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試練の場

6 試練の場

「賢者のトンネルは、ここから北西に向かった先にあります。」

 中継車に乗り込むとツバサが教えてくれる・・・、そうか彼女は冒険の記憶があるから賢者のトンネルの位置は把握している訳だ・・・。


「ああ、そうですね・・・、そっちに白い建物がありましたよね。」


 すると今度は源五郎が相槌を打つ・・・、ああそうか・・・俺が駄々をこねて宿から動かなかった1週間、彼らは情報収集しながら近辺を回っていたのだろう。


 話しぶりからして、どうやら一緒に行動はしていなかったものと考えるが、どちらかが近場の調査で、どちらかが中継車を使って遠方を回るなど担当を決めて回っていたのだろうな・・・、その時に竹林の入り口や賢者のトンネルの建物を見つけていたのだろう。


 次なる目的地へ向かうための手段を見つけて気がせいていたのだろうな・・・、悪いことをした。

『ガチャッ』『バタンッ・・・ブロロロロロッ』源五郎とレイが降りて扉を開け、中継車を建物内に引き込むと再び乗り込む。


「14番目の扉のはずです。」

 ツバサの言うとおり、中継車は一番右端の扉へと向かい停車する。


「恐らく鍵は一度しか使えません・・・、慎重に開けてください。」


『ガチャッ・・・ボギッ』「鍵が折れてしまいました。」

 源五郎が開いたドアのドアノブに手を掛けたまま、折れた鍵の持ち手をつまんで見せる。


「大丈夫です・・・、そのまま入りましょう。」

 ツバサの指示に従い、中継車ごと中へと入って行く。


『ブロロロロロッ』通路を走って行って出た先は・・・、

『ガチャッ』「はりゃあ・・・、何にも見えないな・・・。」


 中継車から降りて周りを見渡してみても、立ち込めた濃い霧のおかげで何も見えない。

 竹林の時の霧よりももっと深く、伸ばした手の先も見通せないほどの霧の濃さだ。


「では・・・霞の笛・・・、口笛を吹いてみてください。」

 ツバサが指示を出す。


「口笛・・・?こっこうかな・・・・ピュッ・・・ひゅー・・・ひゅー・・・ぴ・・・ぴぃー・・・」

 ううむ・・・口笛なんて小学校以来だからな・・・、だが、ツバサが言うのだから何とか頑張らないと・・・。


「ピュー・・・ピィー・・・、ピィー・・・」

 何とか音が出てくると・・・、辺りに立ち込めていた霧が嘘のように晴れてきた。


「おおっ・・・目の前に湖が・・・。」


「そうです、では源五郎さんもお願いします。」

 ツバサが嬉しそうに笑顔で源五郎の方へ振り返る。


「はい、分りました・・・、ピ・・・ピィー・・・ピィー・・・。」

 ほう・・・うまいものだ・・・、『ゴゴゴゴッ』すると湖面が割れて、地下へと続く階段が現れた。


「ささ、行きましょう。」

 ツバサが笑顔で、その階段を下って行こうとする。


「ああっと・・・、ちょっと待ってくれ・・・。」

 すぐにツバサを呼び止める・・・、余りにも事がうまくいきすぎているようで不安になってくる。


「どうしました?大丈夫ですよ・・・、この先は天空のアイテムがいただける、試練の場があるだけです。

 何も危険などありません・・・それに鍵はもう使えませんから、今行かないともう戻っては来られませんよ。

 早く行きましょう。」


 怖気づく俺の気持ちが理解できないツバサが、少しいらだたしげに催促する。


「わっわかっている・・・、分っているが・・・ちょっと作戦を立てよう・・・。」

 一抹の不安がある俺は、ツバサを呼び寄せて策を講じることにした。


「リーダーは心配し過ぎですよ・・・。」


「そうですよ・・・ですが、これでサグルさんの気が張れるのであれば・・・、あたしは全然問題ありませんよ。」

 そうしてツバサが笑顔で先頭に立ち、階段を下りて行く。


『バシュッ、シュパッ、バギッ、ドゴッ、シュッパンッ』その先では何やら激しい衝撃音や風切音が・・・、恐らく魔物たちが階段の中に充満していて、ツバサがそれらを処理しながら降りて行っているのだろう。


 恐らく瞬殺状態を続けているようだ・・・。

 遅れまいと、ツバサの後に続いて長い階段を下って行く。

 着いた先は、広い空間だった。


「うんっ?」

 足元が一瞬光輝いたような気が・・・。


「すぐに地面がせり上がって行きますから、落ちないようにバランスを保ってください。

 恐らく一人ずつ上がって行くはずですが・・・、順番までは分りません・・・。」


 ツバサが、左右に振り返りながら俺達に注意を促す。

 地面がせり上がっていくだって・・・?


