五朗爺さん
11 五朗爺さん
「いやあ・・・恐らく向こうのツバサは、君たちに迷惑がかかることを恐れて、この世界の異常を伝えようとはしなかっただろう。
だがしかし、このゲームの世界でのツバサの状況は、テレビ放送を通じて次元の向こう側の世界にも毎日放送されているわけだ・・、しかも高視聴率という事だな・・。
その住民たちがツバサに代わって、ゲームの世界の異常事態を君たちに伝えようと願ったという事のようだな・・・。」
おじいさんはとんでもないことを言い始める。
「次元の向こう側というと、この星の本当の住民たちのことですよね・・・、彼らがツバサに変わって俺たちに助けに来るよう願ったという事でしょうか?でも、夢に出てきたのは確かにツバサであり、この星の人々ではなかったのですよ・・・。」
あれはたしかにツバサだった・・・、俺は忘れていたが妻は覚えていたし、今ここにいるツバサそのものだし・・・。
「そのようだの・・・、だがそれは恐らく住民がイメージしているツバサに祈らせたという事なのだろうな・・・、ツバサ自身はそんな願いをしようとはしないだろうから。
だがのう・・・ツバサの冒険放送は向こうの世界のツバサは視聴することはなかった・・・、こちら側のゲームの世界と毎日アクセスできている間はな・・・。
そうしてアクセスできなくなった時、その放送を見ていた全視聴者がツバサの一大危機という事で、地球にいる元シメンズメンバーに対して呼びかけたのだよ・・・。
こちら側のゲームの世界に直接干渉するわけではなく、助けに来てほしいという現状の窮地を伝えるだけだから、関係者というのはまさに放送の視聴者だけという事で、その全員が願う事によりかなえられたのだろうな・・・。」
おじいさんは、さも当たり前のことのように説明してくれる。
「はあ・・・なんとなく分かりました・・・、おじいさんは今回のトラブルに関して詳しいようですが、このゲームの製作者の方の分身でしょうか?」
以前の冒険の時に出会った人かもしれないが、残念ながら俺にはその時の記憶はない、とりあえず身元確認をしておきたい・・・ツバサの知り合いなのだから、味方であるのは間違いがないのだが・・・。
「ううむ・・・制作者というか・・・、関係者といったところかな・・・。
通信トラブルの時に君たちに対して説明会を実施したはずだが、その時に私も一緒に壇上にいたのだよ。」
と・・話し方は異なるが、どこかで聞いたような返事が・・・。
「俺たちはツバサと以前一緒に冒険をした・・・、といっても俺たち自身にはツバサとの冒険の記憶はほとんどありませんがね・・・、その時のメンバーです・・・1人を除いてね。
俺がサグルで、こっちが源五郎・・・、それでこっちがレイで・・・、といっても以前のレイではなく、その娘の方を今回連れてきました。」
外観も違っているだろうから、とりあえず自己紹介とメンバー紹介をして、詳細事情を引き出そうとする。
「おおそうか・・・これはこれはご丁寧に・・・、ご無礼をいたしました、私は大空翔・・・いや今は五朗だったな・・・、大空五朗と申します。
青空商会社長の大空翔や、定男、五六朗たちの祖父というわけですな・・・。」
おじいさんは笑顔で自己紹介してくれる・・・ああそうか・・・、そりゃあ関係者だわ・・・。
「今回の騒動の首謀者と言いますか・・・、そいつらのことや目的など分かりますか?」
関係者なら少しは事情を知っているのかもしれない・・・、身元も確かだから話すことは信じてもいいだろう。
「いや・・・私は最初の騒動の時に冒険の初期段階には、ゲーム関係者の参加がないことが災いしたのを反省し、村人としてゲームの序盤から参加するよう送り込まれただけで、役割は何も持っておらん。
なにせただの老人だからね・・・、ゲームプログラムの編集を行うことも、ゲームキャラたちに指示を出すこともない。
そのため比較的自由にさせてもらっておるが、逆に言うと中央で何が起こっているのかわからない。
ただ・・・9年前から101年前の世界へ遡るように祈りなさいという指令が中央から出ていることは、他のキャラクターの行動を見ていて分かった。
