クエスト失敗?
8 クエスト失敗?
「じゃあ・・・、サグルとツバサは出てきてもいいぞ。」
『ガチャガチャッ』檻についた大きな南京錠が外され、ようやく外に出ることが出来た。
「ただし、まだ解放されたわけではない・・・、川の水が復活すれば工事現場の者たちのやる気が戻るというのであれば、それを証明してもらわなければならない。
それよりも・・・、まずは雨を降らせて湖の水量を確保することが先決だがね・・・。」
三四郎は占い巨乳美女の姿にちらりと目をやりながら、そのまま村のゲートをくぐり外へ出ていき振り返る。
「何をしている?時間がないのだろ?
すぐに出発しなければ、今日中に雨を降らせることも難しいぞ・・・。」
そうして大声で俺たちに向かって叫ぶ。
「おっおお・・・、じゃあ行こうか・・・、ここからはどうやら歩きのようだ・・・。」
皆小走りで、見上げるほど大きな恐竜人のもとへと寄っていく。
「ここが水源の湖だ・・・・もともとは周囲の山に降り注いだ水と湧き水で豊かな水源であり、東部北川という大きな川に水を供給していた。」
山道を1時間ほど歩き続け、急に開けたところについたと思ったら、その先は崖・・・というかはるか下には水が・・・半分ほどに干上がった大きな湖が見えてきた。
「川の氾濫を抑えるための土手を延長させて、こちら側の地は湖岸を盛り上げて堤防のようにしていたんだ・・・こっちに来てくれ。」
三四郎に続いて湖岸をゆっくりと左に歩いていくと、土手のように盛り上がっていた道が途切れた。
「ここが湖から流れ出す川の出口で・・・見て分かる通り、水は流れていない・・・、向こう側の堤を破られた時の水流が向こう側の湖岸を削り取り、大量の湖水が流れ出てしまった。
今は堤を作り直して水の流出を止めることはできたが、それでもこちら側に流れ出るだけの水が溜まるには、一体どれだけの日数がかかるか、想像もできん。」
三四郎が指摘する通り、土手から見ると川底がはっきりと見えていて、水の流れは感じられない。
恐らく水位が10メートル以上は下がっているだろうと感じられる・・・、これだけの水を復活させるのか・・・。
「この地に雨を降らせるのじゃな・・・、この湖の水が満タンになる程度でよいのか?」
占い巨乳美女は、木々の緑に囲まれた美しい地形を満足そうに眺めた後、三四郎に問いかける。
「はい・・・この湖を潤して、川の水量を確保できるくらいの雨が必要です。」
すると三四郎は不思議に丁寧な口調で応対する・・・、知り合いなのだろうか。
「分かった・・、ではでは・・・。」
占い巨乳美女は、ふわふわの毛で作られたボンボンが付いた大きな扇子を広げ・・・扇子といっても骨組みの木の板が直接見える、布が張っていない骨だけの扇子の様だ・・・、体の前で手首を使いながら振り回し始めた。
「アーメーアーメーフーレーフーレー・・・・。」
そうして呪文のような何かの歌の歌詞のような言葉をつぶやきながら、神経を集中させているのかゆっくりと目を閉じる。
つられて俺も両手の指を組んで、雨が降りますようにと祈り始めた。
『ポツポツポツポツッ・・・・・ザザザザザーッ』数分もすると大きな雨音とともに、本当に雨が降ってきた。
しかも俺たちのいるところには降っておらず、本当に湖面にだけ選択的に降り始めた。
先ほどまで雲一つない晴天だったにもかかわらず、湖の上空にだけ発生した雨雲は、集中豪雨を思わせるような滝のような激しい雨を降らせている・・・、これだけの水量があれば・・・。
「あまりに雨が降り続くと、山の斜面の土砂崩れなど懸念されるから、湖限定で雨を降らせることにした。
周りから流れ込むことは期待できぬから、そうじゃのう・・・4、5日はかかるかのう・・・、それくらい待てば川に流れ出るくらい水位は上昇するだろう・・・雨は6日で止むよう念じておいた。」
占い師は得意満面といった調子で、美しい笑顔を見せる。
さすがだ・・・美しいだけではなく、このような能力もあるなんて・・・本当に素敵だ・・・。
「分かりました・・・、ありがとうございます・・・では戻りましょう。」
そういって三四郎は来た道を戻り始めた・・・、なんだか顔の表情が険しいな・・・。
どうせ雨ごいなんて儀式的なもので降るはずもないなんて思っていたわけじゃあないだろうな・・・、これで俺たちを拘束しておく理由がなくなってしまうことを懸念していたりしたら困るな・・・。
「ここから見ても、山の方には厚い雲が部分的に覆われていて、今でも激しい雨が降っていることが分かります。
つまり、僕たちのクエストも成功ですよね・・・、これで晴れて自由の身ですよね?」
村に戻って早々、今度は源五郎が三四郎に対して両手を差し出して、没収したものを返すよう催促する。
「いやまだだ・・・帰る途中見て来たとおり、川にはまだ一滴も水が流れてはいない。
川の水が戻らなければ工事現場の者たちのやる気が生じないというのであれば、川の水を復活させる必要性があったわけだ。
今回雨ごいが成功して近いうちに川の水が戻る目途はついたわけだが、それで彼らにやる気が戻るという保証はできていない。
つまり、約束はまだ果たせてはいないという事だ・・・。
だから君たちの処分に関しては中央に問い合わせてみる必要性がある・・・、少し待っていてくれ・・・、まあ悪いようにはしないつもりだ・・・、だからおとなしくこの中に入っていてくれ。」
『ガチャガチャッ』三四郎はそういうと、檻の扉を開け俺たちに中に入るように促す。
ここで争っても仕方がないので、とりあえずいう事を聞いておくことにする。
『ガッチャーンッ』そうして南京錠をロックして、三四郎が村の奥の方へと入っていった。
「ふうむ・・・たいそうな歓迎よのう・・・。」
ふと見ると、占い巨乳美女まで一緒に檻の中に収容されている・・、いいのだろうか・・・???
