は動いているわけだから・・・、その動きもある程度は予測がつくわけだ・・・。


 しかも、敵が雷攻撃で反撃しようとするには氷を割らなければいけないのだから、こちらが先手を打てる。

 先に倒してしまえば、反撃もできないわけだ・・・ならば・・・。


 すぐに冒険者の袋から大きな銛を取り出す・・・、クジラ漁師用の銛をコスチューム屋で何かの時のために購入しておいたのだ。

 ふと見ると、ツバサも少し小ぶりの銛を冒険者の袋から取り出していた・・・、こちらはカジキマグロ漁用の銛だな・・、考えることは同じようだ・・・。


『ビビビビビッ』『シュッ・・ドッゴォーンッ』遥か百メートルほど先の湖面の、氷がひび割れていくその先に、狙いすました一撃が炸裂する・・・。

 銛のコントロールには自信がある・・・、なにせ冒険者用のアンケートに特技は野球で、エースで4番と書いておいたからな・・・趣味は遠投にしておいた。


『ビビビビッ』『シュッ・・・ズッゴォーンッ』ツバサの一撃も強烈に炸裂する・・・、彼女の場合は投げナイフや銛投げなども訓練しているのかもしれないな・・・。

『ずるずるずるずるずる・・・』銛には麻のロープを括り付けておいたので、ロープを手繰り寄せて銛を回収する。


『ピチピチピチ・・ビビビビ・・・』河川敷を引っ張られてくる銛の先には、その体中あちこちにアンテナのような細いトゲをいくつも付けた細長いウナギのような・・・というか細いといっても胴回り30センチはありそうで、長さは数メートルはありそうなアナゴよりもアナコンダといった方がよさそうな太さの魚が刺さっていて、しばらくすると消滅した。


「俺とツバサは銛だから遠くの獲物を片付ける・・・、源五郎は近場を担当してくれ。」

「はいっ・・・分かりました!」


『ビビビビッ』『シュッ・・・シュパンッ』源五郎が、岸にほど近い氷にできたひび割れの先に矢を射かけて、魔物を射抜く。


「危ないっ・・・よけてください!」

『ダダッ』『バリバリバリバリッダーンッ』ツバサに言われて反射的に飛びのく・・・、今度も堤防の土がえぐられるほどの強烈な雷撃だ・・・どうやら、レイの張った氷の範囲の外側から、攻撃を仕掛けてきている様子だ。


 結構忙しくなってきたな。


「レイッ・・・ここを中心に、右と左を行き来して魔法を唱え、川を凍らせていってくれ。

 そうしないと、この辺りを集中的に攻撃されてしまう。


 いずれはあの渡し船の小屋にも直撃しかねないから、早いところ頼む・・・。

 移動するときは落雷に気を付けて、身を低くしながら・・・それでも急いでくれ・・・。」


 とりあえず、川面の氷を砕く雷魚がいなくなったところで、レイに凍らせる範囲を広げていくよう指示する。

 向こうの射程範囲だって限界があるだろうから、広範囲に氷を張ってしまえば反撃も叶わないだろう。

 あとは、奴らの動きを見ながら迅速に退治していくだけだ・・・。


「うん、わかったぁー・・・。」

『タタタタタタタタタッ』「絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!」

 レイが上流側に駆け出し、川面に向かって魔法を唱える。


『ピッキィーンッ』上流側は一瞬で白い靄に包まれ、川面が凍り付いた。

『タタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ』そうして、全速力で戻ってきて、今度は下流へ向かう。


「絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!」

『ピッキィーンッ』今度は下流側の川面が凍り付く。


「よしっ・・・、俺は上流側に向かう・・ツバサは下流側に向かってくれ・・・。

 源五郎は悪いが双方の近場を担当してくれ・・・、行ったり来たりで悪いが、銛の場合はいちいち引き寄せながら射止めなければならないので、連射が効かない。」


『はいっ』彼らの返事を後方で聞きながら、ダッシュで上流側に向かう。

 ぐずぐずしていると氷を割られて、雷撃を食らってしまう。


『ビビビビビビッ』『シュッ・・・ドッゴォーンッ』川岸から2百メートル地点で氷のひび割れが発生し始めたので、その先めがけて銛を投げつける・・・と、見事氷の裂け目の先端に命中し氷が砕け散って銛が水中へ没していく。

