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3 庵

 竹林の隙間を進んでいくと源五郎たちが言っていた通り、やがて辺りに霧が立ち込めて来て、その濃さから数メートル先も見えなくなっていく・・・。

 密集している竹ですらも、数本先くらいまでしか見通す事が出来ない程だ・・・。


「あっ・・・、なんか前方に光が見えますね・・・。」

 俺、源五郎、ツバサ、レイの順に1列で進んでいるのだが、3番目のツバサが前方右側を指さしながら叫ぶ。


「おおそうだな・・・、前回来た時も光が見えたのかい?」

 振り返って、2人に確認する。


「いえ・・・、何も見えるものはなく・・・、ただ手探り状態で10分ほど歩くと、入口まで戻っていました。」


「あたしの場合も同じです。」

 何とかギリギリ姿が確認できる2人が、首をひねりながら答える。


「じゃあ、もしかすると先へと進む場所かもしれないから、何とか光の方へ向かって進んでみよう。」

 そう言いながら、光へと向かうルートを探りながら先へと進んで行く。

 よく見ると竹林には、人が通れるような隙間が枝分かれしている分岐が何か所かある様子だ。


 やがて霧が少しだけ薄くなってきて少しひらけた場所に出ると・・・、そこには小さな庵が建っていた。

 かやぶき屋根で木造の平屋建ては・・・遥か昔の和風建築を思わせる・・・、ツタが絡まり苔むしたその壁には、悠久の時が感じられるほどだ。


『ドンドンドンッ』「すみませーん・・、どなたかいらっしゃいませんかー!」

 玄関のドアを叩いて、中の人に呼びかける。


 小さな煙突からは煙が立ち上っているし、窓からは障子越しに明かりがこぼれているので、誰か住んでいるのは間違いがないだろう。


「ハーイ・・・どなたですかな?」

『ガチャッ』玄関のドアを開けてくれたのは・・・、着物姿の小さなおじいさんだった。


「今晩は・・・旅の者です・・・、チコリ村南東のダンジョンを目指してやってきたのですが・・・、どうやら道に迷ってしまったようです。この先の道順は分りますか?」

 すぐにおじいさんにダンジョンへの道を問いかける・・・、まあ詳細を教えてくれるとは到底思えないのだが。


「おお、おお、そうですか・・・冒険者の方がいらっしゃるのは、何年振りでしょうな・・・。

 ダンジョンへは、この先の道をまっすぐに向かわれれば、辿りつけますぞ。


 だが今晩は霧も深いし・・・お疲れでしょうから、明日の朝になってから出発なされるのがいいでしょう。

 狭いところですが、お客様用の寝具もございますから、どうぞお泊り下さい。」

 おじいさんは、そう言いながら、曲がった腰を更に低く折り曲げてお辞儀をする。


「いえ・・・先を急ぐ旅ですから・・・・、このまま先へと進ませていただきます。」


「いえいえ、それはなりません・・・本当に霧が深く、まっすぐに歩いているつもりでも、先へ進んでいないことがありますから、どうか一晩お泊り頂いて、明日の朝明るくなってから出発されるのがいいと思いますぞ。」


 俺の我儘で1週間も棒に振ってしまったのだから、ここでまた時間を費やすわけにはいかない。

 そのままダンジョンへ向かおうとしたが、おじいさんに止められた・・・ううむどうしよう。


「まあいいじゃないですか・・・泊めてくれるというのですから、ここは甘えようじゃないですか。

 それに・・・やはりチームメンバー全員で来ているからでしょうか・・・、一人だけではどうやってもこの庵にまでも達することは出来ませんでした。


 恐らく、一晩泊まって明日の朝に向かった方がダンジョンに到達できるのだと思います・・・、ですから今日は泊まりましょう。」

 源五郎へ振り返ると、宿泊を提案してくる。


「あたしも、泊まった方がいいと考えます。」


「あたしは・・・どっちでもいいけど・・・、もう眠くはなって来たかなー・・・。」

 ううむ・・・仕方がない・・・


「分りました・・・お言葉に甘えまして・・・、宿泊させていただきます。

 一泊おいくらでしょうか?」


 こんな辺鄙な場所の宿だから安いとは考えるが・・・、逆にぼられたとしても他にない訳だから、言い値になってしまうのだが・・・。


「いえいえ・・・、お代など頂きません・・・。

 すぐにお食事の用意をしますから、どうぞこちらへ・・・。」


 おじいさんは俺達を12畳ほどの部屋に案内すると、そのまま引っ込んで行った。

 ううむ・・・、ただで泊めてくれる上に食事まで・・・、いい人なのか?あるいは毒を盛られたりとかか?



