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源五郎の気持ち

8 源五郎の気持ち

「忘れないうちに宝剣は、お返ししておきます。

 でも・・・前回の冒険の時は最初の試練認定では確か3種で、今回は特3種と恐らく格が上がっているものと考えます。

 なのに頂けるアイテムのレベルは同じ・・・、ちょっと不思議ですね・・・。」


 ツバサが疾風の宝剣を俺に返してくれる・・・、そうなのだ、試練のダンジョンに向かうときに一計を案じて、ツバサに宝剣を託したのだ・・・、疾風の剣と飛翔の剣の相乗効果で、ツバサ一人だけでも無敵の魔物を倒すことが出来たという訳だ。


 そうしてツバサが、装備した天空の拳士の盾をまじまじと眺めながらつぶやく。

 ほうそうか・・・、以前と試練の場で頂くアイテムに差はないという事なのか?


「うーん・・・僕たちは最高の経験値で来ているので、恐らく試練の難易度も上がっていて、そのために特という言葉を付加したのでしょうが、ここまでの経験値は設定上あるだけで、達することができるとは考えられていなかったようですよ。


 僕たちよりも少し低いレベルで送られてきている魔物達ですら、想定外だって言っていましたからね。

 だからなのでしょうが、このレベルに見合ったアイテムなど準備されてはいないのでしょうね。


 それでも防御力や攻撃力は、その時のレベルを向上させる付加アイテムですからね。

 上級の武具を頂けるのは、ありがたい事ですよ。」


 源五郎が現状を推察する・・・、勿論俺と一緒にヘッドカメラとマイクは切ってある。

 恐らく俺たちのレベルに関しては、もう中央の奴らもはっきりと認識しているのだろうが、わざわざひけらかす事でもないだろう。


 定男とかいう奴や綾瀬が言っていたからな・・・、数値上はあり得るが、そこまで達するのにどれだけの時間ゲームを行わなければならないか、想像も出来ないって。


「だがなあ・・・ダンジョンではなく、武具を貰うための試練の場ですら、中央の奴らの影響・・・と言うか監視下にあるということがはっきりとした訳だ。

 しかも・・・、俺達に攻略させないように意図したことが見え見えだ。


 運よくクリアできたから良かったものの、失敗していたならどうなっていたか分らないぞ。

 この程度の試練に立ち向かえない様では、これからの冒険を継続するに値しませんなんて評価されて、そのまま中央送りということだって、考えられたわけだ。


 そう言った行為自体は、まだRPGゲームとして許される範疇だろうからな・・・、余りにも低レベルの者はゲームの進行を妨げるので排除するなんて言う理由をつけてだな・・・。

 こうなってくると、ますます先行きに不安が・・・。」


 ゲームの世界の管理運営部門が乗っ取られてしまったのは、まぎれもない事実として受け止める必要がある。

 そのような中で冒険を継続するということは、自殺行為でしかないのではないだろうか?


「でも・・・だからこそ中央と言われているゲームの運営機関を取り戻す必要性があるのではないのですか?

 その為には冒険を継続して行って、魔王さんや魔神さんたちを目覚めさせることしか方法はない訳ですよね?

 だったら・・・、やはり冒険を続けるしか手はないのではないかと・・・。」


 すぐにツバサが反論する。

 まあ、彼女の場合はたった一人残されたこの世界で、10年間も頑張って来た訳だからな。

 今更、乗り越えるべき障壁が高いということが判明したからと言って、止めるという選択肢はないのだろう。


「そっそうですよ・・・、何とかしてこの世界を救うために、冒険を継続する必要がある訳ですよ。」

 源五郎は相変わらず前向きだ・・・、まあ、俺だってそうしたい気持ちは持っているのだが・・・。


「せっかく冒険の世界に来たんだから、いけるところまでは行ってみたいなあ・・・。

 もっとたくさんの魔物たちと戦ってみたり、きれいな景色の場所へ行けるかもしれないんでしょ?

 たのしみー・・・」


 何とレイまでもが冒険継続派となってしまったようだ・・・、お気に入りのテレビ放送がひとまず終了したので、とりあえず冒険してみると言った態度から変わってきた様子だ。


 しかも、ボクサーカンガルーのダンジョンで閉じ込められそうになった事も忘れてしまったのかの如く、平気で冒険の継続を望んでいるようだ・・・ううむ困った。


「ほら、レイちゃんもこう言っているじゃないですか。

 続けましょうよ・・・・途中でどこかに閉じ込められて身動き取れなくなったからと言って、誰も文句を言いませんよ・・・、覚悟の上です。」


 源五郎が更に強く言い放つ・・・ううむ・・・覚悟と言ったってなあ・・・、俺たちは魔物に倒される以外では言ってしまえば不死なんだぞ・・・、それを分かっていての言葉なのだろうか・・・。


 だが・・・俺達にいつも冒険の世界の話を聞かされて、その世界に憧れを抱いていたであろうレイはともかくとして、どうして源五郎がここまでやる気なのだろうか不思議でならない。

