船中泊
12 船中泊
「それにな・・・世の中には奇特な人たちが居って・・・、そのような攻略不可能に見えるシナリオに挑戦することをより好む類の人たちがおるわけだ・・・、ごく一部だけだがね。
所詮は人が作り出すプログラムだから、どれだけ難解に設定したとしても必ずどこかに穴があり、そこをついていくことにより攻略できると信じて疑わない人たちだな・・・。
我々の製作したこのゲーム自体も難易度は通常の子供向けのRPGよりも高く設定されておる・・・恐らく小学校の低学年どころか、中学生でも攻略は難しいと考えられていた。
だから販売価格も高額にしたし、その分寝心地性とかゲーム機で過ごす際の快適性に上乗せ分を費やしたわけだ。
ところがそんなことだけでは満足いただけない類の人たちが存在することを知り、翔たちから恐らく攻略不可能であろう難攻不落のプログラムも作成しておいた・・・と聞いておる。
すごいらしいぞ・・・至る所に無敵の魔物が配備されておってじゃな・・・、何かの条件をクリアしないとその無敵は解除されない。
といってもお前さんたちは遥かに高い経験値をもってやってきているわけだからな・・・、無敵に対してでも勝機がないことはない・・・無敵というのはあくまでも設定上の表現だからね、細かく条件を付けなければ設定はできない。
初期シナリオクリア時の設定レベルの冒険者の攻撃ダメージが、1P程度にしか受けない防御力設定で、体力が1万Pで毎ターンごとに回復するという設定だ。
4人の冒険者の攻撃で最大1ターン4Pしかダメージを受けずに、しかも毎ターン回復するわけだから無敵というわけだね・・・、だがしかし最大レベルの君たちであれば、急所に当たりさえすればそんな魔物相手でも2千から3千Pくらいは一攻撃で与えることは可能だろう。
4人いれば何とか1ターンで1万Pを超えることが出来て倒せる可能性はある。
そんなことは恐らく相手も承知の上だろう・・・、やはり経験値が高い方が有利と見て、それなりの準備もしているだろうと推定される。
だから・・・今回のシナリオは今までとは格段に難易度に差がある・・・これは単に魔物たちのレベル差ではないことを、肝に銘じておくことだ・・・。」
やはり・・・俺たちが無敵の魔物を倒したのは、ただの偶然や設定の間違いなどのバグではないようだ・・・無敵であっても倒すことはできる・・、だが会心の一撃を連続させるという事も、それほど簡単なこととは思えないが・・・、高い経験値と疾風の宝剣の効果で数撃を一度に与えられたのが大きかったのだろう。
それにしても五朗爺さんは非常に難しいことをさくっと簡単に言ってのける・・・、ううむ・・・・だってそんなこと言われたって・・・・、俺たちはいったいどうすればいいのか・・・???
まあ何にしても、これまでの様々な疑問点が、五朗爺さんの解説のおかげでだいぶクリアされたのはありがたい・・・、敵の目的というものにも、おおよその見当もついたしな・・・。
「いろいろとご教授ありがとうございました。
ではまた・・・、いくらか稼いだら弁当を大量購入して持ってきますよ・・・。」
今後もいろいろと相談に乗っていただくことになるだろうし、弁当代が情報料だと考えれば安いものだ。
丁寧にお礼を言って、牢を後にした。
「ありがとうございました・・・、お弁当・・・折角ためたのにすいませんでした。」
帰りの道中、ツバサが深々と頭を下げる。
「いや・・・そんな遠慮は無用だよ・・・、だってツバサ一人だけの知り合いというわけじゃないし・・・、皆に関わりのあることだからね・・・、何せ俺たち全員がもし倒されてしまったなら、最終的にこの地を守れるのはあの爺さんだけになってしまうかもしれないわけだ・・・。
そういった意味では、やはり船に乗って俺たちと行動を共にしない方がいいと言えるのだろうね。
でも・・・、俺たちは地球で通信障害の時に説明会が行われて、その時に確かに五朗爺さんや大空翔たちとも会っているし、今回この世界へやってくるときにも、大空翔や前回の反乱の張本人だった魔神役の定男や魔王軍の隊長をしていたという綾瀬という奴にも会ってきている。
ツバサも・・・、このゲームの中で彼らと面識があるわけだよね?」
恐らくそうなのだろうが、念のため確認しておく。
「はい・・魔王や魔神・・、それに魔王親衛隊の人たちとは、最初の冒険の時に倒した後でゲームのプログラムの話など聞いたことがあります。
その方たちにゲーム機を与えられて、更にキャラクター設定までしていただいて、それであたしがこの世界で冒険を続けられているのです。
