選抜戦
7 選抜戦
「あっ・・・すみません・・・、寸止めでしたよね?」
「いっ・・・いや、いいよ・・・ツバサの場合は空中殺法だから寸止めなんてできるわけないし、もしそうしようとしたならツバサ本来の攻撃の形が消えてしまう。
俺は大丈夫だから、思い切りやってきて構わないよ。」
思わず声を出してしまって恥ずかしい・・・、恐らく耳たぶまで真っ赤になっていることだろう。
だがしかし・・・ツバサの攻撃は思ったほどダメージがないことが分かった・・・、多少加減はしているのだろうが、当たり前だが光の爪などの武器は装備していないし、まあ海竜同様レベル差がありすぎて俺の体にダメージを与えるまでの攻撃ができていないのだろう。
こうなれば・・ちょっと卑怯ではあるが肉を切らせて骨を断つ・・・というか、肉弾戦法を取らせていただくことにする。
なにせツバサは、すばしっこすぎて捕まえられそうにない・・・。
「とうっ」
『シュタッ・・・タッ・・・タッ・・・ズゴッ』再びツバサが舞い上がり、左の格子を蹴って右へ飛ぶと、右側の格子も蹴った後俺の背中越しに回し蹴りをかましてきた。
「よっしゃあっ・・・。」
『ブンッ・・・ギュッ・・・』すぐに右腕をツバサの足に絡ませ、太ももから足首辺りを右腕と俺の背中で挟むと、瞬間的にひじを曲げて持ち上げる。
「ちょ・・・抜けない・・・。」
哀れツバサは宙に浮いたまま片足を取られ宙吊り状態となり、バランスを取るのに必死だ。
「おりゃあっ・・・。」
ツバサの伸びた体から反撃に転じさせないように、そのまま勢いよく回転してツバサを大きく振り回す。
数回転させてから前方へ送り出し、その頭上に俺が振り下ろした木の棒が当たる寸前で止まる・・、ふうっ左手一本だが止められてよかった・・・。
「勝負ありっ・・・サグルの勝ちだ。」
三四郎が俺の勝ちを告げる・・・。
「ええっ・・・だって、あたしの攻撃はサグルさんに当たっていましたよ、・・・はぁはぁ・・・。
そりゃあ手加減して思い切り蹴ってはいないし、装備だってないから威力は少なかったけど、でも・・・。」
三四郎の判定に、ツバサは不満そうに頬を膨らませる。
「いや・・・装備を身に着けていないのはサグルだって同じだ、武器として持っているのは木の棒一本だけだしね。
彼は当たる瞬間に体をひねって急所に当たらないよう躱していた・・・、だから君の攻撃が当たったように見えたがダメージはほとんどなく、すぐに反撃に転じられたというわけだ。
長い棒を持っているから正面からの攻撃はすべて跳ね返されてしまうと予測し、三角飛びなどを駆使して背面からの攻撃を目論んだのだろうが、背中は急所が少ないから当たる瞬間に少しでも身を躱せば致命傷は避けられる。
そう考えた彼は、君の攻撃をあえて受けてからの反撃を用意していたというわけだ。
まあ体格差もあり体重も大きく異なるから、一撃のダメージの差が勝負を分けたという事だね。
サグルが繰り出した一撃を寸止めせずに受けていたなら、ツバサは大けがを負っていただろう。
だから勝負ありという事だ・・・分かったね?」
三四郎がツバサを納得させようとしているのか、優しく解説する。
ううむそうか・・・、ツバサの攻撃はあまりに素早すぎて打撃の瞬間など意識もできていなかったから肉弾戦を覚悟したのだが、俺の体は無意識のうちに反応していたという事だろうか・・・、まあ圧倒的レベル差に助けられたという事だな。
ツバサの世界最強は恐らく発動していないだろう・・・、なにせ俺は魔物や敵ではないわけだから。
「・・・・・・・・・はぁはぁはぁ・・・・分かりました、まずはサグルさんの一勝という事ですね。
また明日、お願いいたします。」
荒い息づかいをしながらしばし黙考したのち、ツバサはそういって頭を下げた。
何だって?まずは一勝ってどういうことだ?
「はっはっはっ・・・じゃあ、5番勝負とするか?