 奴はもっと合理的な考えができる人間だと考えていた。


 確かに冒険を進めて行って魔王や魔神を目覚めさせるということが俺達の目標ではあるのだが、先行きどころか何も状況が分っていない中で、このまま進んで行く必要性があると俺は考えていない。

 なにせ中央が乗っ取られたからと言って、今のところは何の被害も出てはいないのだ。


 被害が出てからでは遅いという見方もあるのだろうが・・・、乗っ取った奴らの目的も分からない状況下で、何が何でも奴らの目的を阻止すると行動することが果たして正しいのだろうかと考えているわけだ。


 確かにやったことから考えれば、決して善意からではないことはうかがえる・・・、だからと言って必ずしもそいつらを排除する必要性があるのかどうか、少し疑問に感じている訳だ。


 俺たちはツバサの救援を求められてこの世界にやって来た訳だし、冒険を続けて行くことがツバサの役に立つという事であれば、勿論遂行していくだけと考えていた。

 しかし、それはあくまでも普通に冒険してダンジョンをクリアして行きさえすればよかったからであり、こんな難攻不落というか遂行不可能と思えるようなダンジョンを相手にすることは想定していなかった。


 確かに難易度の高いダンジョンで攻略を失敗してゲームオーバーになってしまう事を想定しなかった訳ではないし、それはそれでゲームという性格上仕方がない事だとは十分に認識しているつもりだ・・、だが今はそれとは別箇の状況だ・・・ゲームの進行をサポートする筈の運営側が敵なのだ。


 はるばるやってきた俺達を、排除しようと躍起になっている訳だ。

 そんな中を、どうやって冒険継続して行くというのだ?


 やらないとは言っていない・・・、だが、かような逆境の中で冒険を継続していくための作戦というか算段が必要と主張しているわけだ・・・やみくもに突進していけばいいという事ではあるまい。


「あっ・・・そうそう・・・リーダーが言っていた、もしダンジョンに閉じ込められてしまった場合、どうするかですが・・・、この間思いついたのですけどね・・。」


 更に源五郎の言葉が続く・・、何かうまい解決策でも思いついたのだろうか・・、それぞれが相手を攻撃して、集団自決するなんて過激な解決策ではないだろうな・・。


「僕たちの冒険の様子は、まあ検閲のタイムラグはあるにしても、そこそこタイムリーにこの星に中継放送されていて、勿論次元の向こう側のこの星の正規住民たちも視聴しているはずです。


 だから・・・万一僕たちが難攻不落なダンジョンに閉じ込められてしまったり、あるいは全滅してしまったりした場合には、またこの星の住民たちが全員で願って、地球にいる僕たちに救援を要請してくれるのではないでしょうか。


 そうして、もう一組の僕たちの分身が、閉じ込められた方の僕たちを救出してくれれば、2組みで冒険継続することが可能となります。


 そうなれば、冒険を成功させる確立はより上がりますし、そこでまた失敗した場合は再度願って頂けるわけで・・・、まあ、全滅してしまった場合は人数は増えませんが、それでも継続することは形上は可能と考えますよ。」

 すると源五郎が意外な解決法を披露する。


 なるほど・・・全滅してしまえば薄暗いダンジョンの中でなすすべもなく永遠の時を過ごす事もないし、また閉じ込められてしまった場合は地球からの俺たちの救助を待てばいい訳だ。


 ツバサの危機を感じて住民たちが俺達に対して願ったように、俺達の危機の時も同様に願ってもらえる公算は強いようには考える。

 そう考えれば、少しは気が楽になって来たな・・・。


「まあなあ・・・だから大丈夫とは言えないわけだが・・・、また綾瀬たちにお願いして、一晩だけゲーム機を動かしてもらえばいい訳だからな・・・、できないことではないわけだ・・・。」

 思い切り戦って・・・、だめなら助けを待つだけ・・・という考え方だな・・・。


 考えてみれば、別に閉じ込められてから助けを待つまでもなく、向こう側世界の俺たちが何組か分身を送り込むことを、すでに計画しているかもしれないな・・・なにせ1組だけでは不安感があるから。


 そりゃあ、1人の分身と通信して冒険を続けることが望ましいわけだが、ゲーム機の運営上、一度に使える人間は一人きりなわけだ。

 たった1台だけでは複数人送り込むことはできず、一度きりのアクセスという事覚悟で俺たちは分身を送り込んだ。


 だがそれは・・・その1度だけしか送れなかったという事では決してない・・・、ゲーム機さえあれば繰り返し分身を送ってこられるわけだ・・・、こんな簡単なことにどうして今まで気づかなかったのだろうか。

 地球にいる俺の本体は頭が固いから無理でも、すでに源五郎がこの提案をしている公算は強い。


 そうなれば・・・だがそれはそう簡単なことではないだろう・・・、なにせ破産した会社の凍結資産なのだ・・・、そんなものを簡単に利用することはできないはずで、次回も夜の闇に乗じて・・・という事になるだろうし、あまり頻繁に行うと目立ってしまうから、時間をおいてという事になるだろう。


