10年間の想い
9 10年間の想い
『ガサッ』「ようっ!」
物陰から姿を現し、源五郎のもとへ歩み寄る。
「あっ・・リーダー・・・聞かれてしまいましたか?」
源五郎が恥ずかしそうに後頭部を掻きながら会釈をする。
「悪いな・・・盗み聞きをするつもりではなかったんだが・・・、ジョギングから帰ってきたら宿の前に源五郎とツバサがいて・・・、状況から見て2人の間を割って宿に入っていくわけにも行かず・・・。
それに2人が親密な関係に見えたものでな・・・、だったら応援せねばと成り行きをうかがおうとしたわけなんだが・・・、ちょっと意外だった。」
レイの奴は晩飯の後に好みの番組もなかったようだから、恐らくもう寝ていることだろう。
まあある意味よかったともいえる。
「聞かれてしまいましたか・・・お恥ずかしい・・・、実は僕が今回冒険に参加した目的は・・・もちろんツバサさんの窮地を知り救出も目的の一つではありましたが、申し訳ありませんが最大の目的は、前回の冒険で出会ったであろう、僕の意中の人にもう一度会いたいと思っていたからです。
といってもどんな人なのか、お恥ずかしい限りですがよくわからないのです。
ですが・・・夢に出てくるのです・・・それもほぼ毎日・・・、実体化した後冒険の世界に戻ってきて通信が回復しましたが、その時に記憶を引き継いでからはなんともなかったわけですが・・・、ゲーム機が没収されてからは毎日のように彼女たちが夢に出てきます。
彼女たちと言っているのは、その夢に出てくる女性のイメージが真逆というか・・・、小柄で華奢な体つきをしていたかと思うと、次の日は長身で手足が長く抜群のプロポーションで・・といった具合です。
恐らく実体化したときに出会った娘たちではないかと推定しているのですが・・・、ゲーム機で寝ているときにはもちろん夢は見ない・・その時に冒険の内容が伝わってくるわけですからね・・、ですからゲームに参加していた時には何ともなかった。
そのゲーム機を没収されてしまったために夢をまた見るようになり、以前のうっすらとした記憶が呼び覚まされているのではないかと考えているわけです。」
源五郎は頬を染め、頭を掻きながら・・・考え考え話し出した。
「ふうむそうか・・・夢に出てくるねえ・・・、まさにこのゲームの世界そのもののような気が確かにするわな。
でも、思い過ごしという事もあり得るわけだぞ・・・、もっと昔に出会った女性とのことが、しばらくゲームの影響で夢を見なかったがために、呼び覚まされたということだってありうるわけだ・・、なにがきっかけになるかわからないわけだからね。
なにせ・・俺たちには実体化していた時の記憶は全くないわけだからね・・・、綾瀬たちのように記憶を引き継げた訳ではないのだから・・・、その時のことをうっすらとでも覚えているというのは・・・思い過ごしではないのか?」
源五郎の気持ちはわからないでもないのだが、俺にだってはるか昔の彼女が夢に出てきた経験はあるわけだ・・・別に普段の記憶から全く消えていたとしても・・・、記憶が伝わってきていないはずの実体化した時の経験というよりもはるかに現実性が高い。
「いえ・・・、当時の僕はどちらかというとオタク・・というか学校でも同級生の女の子と話すこともなく、それよりも友人たちと立ち上げた会社のことで休み時間も家に帰ってからもほとんどパソコン漬けの毎日でした。
それなので彼女なんかいたこともなかったですし、いいなあと思う女の子もいませんでした。
まあそれでも、たまにテレビをつければ女性アイドルとしてかわいい女の子たちが出ていましたからね、そういった子へのあこがれではなかったのかと言いたい気持ちもわかります。
でも・・・でもですよ・・、リーダーは一緒に冒険をしたレイさんと現実世界でも結婚しましたよね?
きっかけは通信障害の時の説明会で再会・・・というか現実世界ではその時に初めて出会ったわけですが・・・、それでも再開した冒険の世界では親密な雰囲気で、互いをカバーしあっていましたよね?