『ずるずるずるずるずるずるずる・・・』素早く麻のロープを引っ張り、銛を回収する。


『タタタタタタタタッ』「絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!」

 するとレイが走ってきてさらに上流へと向かい、魔法を唱える。

『ピッキィーンッ』一瞬で川面が凍り付いた。


『ビビビビビッ』『シュッ・・・ドッガァーンッ』川面を走る氷のひび割れの先端に向けて、銛を投げつける。

 この繰り返しをどれだけ続けただろうか・・・、いつしか川面は広範囲に凍り付き、辺りは静寂に包まれた。


『タタタタタタタタタッ』「ぜ・・・」


「レイッ・・・もういいぞ・・・、この辺りに雷魚はいないようだ・・・、雷はもう聞こえない。」

 遥か下流から駆けてきて、上流側で魔法を唱えようとするレイを押しとどめる。


 恐らく20キロ以上は上流へ来ただろう・・・、上流は凍っていないが雷魚の稲光も発生していない。

 俺たちに反撃するために、雷魚たちも非常招集したのではないか?

 この辺りに生息する雷魚は駆除し終えたといえるだろう。


『ダダダダダダダダッ』「はぁはぁ・・・、終わりですかね?」

 源五郎も弓を構えながら走ってきて、川面の様子を見ながら立ち止まる。


「そのようだな・・・、何匹倒した?

 俺は・・・恐らく20はいっていないと思うぞ・・・、十ちょっとだ・・・。」

 源五郎に倒した雷魚の数を確認する。


「はあ・・・僕もそんなもんですね・・・、20行くか行かないか・・・、大きな川なのに意外と少なかったですね・・・。」

 源五郎も少し拍子抜けしたように答える。


「ああそうだな・・・、ものすごいスピードで稲光を発生させながら泳ぎ回っていたから、この川面のいたるところに雷魚がいるように感じたが、実際のところは50もいなかったのだろうな・・・。


 それでもたったそれだけの数で、この川を通行不能にしていたんだから大したものだ。

 うまいこと倒せてよかったよ・・・。」

 通ってきた堤防へ眼をやると、至る所が黒く焼け焦げ地面がえぐり取られている。


 素早く攻撃して反撃を抑えたつもりではあったが、それでも手が回り切らず、危うく直撃を食らいそうになった場面もあったが、何とか大事には至らなかった。


「じゃあ渡し船の小屋に行って、雷魚は退治できたことを教えてあげよう・・・、向こう岸へ渡らせてもらわなければならないしね。」


「そうですね・・・。」

「もうおわったぁー・・・?じゃあ、かえろう・・。」

 駆け足で戻ると、小屋のところでツバサも待っていた。


「こんにちはー・・・、雷魚は退治しましたよー・・・出てきても大丈夫ですよー・・・。」

 源五郎が、小屋の扉越しに大声で呼びかける。


『ガラッ・・・』「ああんっ・・、あんなに大量にいる雷魚・・・いくらお前さんたちが腕利きの冒険者だとしてもそう簡単に倒せるはずは・・・・、あれ?稲光が見えない・・・雷鳴も聞こえない・・・。」

 渡し船小屋の親父さんは、堤防の上から川面を眺めながら絶句する。


 3つの太陽の日差しは強く、レイの魔法で凍らせた川面は、雷魚がいなくなっても外気温で溶けて川面は流れ始めていた。

 それでも沸騰したように湧き上がっていたあぶくや、閃光のような稲光も雷鳴もなく、穏やかなせせらぎとなっている。


「おお・・、こんな静かな川面を見るのは・・・一体どれだけぶりのことだろう・・・。

 ありがとう・・・、お前さんたちは超一級の冒険者だ・・・。」

 おじさんはその特徴である大きな目をくりくりさせて、源五郎の両手を握りしめると何度もうれしそうに上下に振った・・・。


「あの・・・それで・・・、僕たちは川を渡って向こう岸へ行きたいのですが・・・、このボートはエンジン付きではありますが、車は積めませんよね?

