三四郎さん
15 三四郎さん
「さあ、これからどうするかだな・・・。」
まんまと三四郎に騙されてしまったというわけだろう・・・、復活の木は誰も信用するなと言っていたが、まさにその通りだ・・・彼なら大丈夫だろうと判断した俺の責任だ・・・。
「とりあえず魔物たちは一蹴したのだから、これから落ち着いて脱出方法を検討しよう・・・。」
みんなに済まない気持ちでいっぱいだが、まずは脱出することが先だ・・・部屋の中を見回しても、俺たちが入ってきたドア以外に出入り口らしきものは見られない・・・、更に四方は岩壁だ・・・、恐らく穴を掘っての脱出なんてとても不可能・・・。
天を見上げると、はるか上方に天井が・・・、ライトで照らすと人工物のようで、色から察すると鉄製のようだが・・・10メートル以上は高さがあるだろう・・・。
やはり、入ってきたドアが一番何とかなりそうだな・・・。
『ガッガーンッ・・・ドゴドゴドゴドゴッゴッゴォーンッ・・・ミシッ』扉に近づこうとしたら、衝撃音とともに振動が伝わってきて、やがて鋼鉄製と思われる扉が内側にひしゃげて曲がった。
「どうしたのか分かりませんが扉が変形したようですから、うまくいけばドアノブがなくても開けられるかもしれませんよ・・。」
源五郎が駆け足で扉へと寄っていく。
「いや・・・触らない方がいい・・・、恐らく上の方で爆発があり、入ってきた洞窟は崩落したのだろう。
万一ドアが開いたとしても、大量の土砂と瓦礫や岩が部屋の中に入ってくるだけだ・・・。」
すぐに源五郎を押しとどめる。
「どうやらそのようですね・・・、砂が扉の隙間から入ってきています。」
源五郎が足を止めて、ドアを指さす・・・。
参ったな・・・出られそうもない・・・。
「なんか出て来たよ・・・。」
レイがさす先には、帽子などアイテムが出現していた。
「何々・・・魔術師の帽子・・・、攻撃魔法効果アップ・・これはレイだな・・・、それから上級格闘家の胴着・・・これはツバサか・・・、鋼鉄の兜と鋼鉄の盾か・・・・、盾は装着タイプだからこっちが源五郎だな・・・。」
出現アイテムを配布し、全員がすぐに装備する。(もちろんツバサが着替えるときは、俺も源五郎も後ろを向いて目をつぶっている。)
「こっちに宝箱がありますよ。」
しばらく部屋の中をくまなく調べまわることにして、ツバサの声のする方に行くと部屋の隅に宝箱が置いてあった。
「中には・・・宝剣が入っていますね・・・。」
ツバサが手にした宝剣を俺に渡そうとする。
「いや・・・、それがどんな効果があるのかは占い師さんに聞かなければわからないが・・・、まずはツバサが持っていてくれ・・・、プラス効果だけだろうから、持っていて損なことはない。」
そのままツバサに持たせることにする。
だがまあ・・・宝剣まで見つかってクエストクリアは間違いなさそうだが・・・、脱出できそうもない・・・困った・・・。
『ガゴッ・・ガッシャンッ』すると遥か上の方で大きな物音が・・・、見上げると天井の中央から光が差し込んできている・・・、どうやら天井の中央部が大きく開いたようだ・・・、だがどうする・・・壁を伝うこともできそうもないし、流石のツバサでも10メートルは跳躍できないだろう。
『バサッ』さらに続いてロープが降りてきた・・・、ううむ・・・登ってこいという事だろうか?
