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作戦

12 作戦

 ううむ・・・ルール無視で背後から・・・という事もできなくなっているようだぞ・・・なにせ奴らの間を通り抜けることも、できそうもない。


「あたしが、木々を伝って上方から向こう側へ回ってみます。」

 ツバサが身を低くして跳躍の態勢に入る。


「いや・・・ちょっと待った方がいい・・・、この辺りの樹木からは地面と平行に枝が出ているが、その枝は幾層にも梯子状に連なっている。

 間隔は50センチもなさそうだし、いくらツバサでも跳躍しながら隙間を通り抜けることは難しいだろう。


 かなり高い木だが、上まで登れば何とか回り込むこともできるだろうが、だがそんなことが出来るのはツバサだけで俺たちには無理だ。

 枝にぶつかって下に落ちれば、奴らの爪の餌食になってしまう可能性が大だ。」


 すぐにツバサを制する・・・、いくら身軽とはいえ無茶は禁物だし、ツバサ一人向こう側へ回り込めたとしても解決する問題ではない。


『じゃあ一体どうすれば・・・。』

 源五郎とツバサが同時に問いかけてくる、


「どうすれば・・と言われたって、俺だって・・・」


「じゃあ、あたしが攻撃してあげるわ・・・、いくら防御力がAAといっても、剣とか武術で攻撃したときでしょ。

 魔法の力なら防御出来ないわよ・・。」

 俺だってわからないと言おうとしたら、レイの奴が自信満々で身構える。


「ちょっと待て!」

「待ってられない!

 神の裁き(ライデン)!神の裁き(ライデン)!」


『ダダダダダダッ・・』「馬鹿ッ・・・すぐに伏せろっ」

 ダッシュで2つ隣のレイのところへ駆け寄り、飛びついて押し倒す。


『バリバリバリバリバリッ・・キンッ』『ガリガリガリガリガリッ・・・ガッガガーンッ』すぐに目もくらむような閃光と耳をつんざくような衝撃音が辺り一面に響き渡る。


「あいたたたたたっ・・・あれっ・・・全然効いてない・・。」

 突き飛ばされて地面に転がされたレイが起き上がりながら、魔法攻撃が命中したはずの目の前のターゲットを見て、ショックを受けたように目を丸くする。


「魔法攻撃を見事に跳ね返されたんだ・・・、しかもさらに大きな魔法効果にして・・・。はぁはぁはぁ・・・」

 うつぶせのまま上体だけを腕の力で何とか支え、荒い息を整えようと努力する。

 腰のあたりが焼き鏝を押し付けられたかのように熱い・・・。


「きゃあっ・・・パパ・・大丈夫?」

「いやあ・・大丈夫じゃなさそうだ・・・。」

 目の前が真っ暗になってきた・・・そのまま、仰向けに体勢を変えるが依然下半身が火のように熱い。


『パパ・・・パパ・・しっかりして・・・全回復(ゼンカイ)全回復(ゼンカイ)!』

『リーダー・・・これを・・・!』

 薄れ行く意識の中で、焦点の合わない影たちが何か叫んでいるようだ・・・。



「うん?」

 ふと気が付くと・・・、上空の日の光を遮るかのように幾重にも積み重なった木立の隙間から、わずかながらに日の光が差し込んでいる・・・、ここは・・・?


「リーダー・・・復活出来ましたか・・・?」

 傍らの源五郎が、ほっとしたように笑顔を見せる・・・、そうか・・・復活の木の葉か・・・ありがとう源五郎・・・。


「危なかったですね・・・、レイちゃんの魔法が跳ね返され、更に数倍の威力に増幅されたようですね・・・。」

 ツバサが俺の鎧の焼け焦げて穴が開いた隙間から右手を入れ、内側から腰をさすってくれながら首を振る。


 すさまじいまでの衝撃だった・・・最高経験値の体でなかったなら、復活の木の葉の世話になるまでもなく、炭化していたことだろう。


「でも・・・、サグルさんも身代わりの指輪を持っているはずですよね?

 5個ずつ分配したはずでしたが・・・、まさかボクサーカンガルーのダンジョンで消費しきってしまいましたか?」

 ツバサが俺の鎧の手袋を外して、指輪がはめられていないことに疑問を投げかけてくる。


「いやあ・・・、何せ指輪と言えば結婚指輪だろ・・・?男なんて結婚指輪をつける以外で指輪なんかしたことがない。


 いくつも付けていると、どうにも手の感じが気持ち悪いんで普段は外しているんだ・・・、今回はクエストレベルがXAだから楽勝だと思って、着けるのを忘れていたよ・・ごめんごめん・・・。」


 身代わりの指輪の恩恵にあずからなければならないのはハイレベルの俺ではなくてツバサなのだと、自分の分は使わずにとっておくつもりだったのが裏目に出た・・・というか消費しなくて済んだのだからよかったのか?