 そうなると1,2ケ月先か・・・あるいは半年くらい様子を見るか・・・、という事だろうな。

 いずれにしろ、救出部隊が計画的にやってくる公算が出てきたという訳だ・・・。


 更に・・・どうせならとこのゲームの裏事情に詳しい、綾瀬とか定男とかいう奴らも含めて分身を送り込んでしまえば、より攻略が容易になることだろう・・・、どうせ毎日ゲーム機にアクセスするという事ではないわけだから、彼らだって断ることはしないだろう・・・と思う。


 ウーン・・・今晩からすっきりと眠れそうだ・・・、というか睡眠の感覚はここではないのだが・・・ありがとう源五郎。



「いいじゃないですか・・・、答えてください・・・この通りお願いします。

 ツバサさんだけなんですよ・・・、僕の気持ちを分かってください・・・。」


「あたしから、お答えできることは何もありません。

 源五郎さんも、この件は忘れて新しい出会いを待った方がいいと思います・・・。」


 うん?宿について今や日課となったジョギングをして戻ってきたら、宿の玄関先で源五郎とツバサが何やらもめている様子だ・・・、ううむ・・・あの源五郎がツバサに言い寄っているのか?


 源五郎は両手を合わせて、ツバサに対して拝むようにお願いしている・・・、そうまでして・・・。

 意中の人がいたという訳だ・・、しかも一緒に冒険していたツバサ・・・だったという訳か・・・。

 こりゃ、応援してやらねば・・・。


「だめですよ・・・彼女・・・いや、彼女たちじゃなきゃダメなんだ・・・。

 2人いるわけでしょ?僕の記憶は全くなくてイメージだけですが・・・、夢の中ではまるで正反対の女性が2人出てきます。


 そのどちらも僕とは非常に近しい関係のようで、とても親密に語り掛けてくれるのです。

 もしかすると、この世界で最初にできた恋人と、その女性と別れた後に巡り合った次の恋人だったのかもしれませんが、僕のイメージではどちらも今の彼女という認識でした。


 まさか2人同時にという事はあり得ないので、もしかすると僕の方が勝手に恋焦がれているだけのひとたちかとも思いますが、それでもいいんです。

 会うだけでも・・・いえ、会わずに遠目からその姿を眺められるだけでもいい。


 ツバサさんだったら知っているはずです、かつての冒険で僕と近しい関係になった女性たちのことを・・・、お願いします、彼女たちのこと・・、ヒントだけでもいいので教えてください。」


 源五郎は冷たい態度をとるツバサにすがりつくようにして必死にお願いしている・・・、あれ?なんだぁ?告っているわけではないのか?


「ですから・・・、何度も申し上げているように・・・、あたしからお教えできることは何もありません。

 あたしは・・・、知りません・・・。」

 それでもツバサはなぜか、執拗に首を振る・・・。


「そんなはずはありませんよ・・・何せ2度もこのゲームをクリアしたわけですからね・・・、難易度からすれば、それこそ1度クリアするだけでも1年から2年くらいの年月は経過していたはずです。


 それを2度も行って・・・一緒のチームですから、僕たちはより親密に・・・、いえ・・すみません・・・親密といってもそういった関係を指しているわけではなくて、互いの交友関係を知りうるような仲だったはずと考えているわけです。


 ですからツバサさんだって、僕の恋人だった人を知っているはずです・・・、僕は人間関係をなにより大切に考えていますので・・・、隠れてこそこそというようなことは・・・しないはずです。


 当初・・・一緒に冒険した冒険者の中にいたのではないかと想定して、ゲームの参加者たちを地球で探し回り、個別に会って話をしましたが、心に感じるような人には出会えませんでした。


 このゲームの世界のキャラクターのひとでしょうか?あの、綾瀬さんたちのように、ゲーム関係者が送り込んだ分身のような・・・、最初の冒険で一緒に旅をしたと教えてくれた綾瀬さんにも聞いてみたのですが・・・、何も答えてはくれませんでした。


 もしかすると今回の旅で出会えるかもしれないが、向こうの態度に期待はするなと言われただけです。

 僕と同様に、以前の冒険の時の記憶を引き継げない人なのでしょうか?


 それとも・・・この星の真の住民の方・・・、実体化していた時にはこの星の住民の方たちとも同じ次元で暮らしていたわけですよね?

 その時に出会った人・・・今は存在する次元が異なるわけですが、それでもこちら側から一方的にはなりますが、向こうの次元の住民の方たちを眺めることは可能なわけですよね?


 それだけでいいんです・・・どんな人か、分かるだけでも・・・僕は満足です。

 一緒になれない事情があることは十分に察しています・・・、ですが僕の気持ちに区切りをつけるためにも、彼女たちにもう一度会いたいのです・・・、どうかお願いいたします。」

 源五郎が今度は深く深く腰を折って頭を下げる・・・、どうやら真剣な様子だ・・・。


「・・・・・ごめんなさい。」

『パタタパタ・・・ガチャッ・・バタンッ』ツバサは少し考えていたようだが、それでも頑なに頭を下げて断り、そのまま速足で宿の中へ入って行ってしまった。




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