どこかに向こう端を結びつけているのか、グイッと引っ張ってもロープはびくともしない・・・ううむどうしよう・・・、罠だと困るしな・・・。
「あたしがまず登ってみます・・・、大丈夫なようでしたら声をかけますから、そうしたら続いてきてください。」
ロープを持って悩んでいると、ツバサがやってきてロープを俺の手から持ち去った。
「いやだめだ・・・、ツバサ一人だけではいかせられない。
無敵の魔物が待ち構えていると、ツバサ一人だけでは太刀打ちできないからね。
まず・・・俺が登っていくから、すぐにツバサが続いてきてくれ。
源五郎とレイは危険そうだったら登り切らずに・・・、ロープにしがみついたままで攻撃を仕掛けてみてくれ。
それだけでも十分なアシストにはなるだろう・・・いいね?」
『はいっ』俺の自信なさげな指示にも、全員が大きくうなずく。
「よっ」
ロープを手繰り寄せて、素早く登っていく・・・、罠だとしても敵の意表をつくためにも、時間をおかない方がいい・・・。
『スッ・・・ダッ・・・ゴロゴロゴロッ』天井部分に達すると天板を掴んで勢いよく体を持ち上げ、そのまま部屋の中に飛び込んで体を転がせる。
『シャキンッ』そうしてすぐに鋼鉄の剣を抜いて身構える。
『シュタッ』すぐにツバサも続いて登ってきて、華麗に着地すると同時に身構える・・・だが、部屋の中には魔物たちの気配はなさそうだ・・・。
「大丈夫だ・・・、すぐに上がってきてくれ。」
ロープを掴んで顔をのぞかせているレイたちに声をかける。
そうして周囲を見回すと、壁には配電盤やモニターなどが配置されていたが、机やいすが散乱していてパソコン用らしきモニター画面が割れていたり、キーボードやパソコン本体なども多数机から落下したりしているようだ。
恐らくパラボラ施設の操作室なのだと思うが、ここで何か争いがあったのだろうか・・・?
「大丈夫ですか?しっかりしてください!」
ツバサが部屋の隅の方で、大声を出して叫んでいる。
『ガッシャーンッ』同時に開いていた床が勢い良く閉じた・・・、レイと源五郎が登り切ってからだったからよかったが、結構危ないタイミングだ。
下側には取っ手もなかったし、たとえ天井部分に手が届いたとしても、下から開けられそうな構造はしていなかったように思う。
そのままツバサの方へ駆け寄ると、そこには体が大きな竜人が倒れていた・・・三四郎だ・・・。
三四郎はツバサの呼びかけにも応じないし、手足も力なくぐったりと伸びた状態だが、それでも右手にはロープが何重にも巻き付いて引っかかっている・・・。
彼がロープを垂らしてくれたのは、間違いがないようだ。
「復活の木の葉を食べさせよう・・・。」
すぐに袋から葉を取り出す。
「いえ・・・無駄です・・・。」
ツバサが目に涙を浮かべながら首を振る・・・。
よく見ると胸や背中に腹と・・・至る所に魔物の斧が突き刺さったままだ・・・、これではいくら無敵と言えども、傷の回復もままならず息絶えてしまった事だろう。
「どうしてこんなことに・・・。」
源五郎もあっけにとられた様子だ・・・、本当にどうして・・・?ううむ・・・
「ここで魔物と三四郎が戦ったのだろう・・・、斧の数からいうと相当数の魔物相手の様だから、ここへ来るまでの迷路のようになっている通路とやらでも、魔物たちと戦ってきたという事だろうな・・・。
これは・・状況からの俺の勝手な推測だが・・・、クエストはすでに発動していたのだろう。
それでも案内役である三四郎の無敵モードは、皆を案内して村に戻るまでは有効と読んだのだろうな・・・。
本来は俺たちが迷路のようなダンジョンを通って最終的にこの部屋までやってくる・・・、そうしてこの部屋の魔物を倒してしまうと、部屋中央の床が開いて俺たちは下の魔物たちの巣窟へと落とされてしまうわけだ。
落とされなくても下に宝箱があるのだから、俺たちは否が応でも下に行くしかない。
