雷魚ライライ
14 雷魚ライライ
「あ・・・そうですね!そうか・・・、僕たちは裏口から入ったから・・・。
そうかそうか・・・正規ルートで施設に入った三四郎さんは・・・操作室・・・、三四郎さんが絶命寸前にロープを垂らしてくれた、操作室に達した時点で無敵が解除されるという設定だったとしたならば、三四郎さんがたった一人で操作室にいた魔物を退治できたわけも納得できますね。
火事場の馬鹿力的なおかげというよりも納得できます。
さらにアンテナ施設を出ていく際に、残された魔物たちを退治するのがさほど苦労しなかったのも説明できます。
あれは、その時点では無敵が解除されていたからですよ・・・、僕たちが下の洞窟内で魔物たちと戦っていた時点までは、三四郎さんは操作室には達していなかったということですよね?
さすがリーダー・・・。」
さすが・・・と言われても、俺はそこまで細かくは考えていなかった。
ただ単に俺たちは裏口だったからなあ・・・と何となく自分を納得させていただけなのに、流石理論派の源五郎だ・・・、細かな状況までも全て説明しきってしまった。
「でも・・・だとしたなら、三四郎さんが犠牲にならなくても僕たちはあのダンジョンをクリアできていた可能性があったわけですよね?
操作室下の魔物たちの群れに降りたとしても、その時点で下の魔物たちは無敵ではないわけですから、僕たちで簡単に倒して、操作室へ戻ってくることもできたのではなかったでしょうか・・・、だとしたら・・・。」
源五郎が三四郎さんが命を懸けてくれたことに関して、疑問を呈する。
「いやあ・・・どうだろうなあ・・・、無敵が解除されたからと言って、地下の魔物たちが弱くなったかどうかはわからない・・・、毎ターンごとに回復するという事が出来ないだけで、体力は変わらないんじゃないかね。
操作室の床が開いていたのは恐らく五分もなかっただろう・・・、そんな短時間で地下に群れていたあれだけの数の魔物たちを倒しきることは・・、まあ無理だっただろうなあ。
だからこそ三四郎さんは俺たちでは攻略不能と判断して、あのような行為に及んだのだと俺は考えている。
どちらにしても、今俺たちがここにいることが出来るのは、まぎれもなく三四郎さんが身を挺してくれたおかげであることに違いはないわけだからね。」
「そうですよね・・・、三四郎さんのおかげで僕たちは生き延びられたわけですよね・・。」
源五郎の言いたいことはわかる・・・、三四郎さんに生きていてもらいたかったという気持ちもわかる。
しかし、事実は事実として受け入れなければならないのだ・・・。
「そうやって考えると・・・、ボクサーカンガルーに関してはですね・・・奴らはあの土俵外では無敵だったのでしょうが、土俵の上では無敵とまでは言えなかったのだろうと想定できますね。
だから逃げ出したボクサーカンガルーを仕留めて、もう一度土俵へ戻すことはちょっと苦労しましたが、複数人がかりではありましたが土俵上では倒せたわけです。
それでも僕たちに匹敵するような、高い防御力を持っていたのだろうとも想定しています。
更に先日の怠け目ザルですが・・・、防御力AAで反撃力特AAでしたよ?
送られてきた魔物たちの経験値は僕たちの1/10程度だったはずです。それが一体どうして・・・?
例えば防御力を優先して高く設定し、攻撃力を低く設定・・・という事は可能なはずです。
経験値の配分比率を変えるわけですね・・・、その配分でどこまでのことが出来るか、ここにゲーム機がないから確認のしようがないのですが、攻撃力がXAだったわけだから防御力に回す経験値の余裕はあったはずです。
しかも相手の目の動きに対する反応しかできなかったわけです・・・、だからこそ背後からの攻撃厳禁だなんて条件まで付けられて・・。
そういった絞り込んだ防御力の配分なら少ない経験値でも可能ではないかと考えてみましたが・・・、それだけで10倍以上のレベルにできることにはちょっと納得がいかないというか・・・。」
源五郎がもう一つの謎に首をひねる。
「ああそうか・・・、その可能性もあるわけだな・・・。
俺が考えていたのは・・・あまり考えたくはなかったのだが思いついてしまった・・・というか、奴らが送られてきてから10年経過しているわけだ。
その間奴らも成長していたとするならば・・・、トシミさんたちが閉じ込められていた湖のダンジョンのブラックダンプは、すさまじいまでの数がいたわけだ。
ああやって数を増やしていったタイプと、数はさほど増やさずに訓練で経験値をあげていった魔物たちもいたのではないか?
