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理由

5 理由

「えっ・・・そうなのかい?河童って・・・確かに頭のお皿が乾くといけないって聞いたことはあるけど・・・、そういえば川が干上がっているし日差しも強いから、外にいると頭のてっぺんの皿も乾くよね・・・。

 そうか・・・だったらレイちゃんの魔法で・・・ってわけにはいかないのか・・・。


 レイちゃんの水系の魔法は攻撃魔法だから・・・、一般人である河童たちに向かって発することはできないし、近くを狙って発したとしても攻撃魔法の影響で傷ついてしまう可能性もあるよね・・・、うーん困った。」


 河童の伝説なんて、子供のころに川遊びをして事故に巻き込まれないよう吹き込まれるものだから、すっかり忘れていた・・・、そういえばレイはまだ小学生だったことを思い出して源五郎は苦笑いを浮かべる。

 とはいえ問題が解決したわけではなく、源五郎は腕を組んで考え込む。


「いや・・・待てよ・・・、確かリーダーから水を持って来たって言われていたな・・・。」


 源五郎はすぐに中継車のところに戻ると、後部でけん引している大きな葛籠のふたを開けた。

 するとそこには大量のペットボトルが入っていた。

 すぐに数本のペットボトルをかかえると、テント小屋に引き返してきた。


「なんじゃワレ・・・何の用じゃ・・・、なめたりするとひどい目に合わせたるぞ・・・。

 これ見てみい・・・、わしらの力を見せてやるわ・・・。」

 河童はおもむろに河原に転がっている小石を拾い上げると、それを思いきり握りしめた。


「うぐぐぐぐぐっ・・・。」

『ピキンッ・・・』河童が手のひらを広げると、丸い小石にはよく見るとひびが入っていた。


「どうやあ・・・天然石をも砕く握力・・・思い知ったか・・・・。」

 河童は自慢げに胸を張る。


 ああそうか・・・、力が強いものだから先ほどレイちゃんに思いきりビンタを張って、その力が自分に全部跳ね返ってきて手首を負傷したのかと、源五郎も納得でうなずく。


「ああ・・・、じゃあ僕もやってみるよ・・・。」

 源五郎は抱えてきたペットボトルを一旦テーブルの上に置いて、自分も河原の石を取りに行った。


「えーとっ・・・おりゃあっ・・・。」

『ボゴッ』そうしておもむろに力を込めて握りしめると・・・、小石は粉々に砕けてこぶしから砂のような石の破片が零れ落ちる。


「あれあれ・・・意外ともろいものだな・・・。」

 高い経験値のためなのか、意外にも自然石でさえも少し力を込めて握りしめれば砕いてしまうようだ。


「あっ・・ああ・・・、すっ・・・すごいね・・・、それはそうと何か用か?」

 その光景を見た河童は、少しおびえ気味に尋ねてきた。


「ああ・・そうでした・・・、はいどうぞ・・・。」

 そういいながらペットボトルの水を河童に差し出す。


「なっ・・・なんや・・・こっこれは・・・水・・・?」

 源五郎のあまりの怪力に少々引き気味の河童は、ペットボトルを認めると感嘆の叫び声をあげた。


『ダッ・・・バシャバシャッ』そうして源五郎の手からペットボトルを奪い取るようにすると、それを飲むのではなく自分の頭から降りかけた。


「いやあ・・・生き返りましたわぁ・・・。

 先ほどはえらいすいません・・・ご無礼致しました・・・。」

 すると突然河童は態度を変え、丁寧な口調になり頭を下げた。


「そっその・・・、みずですがなぁ・・・?」

 そうして源五郎が手に持つ残りのペットボトルを指さす。


「あっああ・・・、水ならまだたくさんありますよ・・・ちょっと待っていてください。」

 源五郎はもう一度中継車に戻り、今度はけん引のロープをほどいて、大きな葛籠のキャスターを転がしながら運んできた。


「はいどうぞ・・・。」

 そういいながらレイと2人で、河童の目の前テーブルに水の入ったペットボトルを山と積み上げていく。


「どうやら、この葛籠は冒険者の袋と同じ機能があるようだね・・・、冒険用アイテムであれば、どれだけの量でも収納できるようだ。

 だからタイヤとガソリンと、それから大量の水も運べたという事のようだね・・・。」

 源五郎は山と積まれたペットボトルを満足そうに眺める。


「こっこんなに大量の水を頂けるのでっか・・・?

 ありがとうございます・・・、おおいみんな・・・水の差し入れだぞ!

