プラチナクエスト票
11 プラチナクエスト票
「ちょう・・・朝会・・・かあ・・・そういえば、そんなことをやっていたな。
仕事始めに本日行う業務内容をグループ員全員に説明し、意思の疎通を図って失敗を防ぐわけだ。
例えば気難しいお客様が相手だとか、あるいは納期に厳しいお客様とか・・・営業だとそのような人間関係についても情報伝達する。
もちろんそれ以外でも、商品の市場状況とか流通状況など重要だから再確認したりもする・・・。
決して忘れていたわけではなくて・・・今回の冒険に関してのクエスト票には、プラチナチケットになってからなんだが・・・クエスト名とレベル以外の記載がないんだ・・・。」
俺が今回のクエスト票を袋から取り出して、みんなに見せながら説明する。
「ああ・・そうですよね・・・プラチナクエスト票には、クエスト名とレベルの記載くらいしかなかったですね。」
ギルドに入るとクエスト票を真っ先に探しに行く源五郎も、大きく頷く。
「はあ、でも・・・何か書いてありますよ・・・、怠け目ザル・・・ナマケモノのような長いかぎ爪で木の枝に引っ掛かり樹上生活を送っている、木から落ちると攻撃力防御力ともにゼロなので落として捕獲。
かぎ爪は防御及び攻撃にも使用、要注意・・・攻撃力XAで背後からの攻撃厳禁となっていますね・・・、あとは・・・行きはよいよい帰りは恐い・・・って何ですかね?」
するとツバサが怪訝そうな顔つきで、俺が手に持つクエスト票をのぞき込む。
「ええっ・・・だって昨日ギルドで見たときにはそんなこと・・・。」
驚いて手首を返してクエスト票をまじまじと眺めると・・・、本当だ・・・長いかぎ爪とか・・攻撃力だって?
以前のクエスト票にだって、そこまでの詳細は記載されていなかったぞ・・・。
「以前の冒険の時にも朝会はダンジョンに入る前に行われていましたから・・・、もしかするとダンジョンに近づくと詳細情報が表示されるのではないでしょうかね?
だから・・、今後も継続しましょう。」
クエスト票を手に呆然自失となっている俺に対して、ツバサが笑顔で提案する。
「あっ・・ああ・・・、そうしよう・・・。」
そうだったかな・・・・?現場近くにならないと、詳細情報が浮かび上がらなかったのかな・・・???
よくはわからんが、そうであれば今後もお役立ち情報はクエスト票からも頂けるわけだ。
ダンジョン攻略がぐっと楽になる情報も記載されるかもしれないから、これは期待できる・・・ツバサ・・・サンキュー・・・。
「じゃあ出発しよう・・・歩きになるから中継車はここで待機していてくれ。
魔物の気配は全くないから、危険はないだろう・・・。」
魔物が山から下りてくることはないと昨日食堂の店主も言っていたから、テレビスタッフに危険はないはずだ。
スタッフと中継車を残して山道を登っていく。
「結構木々の密度が濃いですね・・・日の光を遮るので、洞窟でもないのにずいぶん薄暗く感じます・・。」
しばらくすると、下草をかき分け進んでいる先頭の源五郎が、上を見上げながらつぶやく。
人が通れるような道もないため以前道具屋で購入した鎌を使い、交代で下草を払いながら進んでいるのだ。
「ああそうだな・・・、太陽が3つ上って天頂にも達しているというのに薄暗い・・・、昨晩到着してすぐにダンジョンへ向かわなくて正解だったという訳だな・・・、太陽が一つだけだと・・・薄暗いどころじゃあなかっただろうからな。
カメラ用のヘッドライトの明かりだけで下草を刈りながら進んでいくのは結構つらかっただろう。」
大事を取って・・・というか、念のために一晩野宿をしてからのダンジョン攻略としたのだが、どうしても緊急にこなさなければならないといった理由もないため、夜時間はさけたのだ。
テレビスタッフは冒険映像がほしかったようだが、それでも昨晩の放送分は試練のダンジョンでの戦闘シーンでまかなえたので、今日のダンジョン攻略を本日分に放送できれば問題はないと了承してくれたのだ。
まあ、正しい判断だったと認識できてほっとしている。
「何か見えるよー・・、あっ、お猿さんだあー・・・。」
今度はレイが先頭で草刈りをしていたのだが、急に先が開けて更にその先には確かに茶色の群れが見える・・・。
「レイッ、だめだ・・・、不用意に魔物に近づいてはいけない!」
手を伸ばし、すぐに駆けだそうとするレイの右肩を掴んで引き留める。
膝まで覆い隠すような下草は消え、木立もまばらになった広場の向こう側に、動物のような魔物のような茶色の毛むくじゃらの生き物の姿が見える。
そいつらは・・、長い4本の手足を使って木の枝にぶら下がっている様子だ。
「ううむ・・・、怠け目ザル・・・、ナマケモノのようなかぎ爪で木の枝にぶら下がるとなっていたから、あいつらで間違いがないだろう。
捕獲用のアミをもらったから各自で捕獲してくれ・・・といっても、暴れて逃げ出そうとするだろうから、そのまま網をかけてもダメかな・・・?