「おいしいー・・・、タケノコって生でも食べられるんだねー・・・知らなかった・・・。」

 レイが、口いっぱいにタケノコの刺身を頬張りながら、そのおいしさに恍惚の表情だ。


 その日の晩御飯は、まさに筍尽くしだった。

 刺身や煮つけ・・・果てはステーキというか、タケノコを皮のまま炭火で焼いて、中の柔らかい身の部分を取り出して食べる豪快な料理など・・、どれも今までに食べたことのないおいしさだった。


「朝取りの筍と申しましてですな・・・、早朝で土から顔を出す前の筍は実が柔らかくてアクがなく、生でも食することができるのですが・・・、通常は短い時間しか食べられません。


 しかし、この辺りは昼でも夜でも霧が濃く立ち込めている時間が長いものですから・・・、竹の方でもどの時間が朝なのか分らなくなるのでしょうな・・・、その為、若芽を見つけて土を掘り返せば、朝でも昼でも夜でも新鮮な筍をゲットできるのです。」


 宿のおじいさんが、笑顔を見せる。

 ううむ・・・こんなごちそうを頂いて・・・、更に宿代が無料とは・・・、本当に大丈夫なのだろうか・・・、朝起きたらどこかの牢屋の中で目覚めたりなんかして・・・。


 俺たちの行動に関しては逐一テレビカメラに収められているから・・・、さすがに大っぴらに俺たちの妨害をすることはないだろうと考えている・・・、次元の向こう側のこの星の真の住民たちも視聴しているはずだからな。


 だからこそ、地竜の里でも俺たちが堤を壊してしまったことを破壊行為と称して、中央送りにしようとした訳だ・・・、つまり捕まえるにしても俺たちが冒険者としてふさわしくないのだという、お題目は必要となる訳だ。


 そのような事をしでかさない限りは、普段の生活には何もしてこないはずと考えてはいる・・・、その為に攻略不可能なダンジョンをあてがおうとしていることになったはずだ。

 だから・・・、ここは安全と見ている訳なのだが・・・、


「いやあ・・・、お酒もおいしいっすねー・・・。」

 日本酒の徳利片手に、顔を真っ赤に染めた源五郎が俺の前の盃にお酌をしてくれようと手を伸ばしてくる。


「全然飲んでいないじゃあないですかー・・・、さわやかでフルーティで・・・かなりおいしいお酒ですよー・・・、飲まなきゃ損損・・・。」


 今ではとっくに成人してお酒も飲める歳になり、かなりいける口なのだろう・・・、もう既に相当メーターが回っている様子だ・・・、それにしても、いくら冒険者用の宿とはいえ・・・、こんなに羽目を外してもいいものだろうか?


「あっああ・・・、ありがとう。」

 仕方がないので、とりあえず杯の酒を飲み干して注いで貰う・・・、ここで酔っ払い相手に講釈しても始まるまい。


「さあさあ、ツバサさんも・・・っと・・・、ツバサさんは永遠の16歳だから、お酒は駄目か・・・。」


「あたしは・・・、ジュースで良いです・・・。」

 ツバサは、源五郎のハイテンションに少し付いていけないのか・・・、困った顔をしながらオレンジジュースの入ったグラスに口を付ける。


「レイちゃんもお酒はだめだから・・・、やっぱりリーダーと僕だけで飲むしかないですね・・・。」

 尚も源五郎は、俺をターゲットに定めてすり寄ってくる・・・、ううむ・・・助けてー・・・。



(霧がくれの湖を見つけるには、霞の笛を吹け。

 一人が吹けば湖は姿を現し、二人が吹けば行く道を示すだろう・・・)


「うん?・・・夢か・・・?」

 ハッとして、布団から上半身を起こして辺りを見回す。


 隣では酔いつぶれた源五郎が掛け布団を蹴飛ばしたままで、寝間着の浴衣の裾をはだけながら寝入っている。

 なにか小人のようなものが枕もとをうろちょろして、何かを囁いて行ったような・・・気のせいか・・・?

 源五郎に布団をかけてやり、もう一度寝なおした。



「ふぁー・・・、なんだか耳元が騒がしくて、余り寝られなかったよ・・・。」


 翌朝の目覚めは決して良いものではなかった・・・、ほぼ一晩中耳元で何かささやかれ続けていたような気がする・・・、いつもだと床に入った途端というか、ホテルの部屋とか寝室のドアを開けた途端に翌朝になっているのに、昨晩はなぜか普通に睡眠をとっている感覚があった・・・。


 夜中に目覚めたり源五郎の布団を掛け直してやったりと・・・。

 そういえば・・・しょせんゲームキャラなので、普段なら食べようと口に頬張った瞬間に食べ物はなくなり、食べたという満足感と味の記憶が浮かぶだけなのだが、昨晩は食べたり飲んだりの感覚があった。


 状況によって、そのような生活の感覚も現実のように感じられる場面もあるという事なのか?


「霧がくれの湖を見つけるには、霞の笛を吹け・・・ですよね・・・?