特に共食い・・・とは言わないが、魔物同士で戦い経験値をあげていった奴らもいるに違いないと考えている。
なにせ、奴らもそれなりの知能を植え付けられているわけだからね。
占い師さんに宝剣の鑑定をお願いしたときに、それだけ敵が強力なのだと言っていた。
あの時は俺たちが最高レベルの経験値でやってきたことを彼女は知らないのだと高をくくっていたのだが、今になって考えると、それだけ超強力な魔物たちが巣くっているのだと感じてきていた。
まあ、俺たちの経験値レベルは通常の冒険であげて行けるレベルではないとも言っていたから、10年も魔物同士で訓練していたからと言って、ここまで達することも難しいと考えていたわけだが、源五郎が言う通り経験値の配分も混ぜることにより、部分的に俺たちに勝るような設定は可能かもしれないな・・。」
俺なりの考えと源五郎案を取り入れた場合を披露する・・、やはり自分一人だけで考えていると、考えが一方だけになってしまい、上手く結論まで導きだせない場合が多い。
こうやって仲間と話すことによりそれぞれの考えや意見を取り込むことが出来、さらなる理論づけが可能となるわけだ。
まあ、理論づけが出来たところで、魔物たちが強いという事を納得することが出来るだけで、攻略の糸口をつかめるわけではないのだがな・・・。
『ピカッ・・・・ドーンッ』『ゴロゴロゴロゴロッ・・ドーンッ』『バリバリバリバリ・・・ドーンッ』
「では・・・、ヨーレン川に巣くう雷魚ライライに関して注意点を伝える。
食堂の親父さんの話によると、遠くからでも雷鳴が聞こえるという事だったが、確かに、まだヨーレン川までは1キロほどあるとテレビスタッフが言ってわりに、稲光や雷鳴ははっきりと聞こえてきている。
つまりそれだけ強力な雷撃が常に発生しているという事のようだ。
クエスト票を見ると・・・、ライライ・・・攻撃力BBとなっているだけだが・・・、もう少しダンジョンに近づいて再度確認してみる必要性があるだろう・・・、防御力との組み合わせなど後だし臭いのが多いからな。
中継車はタイヤがゴムだから問題はないだろうが、あまり近づくとスタッフたちの身が危険なので、ゴム長などこの時点で装備して、ここからは徒歩だ。」
翌朝、早朝に出発したのだが、やがて前方に稲光など確認できたため、途中で停車してそこからは歩きとする。
その前に注意事項の確認をしておくことにした。
レイとツバサは、船のコスチューム屋で購入しておいた赤と黄色のゴム長靴を履いて、ゴム製の前掛けエプロンとゴム手袋を装備。
源五郎と俺は胸まであるゴム製の胴長と、俺は分厚いゴム手袋を・・・源五郎は弓が引けなくなるためゴム手袋はあきらめ、その代わりに木製の初級の弓と矢を装備した。
「じゃあ、出発だ・・・走ってもいいが、落雷の様子など確認しながらの方がいいだろうから、速足程度で進もう。」
セットしたヘッドカメラをONにして速足で出発する。
「稲光と落ちた時の衝撃音の感覚がほとんどなくなってきたから、もうヨーレン川は近いと考える。
ほうら見えた・・・。」
『バリバリバリバリッドーンッ』『ピカッドーンッ』『ピカッドーンッ』平原を少し歩いていくと、川幅が4、5百メートルはありそうな大きな川に辿り着いた。
「すごい電磁波を感じますね・・・まだ川までは数十メートルあるのに・・・。
ゴム長を履いているからいいのですが、これは・・・川岸にいくだけで感電してしまいそうですね。」
平原から数メートルほどの高さに土を盛り上げた堤防に上がって見下ろしているのだが、河川敷のように堤防内にも平らな草地が続いていて、そのさらに先の方に実際の川が流れているようだ。
源五郎が言う通り、ここにいるだけで髪の毛が逆立つほどの電磁波を感じる。
川面のいたるところに雷が落ちている・・・というより、川面のいたるところでブクブクと白いあぶくとともに稲光が発生しているといった印象だ。
雷魚のライライとかいう奴が、雷を発生させているのだろう・・・いったいどれだけの数いるのかもわからない。
「あっ・・・、建物がありますね・・・。」
ツバサが指さす先には、エンジン付きの船がいくつか並んだ小さな小屋が見える。
ボート小屋か・・・?しかし、なにもこんな大きな堤防の上に立てなくても・・・、川岸からは結構な距離があるぞ・・・ここまで水が増水することもあるという事なのか?
「ちょっと、行ってみよう・・・誰か住んでいるかもしれないからな。」
堤防の上を歩いて小屋に向かう・・・。
「すいませーん・・・、どなたかいらっしゃいませんかー?」
源五郎が、小屋の入り口で大声で呼びかける。
「ああ、渡し船かね?
見た通り、開店休業だよ・・・川面いっぱいに雷が発生しているから、危なくって渡しは出せないよ。」
すると、ドアの向こう側から声だけで返事が聞こえる。
「その件で来ているんですよ・・・僕たちは冒険者ですが、この川に巣くう雷魚ライライを退治しに来ました。
開けて話を聞かせていただけませんか?」
『ガラッ』源五郎がクエスト目的であることを告げると、間髪入れずに扉が開いた・・・。
「なんだって・・・?ライライを退治してくれるって?本当かい?いや・・・、無理だな・・・悪いことは言わない、命を粗末にするな・・・。」
『ピシャンッ』胸までもあるゴムの胴長を着た、大きな目が印象的なおじさんは、自分一人だけで無理と判断して、再び扉を閉めた。
「命を粗末にするなって、どういうことですか?
