クエスト継続
6 クエスト継続
「彼ら・・・工事を請け負った者たちは、河童でした・・・。
急流でもすいすい自由に泳げるし、大きな川に橋を架ける工事にうってつけという事で請け負ったのだと言っていました。
しかし、工事が始まった途端に川の水をせき止められてしまい、水がなくなってしまったものだから、彼らは動けなくなってしまったのです。
彼らは河童ですから頭の皿が乾くと死んでしまうし、皿の水分が少なくなるとイライラして怒りやすくなるようです。
そのため、川の水が戻るまではテントの中でじっとしているしか方法はないようです。
さらに重い橋の材木も、川の水があれば川面に浮かべて楽に運べるそうです。
そのため川の水が復活すればすぐに工事が再開できて、そうなれば数日で完成するそうです。」
源五郎が工事現場で河童の代表から告げられたことを説明する。
「そうだったのか・・・工事が楽になるかと思って川の水をせき止めたことが、かえって災いしていたという事か・・・、いや参ったな・・・。
だがしかし弱ったぞ・・・君たちが湖の反対側の堤を破ってしまったものだから、その勢いで本来の湖の湖岸も破れてしまい、今は元の貯水量の半分も水がない。
湖の護岸工事は進めてはいるが、水がたまるにはあと何日かかるかすら予定が立たないな・・・、なにせ今は雨の季節ではないから・・・。
雨の季節まではまだ半年近くあるから、それまではどうしようもないという事になってしまったな・・・。」
ようやく源五郎の言っていることが理解できたようで、三四郎も一度は頷いたのだが、すぐに腕組みしてうなり始めてしまった・・・、どうやら俺たちが破った堤がここにきて影響している様子だ、どうしよう・・・。
「あっあの・・・占い師さんにお願いしてみてはいかがでしょうか?
彼女は占い師であると同時に祈祷師でもあると以前伺ったことがあります・・・、ですから雨ごいの儀式をしていただくとか・・・。」
すると突然ツバサが提案する。
雨ごいか・・・ここは願いが叶う星だから、雨を降らせたいなら雨が降るよう願うだけでそれが叶うはずなのだが、正確に願わなければなかなか思う通りにはならないと以前聞いた記憶がある。
つまり、どの区画にどれだけの量を何日の何時から何時までの間に降らせるなど、事細かに決めなければならないのだそうだ・・。
何せただ単に雨を降らせてくださいと言ったら、一滴だけ・・・という事はなくても一瞬だけその地域全体に雨粒が降ってきたとすれば、それは雨と言えるはずだが、1日中降らなければ乾いた土地は潤わないので、雨としての意味はないと感じる人もいるかもしれない。
そんなあいまいな願い方では、いくら願いが叶う星と言えども叶えてもらえないのだそうだ。
これは定男ではなく、綾瀬や大空翔たちにじっくりと願い方の例を含めて聞かされたことだ。
さらに当事者全てが同時に祈る必要性があり、気持ちがバラバラだと叶わないのだとも・・・。
そのため気持ちを一つにするために祈祷師という存在ができて、儀式を行うことにより願いを明確にして全員で祈るのだろうな・・・、確かに彼女が中心になって祈れば、たいていの奴ならそれに従うだろう。
いい提案なのかもしれないな・・・。
「う・・・占い師・・・ですか?
(ああっ・・・船の中にいるという・・・、アドバイスをくれたという方でしょうか?)」
源五郎は状況を察したのか、途中から口を手で押さえて、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で尋ねてくる。
「ああそうだ・・・、彼女は船倉の奥の部屋に陣取っている・・・、看板が出ているからわかるはずだ。」
俺もなるべく小声で答えるようにする。
「分かりました・・・明日にでも早速船のところに行ってみます・・・、東部大陸中央の海岸でよかったんですよね?」
「ああ・・・」
「じゃあ行ってきますが・・・船まで往復して…それから雨を降らすようにしなければならないわけですから・・・期日を延長していただけますか?」
源五郎が今度は三四郎の方へ振り返る。
「いやだめだ・・・期限の延長はない・・・、7日以内に工事現場の奴らのやる気を取り戻して工事を再開させてくれ・・・明日からとしても、まだ残り6日あるからできるはずだ。」
三四郎は頑なに首を横に振るのみだ。
「ここからだと船までは約2日半の距離だ・・・、ぐずぐずしていると雨ごいする時間も無くなってしまうだろうが、まあ明日の朝出発だな・・・。」
もう夜も遅いので、檻の中で一泊という事になる。
占い巨乳美女がすぐに源五郎たちと同行してくれたとしても、戻ってきて雨ごいをして、その雨が溜まって湖の水量を増加させて川に流れださなければならないわけだ。
それだけの量の雨を降らすことが出来ればいいのだが・・・、湖の水量は通常の半分ほどに減ってしまったと言っていたし・・・、それを回復させて更に川へと流れだすだけの水量の確保を、往復の時間を考えるとたったの一日だけで実現させなければならない・・・。
本日分の放送は、最初に地竜の里に訪れたくだりを放送することにした。
これにより海竜の里に向かった理由も明確になるし、今度は源五郎とレイが冒険に出るという行動がはっきりとする・・・、もちろん失敗すれば事務局に収容されて消滅させられてしまうという事は伏せてある。
冒険者として不適と判定させられると、このまま捕らえられてしまうという事にした。
源五郎たちと河童たちとの交渉状況は、明日以降としておいた。
「頼んだぞ・・・まずは占い師さんを連れてくることが先決だ。」
「・・・分かりました・・・、何とか頑張ってみます・・・。」
翌早朝、源五郎は決心したかのように厳しい表情のまま、中継車に乗り込んだ。
「あっ、待ってダーリン・・・、じゃあ、また行ってくるね。」
『ガチャッ』『ブロロロロロッ』レイも続いて中継車に乗り込み、忙しく走り出していった。
「どうだい・・・、俺が彼らと一緒に行こうとしたのに止めたことを、後悔しているのじゃあないのかい?