とても出会って2日目・・・、ゲーム機の説明会の時を含めれば1ケ月間以上の時は経過していましたが、まともに出会って行動していたのは、実際はそれだけの期間だけです。
にもかかわらず、長年連れ添ってきた関係のように見えました。
恐らく実体化していた時の記憶は僕たちにはないのですが・・・、それでも深層心理には、その時の記憶というか経験のイメージが引き継がれていると考えているわけです。
綾瀬さんたちのように、時間をさかのぼった時点に存在していなかったという理由がなければ記憶を引き継げないと説明を受けましたが、現にその時に存在していたツバサさんだけは、明確に実体化していた時の記憶も引き継いでいます。
つまり・・・、意識できなくてもその時のイメージは引き継がれていると考えてもいいと思います。
だからこそ・・・ツバサさんが言っていたように、前回の冒険でひどい目にあわされかけた、半魚人の十四郎とかいう人に対して、覚えていないはずの僕たちも最初からいいイメージを持つことが出来なかったのだろうと考えています。
以前の僕は・・・先ほども話したようにオタクそのものでした・・・、会社を立ち上げて代表取締役になっていたとはいえ、対外的な折衝はほとんどスタッフに任せっぱなしでやっていました。
まあ、僕がまだ学生だったという言い訳もできましたしね・・・、でもやはり、そのような性格を変えたいと思う気持ちは人一倍持っていて、このゲームの最初の時のアンケートには、明るく元気な性格になりたい・・・とだけ書いて提出しました。
そうして非常に短期間ではありましたが、実体化してから戻ってきたゲームの世界での僕は、それまでの僕には考えられないほど明るく、誰とでも話ができる性格をしていました。
そうしていつの間にか、その性格が本体である僕の性格となっていきました・・・、以降は対外折衝も僕自身で行い、会社を急速に発展させていったわけです・・・、つまり、このゲームで過ごした経験は、記憶されていないのかもしれませんが、僕の中で脈々と受け継がれているのです。」
源五郎が実体化していた時の記憶の引継ぎに対して力説する・・・、ふうむ・・・意外だった・・・長身で手足も長く、現代の若者風の格好のいい外観をしているにもかかわらず、源五郎がオタクでさらにそのことにコンプレックスをいだいていたとは・・・たしかに以前の奴の分身は・・・ちょっと変だったからな・・・。
そうして、このゲームを通してその性格が好転していったという事か・・・確かに言われてみれば、俺の性格だって変わったのかもしれないな・・・、前はあんまり課長とも打ち解けられていなかったような・・・。
レイと結婚して家庭を持ったことによって社交的になったと考えていたのだが、そうではないのかもしれない・・・、このゲームの影響だったのかも・・・、ふうむ・・・あり得ないこともない。
まあツバサの例もあるわけだからな・・・、俺たちにだって少しくらいは現実化していた時の記憶が流れてきているのではないか・・・、とは俺だって何度も考えたことだ。
「ああまあ・・・だがそれを認めたところで、今回の冒険で出会えるという可能性は低いとしか言えないぞ。
俺と同じように、冒険者の女性と親密な関係になっていたという公算が強いわけだろ?
綾瀬が最初の冒険の時には一緒に旅をしていたといっていたが、その時に他のチームとも一緒に行動していた可能性も高いわけだ。
その時のメンバーだとしたら今回の冒険に参加しているはずはないから、ここでは出会えるはずはないぞ・・・、ツバサもそう思っているから答えないんじゃあないのか?」
当たり前のことをとりあえず突っ込んでみる。
「いえ・・・それはあり得ません・・・、綾瀬さんにも何度も尋ねましたが、彼は何か知っているそぶりでしたが、実際には何も答えてくれませんでした。
リーダーたちのことももちろん、冒険に関してはいろいろと教えてくれましたが、私生活に関しては個人情報と言って、まったく何も話していただけませんでした。
個人情報といってもその本人のことなのだから、問題はないはずですがね・・・ぇ。
仕方がないので・・・あの冒険に参加した人たちのことは、個人的に調べました・・・。
個人情報なので難しかったのですが・・・そこはそれ・・・とりあえず名の知れたIT企業の社長ですから、会社のホームページに社長の趣味の紹介ページを設けまして、このゲームに参加したことを打ち明け、僕個人のWebページに誘導するリンクを設定したのです。
そうして、あのゲームの世界で行った冒険は短い期間でしたが素晴らしかったとほめたたえ、その時のことを語り合いましょうと、懇親会のようなことを催して参加を呼び掛けたのです。
身元がしっかりしているせいか、ゲームに参加した人たち全員・・・、もちろんリーダーたちは除いてではありますが・・・、チョボさんたち夫婦含め全員と懇親会で知り合うことが出来ました。
一度だけの懇親会では無理でして・・・何度も催して5年ほどかかりましたがね・・・、その中で出会った人の中に、これはと感じる人は一人もいませんでした。
もちろん分身のキャラは本人が設定するものですから、外観の違いはあるでしょうし、更に性別までも異なる可能性だってあるわけです。
