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心眼

13 心眼

「えへへ・・・生け捕りだから、少し弱めの光の魔法にしたんだよ・・・。

 最高の経験で来ているんだから、この体にはむげんの可能性があるんだってダーリンが教えてくれて、目をつぶっていても敵に攻撃できたり、敵からの攻撃をよけられる練習を一緒にしているんだよー・・・。


 しんがんっていうんだってー・・・。」

 レイが捕獲用の網で魔物たちを生け捕りにしながら笑顔を見せる・・・。


 何とそうだったのか・・・、このところレイの奴も源五郎の奴も一緒にジョギングとかトレーニングをしなくなったと思っていたら2人して特訓をしていたとは・・・確かに4週間以上も間が開いたわけだからな。


 それなのに俺は・・・ただの気晴らしや時間つぶしのつもりで日々ジョギングや柔軟などを繰り返していただけだ・・・何か難しいことをやろうとしてもすぐに、俺たちは最高経験値で来ているんだから魔物との戦いに関して訓練することは何もないって嫌がってばかりだったから、あきらめられたのだろう。


 なにせ、クエスト以外のトレーニングの経験値評価は低いといわれたわけだからな。

 それよりも、攻略不能なダンジョンがどのようなものか調査を進めた方がいいって言いながら、その調査すらも源五郎たちに任せっきりだったからな・・・なんにしても、強烈な反撃を食らわずに済んだのはよかった・・・。


「ああなんだ・・・、パパも魔物を捕まえに来たの・・・?

 じゃあ、こっち側の魔物たちをお願いね。」


「はぁはぁ・・・」

 うん?レイの身を案じて息せき切って駆け寄ってきた俺を見て、俺も目をつぶって魔物たちを仕留めた後捕獲しようとしに来たのだろうと勘違いしたレイが、笑顔で反対側の魔物たちを指さす。


 そんなことを勧められたところで俺には心眼などないし、目をつぶったままではどっちの方向へ向いているかもわからなくなってしまうだろう。

 方向音痴な俺では目をつぶっての攻撃など絶対に無理だ・・・、間違って近くにいるレイに刃を向けるわけにはいかないのだ・・・。


「じゃあ、そっちの2匹はサグルさんにお願いします、残りの2匹はあたしが捕まえておきます。」

 困っていたらツバサに役割分担を決められてしまった・・・、参ったな・・・ごめんなさいするのも・・・娘の前ではかっこ悪いからやだし・・・。


 うーん・・・ますます引っ込みがつかなくなってしまった・・・、源五郎は・・・源五郎がまたもや心眼で俺の目の前にいる2匹を射抜いてくれないかとちらりと眺めるが、腕を組んだまま期待しているような目つきで俺の動向を伺っている様子だ。


 仕方がない・・・まあやってみますか・・・、源五郎もレイも苦も無くこなしているのだ・・・、同じ最高経験値で来ている俺にだって、できないはずはない・・・。


 まず・・・目をつぶったまま魔物と対峙してみる・・、対峙といったって・・・奴らの目の前まで目を開けたまま歩んでいって構えれば、その時点で攻撃動作とみなされかねない。


 そのため奴らに背を向けた状態ですでに目をつぶり、そのまま振り返る・・・この時点で攻撃を仕掛けられたなら避けることもできずに撃沈だ・・・、息を整えながら前方に神経を集中させる。


 すると・・、俺のすぐ左後方から暖かなイメージが伝わってくるのが分かる・・・、それはそうだすぐ後ろにはレイが立っているはずだ・・・、そうして少し離れた右方向からは2つのこれまた暖かなイメージが・・源五郎とツバサだろう。


 前方へと意識をもう一度戻す・・・、すると・・・すぐ前方に2つの黒い影が・・・。

 2つの影は全く動かないのだが、それでもその方向から何か危険な感覚が伝わってくる・・・、恐らく目の前にいるはずの2匹の怠け目ザルの意識だろう。


 右の影の方の印象が少し近いので、半歩左側に移動する・・・そうして銅剣を抜き身構える。

 しかしこちらが攻撃態勢に入ったというのに、目の前にいるはずの2つの影ともに何の動きも感じられない・・・、ううむ・・・この2つの影が怠け目ザルという事で本当に間違いがないのだろうか・・・。


 方角的には右斜め前方と左斜め前方に一つずつであり、おおよそ3m枠の角の位置だから合っているはずだが、目の前で剣を抜かれているのに、何の動きも感じられないのはどうしてか?