それが年を重ねるたびに102年、103年・・・とずれていくため、漠然と100年前ではなく、どうやら同じときに戻りたいと願っているのだろう。
これはただの推測だが・・・、110年前というのはゲームのシナリオ上で、初代竜王が数々の苦難を乗り越え最終的に魔王・・・現行の魔神なのだがね・・・を倒したという伝説の時代なのだね。
その時代までさかのぼって、竜王や魔神を倒してしまおうと考えているのではないかと・・・、もちろん、その後は60年前にさかのぼって、現行魔王を倒す予定なのだろう。
以前の魔神の反乱の時と異なり、まったく異質なキャラに主要登場人物が倒されてしまうわけだから、恐らく魔神や魔王、竜王の役割を担う担当を変更せざるを得なくなってしまうだろうと想定している。
つまり彼らの役を奪い取ろうとしているのではないかと考えておる・・・、まあ無理に理由を考えればという事だがね・・・竜王や魔王、魔神に成り代わることにより、彼らの能力をも引き継げるし、そうなればもうこの世界に敵はいないわけだ。
そうした後でこの世界を征服・・・というか、この星の住民たちをも巻き込んで時代をさかのぼろうとしているのは、成り代わった後にもう一度次元移動を果たそうともくろんでいるものと推定しておる。
この星の住民側の世界に次元移動して実体化したのち、この星を征服するのが目的ではないかと・・・こんなおいぼれ爺が、何もすることもない檻の中で永い間思考を続け、そのような推測に至った次第だね・・・。
だが・・・簡単ではないぞう・・・、仮にこちら側の世界を完全に掌握できたとして、更に次元移動したとする・・・次元の向こうの世界にはこの星の住民たちが暮らしているわけだが、ツバサのご両親はじめ世界最強がごまんといる。さらに無敵の超人であるイエローマンやレッドマンもいるしな。
だから・・・どうしてまたそんなことを考えたのか・・・、この星の事情を知らない奴らが企てたのではないかと推測している。」
五朗爺さんは、そういって小さく首を振った。
そうか・・・この星を征服か・・・、願いが叶う星だからな・・・その後は何でもやり放題というわけだ。
だが・・・実際のところ、そんな思惑通りに事は進まないだろうという訳だ・・・、では本当は何が目的なのか・・・?
「はあそうですか・・・中央からの指令にゲームキャラたちは素直に従い、毎日3時近くになると時代をさかのぼるよう祈っていたわけですが、ツバサだけはその祈りに参加しなかったから、願いがかなうことはなかったわけですね?」
「はい・・・、彼女は本当によくやってくれた・・・。
全員が同じ願いをすることはないよう、こんな爺を送り込んできたわけだが・・・、なにせ、私は戦うことも逃げ回ることもできない・・・、ただの老人だからね。
そのことをいち早く察した彼女は、私をまずは安全なこの施設にかくまってくれた。
そうした後で自分は南部大陸を目指す冒険を続け、日々その活動をテレビ放送して、彼女がいるから全員の気持ちが一つになることはないことを印象し続けてくれた。
おかげさまで、私の存在を疑われることはなかった・・・、この場所でのうのうと生き延びることが出来た・・・、ありがとう。」
そういって五朗爺さんは頭を下げる・・・、なるほど、ツバサが敵わないと分かっていても、強敵相手になおも戦いを挑んでいたのは、陽動作戦というわけだったのか・・・。
「でも、もう大丈夫です・・・、船もできましたし占い師さんもいます。
ですから場所を移動しましょう・・・船に入れば安全です・・・、まあ、大っぴらに移動はできませんから、すいませんがこの葛籠の中に入って移動することになりますが・・・。」
そうか・・・、彼を連れ出すために葛籠を運んできたというわけだな・・・。
「いや、私はこの場所のままでいい・・・、この牢に収監されていることは公にはなっていないから食事が供給されることはないが、ゲームキャラだから食べなくても死ぬことはないし、それに、今では時々子供たちが遊びに来てくれる・・・。」
五朗爺さんはそういって笑顔を見せる。
「子供たち・・・ですか?」
ツバサが首をかしげる・・・、始まりの村の子供たちだろうか・・・?