やっぱり少しは攻撃して弱らせなければいけないのかもしれんな・・・かといって死んでしまっては捕獲にならないし、加減が難しいな・・・。
ツバサの場合は・・・魔物の攻撃力がXAとレベル差があまりないので、1対1であれば問題はないだろうが囲まれないよう注意してくれ。
周りのみんなでフォローするようお願いする。」
一応、フォーメーションとまではいわないが、注意事項を告げてから、ギルドの受付嬢から受け取った捕獲用網を各自に分配してから広場に足を踏み入れる・・・、2枚ずつで2枚余ったから魔物は10匹いるという事なのだろうな・・・。
「どうなっているんでしょうね・・・、ここが魔物たちと戦うためのダンジョンなのかと思っていましたが、中に入っても一向に向こうに動く気配も見られませんね。」
木々が生い茂った山奥の中にぽっかりと開いた小空間・・・、一辺が10m程度の四角い広場のような場所なのだが、この部分だけは草も木も生えておらず、赤土がそのまま露出している。
ここが闘技場と考えて身構えているのだが、向こう側の木立に潜む・・・というか枝にぶら下がっている魔物たちは、ピクリと動く気配も見られない。
「動くどころか・・・俺たちがやってきたことに気づいてもいないんじゃないのか?
どうやらあの茶色い小動物たちは、向こう側を向いているようだぞ・・・。」
先ほどからずっと観察しているが、気にぶら下がったままの魔物たちに動く気配すら感じられないため、慎重に広場を歩いていく・・・、いつ敵が豹変して襲い掛かってきてもいいように、身構えながらすり足で進んでいく。
近づくにつれ、だんだんとその姿かたちがはっきりとしてきたのだが、頭と思しき場所に顔や目などが遠目にも見受けられない。
茶色の長い毛に覆いつくされたその体は50センチほどの胴体に、1mくらいはありそうなその体には似つかわしくないほど長い手足で、地上2mほどの高さにある地面と水平に張り出した太い木の枝にブランコのようにぶら下がっているようだ。
毛むくじゃらなので、目鼻はその毛に覆いつくされているとも考えられるのだが、これだけ近づいても動きがないところを見ると、やはり向こう向きと考えるのが自然だろう。
「うーん・・・どうやら本当に林の向こう側を向いている様子ですね・・・、これだけ近づいても反応しません。」
源五郎が、あきれ顔でつぶやく・・・。
ついに広場の向こう側の、魔物たちがぶら下がっている木立のところまで到達してしまった。
手を伸ばせば、魔物たちの体に触れる距離まで近づいても、何の反応もないのだ。
「近づいてきた足音だって聞こえるだろうに・・・、俺なんか甲冑だから一歩踏み出すたびにガチャガチャと結構うるさいと思っているけれどな・・・。」
ふつうは小動物などは敵に襲われないように辺りに注意をはらって、少しでも怪しいものが近づいてきたら、逃げるなり威嚇するなりするもんだ・・・。
だが、こいつらは何もしようともしない・・・、ふうむ・・・といっても他に魔物が生息していない環境になれてしまったのかな?
パラボラアンテナ工事で、ダンジョンの魔物たち以外はすべて工事現場に召集されているといっていたからな。
「ラッキーだな・・・ツバサのレベルアップのために引き受けたんだが、楽勝のクエストだったわけだ。
相手は俺たちが近づいても動かないようなおとなしい魔物たちのようだから、このまま捕獲してクエスト終了としよう。」
手持ちの捕獲用網を広げて身構える。
「あれ?背後からの攻撃厳禁ってツバサさんがさっき言っていませんでしたか?