期日は今日を含め6日間だが、恐らく最低でも5日目には戻ってこなければならんだろうからな。
明日から毎日一勝負ずつ、合計5番勝負としようじゃあないか。」
すると三四郎もうれしそうに頷く・・・ううむ、格闘家同志切磋琢磨しての挑戦を好むという事なのだろうが、何とか勝ちを拾った感じの俺はあまりうれしくはない。
今晩の放送は、昨日の源五郎たちの河童との出会いの場面が放送された。
それから源五郎たちが船へと占い師さんを迎えに行く下りは、源五郎が編集したのだろう割愛されていた。
翌日からトレーニングとは別に、昼食後にツバサと選抜戦を戦わなければならなくなった。
ツバサは毎日戦術を変えて攻撃を仕掛けてきたが、前面からの攻撃に関してはやはり棒を持っている俺にスキはなく、ツバサは攻撃をかすらせることもできずに勝負が決まった。
その後は三角飛びとやらを駆使しての側面や後方からの攻撃ばかりだったが、5日目の最終戦は俺の頭上を飛び越えて背後に回りこみ、俺の意識が背中に向いた瞬間、俺の股下を潜り抜け正面側に回り込んで下方から攻撃を仕掛けてきた。
慌てた俺の目に飛び込んできたのは、なんと拳法着のはだけた襟から覗くツバサの胸のふくらみ・・・、思わず身をかがめて見入ってしまったら、下からきつい突き上げを食らってしまった。
恐らく俺の顎をめがけて頭突きをかまそうとしたのだろうが、俺がツバサの胸を見たいがために瞬間的に身をかがめたのがよかったようだ・・・、顎にも鼻にもヒットせず俺の額に当たり、おでこ対おでこ・・・頭突き同士の激突となった。
そうして冷静に俺がツバサののど元に棒切れの先端を突き上げて止め、勝負ありとなった。
俺のスケベ心が勝ち取った一勝ともいえる。
3日目にしてすでに俺の勝ち越しは決まっていたのだが、ツバサがどうしてもとせがむので、そのまま続けることにしたわけで、ツバサには申し訳ないが、この選抜戦は俺の5戦5勝だ。
「ありがとうございました・・・。」
ツバサは残念そうに、うつむき気味に最後の挨拶をした。
ちょと後味は悪いが仕方がない・・・これで晴れて俺は、源五郎たちのクエストが失敗したときに三四郎を引き付けて、皆を逃がす役割を負うことになった。
「いやあすごいな・・・サグルの一方的勝利かと思ったが、ツバサも結構追い上げていたね・・・、まあ勝負は時の運ともいうし、これからも鍛錬に励んでいればいつか勝てるようになるさ。
特に今日の一番で、背後から隙をついて下から・・・。」
当の三四郎は俺の胸の内などお構いなしに、緊迫した勝負の解説を嬉しそうに語り始める。
それをまたツバサも熱心に聞きながら、時折、この場面はこうした方がよかったでしょうか?などと感想戦を行っているようだ・・・、ううむ・・・格闘家っていうのは試合の時だけでなく、その後にもいろいろとやることがあるのだな・・・。
そうしてその後は、借りているテレビで本日の冒険放送を眺める。
このところの放送内容は、俺とツバサの模擬戦が主で源五郎たちの様子は一切放送されていない。
恐らく船までの移動と船に着いて占い巨乳美女に雨ごいを依頼する場面くらいだったら、放送するまでもないとして割愛(今は源五郎に検閲を頼んでいる)でもしたのかもしれないな。
今日はもうこちらに向かっているはずであり、本当ならもう到着していてもいい時間のはずなのだが・・・、何かトラブルが発生したのか、今どこまで戻ってきているのか予想もつかない。
こうなるとタイムリーな放送でないのは少し困るな・・・、グループ分けしたときの進捗状況を計りにくくなってしまう。
ううむ・・・気になるところだが・・・、明日は下手をすると三四郎との一戦の可能性があるため、体力を回復させるためにも早めに就寝する。
「おはようございます・・・。」
「おはよう・・・。」
翌朝目を覚ますと、ツバサはもうすでに起きていてスクワットをしていた。
体から立ち上る湯気のような汗を見る限り、恐らく相当早起きして特訓していたのだろう。
ううむ・・・気持ちはわからんでもないのだが・・・、いくらトレーニングしたところで、ほとんど経験値などに反映されないと言われているのだから、実体化していないゲームの分身の身の上にとって、やたらと体力を消耗させるだけで無駄でしかないわけだ。
かといってやめろとも言いにくいし・・・、困ったな・・・。
それにしても源五郎やレイの姿どころか中継車も見えない・・・、夜中には到着していると思っていたのに、いくらなんでも遅すぎるぞ・・・。
俺とツバサも往復したわけだが・・・、ここから船との間で魔物たちが生息していそうなダンジョンらしきところは見当たらなかったはずだ。
何かトラブルがあったか・・・、パンクだとしてもスペアタイヤは残り2本あるはずだし、ガソリンも十分予備を持ってきていた。
そうなると占い巨乳美女が同行を拒否したか・・・、あるいは何かの事情でどうにも間に合いそうもなくて、あきらめてしまったかだ・・・。
その場合はそのまま船で別の地に向かったのだろうな・・・。
まあいいさ・・・ツバサだけでも逃がすことが出来れば・・・、賢者のトンネルに潜んでさえいれば、源五郎たちとの合流は可能だ。
まさか全く間に合わないとは思わなかったから何の仕込みもしていない・・・、昨日の模擬戦の時に棒をわざと地面に打ち付けて折って、その辺に転がしておくのだった。
木片だけでもあれば、光の魔法を付加して攻撃することも可能だったはずなのになあ・・・失敗だった。
「おはよう・・・、よく眠れたかい?