「すいません・・・、俺たちのトラブルに巻き込んでしまったみたいで・・・。」
「本当に申し訳ありません・・・、あたしが占い師さんだったら雨ごいができるのではないかと提案してしまったものだから、巻き込んでしまって。」
すぐに源五郎とツバサが占い巨乳美女のところに駆け寄り、深々と頭を下げる。
「よいよい・・・、これも一興じゃ・・・。」
占い巨乳美女は、なんともないと笑顔を見せてテーブル席に腰かけた。
「ここは地竜の民の里のようじゃのう・・・、何か他の困りごとがあったはずなんじゃがのう・・・。」
そうして何か意味深な言葉をつぶやく・・・。
ううむ・・・、橋を工事している者たちのやる気が出ないので困っていたのではなかったのか?
その原因の一端は、俺たちがしでかしたことが関わってるわけなのだが・・・。
「それはそうとお主・・・、結婚したそうじゃの・・・?
この前会った時には何とも申しておらなんだが、以前一緒に冒険の旅をしていたレイと祝言をあげたと聞いたぞ。
しかも可愛い娘まで作りおって・・・、その娘と今度は仲良く冒険の旅とは・・・、本当に幸せ者じゃな・・。」
占い巨乳美女はテーブルの席から俺の方を眺め、手招きする。
「はっはあ・・・そうなんです・・・、俺とレイは・・・というか、地球にいる方の実体の俺と、レイと名乗っていた女性・・・今は俺の妻ですが・・・、晴れて結ばれて女の子を授かりまして、今回の冒険に同行してきています。
さらにもう一人近々生まれてくる事にもなっておりまして・・・。」
ゲームのアシストをしてくれるはずの占い師さんだから、全ての冒険者たちのサポートをしていたはずで、俺や源五郎やレイの名を覚えていたとしても、さほど深い関係とは思わなかったから、船で出会った時にも実生活の話などする気も起きなかったわけで・・・、ところが意外と近しい間柄だったとでもいうのだろうか・・・?
「今度はねえ・・・、男の子が生まれてくるんだよー・・・。
あたしの弟になるの・・・、楽しみー・・・。」
するとレイが寄ってきて話に加わる。
「おおそうか・・・それはめでたいの・・・、まあ、そのような未来は以前の冒険の時から見えてはおったからな・・・、そうか、やはりな・・・。」
占い巨乳美女は一人悦に入って、にやにやと笑みを浮かべる。
あれっ・・・そういえば、忙しさにかまけて日付をチェックしていなかったが・・・。
(悪いっ・・・いま日本時間でいうと何日だ・・・?)
隣の源五郎に小声で確認する。
(・・・・・・・)
そうかやはりな・・・とっくというか、はるか前に予定日は過ぎているわけだ・・・そりゃそうだ、出産まで1週間という時期にこっちの世界に来てずいぶんと時間が経っているしな・・・。
レイには出産予定日なんて説明すると、どうしてそんな日が分かるの?とか説明に戸惑いそうなので詳しい日付までは教えていない・・・、もうそろそろ・・・と言っていただけだから、それほど意識はしていないはずなので、言わずにおこう。
それでもいずれは気が付いて、ママに会いたいだの、弟に会いたいだのと泣き叫びそうで・・・、その時の対処方法を検討しておかなければならないな・・・。
「それでお主はどうなのじゃ?
