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ダンジョンをクリアして

5 ダンジョンをクリアして・・・・

『ゴゴゴゴゴゴゴッ』暫くすると4つの土俵が地面に飲み込まれて行き、代わりに4つの土俵があった中央部に宝箱が出現した。


「鍵が入っていました・・・。」

 源五郎が嬉しそうに、キラキラと光る銀色の金属片を天に掲げる・・・。

 ようやくダンジョンクリアだ。


「結構楽勝でしたね・・・虎穴に入らずんば虎児を得ず・・・、いや、なせば成る・・・ですかね?

 やってみれば意外と簡単な事も、ある訳ですよ。」


 鍵を冒険者の袋に仕舞い込みながら源五郎は上機嫌の様子だ・・・、無理もない・・・俺の我儘で丸々1週間も足止めを食らわせられたわけだからな・・・、この先だって、きっと大丈夫だと強調したいのだろう。


「いや・・・そうでもないぞ・・・、今回の俺達は非常にラッキーだったわけだ。


 まず一つ目のラッキーは・・・、レイがボクシンググローブを付けたカンガルーの魔物を見て、勇み足的に土俵状のクエストステージに1人で上がってしまったこと。ところが無敵の魔物は、レイとその場で戦おうとせずに、レイが土俵中央に達してドームの覆いが外れるとすぐに大ジャンプした。


 2つ目のラッキーはその点で・・・魔物たちは逃げ出す事に必死で、まともに戦おうとしなかったこと。

 兎も角逃げ出そうとしていた訳だ・・・何年間もあの場に閉じ込められていたという設定になっているのかもしれないな・・・。


 経験値の高い魔物に対しては雑多な人格を合成して埋め込むと言っていたから、魔物にだってそれなりの自我があったはずだ・・・だからこそ一生閉じ込められたままは嫌だから、まずは逃げ出すことを考えたわけだ。


 中央の奴らの設定ミスというか・・・自らが仕組んだトラップが、そこで待ち受ける魔物すらも苦しめるということに気づかなかったという事だな。

 そこでレイが閉じ込められて、土俵状のトラップの仕組みをじっくりと観察することが出来た訳だ。


 俺たちがお行儀よく4人がそれぞれの土俵に上っていたとしたならば・・・、あの状態では恐らく俺たちはその様に振る舞ったであろう、なにせ4つの土俵があった訳だからな・・・その際は魔物たちが瞬時に逃げ出して俺たち全員閉じ込められていたはずだ。


 しかもそれがラッキーな展開であった場合で、ラッキーではない場合は・・・魔物たちが本気で戦いを仕掛けて来て、俺たち自身はレベルが高いしツバサは格闘技では世界最強だから最初の内はそれなりに戦える訳だが、向こうは常にダメージが回復するのに対し、こちらはダメージが蓄積して行く。


 なにせ俺たち一人だけの力では、無敵の魔物に対して致命傷を負わせることは出来ないからな。

 最終的には魔物たちに倒されてしまったかもしれない・・・まあそれまでには結構な時間がかかるだろうがね。」

 俺が今回のダンジョンの恐ろしさを、分り易く解説する。


「でもそれは・・・何とかなったのではないですか?

 魔物たちが僕たちに成り代わって逃げ出してしまったとしても、そこで僕たちの代わりに重しを置いておけば、ステージを脱出できたはずです。


 その後で魔物たちを追いかけてもいいでしょうし、その時には4人がかりで倒せばいい訳です。

 ラッキーでなかった場合でも・・・、三四郎さんが死ぬ間際に放ったであろう火事場の馬鹿力のような力が、きっと僕たちでも発揮できたはずです。


 その後素早く復活の木の葉を飲み込むなどで・・・、いえ、僕たちは身代わりの指輪をしているから、指輪が代わりに砕け散ってくれたはずです。」


 源五郎は自信満々だ・・・、まあ、若くして大きな会社の代表取締役にまで登りつけた奴の事、失敗や挫折の経験などないと思われる・・・どこまでもポジティブ思考だ。


「だがその重しだってな・・・、源五郎が環境問題にうるさくて、ごみを放置することが許せなくて睨みつけたものだから、湖底に捨てずにとりあえず冒険者の袋に仕舞い込んだわけだ。

 葛籠を開けたら中の空気がみんな出てしまって、浮袋として使えないと考えたわけだからね。


 それを捨てるのを忘れていただけで、何かに使おうと持っていた訳じゃあない・・・、これが3つ目のラッキーだ・・・。

 普通だったら自分たちに成り代わるほどの重さの物を、持っている奴はいないぞ。


 そうなると・・・、どうあってもあのトラップを抜け出すことは叶わなかったはずだ。

 それに・・・火事場の馬鹿力なんて出る時には・・・、こっちの命も風前の灯ということなわけだからね。」


 挫折や失敗ばかりの人生を歩み続けてきた俺は、人生の教訓は死ぬほど味わってきている・・・だからこそ慎重なのだ。


「でも、重しがなければ他の物でも置けばよかったんじゃない?