捕獲は・・・いえ、やはり捕獲という行為も攻撃の部類に入ると考えます。」
すると生真面目な源五郎が意外な言葉を口にする。
「ああ・・そうですよ・・、クエスト票にはそのような記載がありましたよ。」
するとツバサも相槌を打つ。
「ううむ・・そうか・・・だったら仕方がない・・・、こっちを向かせて・・・って、これだけ近くで騒いでいるのに振り向こうともしないから無理だな・・・、触ったりすることも攻撃に含められても困るしな・・・こっちが相手の向こう側へ回り込むしかないか・・・。」
『シャキィーン』仕方なく鋼鉄の剣を抜いて身構えながら、魔物たちの向いている林の奥へと歩を進めていく。
こちら側の林の木々の間隔はそれほど狭くはないのだが、地面に水平に張り出した枝に魔物たちがぶら下がっているために、その魔物たちの間を進んでいかなければならない。
ちょうど魔物たちは俺たちから見ると5列になっているようなので、4人でそれぞれ魔物たちの間を進んでいくことにした。
魔物たちがそれぞれぶら下がっている木の間隔は12mほどで、両側から張り出した枝にそれぞれ魔物が2匹と3匹ずつ均等な間隔を置いてぶら下がっている。
自動的に魔物同士の間隔は3mほどになり、奴らの手足の長さから言ったら射程距離内ではあるのだが、それはこちらに関しても同様なことが言える。
飛び道具の源五郎に関してはちょっと近づきすぎの面はありそうだが、奴なら何とかするだろう。
「おおっ・・、どうやら向こう側の魔物たちはこっちを向いているようだな。
5対5で互いに内側を見合っていたという事か。」
5列×2行の奥行間隔も3mほど・・・、俺たちは3m×3mの格子の真ん中にそれぞれが位置している形になっているようだ。
向こうの魔物の毛むくじゃらの頭には目らしきくぼみと黒いものが確認できたから、顔がこっち向きという事だろう。
それでもこちらをじっと見つめているだけで、特に威嚇も何もしている様子は見られないが、こちらの動きに合わせて目玉がくりくりと動く・・・なんだかかわいらしい小動物といった印象だ。
顔の割に異様に大きな目が特徴的な魔物だ。
「ふうん・・・集団見合いですかね・・・?
見つめあっている組同士、カップルという事かもしれませんね。」
源五郎が、左右にいる2組の魔物たちを交互に眺めながらつぶやく。
「うーん、その可能性もありうるな・・・、だったらペア同士捕獲しておいてやるとするか・・・、その方がさみしくないだろう。」
それにしても奴らに動きがみられない・・・食堂の店主が楽観視していたように、山を下りてくるどころか、その生息地の中に入り込んでも、何もしかけてはこないおとなしい、よく見ると愛嬌のある顔をしている小動物といった感じだ。
どうしてこいつらを捕獲しなければならないのか・・・、ちょっぴり疑問・・・。
といっても、こいつらを捕獲していかなければクエストはクリアできないため、私情は禁物だ・・。
「よーし・・・ペアで捕まえてやるからな・・・、おとなしくしていてくれ・・・。」
剣を鞘にしまい天空の盾を装着型にして腕に装着してから、警戒されないよう捕獲用の網を右手に持ち、少しずつ怠け目ザルの1匹に近づいていく。
『シャキィーンッ』『ブンッ、キンッ』すると目の前を光の帯が走る・・・、同時に体が反射的に後方へと飛びのいた・・・なんだなんだ・・・なにが起きた・・・?
「リっ・・・リーダー・・・、よっ・・・よろい・・・。」
隣にいる源五郎が、俺の腹の方を指さしながら息をのむ・・・、うん?どうした?
ああっ!鋼鉄の鎧の胴部分が、真ん中から右方向へバッサリとえぐられているようだ・・・、左腕に装着した天空の盾が開いているところを見ると、恐らく敵の攻撃に盾が反応して左半身をガードしてくれたのだろう。
これがかぎ爪による攻撃という事なのか?危なかった・・・盾のガードがなければ飛びのく暇もなく、恐らく俺の体は上下に真っ二つに分断されていたことだろう。
「ばっ・・・ばかな・・・、魔物の攻撃力はXAだろ?
俺のレベルに比べたらずいぶん低いレベルだ・・・、いくら油断して不意を突かれたとはいえ、避けられないほどの攻撃ではないはずだ・・・・」
なんだか自分の目を疑うようだが、もう一度袋からクエスト票を取り出して、魔物の攻撃力を確認する。
「攻撃力はXAで間違いがない・・が・・・あれ?なっなんだこりゃ・・・、防御力AA(前方からの攻撃のみ)・・・反撃特AA・・・。」
クエスト票の記載事項が増えているではないか・・・、つまりは後出し・・・という事か?
しかも・・・反撃特AAって・・・、攻撃を仕掛けて反撃を食らうと・・・俺たちのレベルよりも高い反撃を食らってしまうという事なのか?
「防御力AAという事は、僕たちの経験値レベルの攻撃はふせがれてしまうという事ですよね?
さらにきつい反撃が返ってきてしまうと・・・、困りましたね・・・でも前方からの攻撃のみAAなんですよね?だったら、背後から・・はだめなんだから横から攻撃・・・ですかね?」
源五郎がそういいながら、2匹の怠け目ザルの間に入っていこうとする。
『シュキィーンッ』『ボワッ、キンッキンッ』すぐに源五郎の体に十文字の閃光が走る・・・斬られたのか?
「うわっ!だめですね・・・、背後からはその間を通ってこられたのですが、前を向いている時に一定距離以上に近づこうとすると、攻撃とみなされて反撃を食らってしまうようです。
危うく盾と鋼鉄の矢で受けましたが、矢はぼっきりと折られてしまいました。」
源五郎が握りしめている数本を束ねた矢が、真ん中から折られている・・・すごい反撃力だ・・・流石、反撃力特AAだ・・・などと感心している場合ではない・・・このままではここを出ることもままならない。