それでも結構皆さん自分のキャラについて教えてくれました・・・、その中で女性キャラだった人たちとは個別に食事やお話もしましたが、全て空振りでした。
夢に出てくる2人のうちの1人にも出会えませんでした。
それでようやくゲームの関係者か、若しくはこの星の住民の方の中にいる人かという想定に至りまして、それからの5年間はゲーム機を通じてこちらの世界にアクセスする機会がないものかと伺っておりました。
しかし・・・流石に夢の中に出てくる人に会いたいのでゲーム機を使わせてほしいなどと、通常時に打ち明けるのもためらう位なのに、ましてや破産した会社の資産に非合法を承知でアクセスを願い出ることなどできません。
あきらめかけていたのですが、今回ツバサさんから救援要請を受けたことで、これはチャンスと考えて冒険に参加を申し出た次第です。
今回この冒険に参加することになった時に、綾瀬さんからもしかすると今回の冒険で意中の人に出会えるかもしれないが、彼女たちの態度に期待するなと言われました。
つまり、彼女たちはこの星にいるはずです。
この星の住民である可能性は高いのですが・・・僕は多くは望みません・・・、遠くから眺めるだけでもいいんです・・、彼女たちがどんな人なのかわかるだけで、夢の中に出てきても対応ができるようになるのではないかと考えています。
なにせ今のところは明るく・・あるいは優しく語り掛けてきているようなのですが、なにを言っているのか全く分からず・・・、問いかけようとしたとたんに目が覚めてしまいますからね。」
源五郎が、ためらいながらもなんとか打ち明ける。
まあそうだよな・・・大企業とまではいかないが、若くして会社を立ち上げ、それなりに名を知られた会社にまで成長させて代表取締役になっているわけだ。
外観は申し分ないし性格だってすごくいいのにどうして・・・、妻と一緒によく話していたわけだが、ようやく理由が分かった。
そりゃあ会社を軌道に乗せるまでは並大抵の苦労ではなかっただろうし、ほぼ仕事漬けの毎日だっただろう。
当時は唯一の娯楽と言えば、睡眠時に同時に楽しめる別の惑星で行われていた冒険ゲームだったわけだ。
それがあっさりと政府没収という終焉を迎え、その後も浮いた噂など一切なく、ごくまれにとれる休みのたびに家へやってきていたのは、そのゲームの懐かしさからだけという訳ではなかったわけだ。(ましてや、娘のレイが目的・・・という訳ではなかった・・・、ほっとしたが・・ちょっぴり残念でもある。)
もしかすると、1人は俺の妻の方のレイではなかったのかと何度も確認しようとしていたのかもしれない・・・、何せ一番長く一緒にいたわけだからな。
何ともまあ・・・10年間もかけて・・・、そのうちの5年間は、ゲーム機にアクセスする機会をうかがっていたという訳だ。
だからこそ大事な商談を控えていた時期にもかかわらず、あの晩旧青空商会ビルにやってこられたという訳だ。
いつでもアクセスできる心づもりと、それなりに綾瀬たちとも連絡を取っていたのだろうな・・・。
源五郎は何としても先へ先へと進んで彼女たちに会いたいものだから・・・、もどかしかっただろうな・・・、俺がわがままで先へ進むことを拒否していたから・・・、申し訳ない・・・。
「分かった・・・冒険を継続すると決めたのだから、明日から頑張ろう・・・ただし、慎重に行動することは変わらんぞ・・・、助けが間に合わない場合だってありうるわけだからな・・・。」
冒険は継続するが、やみくもに突き進むわけではないことを、念を押しておく。
「分かっていますよ・・・僕だって早い時期に彼女たちに出会いたいと思っていますからね・・・、何度も失敗していると、その都度最初からやり直しですから、時間がかかってしまいます。
なにせ失敗した場合のリセットは効かず、再ゲームしかないわけですからね。」
源五郎が笑顔で答える。
「じゃあ、部屋に戻るか・・・。」
源五郎と一緒に宿に入って本日分の放送を見る。
このところまともな冒険をしていなかったので、試練の場での戦いを当日分として放送することになった。
それでも戦闘時間は長かったため、本日分と明日分と2分割して放送するとテレビスタッフが喜んでいた。
放送を続けるために四苦八苦している彼らにも、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
『パンパカパーンッ』「おめでとうございます。ツバサ様はレベルYFにアップされました。」
翌朝、久しぶりにギルドへやってきたら、ツバサのレベルアップが告げられた。
確か前回はZ台だったはずだから、それにしても大幅なレベルアップ・・・に驚きだ。
まあそうだろうな・・・はるかに高いレベルの無敵魔物たち相手にずっと戦ってきていたわけだからな・・・さらに地竜の里ではギルドはなかったし、その後は俺のわがままで冒険を中断していたから、船の中のギルドに立ち寄ることすらも拒否していた。
試練のダンジョンをクリアした後、チコリへは戻らずにさらに南下してヨースルの町に昨晩宿を取ったのだ。
先へ進むのであれば、この方が正解だ。
本当に何週間ぶりかの精算で・・・懐もかなり温まったことだろう・・、五朗爺さんのためにも弁当を大目に購入しておくとしよう・・・。