 この川のどこかで車を渡らせられるような場所はありますか?」


 源五郎が小屋の横に並べている、エンジン付きのボートを眺めながらおじさんに尋ねる。

 さすがに数人乗りのボートでは自転車ならともかく車は積めそうにもないし、遥か上流まで行ってみた限りでは、橋どころか渡しをやっている場所もここの他にはなかった。

 


「ああ、それなら大丈夫だ・・・小屋を引っ越すときにここまで持ってこられたのは小さなボートだけだが、川岸には車を乗せられるボートもつないである。

 車を持ってきてくれ・・・、俺はこの先の川岸で待っているから・・・。」

 そう言って親父さんは堤防を駆け下りて川岸へ向かっていった。


「じゃあ、中継車まで戻って引き返してくるか・・・。」

「そうですね・・・、トレーニングがてら走っていきましょう。」

 ゴムの胴長を脱いで片付け、全員で堤防を駆け下りダッシュで中継車のもとへと向かう。



『ポンポンポンポンッ』「おーい、ここだあ・・・。」

『ブロロロロッ・・・・・』中継車で堤防をかけ昇り河川敷まで降りて川岸へ向かうと、おじさんが桟橋の上で手を振っている。


「じゃあ、まっすぐ行ってくれ。」

「はい。」

『ブロロロロッ・・キキィッ』桟橋の上に中継車ごと乗り上げたのだが、その先に渡し船は見当たらない。

 どうするのだ・・・と思っていたら・・・。


「ようし、出航するぞ・・・。」

「えっ・・・???」


『ポンポンポンポンッ』桟橋が突如動き始める・・・いや、桟橋と思っていたのは、四角く丸太を組み合わせた大きないかだのようで、エンジンがついていてそのまま川面を滑るように移動し始めた。


「はあ・・・、便利な乗り物だな・・・。」

 河川敷から直接車の乗り降りができるようになっているようだ・・・。


「それにしても・・・、攻略不能なダンジョンとかいいながら・・・結構普通のダンジョンだよな・・・。

 多少知恵を絞ればいいくらいの・・・。」


「そう・・・そうですよ・・、このくらいのダンジョンなら、どうってことありませんよ・・・。

 先へ先へと進んで・・・。」


 源五郎は、なんとしてでも先へ進んで夢に出てくる彼女に会いたいと思っているのだろう。

 そのためにはどんな困難にも負けないつもりなのだろうが・・・、まあ確かに、その困難も乗り越えて行けそうな目途はつき始めているな・・・。


 それが最高経験値という事が大きな要因と言えるのは間違いがない・・・、なにせ、雷魚の雷撃ですら瞬時に数十メートルも飛びのけるからこそ・・・、光の速さよりも早いのではないのかといった動きができるからこそよけられただけで、並みの冒険者であればとっくにお陀仏だ。


 だがまあ、そんなことは気にしない・・・俺たちは現実に最高経験値でやってきているのだ。

 そうしてさらに研鑽を積んで、様々な状況にも対処できるよう訓練を欠かさないつもりだ・・・。


 決しておごることなく、最高経験値の体に甘えることなく、常に冷静に状況把握を行い、メンバー全員の総意を結集してダンジョンに立ち向かっていけばいいだけだ。


 なんだか何度もやる気になったりくじけたりを繰り返していたが、ようやく本気で先へと進む気になってきた。

 これからがこの冒険の出発といってもいいくらいの気持ちで、突き進んでいこう・・・。


続く



 リーダーであるサグルが冒険を続けていくことに自信を失い、しばし中断していましたが、何とかやる気を取り戻し、再出発となりました。大河を越えた先にはどんな冒険が待っているのか・・・、注目の次章は・・・明日から継続連載予定です。

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