 ありがたく頂戴しろ!」

 すると河童は奥のテント小屋の方に向かって、大きな声で叫ぶ。


『えっ・・・水?』『なんだなんだ?』『みずがあるってか?』それまでソファで寝そべっていた緑の影たちが、ゆっくりと起き上がり動き始める。

『おおー・・・本当に水だ』『ありがてぇ』『生き返るぜ!』テーブルの上のペットボトルを認めると、嬉しそうに叫びながら、1人数本ずつ手にして戻っていく。


「ありがとうさんです・・・、わてら河童は頭の上の皿の保湿が命ですからな・・・、ここが乾いてしまいますと、ほんま命に係わるんですわ・・・。


 水分が不足してしまいますと・・・何や機嫌も悪うなってしまうようで・・・、ほんま申し訳ありません。」

 そういって先ほどの河童は深々と頭を下げる・・、どうやら機嫌は本当に治った様子だ。


「そうですか・・・、工事が遅れていたのは水がなくなったからなのですか?

 それともほかに原因があるのでしょうか?」


 源五郎が恐る恐る工事の遅れに関して質問をする・・、これでまた怒らせてしまったら困るのだが、事情を聴くためにはやむを得ないのだ。


「はあ・・・川に橋を架けるという工事で・・・、こんな大きな川でっから・・・、普通の人間では無理という事で河童のわてらにご指名頂いたと思っております。

 なにせ川の中でも外でも自由に動けますさかいなぁ・・・。


 ところがいざ工事が始まると川の水をせき止めてしまったんですわぁ・・・、これにはがっかりですわぁ・・・。

 わてら河童が工事している意味がありませんねん・・・。」

 河童はそういいながら水かきのついた手で後頭部を掻く。


「そういう事ですか・・・、でも橋梁・・・橋を支える支柱ですが・・・、これはある程度できているようですが、上に橋を乗せて繋げないと、川の水を流したらそのまま流れて行ってしまいませんか?

 それに川の水があるままでは、橋を乗せる工事もままならないでしょう?


 この川には手漕ぎの船しかないといっていました・・・、そんな小さな船では大きな橋の材料など運べないですよね?だったらどうしても川の水を干上がらせる必要があったのではないでしょうか?」

 源五郎が干上がった川の中に点在する橋梁を遠くに眺めながら解説する。


「そうはおっしゃいましてもな・・・、確かに橋の支柱は川の流れがあっては作れませんから、川をせき止めたときにすぐに土台を作り上げて工事しましたわ。


 でも支柱ができてしまえば、わてらは河童ですから先ほども申し上げました通り、大きな橋の材料でも数人がかりであれば川の流れがどれだけあっても問題なく運べまっせ。

 そのため支柱だけ作って、後は川の水が流れてから工事を進めようと待っていた次第ですわ。


 決してさぼっていたわけではありませんねん・・・、川の水が戻ればすぐにでも取り掛かるつもりで・・・。

 なにせ水の中では浮力が生じますさかいに・・・橋の材料は主に木ですから水に浮きますし、運ぶのも楽ですからなぁ・・・、逆に川が干上がった状態で高い位置の支柱の先に橋を渡すなんて工事・・・、いくら河童の力でも無理でっしゃろ?


 川の水が戻ればすぐにでも工事は終わりまっせ・・・数日で完成するやろう思てます。」

 河童の代表はそういいながらも何度もうなずく・・、どうやらただ遊んでいたわけではなさそうだ・・・水を待っていただけの様子だ。


 それなのに地竜の里の人が気を使って川の水をせき止めたままにしていたために、工事が一向に進んでいかなかったというわけだ。

 しかも頭の皿が乾いて河童たちの機嫌が悪くなっていたものだから、その理由を話そうともしないでただソファでくつろいでいただけに見えたという事のようだ。


 どうやらせき止めた水量が限界にまで達していたといっていたが、そのままこちら側に流れ出てしまえば何のことはない・・・そのまま工事が再開されたのだろうが、自分たちが反対側の堤を壊してしまったがために、川の水が復活することはなかったのが災いした。


 三四郎は助かったといっていたが、やはり自分たちの行為が工事遅れの原因を作ったと言わざるを得ないことを知り、源五郎は深く反省した。


「分かりました・・・橋梁工事はもう終わっているから、後は川の水を復活させて、その上で橋を架ける工事を継続していけばいいわけですね・・・、三四郎さんたちにそう説明します。

 皆さんはここで待っていてください・・・、そして川の水が戻ったら工事を再開してください、いいですね?」


「はい・・・任せておいてくださいませ・・・、ええな、みんな!」

『おおっ・・・』

 河童の代表が後ろに振り返り叫ぶと、それに呼応して大声で返事が来た。


「じゃあ行こう・・・。」

『ダッ・・・カチッ・・・ガチャッ』『ブロロロロロロッ』源五郎は葛籠を中継車の後方に結び付け、レイとともに乗り込むと急いで地竜の里へ向かうよう指示をだした。


「899,900,901・・・。」


 檻の中ではツバサが朝からトレーニングを続けていて、腕立て腹筋の後はスクワットをしている・・・しかも千回を3セットするそうだ、俺も1セット目までは付き合ったが、明日動けなくなると困るので、やめておいた。