 僕も昨晩何か耳元でささやかれているのを聞きましたよ。」

 すると、源五郎がすっきりした笑顔で話しかけてくる。


「ああそうだ・・・その様な事を言っていたような・・・、でも・・・源五郎は昨晩はほぼ泥酔状態だったというのに・・・、よくそんな言葉の細かいところまで覚えていたな・・・。」


 流石、企業のトップというか、どれだけ酔っ払っていても最低限の意識は保つというか・・・、聞いたことは忘れないということは、素晴らしい才能だ。


(いえ・・・、昨晩のことはその・・・ただの演技ですよ・・・。

 夜のうちに何かしてくるのであれば、羽目を外したふりをすれば、早めに仕掛けてくるだろうと思って・・・。

 結構接待とかしているものですから、酔っ払ったふりはお手の物ですよ・・・でも、何もありませんでしたね。)


 源五郎が、インカムのマイクを手で押さえながら、そっと耳元で囁いてくる。

 ううむそうか・・・、敵が何か行おうとしているのであれば・・と、わざと隙を作ってみせたという訳だ。

 流石だ・・・色々と考えている・・・。



「それは恐らく、霞がくれの湖という冒険に役立つアイテムをくれる修業場の事だと思います。

 以前は賢者のトンネルの14番目のドアの先でしたが・・、そこでお二人が口笛を吹くと、湖が現れて地下へと続く洞窟が現れました。


 その先の修業場で一定の強さレベルと判定されると、天空のアイテムがもらえたのです。

 そう言えば・・・、前回の時はチコリ村の宿でお二人がお告げを聞いたので・・・、恐らく今回も・・・」


 昨晩の事を朝食の席で話すと、ツバサが嬉しそうに笑顔で教えてくれる・・・。

 ほうそうか・・・、そんなうれしい場所が・・・。


「魔物たちは超強力な割に魔物を倒していただくアイテムは、最初がちょっとよかっただけで今ではあまり大したものが出てこないと思っていたのだが、これである程度の武器や防具を揃えられるという事だね?


 なにせ、まだ冒険自体は初期だから、武器屋も防具屋もろくな装備がないからね・・・。

 そのくせ出てくる魔物たちは無敵だったり高レベルだったりするわけだから、この時点でハンデがある訳だよね。」


 まあ、俺たちは最高レベルで来ているから、武器や防具にあまり頼ることはないのだが、レベルがまだ低いツバサは結構大変だろう。


「そうですね・・・、でも一度に頂けるアイテムは一つだけです・・・。

 以前はそれを4回行いました。」

 ツバサが少し申し訳なさそうに答える・・・、貰えるアイテムは一度に一つずつか・・・まあいいでしょう。


「よしわかった・・・、恐らくこれから行くダンジョンでもらえるアイテムが、その霧がくれの湖関連グッズである可能性が高い。

 とりあえずそれを目標に頑張ろう。」

 まあ、目標も定まったことだし、朝食を終え席を立つ。


「じゃあどうも、ありがとうございました。」


「いえいえ・・・大したお構いも出来ませんで・・・、おっと・・・お帰りはこちらから・・・。」


 宿のおじいさんは、昨日入って来た入り口とは反対方向を指さす。

 どうやら宿を通り抜けて、反対側のいわゆる裏口から出て行くようだ。


「うわあ・・・綺麗な青空。」

 外に出るなり、レイがまぶしそうに目を細めながら空を見上げる。


 昨日の濃い霧はどこへやら・・・、今日はピーカンの上天気だ。

 相変わらず人ひとりが通れる程度の細い道幅しか竹林の隙間はないのだが、前を見通せるだけでずいぶんと歩きやすい。


 しばらく歩くと・・やがてひらけた場所に出た。


「なんだ?あれは・・・、まるで土俵のような・・・。」


 それは土をうず高く盛って上端を平らに押し固めたような円形・・・、まさに相撲の土俵のような形をしていた。

 見た目で直径は5,6m位のものだろう・・・、実際の大相撲の土俵の大きさは知らないが、形的には周りを囲む俵がないだけで、同じような形をしている。


 そんな土俵が4つも・・・2×2列に並んでいる。

 そうしてその中央部には・・・、なんだ?


「ああっ・・・カンガルーのボクサーだ・・・、カンガルーさん、こんにちは・・・。」

 土俵中央の動物を目ざとく見つけたレイが、喜び勇んで駆け寄って行く。

 そう、中央には両前足にボクシングのグローブを付けた、大きなカンガルーが立っていた。


「待て、レイ・・・、一人で行ってはいけない・・・危険だ!」

 すぐに叫んで呼び止めるが間に合いそうもない・・・、レイは土俵の盛り土を駆け登り、その上に上がってしまった・・・。


『ウィンッ』次の瞬間、土俵の周囲から壁が盛り上がり、レイとカンガルーをドーム状の壁で包み込んでしまった。

 丁度、真っ黒い壁が両サイドから盛り上がって、中央で半球状にくっついたような形だ。



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