 いや・・・感じられないのは俺が目をつぶっているからであり、奴らはすでに緊張して身構えているのかもしれない・・、俺が振り下ろす剣に反応してきつい反撃をくらわしてくるのか・・・?

 あるいは俺が全く頓珍漢な方向を向いていて、魔物と思っている影が当て外れで、これから仕掛けようとしている攻撃が、まったくの空振りに終わってしまうのか・・・?


 それも格好悪いな・・・どっちが恥ずかしいかと言えば、反撃を受けて倒れるよりも空振りの方が恥ずかしいかもしれない・・・ううむ・・・ちょっと薄目でも開けて・・・いやいやいかん・・・それでは奴らに本気で身構えられてしまいかねない・・・。


「パパ・・・どうしたの?ツバサおねえちゃんは、また2匹捕まえたよ・・・後はパパの目の前の2匹が残っているだけだよー・・。」

 ありゃりゃ・・・、ツバサは早々と・・・4匹目をゲットしたという訳か・・・俺が最後だ・・・。


 ええい、ままよ・・・、レイの奴が俺の目の前の2匹と言っているのだから、俺の感覚は間違っていないはずだ。

 ようしここは一気に・・・


「だありゃあっ!」


『シュッパンッ・・・シュパッ』右斜め前に勢いよく半歩踏み出し、黒い影めがけて銅剣を振りおろす・・、若干の手ごたえを感じて、すぐに左に向きを変えて大きく一歩半踏み込むと、下側から突き上げるように大きく剣を振りぬいた・・・、ううむ・・・こっちも手ごたえありだ・・・。


『ドスンッ・・・ドスンッ』すると後方と前方で大きなものが落ちる音が・・・。

『パチパチパチッ』「やったぁー・・・、流石パパだね・・・、一撃ずつで魔物を退治したー・・・。」

 左後方からレイの喜びの声が聞こえてくる・・・、やったのか・・・?もう目を開けても危険はないのか・・・?


 と、ちょっぴり不安だったが、恐る恐るゆっくりと目を開けてみると・・・、目の前の地面に茶色の毛むくじゃらの物体が落ちていた・・・、怠け目ザルで間違いがない。

 すぐに冒険者の袋から捕獲用の網を取り出して、捕獲する。


「こっちにも網を投げてください。」

 後方でツバサが叫ぶので網を2枚後方へ放ってやる・・・、そうしてすぐ後ろの怠け目ザルも捕獲を終え、クエストクリアと相成った・・・。


「やりましたね・・・流石リーダーです・・・、僕もレイちゃんも・・・目隠しをして訓練をしていましたが、最初の1週間は全然方角違いへ攻撃してみたりで散々でした。

 リーダーも心眼の訓練を行っていたわけですね?」

 源五郎が笑顔で近寄ってきた・・・。


「いやあ・・・必死で耳を澄ませて神経を集中して・・・、それこそある意味命がけだったから一発勝負でもうまく行ったのだろう・・・、まあダミーとかの目標物を置いて訓練するよりも、実際の魔物と対峙した方が敵を感じやすいという事もあるのだろうが、やはり最高経験値のこの体のおかげだね。


 それよりも・・・、心眼の特訓のほかにも何か特別な訓練は続けているのかい?」


「ええ・・まあ・・・、所詮思い付きではありますが・・・、いろいろとやっていますよ・・・、例えば、ツバサさんばりとはいきませんけど、跳躍の練習とか・・・」


 ううむ・・・ちょっと攻略困難なダンジョンを見せられただけでビビってしまい、冒険を続けることを拒否してしまった俺を尻目に、奴は困難なダンジョンに立ち向かうための術を身に着けようと訓練を始めていたという訳だ。