自分ではわからないのだが、もしかすると俺は今も無敵状態なのかもしれないのだろ?
ところが彼らをクエストの地まで送り届けてやると、その無敵状態が解除される可能性があったわけだ・・・、だったら俺が無敵じゃない方が、君たちは逃げ延びるチャンスができたんじゃないのかい?
わざわざ強い存在を残そうとした理由がわからんね・・・、俺が留守の隙に逃げ出してしまったら、同行していた源五郎たちに危害が及ぶと考えたのだというのなら理屈に適っているのだが、無敵が解除される可能性があったわけだろ?君たちの力なら無敵状態ではない俺を倒すことなど簡単なはずだ・・・それなのにどうして?」
三四郎が昼飯を差し入れするときに、檻の格子越しに同行を引き留めたことを不思議がって尋ねてきた。
まあそうだろうな・・・、誰もがそう思うだろう・・・。
「俺たちは、あんたたち村人と戦うつもりはないという事だ・・・。
まあ、半魚人の十四朗とかいう奴の態度には相当頭に来ていたから、あいつがもう一度決闘を申し込むといったなら、恐らくあいつを半ごろしか・・・あるいは殺していたかもしれない。
それくらいの仕打ちを俺はされたと思っていたし、あいつは意識的に俺たちの冒険の進行を妨害していた。
だから邪魔者は消すというわけではないのだが、そういう奴は魔物と同じ冒険者に対する試練を与える存在なのだと俺は勝手に解釈することにした。
だから、そいつらは倒すべき相手であり、たとえ死んで消滅したところで心は痛まない。
今回の冒険のクエストの一環と思うことにしたわけだ・・・、だがしかし君たちは違う。
中央からの指示により俺たちを拘束して無理難題を与えるようにふるまってはいるが、それでも絶対に不可能なことを言っているようにも見えないし、それなりに交渉して俺たちに生きのびる道を与えてくれていると解釈している。
だからまあ・・・仮に無敵状態を与えられているのだとしたら、それを維持していてくれた方が、俺たちがどうかなってしまった後のこの世界でこの村を守っていくためにもよかれと思っただけだ。
まあ・・・占い師さんを呼んできたところですぐに湖の水量が増えるわけではないだろうし・・・、なかなかの難問とは考えるが・・・、無理だったとしても俺たち全員がおとなしく捕まったままとは考えない方がいい。
俺は自分の身を犠牲にしてでもほかの3人を逃がすつもりでいるし、その自信もある・・・いくら君が無敵状態であるとしてでもね。
3人いればこの先の冒険も何とかなるだろうし、この世界を元に戻すこともできると信じている。
その時に・・・俺たちを逃がした責任を問われて、この村の人たちが罰せられても困るわけだ・・・、設定で決まっている無敵状態であれば、その条件を破らない限りは解除できないはずだから、君の無敵状態が続いてさえいれば、この村を守り切ることが出来るかもしれない・・・、だからそのままがいいのさ・・・。」
俺は嫌味でも自慢でも・・・あるいは希望でもなく、俺が考えている今後の展開を説明してみせる。
もちろん恩に着せるようなつもりもさらさらないし脅すつもりもない・・・、悪いのは中央の奴らなのだから。
「大丈夫ですよ・・・占い師さんに来ていただければ、きっと何とかなります。」
ツバサが悲観気味の俺を励ますかのように笑顔を見せる。
「まあ、うまくいけばいいのだがね・・・失敗した場合のことも一応は考えておかなければならない・・・、迅速に行動するためにもね・・・。」
「でも・・・だったらあたしが残って三四郎さんの相手をしますよ・・・、あたしだったら無敵相手でも何とか戦えるでしょうし・・・、身が軽いからうまくすれば逃げ切れる可能性だって・・・。
何よりサグルさんはレイちゃんがいるから、だめですよ・・・。」
すると今度は、ツバサが立ち回り役になると言い出した・・・。
「それはだめだ・・・恐らく今は俺の方がツバサより強いはずだし・・・、皆を逃がした後で逃げられる確率から言っても俺が適役と考えている。
それに君がいないとこの世界のことが俺たちだけではよくわからないから、どうしても今後の冒険に不利が生じてしまう・・・占い師さんのことだって貴重な知識だからね。」
誰かが犠牲になって三四郎を引き付けて他の者たちを逃がすという段取りになったなら、恐らくツバサは決して自分が逃げる方へ回ることに納得しないだろう。