 この後、棒切れを使って俺と模擬試合を頼まれているのだが・・・、その前に倒れてしまわないかと少し心配になってくる。


「特訓や練習試合はいくらやっても経験値にほとんど反映されないと受付嬢も言っていたんだから、やるなとは言わないが、あまりこんを詰めてやらない方がいいと思うぞ。


 この体はゲームキャラであり俺たちの分身だから、定められた就寝場所で眠りにつくことで体力も魔力も100%回復するわけだが・・・、もしかすると蓄積した疲れがどこかのタイミングで襲ってくるかもしれない。

 何事もほどほどというが・・・、特に成果が反映されないことが分かっているわけだからね。」


 これで何度目だろうか・・・、俺だっていちいち意見をしたくはないのだが、無駄と分かっているトレーニングをツバサはやめるつもりはなさそうだ。

 習慣となっていることなら仕方がないかと、ある程度なら趣味的なものと考えてもいいと思っていたのだが、彼女の場合は言ってしまえば病的だ・・・、空き時間があればその時間中トレーニングをしている。


「はい・・・言われていることはわかっているつもりなのですが、その・・・じっとしていられないというか体が自然に動いてしまうというか・・・、ごめんなさい!」

 ツバサはそういって深々と頭を下げる・・・、いや別に俺に対して謝らなくてもいいのだが・・・。


 確かに、こんな檻の中で暇を持て余しているのだから、なにか体でも動かしていようかという考えはわからんでもない・・・、だが俺だって一緒にいるわけだから、2人で会話をするとか時間の過ごし方はほかにもあるはずだ。


 ツバサは俺たちのことをよく知っている様子だが、俺はツバサのことはあまり知らない、というか覚えていない。

 だから、子供のころの話とか両親の話なども聞かせてほしいなんて思ったりもする・・・、確か10年前に出会った時に、もう少ししたら両親が住んでいる村に行くと言っていたところで、冒険が終わっていたのだったな。


 まあ、次元が違うから行っても直に会話などできないが、自分の住んだ村の様子は見えるなんてことを言っていたような気がする。


 この星の本当の住民たちとは触れ合うことはできないが、こちら側の世界からなら一方的に見ることはできるとゲーム機を購入するときに説明を受けたのだからな。

 ツバサの両親を紹介してもらうことは、できたはずだったわけだ。


 気にはしないようにしているつもりではあるのだが、この星の住民とは少し違う外観・・・地球人と同じ外観に関しても、何か理由があるような気がしている。


 まあ、今の姿はゲーム上の分身でしかないわけだが、それでも以前出会った時の姿に酷似している・・・、もともとゲームキャラにいそうな美少女であり、その姿をモチーフにしているのだろうと俺は考えている。


『ぷっぷぅー』そんなことを考えていたら村の外が騒がしくなり、クラクションが聞こえてきた。

『キッキィー・・・ガッシャンッ』そうして中継車がゲートをくぐり村の中まで入ってきて、檻の真ん前に停車した・・・、もうクエストを処理してきたのか?すごいな・・・。


『ガチャッ』「工事が進んでいかない理由が分かりましたよ・・・!」

 源五郎が中継車を降りてくるなり、周囲に向かって大声で叫ぶ。


 ほう・・・やはり、こんな短時間で問題を解決してきたという事のようだ・・、流石源五郎・・・伊達にあの若さで会社社長をしていないな・・・なにせまだ夕方だ・・・、ほぼ往復の時間くらいしか使っていないだろう。


「ほう・・・工事を請け負った連中にやる気を出させて、工事を再開させることが出来たというわけだね?

 それで・・・、あとどれくらいで工事は終了すると言っていた?」

 すぐにひときわ大きな竜人がやってくる・・・三四郎だ。


「いえ、それが・・・工事が進まない原因はわかりましたし、彼らにやる気を出させることはできました。

 ですがまだ・・・工事には取り掛かっていません・・・、ですからいつまでという納期も確定できません。」


 ところが源五郎が意味不明のことを言い出した・・・、あれ?やる気を起こさせることはできたって言ったよね?

 だったらすぐに仕事にとりかかってもいいんじゃあないの?どうして始めないの?


「うん・・・?やる気を出したのに工事に取り掛かっていないだと・・・?それはやる気になっていないという事ではないのか?

 それでは解決できていないではないか・・・、何のために戻ってきたんだ?」

 やはり三四郎からダメ出しの言葉が下される・・・、一体何がどうしたというのか・・・。


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