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ひたすら待機

久しぶりの再会です。まあ、ゆっくりと進めていくつもりです。

1 ひたすら待機

『ギィッ』小さな民宿のドアを開けて、拳法着を着たショートカットヘアーの美少女が入ってきた。


「どうだ・・・、何か今後の冒険の役に立ちそうな情報は聞き出せたかい?」


「いえ・・・北部大陸でしたら、あたしもよく知っているので、なにかおかしなところがあればそこを詳しく聞き出せると思っていたのですが、今日のところはなにも・・・。


 南部大陸では食堂でバイトをしていたので、ここでも食堂の人たちに話を聞いてみたのですが、これといった情報は得られませんでした。」

 見た目は16歳の美少女は、申し訳なさそうにうつむき気味に答える。


 ここは北部大陸北西部のチコリ村・・・東部大陸北部で攻略不可能なダンジョンを、三四郎さんの支援により辛くもクリアしたのだが、次の目的地が分からないため、東部大陸北部のナンダラ村を経由し、その後北部大陸北部を航海して、チコリ村までやってきたのだ。


 賢者のトンネルを使って中央諸島へ戻り、そこから周辺の大陸に行ってみようとも考えたのだが、ツバサに言わせると、中央諸島などがあるこの星中央の海からこの航路へ辿り着くには、小西部大陸というまだ行っていない大陸を大きく迂回してこなければならないというので、何もないかもしれないですが・・・と言われたのだが、後から大回りするよりはいいだろうという事で、この機会に回ってみたのだ。


 しかし予想通り・・・というか、これといった行事や事件もなく3週間が過ぎた。

 ここまでの道中、北部大陸では帆船が着岸できるような海岸線はなく、実に3週間もかけてはるばるこの地までやってきたという訳だ。


 それでも海の魔物はそれなりにいたので、巨大イカや巨大サメにクジラやシャチ系の魔物たちなどと連日戦闘を繰り広げ、放送の材料には苦労はしなかった・・・(といっても魔物たちはそれほどレベルは高くなく、申し訳ないがツバサの経験値を稼ぐために、彼女一人で戦ってもらっていた。)


「でも・・・ここから南東の山間にダンジョンがあることは聞き出せたわけですから、まずはそこへ行ってみませんか?

 そこをクリアすれば、次の地へ向かう賢者のトンネルのカギが手に入るのではないでしょうか?」


 宿の応接のソファに深く座りながら、少し苛立ち気味に源五郎が叫ぶ。

 無理もない・・3週間の船旅の後、何をすることもなくこの宿屋で、1週間缶詰め状態なのだ。


「うーん・・・だがなあ・・・、東部大陸のダンジョンを覚えているだろ?

 あんな攻略不能なダンジョン・・・たまたま三四郎さんがいて自分の身を挺して助けてくれたからよかったが、そうじゃなければ俺たちは、恐らく未だにあそこの地下の洞窟に閉じ込められたままだったぞ。


 俺たちはゲームキャラだから飯を食わなくても死にはしないが・・・それでもあの狭いところにずっと一生閉じ込められたままになるところだったんだぞ。

 そうなると、かえって死ねないという事が苦痛に・・・。」


 俺はうつむき気味に首を大きく横に振る・・・、怖いのだ・・・恐ろしいのだ・・・あんな狭い出口のない空間に押し込められて、ずっと過ごすことになるのが・・・。


 別に閉所恐怖症といった事ではないつもりだったが、それでも子供のころは狭いところとか薄暗い場所は苦手としていたような記憶がある・・・、デパートのエレベーターに乗っても息苦しく感じていたくらいだ。


 そのため団地もエレベーターのあるような高層マンションではなく階段のみの五階建てとしたのは、無意識の行動ではないかと、今になって分析している。


「そんなことありませんよ・・・、仮に三四郎さんが僕たちのフォローをしなかったとしても、その場合は僕たちがアンテナ施設のダンジョンに直接向かったと思いますが・・・、何とか無敵の魔物たちを四人の協力のもと倒して操作室までたどり着いたとします。