彼らは昨晩には到着すると思っていたのだが、どうやら今日になってしまいそうだな。
まあ、どれだけ雨を降らせることが出来たとしても1日だけの雨量では、到底川へ水を供給できないと断られた可能性もあるね。
朝飯だ・・・、食べてくれ。」
さわやかな声に振り向くと、三四郎が朝食の盆を持ってきてくれていた。
「ああ、おはよう・・・そうだね・・・、たったの一日ではどうしようもないさ・・・。
実際雨が降り出して湖面の水位が上がっていけば、それでいいことにはしてくれないのかい?
おおい・・・、ツバサも一緒に食べよう!」
三四郎から2枚のトレイを受け取り、後方へ振り返ってツバサを呼び寄せる。
「はーい・・・はぁはぁはぁ・・・。」
ツバサが荒い息のまま、駆け寄ってくる。
「俺としては、ある程度目途が立てばそれでよしとしていいと考えているのだが・・、どうにも中央の態度がね・・・。
まあ、その時は交渉してみるから安心してくれ。」
三四郎は笑顔で答える・・・まあそうだろう、今から不安をあおるようなことを言っても仕方がない。
囚人をおとなしくさせておくためにも、希望を与えておかなけりゃあならないわけだ・・・。
「ほい。」
「ありがとうございます。」
ツバサに朝食のトレイを手渡し、檻の中のテーブル席に着き朝食を食べ始める。
ううむ・・・納豆定食では武器になるようなのは・・・、せいぜい竹製の割り箸くらいか・・・?
皿もお椀もトレイもキャンプ用の紙製だしな・・・、徹底している・・・。
『ブロロロロロロッ』『キッキィ・・・ガッシャンッ』「お待たせしました。」
源五郎たちが戻ってきたのは、昼に差し掛かろうとしてからだった。
「おお・・・どうした・・・、占い師さんに同行を拒否でもされたのか?」
檻の格子越しに源五郎に尋ねる。
「いえ・・・名前を告げると、懐かしそうに何度も今のこの姿を見返しながら、前の冒険の時の顔立ちはこうだったとか、服装はこうだったとか・・・その格好は今の流行りなのかとかいろいろと聞かれました。
もちろんレイちゃんの紹介もすると更に喜んでくれて・・・、占い師さんには本当の結婚のことは言っていなかったのですね?少しご立腹の様子でしたよ・・・。」
中継車を駆け下りてすぐに檻に近づいてきた源五郎に続いてレイが下りてきて、最後に薄手のレースのストールとスケスケレースのズボン姿で・・・、それ以外はほぼ下着なんじゃないのかと思えるような肌を露出しまくりの巨乳美女がゆっくりと降りてきた・・・よくやった源五郎。
そういえば彼女には結婚のことや娘のレイのことは話していなかったな・・・、まあ聞かれもしていなかったから仕方がない。
「彼女が占い師さんです・・・雨ごいの祈祷をしていただくようお願いしてありますので、早速現地へ向かいましょう。
リーダーと、ツバサさんを牢から出してください。」
源五郎が占い巨乳美女を三四郎に紹介して、俺たちを檻から出すよう催促する。
「ああいいだろう・・・だがその前に、君たち4人で暴れられては困るから、まずは装備を外してもらおう。
湖までは俺も同行するから、万一魔物に襲われても心配はない。」
そういって三四郎は両手を差し出すと、しぶしぶ源五郎が狙撃手の弓と冒険者の袋に加え、射者の胸当てとさらに上着とズボンも没収され、俺と同様シャツとパンツだけの下着姿にされてしまった。
続くレイは、ちょうど手にしていた炎の杖と冒険者の袋を没収されただけで、魔導士のローブは見逃してもらったようだ・・・、ううむ・・・フェミニストというか・・・本当に女の子には甘いな・・・。