 ただ単に、先へと進んで夢の中の人に出会いたいという目的のために遮二無二・・・という事ではなく、あくまでも冷静にダンジョンをクリアするための施策を常に検討して、準備しようとしていたという訳だ・・・。

 本当に頭が下がるし・・・同時に自分が情けなくなってくるな・・・。


 俺たちが本当の危機に瀕したときには、次元の向こう側のこの星の住民たちが、ツバサの時と同じように地球へ救助をお願いしてくれるだろうなんて言うのは、動こうとしない俺に希望を与えるために何とかひねり出したことであり、源五郎の奴はそんな起こるかどうか確定していないことに頼るのではなく、あくまでも己が力だけで進んでいく算段をつけていたという訳だ。


 どうにも・・・五朗爺さんが攻略不可能なダンジョンのオンパレードとなるようなことを言っていたのを思い出し、更に本当にそのダンジョンのおかげで三四郎さんが犠牲になったことにビビってしまった自分が情けない。


 考えてみれば俺たちは、このゲームではありえないはずの最高レベルの経験値で来ているのだ・・・、攻略不可能なダンジョンというのは、あくまでも一般的なレベルの場合であり、俺たちにとって攻略不能などといったことは当てはまらないと考えた方が妥当だろう。


 現に、到底攻略できそうもない防御力と反撃力を持った魔物たちですら、目をつぶったまま攻撃することで簡単に倒してしまったわけだ・・・、たとえ目をつぶったまま攻撃を仕掛けられたとしても、レベルが相当に低ければ一撃という訳にはいかなかっただろうし、そうなるときつい反撃が待っているという訳だ・・・。


 攻略不可能と設計されたダンジョンでも、最高経験値の俺たちには攻略できる可能性が残されていると前向きに考えるべきなのだろうな・・・。

 ようし・・・


「じゃあ・・・次へ向かうか・・・、今日から源五郎たちの特訓には俺も付き合わせてくれ。」

「そりゃあもちろんですよ・・・、中には人数がいた方がやりやすい訓練もありますしね・・・。」

 源五郎が笑顔で答えてくれる。


「じゃあ・・・パパも一緒に特訓だね?」

 レイもうれしそうに笑顔を見せる・・・。


「あの・・・あたしも、その特訓に混ぜていただけますか?」

 すると、いつもは自分一人だけで訓練を続けたがるツバサまでもが加わってきた。


「もちろんですよー・・・、ツバサさんが加わってくれればなおさら心強い・・、なにせ、道場で様々なトレーニングを経験していたわけでしょう?


 それらを一度僕たちに教えてくれませんか?基礎からやり直す・・・という事ではないのですけど、何事も基本は大事ですし、それに基礎訓練の応用で高度な訓練を考えることが出来るかもしれませんので・・・。」


「あたしが知っていることでしたら何でもお教えしますよ・・・、じゃあ早速今晩から開始しましょう。」


「わーい・・お姉さんも一緒だー・・・。」

 ツバサの参加には、レイも飛び上がって喜んだ。


 捕獲した怠け目ザルたちは捕獲用袋にしまい込み、ヨースルの町には戻らずにそのままヨーレン川へ向かう事になった。


 途中2晩野宿することになったが、もちろんツバサコーチ指導の下、基礎訓練が始まり・・・その後、源五郎考案の特訓と続いた・・・2泊目の放送することがないので、訓練の様子を放送するとスタッフが言っていた。