そうして先ほどの大空五郎さん・・本名は大空翔さんですが・・・、あの方に数十年前に父が危ないところを助けていただき、この星が願いが叶う星であること及び願いを叶えるための願い方を伝授してくださったのです。
その後父は世界最強の武術家を目指し、そうして日々鍛錬を続けました。
父から話は常に聞かされていたので、出会った時にすぐに分かりました・・・、そうして身の危険を察知して、とりあえず安全と思われる場所に隠れていただいたのです。」
ツバサがとりあえずのいきさつを説明してくれる・・・そうだったのか・・・、五朗爺さんこそ最初にこの星に訪れた地球人というわけだ。
「そうか・・・、ツバサのお父さんとも知り合いというわけか・・・。
それにしても占い師さんとも知り合いのようだったが・・・、彼女ならそれなりに強そうだし、守ってもらうためにも船に乗り込んで潜んでいた方がいいように思えるのだが・・・、やはりあの船も中央の連中とやらの監視下にあるから、行かない方がよかったのかな?」
目立たない場所とはいえ、護衛も何もいない村の中の牢屋だ。
誰かが入り込めば逃げ場はないし、船の方がよほど安全と思えたのだが、まあ本人がいいと言っていたので無理に誘おうとはしなかったのだが・・・。
「それは・・・、1ケ所に同じ人の分身が2人いない方がいいと判断したからでしょう。
離れていた方が、どちらか一方は残っていられるわけですから・・、そういっていませんでしたか?」
ツバサが少し怪訝そうな目で俺の方へ振り返る・・・。
「いや・・・確かにそのようなこと言っていたけど・・、同じ人の分身って・・・ええっ・・・じゃあ、あの五朗爺さんが占い師さんの本体だというのかい?」
「はいそうですよ・・・。」
ツバサはさも当然とばかりに簡単に答える・・・げげっ・・・占い巨乳美女の中身は男だった?・・・しかもおじいさんって・・・いったい何を信じればいいのか・・・。
「そうでしょうね・・・、僕もそう思っていましたよ・・・。」
「あたしも・・・、話し方でなんとなくわかってたよー・・。」
源五郎もレイも、それとなくわかっていたことをアピールする・・・、なんと、俺だけ?
始まりの村のギルドに到着すると、すでに中継車は待ち構えていた。
支局へ行って中継車の点検整備とビデオテープなどメディアの補充を行ってから、すぐに取って返してきたとスタッフが笑顔で答える。
スタッフには葛籠を中継車の後ろに結び付けていると、停まるときに常に後方にぶつかり大きな音がするため、やはり向かないのでやめたと告げ、途中で処分してきたと説明する。
代わりに道具屋に寄ってリアカーを購入してきたと説明する。
なんと、俺たちが最初の冒険で中継車にリアカーを結び付けて、荷物台車みたいにして使っていたことが好評だったらしく、専用のリアカーが道具屋で販売されるようになったのだとツバサが教えてくれた。(もちろんツバサは最初からこのことを知っていたが、Gがないので今回の冒険時には購入できないでいたらしい。)
一応中継車との接続用のアタッチメントも持ち手のところについているし、雨よけの幌もついているので、そこにスペアタイヤを乗せておくことにして、予備ガソリンは危険なので中継車内に保管することにした。
そのままファブへ向かっていただき、船の中で一泊することにした。
「へえ・・・、トレーニングルームですか・・・。」
源五郎がちょっと嬉しそうに笑顔を見せる。
「ああ・・・、この間この船で半魚人たちの棲み処に向かうときに船中泊をしたんだが、その時にツバサに教えてもらった。
さらに従業員用という事なんだが、食堂やシャワールームも使わせてもらえるらしい。
何もしないでそのまま部屋に入っても、腹も満たされ体の清潔も保たれるのだが、一瞬で翌日の朝になっている。
それでは味気ないので、軽く運動してシャワーを浴びて晩飯を食ってから就寝するという、まあ精神的な豊かさだな・・・、そこに気を使うというわけだな。」
少しだけ船のことに詳しい俺は、源五郎とレイを連れて客室フロアにあるトレーニングルームへ向かう。
まあトレーニングルームといっても、客室に器具を置いただけの部屋なのだが、それでも団体用の大部屋を使用しているので、広いし器具も充実している・・・。
以前冒険していた俺たちが購入して使っていたものという事だから、遠慮なく使わせていただく。
トレーニングなどしなくても、すさまじいまでの身体能力を有していることはわかっているのだが、まあその感覚になれるというか、スピードに目を慣らすという意味と・・・、本当のことを言うと従業員用のシャワールームで汗を流すという事に楽しみをいだいていたのだ・・・。