 そうしてそこの、いわゆる中ボスを倒して地下の穴倉へ落ちるよう床が開くわけですが・・・、下の魔物の大群を見れば全員で降りたでしょう・・・、そうして何とか穴倉の魔物たちを倒しきったと思いますよ・・・。」


 ビビる俺を何とか励まそうとしているのか・・・、源五郎が起こりえた事象を明るく想定してくれる。

 宿に泊まっている時間はプライベートだからと、ヘッドカメラもインカムも装着していないので、極秘の会話も問題はない。


「魔物を倒し終わった途端に、洞窟が崩落して外へ出られなくなってジ・エンドさ・・・。」

 俺が、その後起こりえる至極残酷な結末を告げる。


 魔物を倒しきらなければ宝箱を開けられないし、かといって倒した途端に外へ出る洞窟が崩落してしまうのだから逃げようがない・・・、更に洞窟へ抜け出るドアには内側にはドアノブすらなかったのだ・・・。


「でっ・・・でも・・・だからこそナンダラ村へ向かう前に、一旦ファブへ賢者のトンネルを使って戻って、道具屋でザイルにピッケルにハーケンなど登山道具を一式揃えたじゃないですか。

 ついでに高枝ばさみも購入しましたが・・・道具がそろっていれば、天井の扉を開けることだってできたわけですから、大丈夫ですよ・・・。」


 源五郎が自信満々に答える・・・そう、万一のためにと源五郎の提案で、一旦ファブへ戻って道具をそろえることにしたのだ。


 そのほかにも、船の中のコスチューム屋にも行っていろいろと面白グッズも購入しておいた。

 何に使うかわからないものばかりだが、特にレイが喜んであれこれと買いあさっていたようだ。


「どうだろうな・・・あの床・・・というか天井部には、下から開けるためのフックも何もついていなかったし、しかも自動の開き戸だから、上で操作しなければ開けることもままならなかったんじゃあないかな・・・。」


 ここにきて、俺のネガティブ思考がさく裂してしまった・・・。

 元からあまりポジティブな性格とは思っていなかったし、狭いところは苦手な気持ちがあってもRPGの洞窟ダンジョンでも平気で入って行けていたし、冒険という高揚した気分でいる限りは問題ないと思っていた。


 そのためこのゲームの性格診断アンケートに、狭いところも平気と記入しておかなかったのが悔やまれる・・・。


「レイちゃんも、いい加減こんなところにとどまっているより、新しい冒険に進みたいよね?」

 ついに源五郎は俺の説得をあきらめ、少しでも味方を作るべくレイを説得し始める。


「うーん・・・どうかなあ・・・今週は株レンジャーの総集編をやっているから、まだここにいてもいいかなあ・・・。」

 レイは応接のソファに座ったまま、テレビにくぎ付けの様子だ。


 3ケ月クールが終わって、今は総集編を放送しているようだ・・・という事は、今は6月末か7月初という事になる・・・ううむ・・・、もうこの世界に来てから2ケ月は経っているという事だ・・・。


「でも・・・地下に閉じ込められたことを知ったら、三四郎さんが何とかして助けに来てくれたと思いますよ。

 あそこはアンテナ施設の工事現場で、魔物たちがいなくなれば作業員の方たちがやってきたわけですから、その人たちと協力して、洞窟に埋まった瓦礫を掘り出してくれたんじゃないでしょうか?」


 すると今度はツバサもポジティブな解説に加わってきた。

 彼女は三四郎さんと元々知り合いだったわけだしな・・・信頼していたという事だろう・・・、実際、信頼に足る人だったわけだったしな・・・。


「どうだろうな・・・、仮にそんなことできるのであれば・・・三四郎さんだって命を懸けてまで自分一人だけで無敵の魔物たちに立ち向かっていかなかったんじゃあないかな?