 いつもはバラバラに訓練するので、1ケ所にまとまって同時にやっていただくと楽だとも言われてしまった。


 基礎訓練は当然ながらストレッチなどの柔軟に加え、ランニングとなぜか型の練習も入っている。

 型というのは突きとか蹴りに加え、肘うちや膝蹴りなど・・・、接近戦型の俺はともかく源五郎やレイには無用とも思えるのだが、奴らは不平も言わずに付き合ってくれた。


 源五郎考案の特訓には、もちろん目をつぶって目標を攻撃する心眼の特訓に加え、水平飛びや垂直飛びに加え木の枝を伝って素早く移動したり、あるいは手持ちの武器や道具を使って地面に素早く穴を掘って地中を移動するなど、恐らくダンジョンに閉じ込められることを想定しているのだろう・・・、そういった創意工夫が見られた。


 ついでに俺の提案で、ツバサが得意としている3角飛びの練習も取り入れることになった。

 まあ、俺たちの場合は訓練というよりも、本来取得しているはずの体術を再認識するというか、そのレベルを実感する事が目的ともいえる。


 ジョギング程度と言いながらも、恐らく10キロを数分でかけ抜く脚力を持っているこの体・・・、断崖絶壁を飛び越えるために思いきりジャンプしたら、その奥の茂みに突っ込んでしまったという事がないように、自分の限界と力加減を知るためだ。


「それにしても不思議なのは魔物の強さですね・・・無敵モードという設定はあるにしても、ダンジョンに巣くう魔物全体を無敵にしてしまったら、ゲームとして進行していけないですよね?


 リーダーが三四郎さんに話していたように、1時的な無敵モードというのはあってもいいと思いますよ・・・、冒険者をどこかに案内していくため、そのシナリオ迄は無敵とかいう設定ですね。


 それと同様に魔物たちも冒険者が何か行動する・・・、つまりダンジョン内の謎解きなどをしないと無敵が解除されないとか・・・、そういった設定であれば納得はできます。

 しかし東部大陸北部のアンテナ施設の魔物たちは、そういった謎解きなど一切なく、ただただ無敵状態でした。


 あれは果たして・・・ロールプレイングというゲームの設定として認められるものなのでしょうか?


 五朗さんは言っていましたよね?ここはゲームの世界でない限り存在していけないって。

 なのになぜ、あのような設定が許されていたのでしょうか?三四郎さんが助けてくれたからよかったようなものの、そうでなければ未だに僕たちはあの崩れた洞窟の中に閉じ込められていたわけですよね。」


 2時間の特訓を終えて息を整えていると、ふと源五郎が漏らす・・・、恐らくずっとこのことを考えていたのだろうが、打ち明けられないでいたのだろう・・・、なにせ下手に刺激すると俺が先へ進むのを拒否しかねなかったからだな。


 ツバサとはロープレゲームの話をしても、うまくかみ合わないだろうし、レイにはちょっと難しい話だ・・・結局俺としかこのような話はできないわけだな。

 だがしかし・・・、今後もダンジョン攻略を続けていくうえで、確かに検証しておくべき内容ではある。


 なにせ俺たちのような最高経験値であればまだしも、初期値から経験値を積んできた冒険者では到底クリアできない・・・、人が考えた設定だからどこかに穴がある・・・、などと探している余裕どころか、穴を見つけても攻略しようがないわけだ・・・。


 会心の一撃を4回続けるのも困難と考えるが、その会心の一撃の攻撃力だってレベルによって異なるわけだ・・だから低レベルであれば会心の一撃を百回続けるとか・・・しかも1ターンで・・・という絶対不可能な攻略方法となってしまうことだってありうる。


 裏コードを使って最高経験値で来たものしかクリアできないというような設定では、ゲームとして成り立っていないわけだ。


「その件に関しては、俺も何度か考えてみた。

 あくまでも俺の勝手な推論でしかないわけだが・・・、俺たちは言ってみればあのダンジョンの裏口から入ったわけだ。


 そのため、魔物たちの無敵を解除するための謎解きもできなかったのだろうと考えている。

 三四郎さんは正規のルートでダンジョンに入ったわけだが・・・、まあたった一人だけなので、謎解きなど行っている余裕はなかったのだろう・・・、というのはどうだろうか?」


 まあ、これが正解というところまでは行きついていないのはわかっているが、俺なりの設定を説明する。



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