「ありがとう・・心配かけたが、何とか大丈夫だ・・・。」

 よろよろと多少ふらつきながら起き上がる・・・腰のあたりがスースーするのは、鎧に開いた穴のせいだけではないだろう。


「ごめんなさい・・・。」

 レイが目に涙を貯めながら、肩を震わせてうつむく。


「ああ・・大丈夫だ・・・、やはり奴らは物理攻撃だけではなく魔法攻撃ですらも、強力な反撃力で跳ね返してくるという事が分かった。


 それと・・・ここに全員が集まれたという事は、どうやら奴らの間の空間・・・、3m間隔の間を横移動する分には攻撃と感知しないようだな・・・、反撃を受けずにここに集合できたという事はそういう事だろう。


 つまり横には進めるという事のようだ・・・、と言っても進める範囲は、奴ら5組が向かい合っている間の間隔だけで、その先は樹木がふさいでいるから抜けられそうもないがね。」

 とりあえず、3m間隔で散らばっていたのだが、1ケ所に集まれたのは少し心強い。


「距離感というか・・・、奴らの正面から近づこうとすると攻撃とみなされるのでしょうね。

 奴らの間隔3mの中間地点を横に進むのは、距離がどちらに対しても近づかないので対象外なのでしょう。」

 ツバサが前後の魔物たちを交互に眺めながら、冷静に分析する。


「そうですね・・・1ケ所に集まることが出来たのですから、個別に攻撃を仕掛けずに1点集中で行きましょうか?

 奴らは反撃するときは素早いようですが、普段の動きは相当緩慢です。


 続けざまに1ケ所に集中攻撃すれば、周りの奴らの援護が間に合わないでしょう・・・ちょっと卑怯な気がしますが、身代わりの指輪をつけて肉弾戦で戦うというのがどうでしょうか・・・?」

 源五郎が、やはり外していた身代わりの指輪を指に装備しながら提案する。


「まあそうだな・・・、そうすれば恐らく1匹や2匹やっつけることは可能だろう・・・、身代わりの指輪は消費するだろうがね。


 だがそれではクエストをクリア出来ない・・・、受け取った捕獲用の網は10個あるのだから、10匹捕まえなければならないのだろう・・・、1,2匹では足りない・・・かといって肉弾戦を何度も繰り返すのは無理だ・・・身代わりの指輪には限りがあるし、更に旅はまだ始まったばかりだ・・・ここで多くを消費したくはない。」


 確かにここを脱出するだけなら名案と言えるのだが、クエストを完遂することができなくなってしまいそうだ。

 更に身代わりの指輪は、ツバサのことがあるので極力消費したくはない。


「うーん・・・そうですね・・・、でも・・・どうしますか?」

 源五郎が腕を組みながら俺に視線を合わせてくる・・・、どうしますか?と言われても俺だって・・・。


「そうですね・・・今こちらにかけてくるとき奴らをちらりと横目で見ましたが、それまでこっちを無視していたのが、突然視線を向けてきました。


 もしかすると目の動きを見ているのかもしれません・・・奴らが我々の目の動きを追って反撃しかけてくる可能性があります。


 相手と対峙するときに敵の目線をうかがうのは格闘技でも同様ですからね・・・、奴らは防御力が高く反撃が鋭いのは、その傾向がより強いのかも知りません・・・ちょっと確かめてみます。」

 ツバサはそういうと立ち上がり、片側の魔物たちを見ながらカニのように横歩きを始めた。


「すみませんが・・・、あたしの後ろの魔物たちの目線があたしの動きを追っているかどうか見ていてください。」


 ツバサに指示され彼女が背を向けている方の魔物たちの目線に注目する・・・、目線は真向かいにいる仲間の魔物に向けられたままで・・、うん?一瞬目線がぐるぐると泳いだ・・・が戻った・・・、ああそうか・・・ツバサが通り過ぎたわけだな・・・、目の前の魔物の姿が見えなくなって、目線を合わせる対象がいなくなったわけだ。