 洞窟が埋まってしまうと救出は困難だろうと判断したからこそ、あのような形で俺たちを助けざるを得なくなったのだろうと、俺は解釈している。」

 俺は、うなだれながら力なく首を振る。


「でっ・・・でも・・・僕たちの冒険内容は毎日放送されているわけですから・・・・、いえ、放送前だって、テレビスタッフさんたちが気づいてくれれば、何とかして僕たちを助け出そうとしてくれたはずです。」


 源五郎はあくまでもポジティブだ・・・、そうだろうな・・・高校生の時からすでに仲間たちと会社を立ち上げ、今では年商数億の会社の代表取締役だ・・・、挫折や失敗などした経験もないのだろう。


 いや・・・挫折や失敗を経験した方がよいという訳ではない・・・、それも糧になるという人もいるけれど、経験しなくて済むものであるならば、やっぱり経験しない方がいい。

 その方が人生豊かで明るく暮らしていける・・・、俺のように挫折ばかりの人生よりは・・・。


「テレビスタッフが気づいてくれたとしても・・・、彼らはただの村人扱いだろ?特別な能力はないはずだ。

 無敵であった三四郎さんならともかく、ただの一般人であるテレビスタッフが、無敵の魔物たちが巣くうダンジョンに入って、俺たちを救い出してくれたとは到底考えられない・・・。


 仮に俺たちが無敵の魔物たちを全滅させることが出来ていたとしても・・・、雑魚魔物たち相手ですら対抗できないだろう・・・いくらマシンガンなどで武装していたとしてもだ・・・。


 かえって犠牲者を増やしてしまうだけだ・・・、なにせ、これまでのダンジョンでは、雑魚魔物たちがいない場合が多かったが・・・アンテナ工事施設建築に魔物たちまでもが駆り出されているといっていたからな・・・、それでも半魚人たちの村のダンジョンには雑魚魔物は残っていた。


 さらに、ここへ来るまでの北の海では魔物たちが生息していたわけだ・・・、つまり、アンテナ工事施設の近くで工事中であれば雑魚魔物たちも駆り出されているかもしれないが、そうでない場所には雑魚魔物たちはいる可能性が高い。


 居ないと言えない限りは、俺たちの救出のために一般人であるテレビ局スタッフを危険にさらすことはできない。


 第一・・・、彼らもこのゲームスタッフの一員であるわけだから、常に俺たちの味方をしてくれるとは限らないわけだ・・・、地竜の村へ俺たちが向かうときにタイヤがパンクしたりガス欠になったりしたし、更に半魚人の十四郎の証言映像が消されていたりしたわけだ・・・、そう考えると、彼らに過度に期待しない方がいい。」


 そう・・・テレビスタッフたちは、恐らく中央からの指令に逆らうことはできないだろう。

 そうなると俺たちにどこまで協力してくれるのか、怪しいところなのだ。


「だったら・・・僕たちに協力してくれる三四郎さんのような存在を作りましょうって・・・、提案しているじゃないですか。


 復活の木さんも実体化したことによって、村人たちなどのゲームキャラにも自我が芽生えたといっていましたから、定められた応対だけではなく、その人個人の考え方で行動をする場合もあるわけです、それこそ三四郎さんのようにね。


 そう言った味方を一人でも多く作ることによって、攻略不可能に見えるダンジョンだって、何とかクリアしていけるようになるのではないでしょうか?」

 源五郎が至極当たり前のように提案してくる。


「だがなあ・・・、俺たちの冒険のためにだよ・・・三四郎さんのような犠牲者を出したくはないんだよ・・・、確かにこの世界はどこかおかしいし、中央と言われているこのゲームの管理者と思われる者たちのゲームキャラたちに対する指示は異常だ。


 なにせ、冒険者である俺たちの邪魔をするような指示を出しているわけだからな。

 しかも実質ゲームシナリオには全く関係のないと思われる、地球からのテレビ放送を受信するためのアンテナ施設建設を、ゲームキャラ達総動員で行わせようとまでしている。


 ところがだな・・・ここからが大事なことなんだが・・・だからどうしたという事だよ・・・、それで誰も迷惑をこうむっているわけでもないし、恐らくこの星の本当の住民たちだって、地球からのテレビ放送が受信できて喜んでいるはずだ。