『グググッ・・・ゴーッ・・・ゴゴゴゴッ』すぐに足元に軽い振動を感じると、せり上がって行くどころか右方向へ水平移動して危うく転げそうになる。

 何とかバランスを保とうと足に力を入れ踏ん張ると、今度は垂直方向に高く上がり始めた。


 左方向を見ると、皆の足場もせり上がって行っている様子だ・・・、一人ずつではなく全員同時のようだが、それでもそれぞれかなり離れてしまったようだ・・、恐らく十数メートルは離れている・・・。


 やはり勘違いでも何でもなく、地面が水平方向に動いてから上昇し始めたようだ・・・、地面がせり上がるところまではツバサが言うとおりだが・・・、遥か昔の記憶なのでこの部分はちょっとあいまいなのだろうか?


 それぞれの足場は肩幅分よりも少し広めなだけ・・・、直径1m位の円形のみだ・・・。

 個別に戦っていくのだろうが、ほとんど身動きできずに戦わねばならない・・・、相当に難しいな・・・とか考えていると・・・、目の前に魔物たちが迫って来た。


「うん?」

 先頭の魔物は牛の頭に毛むくじゃらの体を持つ巨人・・・、ミノ○ウロス風の魔物・・・、あれは俺たちが前回戦った時には無敵だった奴ではないのか?


 そう思っていたら、その背後をぴょんぴょん跳ねながら付いてくる奴は・・・、先ほど竹林のダンジョンで倒したボクサーカンガルーのようだ・・・こいつも無敵だったな・・・。

 更にその後には・・・、よくは見えないが・・・なんだか犬が数匹・・・。


 魔物たちは足場のない中空を駆けてくる・・・いや、よく見ると魔物たちが駆けてくる足場がその時だけ光り輝いているようだ・・・そうか、目には見えない床があって、駆けることができるようだ。

 そう思って足を一歩前に踏み出す・・・、あれ?床がない・・・。


「足場を踏み外して落ちてしまうと失格ですよ・・・、与えられた足場の上だけで戦ってください。」


 すぐに踏み出した足を引っ込めて声のする方向を見上げると、天井部分には薄く透けそうなドレスを着た髪の長い美女が映し出されていた。


 ううむ・・・彼女がこの試練の監視役という訳か・・・、俺達の足場は1mほどしかないが、魔物たちは自由に走り回れるという事ね・・・しかも無敵・・・これはハンデが大きい・・・。


『グルルルルルルッ』そうして魔物たちに周りを囲まれてしまう・・・後方の数匹の犬に見えたのは、何と3つの頭を持つケル○ロス風の魔物だ・・・、こいつとははじめて出会うか・・・。

 まいったな・・・。


『ダッ・・・バシュッ』『カキンッ・・・シュッパンッ・・・シュパッ』ミノ○ウロス風の魔物が両手に持つ斧を振り回してくるのを剣で受け、弾き飛ばすとがら空きとなった胴体目がけて斬りつける。

 更に返す刀でもう一撃繰り出すと・・・『ぐぅぉー・・・』魔物は苦しそうな断末魔の叫び声をあげながら、後方へと転がって行く。


『シュッシュッシュッ・・・バシュッ・・バシュッ』すぐに右後方から、カンガルーのパンチが飛んできた。

 今回は逃げようとはしていないから、腰の入った鋭いパンチを繰り出してきているようだ・・・、鋼鉄の鎧を着こんでいても強い衝撃が伝わってくる。


『ガギッ・・・バシュッ・・・シュッパァーンッ・・・シュッパァーンッ』すぐに体勢を入れ替えてカンガルーの方へと向き直り、左ひじでパンチを受けるとすぐに反撃に転じる。

 会心の一撃を2撃入れ、カンガルーの体を遠くへと弾き飛ばす。


 経験値の差があるせいかせいか、このレベルの相手であれば、繰り出す攻撃は常に会心の一撃となるようだ。

『がうっ』『がぁっ』『ぐぉっ』間髪を容れず、3つの頭を持つ犬が口を大きく開けながら飛び掛かってくる・・・。


『シャキンッ・・・シュッパンッ・・・シュッパパァンッ』鋭い牙を鋼鉄の盾でブロックすると、がら空きとなった胴体に2撃打ち込む・・・。

『ごぅあっ』『ガツンッ』背後に気配を感じ盾で防ぐと、ミノ○ウロス風の魔物が斧で攻撃を仕掛けてきた。


 先ほど仕留めたばかりなのに・・・やはり無敵の魔物のようだ・・・、1度や2度の攻撃のダメージなどは、すぐに回復してしまうのだ。

『シュッシュッシュッ』さらに回復したカンガルーがパンチを繰り出してきた。


 ううむ・・・休む暇を与えないつもりか・・・?『シュッパパァーンッ・・・シュパンッ・・・シュッパァーンッ』今度は、3撃加えて弾き飛ばす。


『がぁっ』『がうっ』『ごぉっ』続けざまにケル○ロス風の魔物が襲い掛かってくる・・・『シュパシュパシュパァーンッ・・・シュッパァーンッ・・・シュパンッ』こちらも3撃加えて蹴り飛ばす。