結婚はしていないと申していたが、誰か意中の人はいないのか?」
すると今度は源五郎に話が飛んだ・・・。
「いやあ僕は・・、仕事が忙しすぎて・・・。」
源五郎が頭を掻きながら頬を赤く染める。
「ダーリンはねえ・・・、あたしが大きくなったらお嫁さんになってあげるの。
だから、それまでは結婚しなくていいんだよー・・・・。」
すぐにレイが話に割って入っていく。
「おおそうか・・・予約済みというわけじゃな・・・、まあそれもよいじゃろう・・・。」
占い巨乳美女は、今度は優しい笑顔を見せた・・・。
「ツバサは・・・、ツバサはどうなのじゃ?
誰か恋人でもできたのか?」
さらに今度はツバサに照準を合わせたようだ。
「あっあたしは・・・、格闘技が恋人ですから・・・。」
ところがツバサは、寂しそうにうつむき気味に笑顔を見せると、小さく首を横に振った。
そうだな・・・、ツバサの今後に関して少し考えてやる必要性がありそうだな・・・。
それにしても占い巨乳美女は、どう見ても二十歳そこそこ・・・、確かに年齢不詳のゲームキャラである俺たちの外観ほどではないが、かなり若いのにずいぶんと年を重ねたような話し方をする。
俺たちのことを懐かしんでいる口ぶりも、なんだか夏休みで帰省した孫たちの様子をうかがうおじいちゃんおばあちゃんのような・・・、あるいは高校の同窓会に久しぶりに出席したときの、担任の先生のような雰囲気だ。
まあ、分身の見た目通りの実体というわけではないのは、俺たちも同じなのだがな・・・(ツバサ以外は・・・という事だが・・・っと、見た目と実齢が違うのはツバサも同じか・・・)。
「夕食です・・・。」
竜人がやってきて、いくつものトレイを差し入れてくれる。
もちろん、占い巨乳美女の分の食事もあるようだ。
「うまそうじゃの・・・、早速頂くとしよう。」
晩飯は、タラの芽やゼンマイにワラビなど山菜の天ぷら定食だった。
恐らく占い巨乳美女を気遣い、肉や魚などは避けたのだろう・・・なかなか洒落たことをするな・・・。
『ザッザッザッ』そうして晩飯を終えたころ、ひときわ体の大きな竜神がゆっくりと檻の方へ歩いてきた。
ずいぶんと表情が厳しい・・・、中央とやらとの交渉がうまく行っていないのだろうか?
「すまないな・・・、ずいぶんと時間がかかってしまった。
結論から言うと、今この時点まで待っても川の水が戻る様子は見られない・・・、まあ本日午後から雨が降り出し始めたわけだから、まだ数日かかるのは仕方がないな・・・。
そのため下流の工事現場の作業者たちのやる気が向上することはなく工事も進まないため、今回のクエストは失敗とみなすことになった。
やる気が出ない原因も究明されたし、雨を降らせることも成功したわけだから、クエスト成功として評価できるはずとずいぶん粘ったのだが、川の水が復活しない原因の一端は、君たちが破壊してしまった山の向こう側の堤にあるのだから酌量の余地はないと突っぱねられてしまった。
そのため、君たちは冒険者としてふさわしくないという評価を受け、中央へと送還されることになった。
送還は明日未明に行われる予定だ・・・、中央へ行ってしまったら冒険者である君たちには逃げる術は全くないだろう。
この地で最後の夜を過ごしてもらうことになる。
ちなみに君たちの武器や防具に冒険者の袋は俺が預かっていて・・・、俺の家はここから見ると向こう側の三番目の家で・・・、俺は寝ずの見張り番をするから今晩は家に戻ることはないし、見張りの最中にもトイレに行ったりすることはありうる・・・、その時はちょっと不用心だな・・・。」
三四郎は厳しい表情で俺たちの処分の決定を告げると、突然、俺たちから没収したアイテムの在処を教え始めた。
まるで、夜のうちに隙を見つけて俺たちに逃げろとでも言わんばかりだ・・・。
「いやあでも・・・湖に雨を降らせたところで、川が元通りになるなんて到底考えていませんでしたよ。
なにせ、途中で見える川には一滴の水も流れていませんでしたからね。
だから占い師さんには無理を言って、2ケ所で雨ごいをしていただきました。
そのため遅くなってしまいましたが・・・ちゃんと結果も記録してきていますよ・・、ちょうどこれから冒険放送が始まりますから、一緒に見ればわかりますよ。」
すると突然源五郎が口を開いた・・・、何だって?2ケ所で雨ごいだって・・・?
すぐにテレビを食卓のテーブルの上に置いてチャンネルを合わせ、三四郎も檻の格子越しに食い入るように画面を見つめる。