そうしてしばらく経つと・・・開いた床が閉じて・・・、更に魔物たちを全部片付けてしまうと、洞窟が崩落して埋まってしまう・・・、つまり脱出不可能という事になってしまうわけだ・・・。
そうならないように、俺たちに直接魔物たちの巣窟へ行かせて、三四郎は自分一人だけで迷路のダンジョンに立ち向かったというわけだ。
うまくタイミングが合えば、俺たちが魔物たちを片付けたタイミングで、床・・・俺たちの立場からすると天井だがね・・・、を開けられると踏んだのだろう。
そうしてロープを垂らせば、俺たちが伝って登ってこられると計画したのだろうな。
一時期は三四郎に騙されたと後悔したのだが・・・、そうではなく彼は俺たちを救ってくれたのだ・・・。
疑ってすまなかった・・・三四郎・・・いや三四郎さん。」
なんだか、俺も目頭が熱くなってきた・・・。
「恐らくそうでしょうね・・・、洞窟の崩落の音を聞いて僕たちが下の魔物を片付けたことを知り、魔物たちの攻撃を受けながらも遮二無二この部屋にやってきたのでしょう。
そうしてこの部屋の魔物だけは何とか打ち倒して・・・、開いた床からロープを垂らして・・、そこまでで力尽きて・・・、それでもロープはつかんだままで・・・。」
源五郎も涙をこぼしながら頷く・・・。
「トカゲのおじちゃん、死んじゃったの?」
レイも動かない三四郎さんの姿を認めると、悲しそうな表情で尋ねてくる。
「ああ・・・彼は俺たちを救ってくれたんだ・・・恐らくこのダンジョン唯一のクリア方法を実践してね。」
本当に涙が出てくる・・・ひとこと言っていてくれたなら・・・、いや、例えば俺たちの誰かが彼と行動を共にしたところで、うまくはいかなかっただろう・・・、4人いたからこそ下のあの何十といた魔物たちと互角以上に戦えたのだ・・、誰か一人欠けても無理だっただろうな・・・。
それでも・・・計画を話してくれれば、身代わりの指輪を半分の10個渡す事でも、彼の命は救えたのかもしれない・・・、なにせ彼の目の前で分配したわけだからな・・・、ちょうどいいから数個くれと言ってくれてもよかったのだ・・・、それを言わないとは・・・秘めた計画だから・・・言えないわな・・・。
『ガサゴソガサゴソッ・・・ズボッズボッ』「よいしょっ・・・」
体中に突き刺さった斧を外すと、三四郎さんの遺体を何とか背負う・・・。
「どっどうするんですか?」
源五郎が目をむいて尋ねてくる・・・。
「どうするって・・・運び出すんだよ・・・、こんなところに置いておけないだろ?
地竜の村まで送り届けてやる。」
2mを超す巨体をどこまで背負い続けられるか分からないが、背骨が折れてでも運びきってやる・・・、まあ経験値はMAXなのだから、何とかなるだろう。
「分かりました・・・辛くなったら行ってください・・・、僕が交代します。」
「あっ・・・あたしも交代します。」
すぐに源五郎とツバサが名乗りを上げる。
「ああ・・・だが、恐らく迷路と言っていた通路には、まだ無敵の魔物たちが残っているだろう。
俺は戦えないから、3人で何とか倒してくれ・・・頼む・・・それと、これは・・・ツバサが持ってくれ。」
疾風の宝剣をツバサに手渡す。
「分かりました・・・、行きましょう。」
『ガチャッ』部屋奥のドアを開け、ツバサを先頭にゆっくりと歩いていく。
『ぐるぅあー』すぐに通路の影から、大きな角をはやしたくむくじゃらの巨体が襲い掛かってきた。
「大津波!・・・神の裁き(ライデン)!」
『ザッパァーンッ・・・ドッゴォーンッ・・・バリバリバリバリッ』すぐに巨大な水流が魔物の体を飲み込み、それが引いた瞬間、轟音とともに巨大な閃光が降り注ぐ・・・。
『きゅぅーんっ』魔術師の帽子の効果か、あるいはずぶぬれになってからの雷撃効果が大きいのか、一瞬でその巨体がひるむ。
「とうっ」