 ううむ・・・無敵とはいえレベル差はそれなりにありそうだし、3体相手でもまともには攻撃を受けずに相手に会心の一撃を与えて弾き飛ばす事は何とかできている・・・、だがこれはあくまでも戦いの序盤で元気でいるからだ・・・。


 段々と疲れが出てきたらどうなるのか・・・、なにせ向こうは毎ターンごとに体力魔力共に全回復してくるのだからな・・・1体ずつでも倒していく事が出来なければ、このままではじり貧だ・・・。


「神の裁き(ライデン)!神の裁き(ライデン)!神の裁き(ライデン)!」


『ドッガァーンッ、ドッガァーンッ、ドッゴォーンッ・・・バリバリバリバリッバリバリバリバリッバリバリバリバリッ』鋭い閃光と、耳をつんざくばかりの爆音が遠くの方から聞こえてくる。

 レイが魔物たちに雷撃を加えているようだ。


『きゅぅーんっ』『きゅぅー』『きぃー』レイを取り囲んでいる魔物たちは、頭のてっぺんから煙を立ち昇らせてその場に臥せるが、暫くすると何事もなかったかのように立ち上がる。


全体光攻撃(ペカリ)!」

『ぺっかー・・・』今度は光系の攻撃魔法のようだ・・・。

 魔物たちの体が一瞬透き通るように消えかかるが、すぐに実体化して動き出す。


大津波(ツナミ)!」

『ザッパァーンッ』巨大な波のうねりが、魔物たちの体を押し流していく・・・と思ったが・・・ながれて行かない・・・、魔物たちは少し後方へと流されただけで、なんとか踏ん張って耐え凌いだ様子だ。


「絶対零度(ゼロK)!」

『ピッッキィーンッ』レイの魔法で魔物たちの体が一瞬で真っ白に凍りつく・・・、津波で体が濡れているから、効果てき面だ・・・・。


『バリバリバリバリッ』ところが長い毛に覆われたミノ○ウロス風の魔物は、さほどのダメージを感じさせずに、体の周りの氷を砕いて動き始める。


「神の裁き(ライデン)!」

『ドッガァーンッ・・・バリバリバリバリバリッ』『きゅーんっ』すぐに雷撃を加えて、打ち倒す。


 それでも、すぐに魔物たちは回復して、又襲い掛かっていくだろう。

 レイの魔法力では一撃で致命傷まで与えることは出来そうもない・・・、このままではじり貧だ。


『シュッシュッシュッシュッ・・ズボッズボッズボッズボッ』『シュッシュッシュッシュッ・・ズボッズボッズボッズボッ』『シュッシュッシュッシュッ・・ズボッズボッズボッズボッ』源五郎が周りを取り囲んでいる魔物たちに、自分が回転しながら矢を射かけて行っている。


『シュッシュッシュパッ・・ズボッズボッドガッ』『きゅぅーんっ』たまに相手の衝撃が大きな矢があり、攻撃を食らった魔物が一瞬その場に臥せる・・・恐らく鋼鉄の矢じりを混ぜて射掛けているのだろう。


 普通の矢に混ぜて射掛けることにより、無敵の魔物たちの油断を誘い、少しでもダメージを大きくさせる作戦ではないだろうか・・・。

 だが、その攻撃でも致命傷には至らず、魔物たちの数が減って行くことはない。


『シュッシュッシュッシュッ・・ズボッズボッズボッズボッ』・・・源五郎が放つ矢が障壁の役目を果たしているため、魔物たちは一歩もその場を動けずにいるようだが、やがて矢が尽きてしまえば一斉攻撃の餌食となってしまうだろう。


 源五郎は用意周到だから、それなりの数の矢を確保しているだろうが、それでも体力的な問題もある・・・いつまでも一方的に攻撃を仕掛けていられるはずもない・・・こちらもじり貧だ。



『ダッ・・・シュパ、シュパッ、シュッパンッ・・・タッ・・・ドガッ、ドゴッ、バゴッ・・・シュタッ・・・シュパッ、シュパッ、シュッパ』一番奥ではツバサが高く宙に舞いあがりながら、3体の魔物相手に次々と攻撃を繰り出していく。


 ほとんど足場のない中で、魔物の体を足場代わりにして宙を飛び跳ねているようだ・・・さすが身が軽い。

 しかし攻撃を加えても加えても魔物たちはダメージをほとんど感じさせず、動きを止めずにツバサに向かって襲い掛かっているようだ。


 これは忙しい・・・いくらツバサがすばしっこいとはいえ、息つく暇もない状況のようだ。

 やはり経験値の差というか・・・、俺達と違ってツバサの経験値レベルはさほど高くはないため、常に会心の一撃を繰り出すということにはなっていない様子だ。


 そうなると一番不利なのはツバサということになってしまうのだが・・・、何とか頑張ってくれ・・・ツバサだけが頼みの綱なのだ・・・。



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