「子供たちといっても、この星の住民の子供たちの方だな・・・、この施設はこの星の住民の施設だが、同じ施設をゲームの世界でも作っていたわけだな・・・、どうやらこの施設は向こう側の次元からアクセスできるようだ・・・、といっても直接触れたり向こうの次元からこちらを直接見たりすることはできないようだがな。
それでも会話はできるようで・・・、最初は子供たちがここでかくれんぼをして遊んでいたのだな・・・、私は暇だったからそれとなく声をかけてみたのだが・・・こちらの世界から向こうの次元の住民を見ることは可能だからね・・・、そうするとなんと返事をしたのだね。
それからは週に何度か子供たちが訪れるようになった・・・、私は地球での生活をいろいろと子供たちに教えてあげている・・・、子供たちはそれを楽しそうに聞いているというわけだ・・・。
向こうの世界をあげて君たちを呼び寄せようとしたという情報は、まさに子供たちから教えてもらったものだ。」
そうか・・・俺たちがここへ来た時に聞こえた話声は・・・まさにそれだったというわけだ・・・。
「でも・・、ここでは誰も警備をする者がいませんし、いつまでも安全でいられるとは思えません。」
しかしツバサは、何とかしてここから連れ出したい様子だ・・・、それはそうだろう、いくら何でも牢屋とは・・・。
「いや・・・占い師がもう目覚めているのであれば私の役割は終わりだ・・・、彼女なら中央からの指令がどうであろうと無視し続けるだろうし、戦うことだって可能だ。
それに、彼女がいなければ冒険のシナリオを進められないから、君たちが冒険を続けている限り彼女の存在を消し去ることはゲームの構成上不可能だ・・・まあ魔王たちよろしく入れ替わることはできるかもしれんがね。
そうなると、まず君たち冒険者の存在を消す必要性が出てくるというわけだ・・・、その上でようやく占い師の存在を消すか若しくは入れ替わるという事になる。
それでもなお願いがかなわなければ、他にも願いを阻害する存在がいるという事に気が付くのだろうが・・・、まあそこまで行きつくのは並大抵ではないだろう・・・、何せ君たちがいるわけだからね・・・。
それに私と占い師は一ケ所にいない方がいい・・・、離れていた方が、どちらか一方は助かる可能性が大きくなる。」
五朗爺さんは余裕の笑みを見せる・・・なるほど、ツバサ一人だけで、しかも冒険者として認められていなかったのが、俺たちが加わりチームとして冒険が始まったわけだ。
それにより船ができて占い師たちも目覚めた・・・、この星をどうにかしようとしている奴らを阻害する存在が一気に増えたというわけだ。
そうしてその存在は俺たちが冒険を続けていけば増加していく・・・、竜王、魔王、魔神・・・と・・・。
「分かりました・・・あなたがいる場所として、この地の方がよりベストというのであればいいでしょう。
この葛籠ですが、実は冒険者の袋と同じで冒険用のアイテムであれば、いくらでも詰め込むことが出来ます。
そのため、ある程度お金がたまると弁当を大量購入して葛籠にも入れておいたのですが・・・。」
ツバサがそういいながら、俺の方に振り返る・・・えーと・・・。
「ああっ・・・そっそうですね・・・。
食べなくても死ななくても食べられたら食べた方がいいでしょうから・・・、この葛籠ごと置いて行きます。
中に大量の弁当が入っていますから、食べたいときに食べてください・・・。」
そういいながら葛籠の中から弁当箱を取り出して見せる・・・、葛籠は大きいので鉄格子の向こう側には入れられないが、通路に置いておいても、格子の隙間から腕を出せるから弁当を取り出すことは可能だ。
「おおそうか・・・・だが悪いのう・・・、君たちが必死で稼いだ金で購入した弁当なのだろう?」