 自分の体重分だけあればいい訳でしょ?だったら・・・ちょっともったいないけど服とか後は・・・お弁当とかかな・・・、お弁当はクエストの報奨金を貰うたびに、一杯買い込んでいるでしょ?」


 するとレイが源五郎のフォローに入る。

 源五郎とのやり取りだったはずが、今度は2人を相手にすることになってしまったようだ。


「そうは言えんぞ・・・、俺の甲冑だって恐らく兜も含めても10キロあるかないかだろう。

 あまり重いと動けなくなるからな・・・、おかげで鋼鉄の鎧も、カンガルーのボディーブローを食らって、この通りだ。」


 俺が、自分の甲冑の脇腹部分がぼこぼこに変形しているのを指さす。

 魔物を押さえつけている時に反撃を食らい、甲冑が変形しまくったのだ。

 体のダメージはほとんどないが、装甲が耐えられていない・・・。


「60キロもの重さとなると・・・、剣など装備品すべて合わせても全然届かないだろう。

 恐らく一番いいのはレイが言うとおりに弁当だろう・・・、大量に購入してあるからな・・・、だが弁当1つでどれだけの重さがあると思う?


 いつもご飯大盛りにしているが、それでも1キロはないだろうから、60キロ分となると、60個から100個くらいを人ひとり分のスペースに積み上げなければならないぞ。

 大体・・・そもそもそれだけの弁当を持っているか・・・?


 俺は恐らく30個位しか持っていない・・・、つまり、あの重しが無かったら、今回ダンジョンは攻略できなかったという訳だ。」


 ダンジョン攻略のむずかしさを再々説明する・・、あんな単純なトラップですら、ラッキーが重ならなければ攻略できてはいないのだ。


 五郎じいさんの事があるので、弁当の差し入れは定期的にするつもりではいるが、やはりフレッシュさを考慮して、差し入れする時に皆で出し合って購入するつもりでいる。

 常に持ち歩くのは、あくまでも冒険の途中で消費するためのものだ。


「でも・・・重しが無くて閉じ込められた場合でも、テレビスタッフが助けに来てくれたはずです。

 リーダーが、先ほど僕たちの冒険の様子をたまにでいいから確認してくれと言っていたから、恐らく定期的に確認しているはずです。


 そこで、僕たちがトラップにかかったことを確認したら、何か重し代わりになるような機材を持って助けに来てくれたはずです・・・。」

 源五郎は自信ありげに胸をはる。


「それは俺も期待していた・・・、だがまあ難しいだろう・・・と今では感じている。


 まず第一に、源五郎やツバサが単独で竹林の中に入って行こうとしたが、何度も追い返されていたこと。

 恐らく冒険者のチーム全員が揃って通らないと、あの庵というかおじいさんがいた宿には到達できなかった可能性が高い・・・なにせ、彼らはギルドに登録された冒険者ではないからね。


 仮に4人いれば誰でも通過できたと甘めに考えたとしても・・・、魔物たちが俺達と入れ替わって逃げ出してしまってトラップに捕えられたとなると、丁度逃げ出した魔物たちが外にいる訳だから、テレビスタッフは全滅だ。


 俺が念を押して言ったように、一旦船に戻って占い師さんを連れてきてもらったとしても・・・、彼女ひとりで無敵の魔物4体を相手にするのは相当に無理がある。

 この場合でも全滅が濃厚だ。」


 俺のネガティブシミュレーションでは、今回のトラップの攻略は相当に困難に映っている。


「まずあたしたちが4人でそれぞれ分かれた場合ですが・・・魔物たちが逃げ出してしまった場合は・・・そうですね・・・、あのサークル中央部の、見えない壁とかに捕えられてしまって動けなかったでしょう。


 でも、重しを持っていた訳ですから脱出できたはずです・・・それはたまたまとはいえ実際に持っていた訳ですから、事実として受け止めましょう。


 そのおかげで今回のダンジョンをクリアできたと言ってもいい訳ですからね・・・トシミさんたちと源五郎さんに感謝という事ですね。


 魔物たちが逃げ出さなかった場合は・・・それでも無敵の魔物と戦っている最中に、どちらかの体がサークル中央に位置することによって、ドーム状の覆いが開くことは認識できたはずです。


 そうして体力のある最初の内であれば、連続攻撃を行って魔物を弱らせてサークル中央に無理やり留まらせることも出来たはずです。


 先ほどサグルさんが、逃げ出したカンガルーの魔物を無理やりサークルまで持ち上げて、中央に留まらせたようにですね・・・そうしてから後は、全員で寄ってたかって魔物を倒して行けばよかったわけです。