僕たちは冒険者でもかなりレベルが高い方なので、きっと魔物たちを退治できると考えていますよ!」
仕方なく源五郎が再度扉越しに呼び掛ける。
「堤防下の河川敷をよく見てみろ・・・、水をあさりに来たこの辺りの動物たちや魔物たちの死骸がいっぱいだあ・・・。
ゴムの胴長ぐらいじゃあ、あの強烈な雷撃を防ぐことはできやしない。
ゴム製のカッパと足袋を履かせた豚を試しに河川敷に放ってみたが、一発で黒焦げさ。
河川敷に降りただけで攻撃されちまうものだから、今では川に近づく奴なんかいやしないぞ。
仕方なく小屋を堤防の上に移動させたが、たまに堤防の上までも攻撃してくることがある。
危なくって、扉も開けられないよ・・・。」
おじさんは扉越しに答える。
「ううむ・・・そうか・・・おじさんから何か情報を聞き出すことは難しそうだな・・・、それでも河川敷へ降りるだけで危険という事はわかった・・・、ゴム長もあまり効果がないこともね。
ようし・・まずはクエスト票の再確認だ・・・、よしよし・・・前回より多くの情報が浮かび上がってきたようだぞ・・・、まず攻撃力は水中のみBBで雷攻撃は特AA、防御力は水中がXDで陸上はZ・・・。
防御力は陸上がZというと初級の冒険者ほどしかないという事になる・・・、これはもう攻撃力のみに経験値を集中させたという事が見え見えだ。
水中での防御力だってXDなら俺たちのレベルから考えると大したことはないのだが・・・、果たしてどうやって見つけるかだな・・・、雷が発生している箇所を狙って攻撃仕掛けてみるか?」
川岸に立って川面の様子を伺いながらクエスト票の内容を読み上げる・・・、攻撃力と防御力の設定が極端な魔物のようだ。
「水中での戦いに特化した魔物という訳ですね・・・、堤防の上から攻撃するしかないようですが、確かに相手が見えませんからね・・・。」
『シュッシュッシュッシュッ』源五郎が試しとばかりに、稲光が落ちたあたりを狙って矢を放つ。
「うーん・・・、何の手ごたえも感じませんね・・・、移動しながら雷を発生させているのでしょうかね?」
源五郎の放った4本の矢は、すぐに浮かび上がって川下へ流れていった・・・堤防からだと距離もあるしな・・・。
「おさかなさん相手だから、また釣りをする?」
するとレイが出てきて、嬉しそうに冒険者の袋から釣竿を出そうとする。
これもコスチューム屋で手に入れたアイテムだ・・・、何せ漁師のコスチュームから潜水士のコスチュームまで小物も含めて品ぞろえが豊富なのだ。
「レイ、だめだ・・・、最近の釣竿は細くて丈夫にするために金属のワイヤーを入れたり、あるいはカーボンシャフトなどを使っていると聞いたことがある。
どちらも電気を通す恐れがあるから釣りはしない方がいい・・・、鮎釣りで落雷にあって感電する釣り人がいると聞いたことがあるからね。
まあ、釣り糸はテグスで恐らく電気は通さないと思うのだが・・・、稲光は結構高くまで上がっているから用心に越したことはない。」
恐らくブラックダンプ退治で釣りの醍醐味を知ったのだろう・・・、レイが嬉しそうに笑顔で準備を始めたのだが、かわいそうだがあきらめさせる。
「ちぇー・・・つまんない・・・、じゃあ・・・どうするの?」
どうするのって言われたって・・・、ううむ・・・ゴムの胴長を着込んでいてもあまり効果がないことはおじさんに聞いた・・・、まあ、あくまでも一般人の話だから、俺たちは少しなら耐えられるだろうがな。
それにしても雷に注意しながら攻撃相手を見つけて・・とずいぶんと忙しいことになりそうだし、俺とツバサの場合は川の中に入らなければ攻撃を仕掛けることもできないのだから、ほぼ役に立たないだろう。
そうなると、レイの魔法と源五郎の弓矢だけが頼りだ・・。
といっても相手が見えなければ矢は当たらないし・・・、いくら心眼だってここまでの距離があったら、なかなか相手を認識することは難しいだろう。
レイの魔法だって炎系は使えないだろうし、水系は全く効果がないだろうな。
風系もだめだろうし、地震系もだめだろう・・・川の中だからな・・・雷系はもちろん相手の得意技だし、そうなると必然的に光系か冷凍系という事になるが、光系も相手が見えないと当たらないな・・・。
「うーん・・・効果があるかわからんが、レイ・・・川を凍らせてみてくれないか?」
「うん、わかったぁー・・・。絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!絶対零度(ゼロK)!」
『ピッキィーン・・・・』一瞬で辺りが真っ白になったかと思うと、恐ろしいまでの静寂に包まれる。
川幅が大きいだけに、レイもいつもより多めに魔法を唱えて効果を広げた様だ。