 俺たちはツバサからの助けを求める声を聞いてこの世界へやってきたつもりでいたのだが、ところが実際はツバサ本人ではなく、リセットが効かなくなったゲームキャラの方のツバサの身を案じた、この星の本当の住民たちがツバサに成り代わって救援を要請したという事だったからな。


 彼らの目的は恐らくツバサの冒険放送の継続であって、決して今いる中央の奴らとかを退治して排除してくれというようなことまでは考えていなかったはずだ。


 そうなると・・・俺たちが勝手に中央の奴らというのを悪と決めつけて、そいつらを退治しようとしているだけであって、俺たちだけでやるのは勝手だが、その事にほかの人たちを巻き込むのは・・・、どうかと思うぞ・・。


 俺だって冒険を取りやめたいわけではない・・・だがしかし、俺たちだけの力で進んでいくための算段をつけてからでないと、先へ進むのは危険だと主張しているだけだ。


 だから協力者を募るよりも・・・もっと情報を・・・、先のダンジョンを攻略するための情報を聞いて回ろうと提案しているわけだ・・・。」


 ダンジョンの形や魔物たちのレベルと数に加えて中ボスの強さ・・・、恐らく魔物は無敵に近いのだろうが、その数や生息場所など・・・、他にどのような罠が仕掛けられているか・・・、無敵の魔物たちを倒すことが出来ても、ダンジョンの罠にかかってしまえば出られないわけだからな・・・。


「そういって・・・もう一週間ですが、ダンジョンの場所がわかっただけで、魔物の数も宝箱の中身もまったくわかってないじゃあないですか・・・。


 三四郎さんだって最近はダンジョンの情報が伝わってこなくなったといっていたし、これ以上村や周辺の人たちに聞き込みを続けても無駄だと思いますよ・・・。


 僕なんかギルドの受付嬢から話を聞き出すよう命じられて、毎日ギルド終了時間まで外で待ち伏せしていますが、受付嬢はギルドから出てくることはありませんでしたよ・・・、恐らく住み込みですよ・・・。


 それに・・・三四郎さんを犠牲者と言いましたけど、地竜の里の人たちは、彼らは冒険者のために働くために生まれてきたといっていたじゃあないですか・・・、言ってみれば本望だと思いますよ。


 それに・・・こういう言い方はちょっと失礼に当たりますが、彼らは様々な人格を混ぜ合わせて作られたキャラクターという事じゃあないですか。

 もちろん僕たちは一人一人の人格から作られていますが、それが偉いとかいうわけではなく・・・、どのみちこのゲームの世界に作られた、仮想のキャラクターなのですよ。


 僕たちの本体は地球にいるわけですからね・・・、ですからその・・・犠牲になるとか死んでしまうとかいう事は、もう少し軽く考えていただけないですかね?


 もちろん僕たちもリセットが効かない身の上ですからね・・・、人生と同じく一度きりという事は重々承知の上です。


 でも・・・ここでいつまでもじっとしていたところで何も事態は好転していかないですよ・・・、というより、中央の人たちというのが何を考えているのか分かりませんが、もっと悪くなっていくのではないかと・・・、そうなるまえに・・・、魔神や魔王たちに成り代われてしまう前に、彼らの野望を阻止しなければならないと考えます。」


 源五郎が、いつになく力説する・・・、こんなやり取りをここに来てから一週間もずっと毎晩続けているのだから、流石に苛立ってきていることだろう・・・、だが・・・ううむ・・・どうしたものか・・・。


<やっぱり現物取引が堅実だ・・・みんなももう一度考えてみてくれ・・・、じゃあまたな。>


<ご愛顧ありがとうございました・・・大人気の株レンジャー第3部は、10月から放送いたします。

 来週からは仕手ハンターが放送される予定です・・・みんな見てねー・・・。>


『カチッ』「あーあ・・・、終わっちゃったか・・・、じゃあ仕方がないから・・・ダンジョンでも行きますか?」

 レイが物惜しげにテレビのスイッチを切りながら、俺たちの方へと振り返る。



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