なにせ男女混浴・・・ではないが共用なので、あわよくば占い巨乳美女が来たりして・・・、なんて想像していたのだが・・・、しかし本日その中身が知り合いのおじいさんという事が分かり、愕然とした。
今後、占い巨乳美女にあった時にどのような態度をとればいいものか、非常に悩んでいる次第だ。
『ガチャッ』トレーニングルームのドアを開けると、すでにツバサが来てランニングマシーンで走り込みをしていた。彼女はトレーニングに関してはどん欲だが、決して人を無理に誘おうとはしない・・・、自分だけで黙々と続ける性分なのだろう。
「へえ・・・いろいろなトレーニング器具がありますね・・・、バタフライにバイク・・・ダンベルもあるし、これはいいですね。
あれ?これは何ですかね・・・。」
源五郎がひときわ大きなスペースを使っている器具のところで立ち止まる。
幅10mほどで奥行きが3mほどのスペースに、壁際に何重にも網や分厚いカーテンが覆っていて、右隅に小さな装置が置いてある。
「クレーマシンと記載があるな・・・、なになに?このマシンはクレー射撃のように発射台から的が飛び出すので、その的めがけて手裏剣や投げナイフ、矢や魔法弾を当てる練習をするマシーン・・・とあるね。
へえ・・・飛び道具用の練習マシーンだ・・・、練習用の弓矢と魔法用の杖も準備されているようだね。
実際に的が飛び出すわけだ・・・、よくゲームセンターなどにある、高速で動く光の的に光線銃などで撃ち当てるゲームのようなものだろうね。」
「ちょっとやってみるといいよ・・。」
源五郎に練習用の弓矢を持たせて、速度を低速・狙いはランダムにしてスイッチをONする。
『シュッ』『シュタッ』『シュッ』『シュタッ』不規則なタイミングで射出される的に、源五郎は的確にヒットさせていく・・・流石、源五郎・・・。
「へえ、面白そう・・・・、あたしも後でやるー・・・。」
レイも夢中になって目を輝かしている。
「さらにこっちは・・・。」
同じく壁際に何重にも網や分厚いカーテンが覆っている隣の装置は・・・、幅5mほどで少し狭いが、今度は中央手前側に何か大きな装置が置いてある。
「こっちもクレーマシンと記載があるな・・・、ただし、こっちは的は人だ・・・、人に向かってクレーの的が射出されるので、それをよけたり払ったりする装置の様だね・・・、こっちは剣術や格闘技などの接近戦用のトレーニングマシンだね。
でも・・・、射出装置から5mもないだろう・・・、こんな近い距離で発射されたら・・・よけるのも大変だね。
ちょっとやってみるか・・・。」
試しにやってみることにする・・・、木刀が準備されていたのでそれをもって壁際に立つ。
「じゃあ、まずは初級レベルの低速で行きますね・・・。」
源五郎が射出装置の調整をしてくれる。
『シュッ・・・ボゴッ』するといきなり、予告もなく何か黒いものが顔面めがけて飛んできた。
慌ててよけるが・・・、結構危ない。
『シュッ・・・ボゴッ、・・・シュッ・・・ガギッ、シュッ・・・バシュッ』その後も連続して発射されたが、落ち着いてみればさほどのスピードはなく、簡単に木刀で払えることが分かってきた。
「ああ、ありがとう・・・、まあやってみると何とかなるものだな。」
「スピードに関しては、高速の次は超高速となっていて、更に距離も詰められるようですから、練習にはちょうどいいですね。」
そうだね・・・、だんだんとスピードに慣れるにしたがってあげていくといいな。
「これ・・・、ツバサお姉さんと一緒によくやっていたんだよ・・・。」
すると突然レイが少し悲しそうな顔をして話し出す・・・。
「ああそうか・・・、レイがクレーマシンのように何か物をツバサに投げつける役だね?
まあ、人に投げてもらえばいいわけだ・・・。」
なるほど・・・、レイはツバサのトレーニングのアシストもやっていたわけだ。
「最初はねえ・・・、その辺の小石を投げていたんだよ・・・、まあたまに当たったけどそんなに痛くないから平気って言っていて・・・、そうしたらお姉さんが今度は魔法でやってほしいって言ってきて・・・。
あたしも魔法の練習になるからいいよって言われて・・・、それでやっぱり危ないから初級の魔法でやったの・・・、最初はかするどころか全然余裕でよけられていて・・・、それでも慣れてくるとだんだん速くなっていったから・・・、そうして当たっちゃったの・・・胸に・・・。
すぐに葉っぱを食べさせたからなんともなかったけど・・・それからはちょっと怖くなって・・・。」
何ともまあ危険なトレーニングを、やっていたものだ。
だから復活の木がツバサに苦言を与えたというわけか・・・、練習中毒に対して言っていたわけではなく、実際に命を落としかけていたというわけだ。