だがしかし、この世界に長くとどまって、この世界の危機を感じていたのは彼女なのだ・・・、彼女がいなければ俺たちだけでこの世界を元に戻す活動を継続していくのは困難だろう・・・第一、敵という奴らの存在・・・中央の奴らという事なのだが、それがどこにいてどのような奴らなのか俺たちでは想像もつかないのだ。
まあ、一度出くわしたボート小屋の親父がそのうちの1人なのだろうが、俺たちと違い今までの冒険の記憶が残っているツバサがいなければ太刀打ちできないことは明白だ・・、何せ奴らはもう十年近くもこの世界に巣くっているのだ・・・、何も知らずに来たばかりの俺たちだけでは荷が重い。
「でも・・・あたしは格闘技の世界最強なわけですから・・・。」
ツバサは俺の言葉に不満のようで頬を膨らませる・・・、かわいいのだが・・・子供じゃないんだから・・・。
「分かった・・・模擬戦を頼まれていたのだが、それで決めよう。
勝った方が彼を引き付けて皆を逃がす役目にする・・・、という事でいいかい?」
仕方がないのでツバサを納得させるためにも試合で打ち負かしておく必要性があるだろう・・・、多分勝てるだろうとは思っているが・・・。
「分かりました・・・、いいですよ・・・。」
「じゃあ食後の腹ごなしにちょうどいいから、今から始めようか・・・。
悪いが木刀くらいの長さの木の棒を一本差し入れてくれないか?木切れを探していたんだがどうにもここにはなさそうでって・・・、檻の中なのだから当たり前なのだがね・・・。
模擬戦が終わったら返すから、試合の最中だけ貸してくれ。」
三四郎に木刀替わりの棒切れをお願いする。
「はっはっはっ・・・、俺を引き付けて仲間を逃がす代表を決める戦いというわけだな。
こうまで堂々と言われてしまうと・・・、逆に気持ちがいいよ・・・。
全く悪気がないというか、あくまでも自分たちの正義を貫こうとしているのだね・・・いいだろう、頑張ってくれ・・・。」
三四郎はそういうと、1メートルちょっとの長さの丸い棒を檻の中に2本入れてくれた。
「あたしは使わないので不要です・・・。」
そういって一本はツバサが返却する。
「そうか・・・じゃあ俺が審判をしてやろう・・・、審判がいれば無理に相手に打撃を加える必要性もないはずだ・・・、できれば寸止めにしてくれ、いいね?」
「ああ・・・それはありがたいことだ・・・、審判をお願いする。」
三四郎が審判を買って出てくれた・・・、寸止めでできるのはありがたい・・・。
「あたしも、三四郎さんが審判で問題ありません。」
「では・・・はじめっ!」
「おりゃあっ・・・。」
「よしこいっ・・・。」
三四郎審判の掛け声で試合が始まる・・・、なんだか学生時代の部活のような展開になってきた・・・、まあ俺の場合は中高大学と帰宅部だったのだが・・・。
「とうっ」
『シュタッ・・・タッ・・・タッ』ツバサが華麗に宙に舞い上がったかと思うと、檻の格子を蹴って方向を変え更に天井の格子も蹴って勢いをつけたまま、俺の方へ文字通り飛んできた。
『バギッ・・・』蹴り足を何とか両手をクロスさせて受け止める・・・、何せ鋼鉄の鎧は脱がされ盾も装備していないのだ・・・、よく考えたらツバサは拳法着を着ている・・・(まあそれはそうだろう・・・若い女の子だから、俺のようにシャツとパンツだけというような格好はさせられまい)・・・。
しかもここは檻の中であり、四方八方木で組まれた格子に囲まれているから、ツバサのように空中戦を行う格闘家には有利な状況だ・・・ううむ、周りの状況も少しは考えるんだった・・ちょっと後悔・・・。
「たありゃあっ・・・」
『ブンッ・・・スカッ』すぐに棒を持ち替えて水平切りのように振り回すが、ツバサはすでに頭上高く跳躍していた。
「とぅっ・・・。」
『タッ・・・タッ・・・タッ・・・ドゴッ』『ズザザザザザッ』そのままツバサは檻の左右の壁を伝って飛び回ったかと思うと、一瞬で視界から消えた・・・あれっと思っていたら、左後方からきつい蹴りをわき腹に食らってしまい前方へ吹き飛ばされる。
「あいたたたたっ・・・。」
蹴られた痛みよりも、まったく予期せぬ方向から攻撃を食らってしまった精神的動揺から、思わず声が出てしまった。