 結局は今回ダンジョンを攻略したのと同じことは出来ていたのだと思いますよ・・・、なにせ疾風の剣や慈恵の剣に飛翔の剣という付加能力アイテムがありますからね。

 2人分3人分の攻撃力はそれぞれ持っている訳です。」


 すると今度はツバサがダンジョン攻略は可能であったことを、再度強調する。

 ついに1対3の論戦となってしまったようだ・・・どうにも俺の思考は、少数派という事のようだ。


 ツバサとしては勿論、どれだけの困難が待ち受けていようと、冒険を完遂しようという考えだろう。

 なにせ、たった一人だけでも・・、更に魔物達のレベルが自分のレベルよりも、はるか高くなってもあきらめずに戦いを挑んでいたくらいだからな・・・。


 ううむ・・・そうやって事実を事実として認識してしまえばそうなるな・・・、なにせぱっと見、到底攻略不可能なダンジョンを簡単に攻略できてしまった訳だからな・・・、たまたま重しを持っていたというだけで・・・。


「そっそうですよ・・・さすがツバサさんだ・・・、これからのダンジョンだって、何とか知恵を絞って対処すれば攻略できますよ。」

 源五郎が一気に元気になって捲し立てる。


 ううむ・・・、俺だってそうやって何事もポジティブに考えたい気持ちはやまやまなのだが・・・。


「あの・・・、こう言っては失礼にあたるかも知れないのですが・・・、以前の冒険の時のサグルさんは・・・、もっとはつらつとしていて、みんなを引っ張って行ってくれていました。


 確かに今回の冒険は一度きりでリセットは効きませんし、我々が全滅しないように慎重になられているのだと感じていますが、源五郎さんが昨日言っていたように、あたしたち含めてゲームのキャラクターなのですから、もっと楽に考えていただいた方がいいと思います。


 そりゃ・・・一度きりの命であることに変わりはありませんから、粗末に扱うことは反対です・・・、復活の木さんも言っていましたしね・・・。


 大事に考えて、決して無謀な事はしないで・・、それでもある程度の冒険はすると、サグルさんも復活の木さんに言っていたではないですか・・・、我々は冒険者だって・・・その時は以前のサグルさんと変わらないなあって思いましたが・・・、最近のサグルさんは嫌いです。


 何も考えずにやみくもに・・・、というのは良くないと思いますが、ある程度の時点で見切りをつけて冒険を進ませるのは、決していけないことではないと思います。

 どうか・・・、以前のサグルさんに戻ってください・・・。」


 ツバサが、目を伏せながら頭を下げる。


 以前の俺って・・・恐らく実体化していた時の俺の事なのだろうが・・・、その時の俺は俺であって俺ではない・・・、なにせ俺が性格診断のアンケート用紙に羅列した数々の特技や明るいキャラクターで形作られた、いわばスーパーヒーローであったはずだからだ。


 今の俺もアンケート用紙の記載内容は付加されているはずだが、それでも実体化してそれが馴染んでいた俺とは性格的に違いがあっても仕方がない。


 ハードルが上がったことを感じて、それまで見えていた先の展望が全く見えなくなり、どうしてもネガティブな思考しか出来なくなっているのだ・・・、なにせ今回は一緒に娘がいるのだ・・・娘の前で見苦しいことはしたくはないし、しかもどんな困難な状況に陥ったとしても娘を励ましていかなければならないわけだ・・・。


「分った・・・、だがまあ、今の俺の方が俺本人の性格に近いのだから仕方がない。

 それでも何とか努力して、少しでもネガティブ思考を解消してみるよ・・・、何もしないでいると進んで行かないのは事実だからね。


 だが・・・、安全の為に情報集めは綿密に行うということは止めるつもりはない。

 集められる限り、情報を集めてからでないと次へ進まないというのは、これはロープレの鉄則でもある訳だからね・・・、これだけは守って行くぞ。」


 これ以上俺の我儘で皆に迷惑をかけるわけにもいかないので、冒険を継続して行くことに同意する。


「ありがとうございます・・・、次は恐らく・・・天空のアイテムがいただける試練のダンジョンだから安心ですよ・・・、まあ、失敗するとアイテムがいただけない場合もあり得ますが・・・、皆さんのレベルから考えて、その様な事はないでしょうから楽勝です。


 そうして天空のアイテムを一つでも手に入れることにより、防御力もしくは攻撃力が格段に上がりますから、冒険が有利になるはずです。」

 ツバサが満面の笑顔を見せる。


 確かに俺たちは最高レベルの経験値を持ってきてはいるが、魔物たちも超強力で、倒せないことはないのだが、防具も武器も低レベルの防御力や攻撃力の物だけだ。


 それが少しでも強力になれば、冒険のやりやすさも変わって行くという事なのだろう・・・、宝剣の付加効果も加われば、更に有利になるとは言える。


「分った・・・じゃあ戻るとするか・・・、いつまでもこんなところで立ち話もなんだからな・・・。」

 来た道を歩き出すと・・・、すぐに辺りが濃い霧に包まれ出した。

 そうしてしばらく歩くと・・・、


「あれ?ここは竹林の入口ですね・・・、おじいさんがいた宿は通らなかったようですね。」

 源五郎が竹林に作られた細い通路のような切れ目を振り返りながら呟く。


 やはり、この竹林には迷宮のような仕掛けがしてあって、特別な者達にしか出入りできないようになっているのであろうな・・・今後もそうだとすると・・・、テレビスタッフたちの救出を当てにすることは、出来そうもないな・・・。



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