「どうでした?」

 ツバサが向こう端までカニ歩きした後、駆け足で戻ってくる。


「ああ・・・奴らはツバサの動きを全く無視していたようだな・・・、向こう側の仲間をじっと見ていただけだ。

 ただ一瞬・・・ツバサが目の前を横切って、対面している魔物が見えなくなった時だけ、どこにも視線を合わせられずに、目玉がぐるぐると泳いでいたよ。」

 とりあえず見た儘を報告する。


「そうですか・・・あたしの正面側の魔物たちは、あたしの方をじっと見ていましたよ・・・、というか、目の前のあたしの目に視線をじっと合わせていました。

 そうしてあたしが正面から居なくなって隣の魔物のテリトリーに移ると、目線を追うことをやめるようです。


 やはり目の前の敵の目の動きを追って、攻撃のタイミングを瞬時に判断して反撃に転じるのでしょう・・・。」

 ツバサが魔物の反撃に転じる素早さの秘密に気付いたのか、笑みを浮かべる。

 だがそれが分かったところでどうすればいいのか、俺にはさっぱり・・・。


「ちょっと試してみます。」

 そういうとツバサは、突然魔物の方に歩き始めた。

 3m間隔のちょうど中間というか、奴らの間を目指してゆっくりと進む・・・。


「ばっ・・ばかな・・・、ツバサ・・・真っ二つにされるぞ・・・。」

 すぐにツバサを引き留めようと手を伸ばそうとする。


「危険ですから目を開けたまま、あたしに近づかないでください!」

 すぐにツバサが厳しい口調で叫ぶ・・・、そっ・・・そんなふうに言わなくたって・・、俺はツバサの身を案じて・・・、見ると彼女は目をつぶったまま歩いているようだ。


 ツバサに思いっきり拒否られたので、その場に固まってしまった俺を全く無視して、ツバサはズンズンと魔物の方に近づいていく・・・、おいおい・・・格子の辺までもう50センチもないぞ・・・、完全に敵の射程圏内だ。


 あれ?おかしい・・・、奴らは攻撃を仕掛けるそぶりも見えないどころか、ツバサの方を見ていない。

 ツバサの正面側にいる2匹の魔物たちの目の動きを見ていると、ツバサではなく奥にいるはずの俺の動きというか、俺の目線に対して奴らの目が動いているようだ。


 そうか・・・ツバサが言う通り、奴らが注目するのは、敵の目の動きのみなのだ。

 だからこそ背後からの攻撃は厳禁となっているのだな・・・、正面からの攻撃に特化している魔物という訳か。


「この地点が恐らく魔物たちのちょうど中間地点にあたると思います・・・このまま進めば魔物たちの包囲から逃れられますね・・・、でもそれではクエストがクリアできませんから・・・。」


『シャキィーンッ』ツバサは目をつぶったまま魔物たちのちょうど間に立ち止まると、やはり目をつぶったまま鉄の爪を装備して身構える・・・おいおい・・・やはり戦うという訳か・・・?

 敵の防御力はAAで、更に反撃力は特AAだぞ・・・大丈夫か?


「とうっ!」


『シュタッ・・・タッ・・シュッパンッ・・・タッ・・シュパッ』『ボスンッ』『ボスンッ』ツバサが華麗に跳躍して、左側の怠け目ザルの頭上から右手の鉄の爪の背でわき腹を思いきり突き上げ、更に魔物が?まっていた木の枝を蹴って右側の怠け目ザルのもとへと飛び移り、背中から左手の鉄の爪を振り降ろす。

 なんと一撃ずつで魔物たちは樹上から地上へと落下した。


「ふう・・・目をつぶってさえいれば、簡単に倒せますね。」

 ツバサはそういいながら捕獲用の網で、怠け目ザルたちを生け捕りにする。


 そんなあ・・・目をつぶってまっすぐ歩くどころか、華麗に宙を舞って敵を葬ることが出来るのは、格闘家世界一のツバサだけだって・・・。


「ああそうですね・・・、じゃあ僕も目をつぶって・・・。」

 そう言いながら源五郎が、今度はツバサが進んだ方向と反対側の怠け目ザルたちに向け、弓を構える。


 そりゃまあ、奴らの動きはほとんどないから照準を合わせておいてから目をつぶっても、当てることは可能だろうが、照準を合わせようとする行為だけでも攻撃とみなされてしまうのじゃあないのか?


 と思っていたら・・・あれ?・・・、源五郎は弓を構える前から目をつぶって、そのまま奴らの方へ向き直るが、やはり目をつぶったままだ・・・、魔物たちのおおよその位置関係を把握していたというのか?

 でもそんなあてずっぽうの狙いじゃあ、急所に的確に当てることはできないぞ・・・。


『シュッシュッ・・・シュッパッ、シュパッ』『バスンッ、バスンッ』ところが源五郎の矢は的確に魔物たちの体にヒットしたようで、同時に魔物たちは地上に落下した。

『タタッ・・・』すぐに源五郎が落下した魔物たちを捕獲に走る・・・が、やはり目をつぶったままだ。


「へえ、面白そう・・・、じゃああたしも・・・。」

 何と今度はレイまでもが・・・、しかも俺の隣にいたのにすぐに目をつぶって、そのまま6mほど隣の魔物たちの列中央へとまっすぐに歩いて行って立ち止まり身構える。


 まあ歩数を数えていれば、後は歩幅から大体の距離は推定できる・・・、だがしかし、正確に魔法効果を発揮するには、奴らの姿をちらりとでも視認できなければ難しいぞ・・・。

 その時に攻撃とみなされて、先ほど同様にきつい反撃を食らってしまう・・・。


「レイ・・・、やめなさい!」

 すぐに立ち上がって、レイのもとへと駆けよっていく。


光攻撃(ペカ)光攻撃(ペカ)!」

『ぺかーぺかー・・・』『ドスンッ、ドスンッ』間に合わなかったか・・・、駆け出そうとした途端に無情にもレイの魔法は唱えられ魔物たちのテリトリーへ・・・、まずいきつい反撃が・・・と思っていたら、何とレイの前の2匹にそれぞれ命中し、魔物たちは地に落ちた。



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