『シュタッ・・・シュッパンッシュパッシュパンッ』ツバサが大跳躍した後に相手の死角から懐に飛び込んで、光の爪で連続攻撃を仕掛けると魔物は消滅した・・・、凄い・・・源五郎の出番もなかった。
その後も時折魔物が通路脇から出現したが、源五郎の矢でハリネズミ状態にして仕留めたりと、何とか3人で倒し続けてくれた。
魔物たちはどれも斧が一本しか持っていないか、あるいは2本とも紛失しているような奴らばかりで、攻略にはさほど手間はかからなかった。
迷路も反対周りだとそれほど悩まずに済み、何より正しい順路だと魔物が襲い掛かってくるので、それを頼りに最短で進むことが出来た。
『パサッ』中継車のところまで戻ると、三四郎さんの遺体をリアカーに積んで幌をかぶせる。
「帰りの道順はわかるかい?」
「はい、何とか・・・。」
『ブロロロロロッ』中継車は多少迷いながらも、乾いた川底を経由して、何とか地竜の里までたどり着いた。
「三四郎!」
『ガチャッ・・・パサッ』里の入り口でリアカーを中継車から外し、幌を取り払うとすぐに里の長老がやってきて、三四郎さんの亡骸にすがりつく。
「すまない・・・、俺たちを救おうとして犠牲になってしまった・・・。」
全員で里の竜人たちに頭を下げる。
「そうですか・・・、冒険者様たちのお役に立ちましたか・・・、だったらこいつも本望でしょう・・・。
よかったよかった・・・。」
ところが長老はじめ里の皆は、嬉しそうに笑顔を浮かべた・・・。
「今夜はお祝いじゃあ・・・、皆さんもぜひご一緒に・・・。」
笑顔で誘われ長老たちに連れられて村の中へ入っていく・・・。
『ドンドンドンドンッ・・・・パチパチパチパチ・・・ピィーヒャララ』その夜、太鼓や笛の音が響き渡り、かがり火を囲んで盛大な祝典が催された。
もちろんテレビ局スタッフも一緒だ・・・。
「いやあ、我々は冒険者様たちのお役に立つためにこの命を与えられておりますからな・・・、三四郎の奴は本当にその大役を果たしたという事です。
ありがたいありがたい・・・。」
そういって長老は両手を合わせて拝むようにする・・・、やがて三四郎さんの遺体は荼毘に付され、その煙はゆっくりと天へと昇って行った。
確かに、彼らゲームキャラは俺たち冒険者の手助けをする役割を担っている。
だがそれはその命を賭してまでといった事ではないと俺は思う・・・、ゲームの特性上、他の冒険者がやってきたならば三四郎さんはいつの間にか復活して冒険者のために尽くすのか、あるいはマルチプレイという考え方から今回シナリオでの復活はあり得ないのか分からないが、少なくとも俺たちにとっての三四郎さんの命は一つだ。
また、この世界にいる冒険者はもちろん俺たちだけであり、今のところ後続は望めないのだ・・・。
それだけに、悲しい・・・。
その夜の放送では、三四郎さんは魔物に襲われて命を落としたという報告はしたが、俺たちを助けるために無敵の魔物たちとたった一人で戦ったことは伏せておいた。
地下の魔物の大群を一掃した後洞窟が崩落する場面まで放送し、続いて操作室へ上がった場面から再開し、後は迷路を逆行して施設を脱出したという内容にしておいた。
まあ、ツバサの跳躍力で天板を開けただの・・色々と想像することだろう・・・。
三四郎さんの行動によって、地竜の里がどうなってしまうのか心配だったので、彼を英雄のように報告したい気持ちはあったのだが、抑えることにした。
続く
貴重な味方であった三四郎が、皆を救うために犠牲になってしまいました。今後もさらに過酷なクエストが予想され、サグルたちの冒険は進行困難になっていくでしょう。この先どのような展開となっていくのか・・・、気になるところですが、とりあえずここまでで一旦休止とします。2,3週間ほど休みを頂いて、ゲームの達人の続きを連載予定です。こちらもご期待ください。