五朗爺さんは遠慮気味だ・・・。
「いやあ、どうせ武器や防具などは購入するより魔物を倒したときに発生するアイテムの方がより強力だというので、そっちには金をかけていません。
その割に魔物が超強力なのでクエストの報奨金が高いため、結構余裕があるのです。
そのため冒険者用の袋のほかにも葛籠に保管しておいたもので、まあ言ってしまえば予備的なものですから大丈夫ですよ。
他にもタイヤとガソリンが・・・、これは出して持っていきますからね・・・いいよね、みんな?」
そういって2本のスペアタイヤとガソリンの予備タンクを葛籠の中から取り出して、手渡しながら源五郎たちにも同意を得ようとする。
「はい・・・、もちろんです。」
「うん、いいよ・・・。」
2人とも快諾してくれた。
「でもそうなると・・・中央の連中とやらは、俺たちの冒険進行を邪魔してくるでしょうね・・・、その割には魔物たちは少ないし、大掛かりなダンジョンにも出会っていませんよ。」
本式に邪魔をするのであれば、到底倒せそうもないくらい大量の魔物たちを集結させて、一気に片を付けようとするのではないだろうか。
「ああそのようだな・・・ここにはテレビがないから君たちの冒険の様子を見ることはできないが、子供たちが来た時に冒険放送の内容を聞かせてくれているよ・・・、それを聞く限り、あまり厳しいクエストとは言えないようだな・・・。
だが、それは君たちの経験値レベルがすさまじく高いからだろう・・・、最初にギルドで判定したときにレベルがAAだったのだろう?
そんなレベル・・・、ゲーム設定上存在するだけで実際に達成することなど到底あり得んはずのレベルだ・・・、1日24時間ゲームに没頭したとしても何十年かけて達成できるかどうか・・、といったレベルだ。
よほど興味がなければ初期レベル値など聞き逃してしまうところだろうが、子供たちはしっかりと覚えておった。
だがまあ・・・君たちのレベルに関しては中央も把握しただろうから、今後のクエストに関しては過酷な要件が予想されるがね・・・、恐らく用意されているシナリオは、ハードなコアユーザー向けの絶対にクリアできないはずのシナリオが準備されるだろう、まあ頑張ってくれ。」
五朗爺さんはにっこりと微笑む。
「絶対にクリアできないはずのシナリオ・・ですか?そんなものどうしてまた準備したのですかね?そんなことしなくても、ゲームの世界ではなくしてしまえば・・・攻略すべきクエストをなくしてさえしまえば・・・、俺たち冒険者の存在意義はなくなるわけですよね・・・。
そうなれば魔王や魔神にたどり着くことは出来ませんから彼らが目覚めることはなく、だったら時間をさかのぼって倒しておく必要性もなくなるわけで、一番簡単ではないかと考えますがね?」
とりあえず素朴な疑問をぶつけてみる・・・この爺さんが何でも知っているという事はないだろうし、答えられなくてもまあ仕方がないのだが・・・。
「ああ・・・この世界はこの星の住民たちが別次元に移動した後に、ここへ地球から分身を送り込み、本格的ロープレゲームの世界を構築すると願って作り出したものだ。
だから、ここではゲームの世界しか存在できない・・・、つまりロープレの設定をなくしてしまえば、この世界は維持できなくなってしまうだろう・・・、下手をすると、ここにいる全ての存在が消滅してしまうかもしれない、そうなると中央の奴らも困るだろうから、ゲームの機構は残しておく必要性はあるだろうな・・・。」
五朗爺さんは俺の疑問にも答えてくれた・・・、暇な獄中生活の中でいろいろと思案し続けているという事なのだろうな・・・、それにしても攻略不可能なシナリオ・・・すでに詰んでいる将棋の攻略法を考えろと言われているようなもので、まったくの無駄な時間の過ごし方でしかない・・・。




